前回アンケートに投票してくださった方はありがとうございました。今回も継続して設けてますので、入れてない方は是非!
香霖堂にて金策会議をした数日後。
カンザトとこころは命蓮寺に訪れていた。博麗神社に行くついでに寄り道し、先日遭遇した謎の妖怪少女ともう一度会うことが目的である。
数ヶ月前まで紅葉一色だった境内は白く染め上げられ、すっかり冬景色へと変遷していた。
「ねぇ、ここで何するの?」
「この前命蓮寺で知り合った妖怪の女の子から、また来てって言われててさ。丁度いいから寄った」
「ふーん……」
「俺の個人的な用事だし、こころは先に神社行っててもいいよ」
「いいの。私だけ先に行っても仕方ないし」
「そう? ありがとう」
ちなみに霖之助とは博麗神社にて現地集合する約束をしている。約束の時間までは少し時間があるため、別件を済ませようと命蓮寺へ足を運んだわけだ。
動かない古道具屋がやけに積極的に行動する様子に、普段の出不精を知っている普通の魔法使いは恐れおののいた。
「でもこんなに降ってちゃいないかもな……」
修行僧が必死に働いたおかげで境内に敷かれた雪の絨毯はうっすらとしていたが、その努力を無に帰すかのように、現在進行形で雪は降り続けている。
他に参拝客の姿はなく、以前来た時とは打って変わって境内は静まり返っていた。こいしの姿も見当たらない。
しかしそれも当然といえる。わざわざこの雪の中を人里から歩いてくるなど、相当に信心深い者でもなければありえない。
「折角来といてなんだけど誰もいなさそうだし、もう神社行こうか」
早々に諦めて戻ろうとするカンザトだったが、そこに忍び寄る小さな人影があった。
「わっっっ!!!!!」
「おわぁ!?」
その正体はもちろん──
「こいし!」
「やあやあ奇遇だねえ。ここになんの用ー?」
件の妖怪少女、古明地こいしだった。
秋葉舞う命蓮寺にて出会った時と、寸分違わぬ容姿でそこに存在している。初対面時と違うのは、服装が冬仕様になり、深緑のマフラーと厚着を着ているということ。
まるで挨拶代わりかのように驚かしてきたが、妖怪とは皆そういう性なのだろうか。こいしは悪びれる様子もなくニコニコとしている。
「なんの用って、こいしが待ってるって言ったから来たんだよ」
「そうだっけ?」
「えぇ……?」
自分を認識できる者との邂逅を喜んでいたはずなのだが、別れ際のやりとりはすっかり忘れているらしい。というより、何気なく発した言葉だったため、気にとめていなかっただけかもしれない。
「私に会うためだけに来たの? 嬉しいなぁ」
「それもあるんだけど、実はもうひとつお願いがあって」
そこまで喋って、横にいるはずのこころが一言も発言しないことに気がついた。こいしとは初対面なのだから、何かしらリアクションがあってもよさそうだが。
「……………………」
「こころ? ……あっ」
リアクションが無いのも当然だ。自分以外は通常、こいしを認識出来ないのだから。カンザトはその信じ難い事実を失念していた。
このままでは貧困に陥ったせいで気でも狂ったのかと心配されてしまう。
しかし、こころの反応は、カンザトの予想だにしないものだった。
「こいし……何故お前がここにいる」
「わあ、こころちゃんだ。久しぶりー」
「え……」
どういう訳か、こころはこいしが見えている。だがそれはいい。自分以外にも気づく人がたまにいる、とこいしから聞いていたためだ。こころがたまたま該当者だったのだろう。
しかし気になるのは、こころが未だかつて見たことがないほどに威圧感を放っていること。2人は顔見知りのようだが、何か軋轢があるのだろうか。
「我の宿敵、古明地こいしよ! ここで会ったが百年目! たとえ希望の面が不要となっても、お前との因縁は消えぬ!」
「こころ!? いきなりどうした!」
こころは珍しく声を張り上げて敵意をむき出しにした。
希望の面とは? 因縁とは?
降って湧いた疑問がカンザトの思考を埋めつくした。
「だが……今はお前と対決するよりも大事な事がある。此度は矛を収めよう」
一触即発の雰囲気……と思いきや、こころは自ら振り上げた拳を唐突に下ろした。この間こいしは特になんの反応も示さず、はたから見ればこころの一人芝居のようだった。
「私は別に喧嘩する理由なんてないよ? 変なこころちゃん!」
「なんだと……」
「あのー、おふたりはどういったご関係で……」
何故か敬語になってしまった。
しかしそれも仕方ない。誰が好き好んで修羅場に首を突っ込むものか。
「コイツは私の面を奪った盗人妖怪だ。信用しない方がいい」
「人聞きの悪いこと言わないでよー。あれは落ちてきたから拾っただけだもん」
「その後所有者の私が返せと言ったんだ! あげたつもりはない!」
「そんなの落とした方が悪いよね。ねぇ?」
同意を求めてきたが、双方の詳しい事情を知らないこちらに振られても困るというのが本音だ。
外の世界だと遺失物は交番に届けられる可能性があるが……妖怪の落し物はどこに行き着くのだろうか。
「いや俺に言われても……」
「えー」
賛同を得られず、こいしは不服そうに口を尖らせた。
その様子を見て、カンザトは苦笑いを浮かべる。
「まぁいい……今お前にかまっている暇などない。カンザト、もうここに用はないし神社に行こう」
用は済んだとばかりにこころは背を向けて歩き出した。
「こ、こころ? ちょっと待って」
「えー、もう行っちゃうの? 私に何か用があって来たんじゃないの?」
こいしの言う通りだ。なにも彼女に会いに来た理由は顔を見るためだけではない。
「実は今、絵のモデルを探してて。よければ君を描かせてくれないかな」
「え〜私がモデル? なんだかお恥ずかしいですなぁ」
人によっては抵抗感を示す頼みだが、こいしは反応を見る限り満更でもなさそうだ。
「カンザト、こんな奴相手にするな。モデルなら私がいくらでもやるから」
「でも森近さんが絵は沢山あった方がいいって言ってたし」
というより、こころの場合は正体を隠そうとしているのに普段の姿を描いて不特定多数の目に触れる場所に置くのは避けた方がいい、とカンザトは思った。そもそも売り子をするのだから過ぎた心配といえるが。
「うっ、それは、そうだけど……」
カンザトを丸め込むことに失敗したこころの声は尻すぼみになっていった。基本的に冷静沈着な態度を崩さないこころが目に見えて取り乱す姿に、カンザトは新鮮さを感じた。それほどに、こいしとは馬が合わないのだろう。
「なんか面白そうだしいいよー! かわいく描いてね! あ、ポーズとろうか? こんな感じで〜」
こいしはその場で軽やかにターンしたかと思うと、右手で帽子を抑えて、反対の手は腰に置いた。随分と格好つけたポーズである。
「ピースした方がいいかな? それともウィンク?」
自分の絵を描いてもらう経験などなかったためか、こいしは普段よりはしゃいでいるようだ。
「いや……少し時間かかるから、楽なポーズでお願い」
「えー」
こいしは拍子抜けしたと言わんばかりに眉をひそめて体勢を元に戻した。
寒空の下、長時間突っ立ってもらう訳にはいかないため本腰を入れて描き込むつもりはないが、それでも10分はかかる。その間体勢を固定しろとは、とてもではないが言えない。
こころは未だ腑に落ちないようだったが、雪を凌ぐため、3人は本堂の瓦屋根の下に移動した。
5分後……
カンザトは無言で紙に鉛筆を走らせる。雑になってはいけないが、時間をかけられないため手早く。クロッキーの経験はないが、カンザトは順調に描き進めていた。
ちなみに、座る場所がないため、こいしには立ってもらっている。
「なんでカンザトはこころちゃんと一緒にいるの?」
「…………」
「カンザト? ねぇねぇ聞いてる?」
「……ん? ごめん、なんか言った?」
「ちょっとー! ちゃんと聞いてよ!」
「ご、ごめん。集中してた」
「もう! カンザトにも無視されたら、私寂しくて死んじゃう!」
「描いてる途中だ。我慢しろ、こいし」
「じゃあこころちゃんが話し相手になってよ」
「希望の面返せ」
「で、なんでこころちゃんはカンザトと一緒にいるの?」
「おい、聞かなかったフリするな」
7分後……
紙の中に微笑みをたたえた小柄な少女の輪郭が現れた頃、そのモデルとなった少女の様子に変化が見られた。
「そろそろできたでしょ」
「まだ……」
そう。こいしの限界がきたのだ。
黙っていられるタイプではなさそうだと思ってはいたが、早々に音を上げた。
「え〜、つーまーんーなーいー」
「も、もうちょっと待って」
「うえーん、足が棒になっちゃうよー」
「浮いてるから関係ないだろ」
「気持ちの問題なのー。ずっと静止してたらこころちゃんみたいに顔面が固くなっちゃうよ〜」
「……カンザト。こいつはったおしていいか」
「うん、駄目」
10分後……
つまらなさそうにフラフラと動くモデルに苦戦しながらも、カンザトは一枚の絵をどうにかこうにか描きあげた。
「よし、できた!」
「どれどれー?」
すぐさまこいしが駆け寄ってきて、横から画用紙を覗き込む。こころもそっと近づき、こいしとは反対側から手元を覗き込んだ。
自分の創作物を人に見せるこの瞬間が最も緊張する。心臓の鼓動がわずかに速くなったことを感じながら、カンザトはそう思った。
「おお、上手いねー。ウチのエントランスに飾りたいぐらい」
「ホント? ありがとう」
モデル自身から高評価を得られて、カンザトはほっと胸を撫で下ろした。
お世辞かもしれないが、自宅に飾りたいとまで言ってくれるなら、一般の目に触れても恥ずかしくないだろう。エントランスと聞くと大きな建物の玄関部分をイメージするが、もしや彼女はいいとこのお嬢様だったりするのだろうか。
「こいしって何処に住んでるんだ?」
「ここよりもっと下の世界でペットたちと住んでるよ」
「ペット? 何飼ってるんだ?」
「猫のお
「へぇ、いいなあ。カラスって飼えるんだ」
カンザトはこいしが小動物と戯れる癒し空間をイメージした。妖怪に飼育されている猫ならば、凛々しく貫禄溢れる猫かもしれない。カラスは知能が高い動物として知られているため、そのお空と名付けられたペットも動物にしては賢いのだろう。
「……ん? というか、もしかしてこいしが住んでるのって地底?」
「そうだよ。でも暇だからよく地上に来てるんだ」
まさかの地底世界の住人だった。
さとり妖怪を訪ねる旅は、地底に着いてからのルートが行き当たりばったりになる恐れがあったが、こいしにナビゲートしてもらえればその心配は無くなるだろう。
「なぁこいし。もうひとつ頼んでもいいかな」
「なーにー?」
「俺はこいしの住んでる地底に行きたいんだ。それで、よければこいしが案内してくれないかな?」
「地底に? なんで?」
「さとり妖怪に心を見てもらいたいんだ。でも俺達は地底に行ったことがないから、地上との行き来に慣れてる君に案内してもらえないかなって」
「ふーん、さとり妖怪ってお姉ちゃんのことだよね?」
「お姉ちゃん?」
そういえば、以前から姉の存在はこいしの口から聞いていた。寂しいかと尋ねた時、姉がいるから私は寂しくない、と言っていた気がする。
「古明地さとり。私のお姉ちゃんだよ。地霊殿に住んでるんだ」
「えっ!」
なんという僥倖。お目当ての人物の肉親がこれほど近くにいたとは。思わず大声を出してしまった。
「そのさとりさんに会わせて欲しいんだ!」
「おー、お姉ちゃんが珍しく人気〜。いいよ、私が紹介してあげる」
どこぞの紅白巫女と違いあっさり快諾してくれた。これで同行者は3人目。腕っぷしに自信ある2人に次いで、目指す建物への経路を知る者がいれば、人員面は申し分ないだろう。
「……え、まさかこいしも着いてくるの」
「よろしくねぇこころちゃん」
「いやだ!」
「まぁそう言わずに……」
「こんな何考えてるか読めない奴など信用ならん!」
「こころちゃんにだけは言われたくないなぁ」
「2人とも落ち着いて……」
「この方の言う通りですよ。あなた達は共に修行に励む法友なのですから、仲良くしなければ」
「そうそう、仲良く…………ん?」
背後から聞き覚えのない凛とした声が聞こえた。
3人揃って後ろを振り向くと、そこにいたのは、金の長髪に頭から紫のグラデーションが入った女性。温かさを感じさせる微笑みを浮かべ立っていた。
「あ、聖」
「こんにちは。二人共お元気ですか? 特にこいしさん。貴方の姿を見かけるのは久しぶりですね」
「私はいつも元気だよ!」
「それは良かった。こころさんもお変わりないようで安心しました」
「……えぇ、その節はどうも」
妖怪である2人を知るらしいこの人は何者なのか。そう疑問に思っていると、女性は仏を幻視するほど穏やかな笑みをたたえて、カンザトへ向き直った。
「初めまして。命蓮寺で住職をしております、
「カンザトです。すみません、勝手に場所を使ってしまって」
「いえ、それは構いませんが……何をなさっていたのですか?」
「あ、えっと……彼女をモデルに絵を描いてたんです」
「カンザトはずっと私を認識できるんだよ。すごいよねぇ」
カンザトがこいしのいる方に顔を向けると、こいしは満面の笑みで応えた。
その応対を目にして、聖白蓮と名乗った住職はわずかに眉を上げ驚いた様子を見せた。
「ほう……その絵、見せていただいても?」
「どうぞ」
カンザトは聖に画用紙を手渡した。
高尚な僧侶からの評価はいかほどか……
「あらお上手。しっかりこいしさんの姿が写っていますね」
「あ、ありがとうございます」
良い感触だ。こいしの批評眼を疑っていたわけではないが、少し安心した。それにしても、しっかり写っているとはどういう意味だろう。
「貴方はこいしさんが見えるのね。どうしてかしら」
「え? 聖さんも見えてるじゃないですか」
「いえ、常に存在を認識出来るわけじゃないんですよ。出会えても、こいしさんから話しかけられないと気づけません。先ほど貴方と話している姿を見かけたこと自体、久しぶりでして」
「それは……どういう事ですかね。俺もたまたま見えてるだけなのかな」
その問いに明確な回答を用意出来る者は何処にもいなかった。こいしはたまに見える人がいる、と言っていたが、カンザトが偶然その該当者だったのか、それともこいしの能力に不具合が生じたのか……いや、カンザトの存在自体がこの世界にとっては不具合なのかもしれない。
「たしかに偶発的なものかもしれませんが……こいしさんは彼が貴方を認識出来ることについて、何か心当たりはありませんか?」
「分かんない。最初はまた私の知名度が上がったんじゃないかって思ったんだけどね、多分それは違うかな」
「そうですね。かつての人気集めは既に終局を迎えた。その線は考えにくいでしょう。こいしさんに覚えがないなら、やはりカンザトさんが原因ですかね」
そういえばこいしとの初対面時も人気がどうのと言っていた気がする。そう思ったカンザトは、人気集めとはなんの話か尋ねた。
「夏の宗教大戦にて、我ら宗教家は決闘を通し人々から人気もとい信仰を集めて、秩序を取り戻そうとしました」
これは布都からも聞いた決闘騒ぎの件だろう。
カンザトは点と点が繋がった気分になった。
「我らってことは……もしかして聖さんも戦ったんですか?」
「ええ、全て皆の荒廃した心を救うため」
「今会った俺が言うのも変ですけど、なんか意外です」
「ふふ。力も方便、ですよ」
彼女の
「その決闘祭りにこいしさんも参戦されていたのですが、不思議なことに名をあげて注目されるようになると、大衆がこいしさんを認識出来るようになったのです」
「あの頃は楽しかったなぁ。みんなが話しかけてくれるんだもん」
「ですがそれはもう過ぎたこと。人々の心が安定し決闘への注目が薄れると同時に、こいしさんの存在は再び希薄になっていった……」
成立する会話が少ない分、こいしは進んで他者との交流を求めている。大衆の認知から己が徐々に薄れていった頃、カンザトという突如現れたイレギュラーはこいしにとって渡りに船だったのだろう。
「仮に当時と同じ事態に陥ったとすれば皆がこいしさんの姿を常に視認出来るはずですが……こいしさんの口ぶりからして、一方的に認識出来るのは貴方だけ」
「でもさっきこいしが話しかけてきた時、こころも見えてましたよ?」
「いや……私も自ら気づいたわけではない。さっきもこいしが貴方に話しかけるまで、気配すら感じなかったもの」
カンザトは、自分も話しかけられるまで気づかなかったと言おうとしたが、そういうことではないのだろう。こころが言いたいのは、こいしとカンザトが会話を始めるまで、こいしの存在を感知出来なかったということ。カンザトと2人で命蓮寺の境内に足を踏み入れた、その瞬間は間違いなく自分たち以外に誰もいなかったはずなのだ。
「俺、自分が分からなくなってきました……」
「まぁ悪いことではないですから……極めて不可思議というだけで。しかし貴方自身、何か心当たりがあるのではないですか?」
「まぁ、はい」
流石と言うべきか、聖は持ち前の洞察力でカンザトの表情から考えを読み取った。
自分が他人と明確に違う要素。それは考えるまでもなく、ひとつしかない。
・
・
・
「ペルソナ……聞いた事のない力ですね。陰陽道の式神とは違うんでしょうか」
「おそらく違う。私も数えるほどしか見てないけど、ペルソナは式神と違ってペルソナ自身の意思を感じなかった」
聖の疑問にこころが答えた。
意思がない……本当にそうだろうか。
カンザトは、宮古芳香と戦った際、ペルソナが自分の意思に関係なく発現した事を思い出していた。言葉を発することは無かったが、意思に反したペルソナの自発的な行動で命を救われたのも事実。
ペルソナとは、一体──
「そのおかげなのかな」
物思いに耽るカンザトを現実に引き戻したのは、それまで黙って会話を聞いていたこいしの呟きだった。
「何が?」
「上手く言えないんだけど……カンザトってね、私と近い感じがするの」
「近い、ですか。それは性格が似ているという意味ではありませんよね」
「うん。そうじゃなくて、精神が私と近い場所にある気がする。親近感を覚えるっていうか」
「うーん……?」
かなり感覚的な表現であるため、カンザトの理解が及ばなかった。当人が理解出来ないのなら、誰にも判らないだろう。
「……カンザトさんも、『
ぽつりと、聖が小声で何か呟いた。あまりに小さく、囁き声に近かった。
「え?」
「……いえ、なにも。いずれにせよ、私は教えを説くことは出来ますが、こいしさんの話し相手たりえないのです」
そんなことはないだろうとカンザトは言いたくなった。こいしが友情や愛情を求めているかは不明だが、現にこうして聖と会話は出来ている。たとえそれが一時的だったとしても。
「カンザトさん。押し付けがましいようで恐縮ですが……こいしさんのこと、よろしくお願いしますね」
「お願いしま〜す」
自身の事だと理解しているのか疑わしくなるほど、のほほんと後追いして喋るこいし。この反応だけ見ると、本人は大して深刻に捉えていないように思える。
「いえ、こちらこそ」
カンザトは、断る理由もないため承諾した。
というより、先ほど地底への案内を頼んだばかりで、むしろこちらが宜しく願いたい立場である。
こいしの交流関係を知った……
「そういえば、こころさんはどうしてここに? 修行しにいらしたのなら歓迎しますよ」
「いや、私はカンザトの付き添い。コイツに会うなんて想定外だったけど」
「え〜、つれないこと言わないでよこころちゃ〜ん。私は会いたかったよ〜」
「やめろ! 心にもないこと言うな!」
「こらこら、心を鎮めなさい。道を同じくする者同士が不仲では、悟りの境地に程遠いですよ」
彼女の台詞から察するに、こころとこいしは仏教に入信しているのだろう。その事実は、カンザトをわずかに驚かせた。
なぜなら、こころは仏教徒でありながら道教の士である豊聡耳神子を『神様』と呼称している。故に、入信するにしても道教だろうと予想していたのだ。
こころの多宗教信仰のような状況……何ら悪いことではないが、聖は承知しているのだろうか。
ついでに、面を盗んだこいしは戒律の一つ、
なんだか疑問は残るが、ある程度自由が効く信仰形態、それだけの話だろう。
「あ、そうだ。この絵なんだけど、里の人達に見せても大丈夫かな」
「いいよいいよー! 私の存在をドンドンアピールしちゃって!」
「無意識的存在であるこいしさんの肖像画……カンザトさんにしか描けない、正真正銘世界に一枚の作品ですね」
そう考えると、何気なく描いたこの絵だが、実は途方もなく希少価値の高い芸術作品である気がしてきた。
カンザトはどこか恐れ多い気分になりながら、画用紙の中の二次元世界に視線を向ける。
すると、モノクロで描かれた妖怪少女が人懐っこい笑みを浮かべて、外の世界の作者を見つめ返した。
こころの変装着は?(挿絵あり)
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A.着物
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B.パーカー
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C.コート
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D.とある学園の制服
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E. >どうでもいい