PERSONA-trinity heart-   作:善い思考

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相反する嗜虐と慈愛 憂い顔のわけ

 冬の博麗神社。

 元々少ない参拝客がより一層少なくなるこの時期に、複数人の来客があった。

 だが、本来喜ばしいはずの訪問者を前にして、博麗霊夢の表情は困惑を極めていた。それもそのはず、彼らは参拝客などではないからだ。

 

「……なにこれ」

 

 敷地内の除雪をしていた霊夢の前にいたのは──

 

 

「やぁ霊夢。精が出るね」

 

 珍しく動いている古道具屋、森近霖之助。

 

「うぅ、さみぃ……中で話さねぇ?」

 

 寒さに弱い魔法使い、霧雨魔理沙。

 

「はぁ、流石に疲れた……」

 

 何故か既に疲労気味な外来人、カンザト。

 

「だから私がだっこしてあげるって言ったのに」

 

 対照に疲れた様子など見られない面霊気、秦こころ。

 

「わーい、ここにもゆきゆきゆっき〜」

 

 そして、最もこの場にいる理由が分からない無意識妖怪、古明地こいし。

 

 特に理由なくただついて来ただけの一名を除いて、皆が同じ目的で集まっていた。

 

 

「こんな大勢でなんの用? お賽銭落としてくなら歓迎するわよ」

 

「なわけねぇじゃん」

 

 脊髄反射のような速度で霊夢の期待を裏切る魔理沙。霊夢がすごい顔で睨んでいる。

 

「実は折り入ってお願いがありまして……」

 

「え、なに? 怖いんだけど」

 

 カンザトが一歩前に出て低姿勢で話を持ちかけると、霊夢は警戒心を顕にした。

 一度息を落ち着けて、カンザトは事のあらましを語った。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「──というわけで、霊夢の名を借りたいわけです」

 

「はぁ、なんでそんなこと……」

 

「生活費のためなんです」

 

「なんで敬語……? 普通に働きゃいいじゃない。里の求人は知らないけどさ」

 

「それはこころの要望によるものでして」

 

「いやぁ、ご迷惑おかけします」

 

 片手を後頭部に添えて、同様に低姿勢で話すこころ。今さら彼女のせいで回りくどい事をしているとは言うまいが、説明を求められればこう説明するしかない。

 それに、皆の協力もありカンザト自身も乗り気になってきたところだ。やっぱり止めます、とはならない。

 

「どういうこと?」

 

「キミ、面霊気の彼女へカンザト君の家に住むよう言ったろう。この話は、2人でお金を稼ぎたいという、彼女の要望からなんだよ」

 

「あっそうだ霊夢! なんでこころを人里に住めなんて言ったんだよ! こころ自体に問題はないだろうけど、リスキーだろ!」

 

「え? あぁいや……えーと」

 

 霖之助と魔理沙に詰め寄られて、霊夢は気まずそうに目を逸らした。

 

「お前……さてはめんどくさくなって適当こいたな? 博麗の巫女が聞いて呆れるぜ」

 

「い、嫌ねぇ。こころなら人前に出てるから里に住んでも安全だろうし、人が多い場所にいれば感情も学べて一石二鳥と思ったのよ」

 

「なんだかなぁ……上手くいってるみたいだからいいけどよ」

 

 上手くいっているのは、こころが不要不急の外出を控えているためだろう。今後は徐々にでも里を出歩けるようになればいいのだが。

 

「それでどう? なんとか霊夢お墨付きってことにさせてくれないかな」

 

「うーん……どうやって証明するのよ。私は売り子なんてごめんよ?」

 

 すぐそこに気がつくとは、さすが霊夢。話が早くて助かる。

 

「そこは霊夢のサインか、絵を証明代わりにする予定」

 

「絵?」

 

「こんな感じで」

 

 カンザトは先ほど描いたこいしの絵を取り出し、霊夢に手渡した。

 

「…………上手いわね」

 

 霊夢は眉を寄せて画用紙をジッと見つめると、感心したように呟いた。

 

「というか、あまりに自然すぎてツッコミ忘れてたわ。アンタ、さとりの妹よね?」

 

 かと思えば、浮遊しつつカンザトの後頭部に両手を置き体重を預けている実物のこいしに喋りかけた。

 芳香に続き、霊夢もこいしを視認している。こいしの言うラッキーデイというのも、あながち間違いじゃないのかもしれない。

 

 ……というか、なぜ寄りかかって来るんだろう。寒いんだろうか。

 

 

「はいっ、お姉ちゃんの妹のこいしちゃんです!」

 

「なんでここにいるのよ。魔理沙もだけど」

 

「私はただの付き添いだぜ。なんか面白そうだし」

 

「同じく!」

 

 魔理沙がニヤつきながら答えると、こいしは元気に便乗した。

 

「今日は珍しく姿を見せるのね」

 

「本日はスーパーラッキーデイなんだよ」

 

「はぁ? ……まぁ、そういう日もあるか」

 

 何故か納得したが、間違いなく適当に喋っている。付き合いが短いカンザトでもなんとなく分かった。

 

「それは私も気になってた。お前を見るのは夏以来だけど、また注目されるようなことでもしてんのか?」

 

「僕は姿を見ること自体初めてだ。君がかの古明地姉妹の妹か」

 

「えぇ〜なになに? そんなに見られちゃ恥ずかしいよ〜」

 

 姿を見ること自体久しい者達の視線を集めるこいし。恥ずかしいと言いつつも、満面の笑顔を浮かべている。

 

「カンザト。こいつアンタのお目当て、古明地さとりの妹よ。家まで連れてって貰えば?」

 

「あぁ。さっきお願いして、地底を案内して貰うことになった」

 

「あらそう、よかったわね。直ぐにでも出発するの?」

 

「いや、雪が落ち着いてから行く予定」

 

「あー、それがいいかもね。一応言っとくけど、間違っても森の上は飛んで行かない方がいいわよ。慣れてないと死ぬから」

 

「お、おぉぅ……まぁ、ついさっき俺が飛べないことはよく分かったから大丈夫」

 

 先のことを考えると全くもって大丈夫ではないのだが、彼が飛ぶことを必要に迫られるのはしばらく先の事である。

 

「で、話を戻すと、小物を売って地底に行く前に2人で旅費を稼ごうってわけね。だから私の名前を借りたい、と」

 

「お察しの通りです。霊夢様」

 

「お願いします、れいむさまー」

 

「やめんか」

 

 どうやらヨイショ作戦は不評なようだ。ここに来る前にこころと2人で考案したのだが。

 

「そうねぇ……」

 

 霊夢は顎に手を当て思考する。

 少し霖之助に仕草が似ている気がした。

 

「じゃあ、商品は売る前に一度私に見せてちょうだい。私の名を使うなら、それなりの出来であるべきよ。我が博麗神社の評判を落とさないようにね」

 

「元から無くね?」

 

「なんですってぇ!」

 

 激昂する霊夢を横目に、案外すんなり許してくれたな、とカンザトは安堵した。

 

「ありがとう、霊夢。完成したら見せに来るよ」

 

「そうして。あと絵のモデルだけど、面白そうだから受けてあげるわ。商品全部にサイン書くのは手間だしね」

 

「なぁなぁ、私も描いてくれよ! 香霖もな!」

 

「え? 僕はいいよ……」

 

「絵の横に『森近くの香霖堂、年中無休で営業中』とでも書いて、ついでに店の宣伝すればいいんだよ」

 

「……なるほど。広告効果を見込めるわけか」

 

 受注するとは一言も言っていないのだが、サービス開始前から依頼が入ってきた。霖之助ですら乗り気になってしまえば、断る選択肢は無くなる。

 

「待ちなさい。魔理沙はコレ」

 

 そこに待ったをかけたのは霊夢。

 手に持っていた除雪道具を、ずいっと前に出した。

 

「なんだよ? これ」

 

「シャベルよ。見て分からない?」

 

「いやそうじゃなくて」

 

「私はカンザト達が来るまで必死に雪かきしてたのよ。アンタは絵を描いてる間暇でしょ? 代わりに働いてもらえるかしら」

 

「はぁ!? なんでだよ!」

 

「ほら、霖之助さんもお願い」

 

「……まぁ、仕方ない。たまには体を動かすか」

 

「はい、こころの分」

 

「任せて。初めてだけど」

 

 霊夢は何故か複数ある除雪道具を次々に手渡していく。たしかに霊夢ひとりで境内全体を除雪するのは大変だろうから、実に合理的な判断といえる。

 

「こいし、アンタも!」

 

「……私も?」

 

「どうせ暇でしょ? 珍しく居ることだし、手伝ってきなさいよ」

 

 横暴ともいえる霊夢の言葉を聞いたこいしは、しばし呆然とし──

 

「やる!」

 

 すぐに笑顔で了承した。

 自由奔放なこいしは肉体労働など面倒くさがるだろうと思っていたが、その表情はどこか嬉しそうに見えた。

 

「今からやったって、どうせ冬は客来ないだろ〜……」

 

「だまらっしゃい! このままだと酉の市が開催出来ないでしょうが!」

 

「またやんのかよ。もう今年は2回あったろ」

 

「やれる内にやんのよ、こういうのは。今年は酉の日が3回あるから、次はもっと豪勢になるわよ」

 

「酉の市ってなに?」

 

「霜月……11月の酉の日に行われる伝統行事だよ。商売繁盛を祈願し、縁起物を飾った熊手が売られるんだ。言っておくが、参拝客を増やすためのイベントでは決してない」

 

 カンザトの疑問に霖之助が答えた。内容を聞くと、心なしか記憶にある気がしてきた。

 知らないうちに、博麗神社ではそんなイベントを開催していたらしい。

 

「最近ソワソワしていると思ったら、祭りを企画していたとはね」

 

「霖之助さんにも声かけたと思うんだけど」

 

「……そうだったかい? 悪いね、賑やかなのはどうも苦手なんだ」

 

「知ってる。だから来なくてもなんとも思わなかったわ。フン」

 

 霊夢は不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 たしかに森近さんは人が多いところ苦手そうだな……と、カンザトは妙に納得してしまった。

 

「ま、そういうことだから。頑張って掻いてってよね。地面が見えるまでやっても良いわよ」

 

「妖怪使いが荒い巫女だねぇ」

 

「ふっ、よく言われるわ」

 

 霊夢は使えるモノは何でも使う性分らしい。たとえそれが人外でも。

 

 しかし自分のために皆が働くことになるのは、なんだか申し訳ない。

 

「なんかすみません、俺のために……」

 

 そう思ったカンザトは、横でシャベルを持ち腕まくりする霖之助に謝意を伝えた。

 

「気にしないでくれ。乗りかかった船だ。それに、これは好都合とも言える」

 

「好都合? 何がですか?」

 

「酉の市だよ。これほど絶好のタイミングで開催するなら、粘土細工を里で売る前の肩慣らしに利用すればいい。神前で販売すれば、ことさら付加価値が付くだろうし」

 

「え、でも……」

 

 霖之助は絶好のタイミングと言うが……

 

「霊夢。酉の市の開催はいつ?」

 

「10日後だけど」

 

 あまりに猶予がない。最悪、屋台のような形にはせず、長机のみを置いて販売するとしても、今から製作にとりかかって人に売れるような物が出来上がるかどうか。

 

「間に合うかな……」

 

 それを聞いた霖之助は、しまったというような顔をして眼鏡のブリッジを押さえた。

 

「いやそうか、すまない。手伝える訳でもないのに軽々しく勧めるべきではなかったな。忘れてくれ」

 

「いえ……」

 

 言われてみれば、試しに事前販売を行なうことは悪くないかもしれない。顧客満足度を確かめ、本番までの参考にする。なによりも、経験のない接客に慣れておきたい。

 

「霊夢。その酉の市で、場所を貸してくれないかな」

 

「いいわよ。設営とかは手伝えないけど、アンタも商売繁盛するといいわね」

 

 結局、販売することにした。商品を多くは用意出来ないだろうが、やるだけやってみよう。

 

「僕が言い出したことだが、今から間に合わせるのかい? 無理はしないでくれよ」

 

「まぁ、間に合わなそうだったら素直に諦めます」

 

 なんとも熱意に欠けるが、急いては事を仕損じると言うし、それほど気楽に取り組んだ方が商品の出来が良くなるかもしれない。

 

「大丈夫、私も手伝うから。大舟に乗ったつもりでいて」

 

 こころが胸に握りこぶしをドンと当てた。頼もしいことこの上ないが、その自信はどこから来るのだろうか。

 

「さぁさぁ、やる気も出てきたところだし、早速取り掛かってもらえるかしら。とりあえず参道から!」

 

「うおぉい、私はまだ納得してないんだが〜?」

 

「しょうがないわねぇ……お駄賃あげるから手伝ってよ」

 

「私ってそんな単純なヤツだと思われてたのか? いやまぁ、いいけどよぉ……」

 

 散々ごねた割に手伝うらしい。やはり対価があるのは違うのか。いや、魔理沙以外が乗り気なのに、1人だけトンズラこくのは気が引けたのかもしれない。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 霊夢とカンザトは場所を居住スペースへと移した。

 和室にて、霊夢は座布団の上に正座し、カンザトは描画を開始した。

 

「……」

 

 改めて見ると、霊夢は幼さを残しながらも整った顔立ちをしている。年齢にそぐわず気丈さを感じさせる佇まいや、その瞳に宿る強い意志は、博麗の巫女の使命からくるものか。

 絵に集中しなければいけないが、そのような余計ともいえる思考がカンザトの頭の端にチラついた。

 

「カンザト」

 

 突然、落ち着いた声色で名を呼ばれた。

 まさか思考を読まれたわけではないだろうが、少しドキリとした。

 

「なに?」

 

「こころは大丈夫そう?」

 

 どうやらこころの現状が知りたいらしい。カンザトは目を画用紙から逸らさずに答えた。

 

「今のところ何も問題ないよ。何もワガママ言わないから、むしろ何か希望はないのかなって思うくらい」

 

「そう、なら良かった」

 

 それだけ言うと、また黙ってしまった。聞きたかったことはそれだけか。

 

「……悪かったわね。こころを押し付けて。言い訳みたいになるけど、立場上妖怪と必要以上に近づくわけにはいかないのよ」

 

 しばし沈黙の後、おもむろに口にしたのは謝罪の言葉だった。

 やっと霊夢がこころの同居を断った理由が分かった。

 博麗の巫女は人と妖怪の間に立ち幻想郷の均衡を保っているが、霊夢自身人間ということもあり、どちらかと言えば人間側の存在だ。いくら妖怪の知り合いが多くても、妖怪の仲間のように見られるのは世間体がよろしくないのだろう。

 

「いや、むしろ助かってる。俺、意外と寂しがり屋だったみたいでさ。ひとりだと色々考えちゃって、なんかモヤモヤしてたんだけど……こころが来てからは寂しくないんだ」

 

 霊夢はわずかに驚きの感情を滲ませた後、安心したようにフッと微笑んだ。

 

「ま、たしかにこころがいれば暇しないかもね」

 

 改めて考えても、カンザトはこころの存在と、その優しさに救われている。こころは特段騒がしいわけではないが、無口ではない。思いを話し、共感してくれる相手がいるだけで、カンザトの心中は穏やかだった。

 

「カンザトが悪い人じゃないってのは分かってたけど、少し気がかりだったから……魔理沙から上手くいってるって聞いた時、正直安心したわ。あれから能力も安定してるみたいだし」

 

「能力も安定って、何のこと?」

 

「あれ、こころから聞いてない?」

 

「それらしいことは何も」

 

 本人から感情を理解することが現在の目的とは聞いているが、能力の安定とはなんのことだろう。たしか、こころは感情を操る能力を持っているんだったか。

 

「ちょっと前のこころは感情を操る力が暴走してたのよ。それで本人の希望もあって、能力と精神安定のために能をやらせてたんだけど……」

 

「だから能をやってるんだ。暴走っていうのは? 情緒不安定になるとかそういうこと?」

 

「それもあるけど、深刻だったのは周りに感情が伝播すること。みんなおかしくなっちゃて、あの時は結構大変だったのよ?」

 

「それってもしかして、夏にあった宗教戦争の時の話?」

 

「そうそう、よく分かったわね。ここぞとばかりに他のヤツらも出張ってきて、厄介極まりなかったわ」

 

 なんだか話の全容が掴めてきた気がする。

 布都と聖から聞いたところによると、宗教家達は人々の荒れた心を救うため、決闘により信仰を集めたという。

 それと同時期にこころの感情を操る能力は暴走し、周囲へ影響を及ぼした。

 

 つまり人々の心が荒んでいた原因は……

 

「……」

 

 いや、これ以上は本人から聞こう。今は平和なようだし、無理やり聞き出すことでもない。自ら喋るまで待っても、何ら支障はないだろう。

 霊夢も同じく考えたかは分からないが、それ以上を語らなかった。

 

「ごめん、喋りすぎた。話しかけられたら集中出来ないわよね」

 

「あぁいや……大丈夫」

 

 大丈夫と言ったものの、右手に握った鉛筆は動きを止めていた。少し考え込みすぎたようだ。

 気を取り直して、カンザトは博麗の巫女の御尊容を描画し始めた。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「よし、完成」

 

「どれ……お、いいじゃない。我ながら威厳を感じるわ」

 

「ありがとう霊夢。これできっと上手くいく」

 

「だと良いわね。……あ、ちょっと待って」

 

 霊夢は何やら思いついた様子で、箪笥から筆と黒い固形物を取り出した。

 

 あれは……墨か。

 

 そして慣れた手つきで墨を磨り、筆を握ったかと思うと、画用紙に流麗な字で『日々神恩感謝』と書いた。

 

「……なにこれ?」

 

「神様への感謝を伝える言葉よ。うーん、なかなか様になってるわ」

 

「いや、書いた意味は?」

 

「この絵を見た人は神様への感謝を思い出して、参拝意欲が増すかもしれないじゃない? 集客よ集客」

 

「あぁ、なるほど……」

 

 名を貸してやるんだから、これぐらいは許されて然るべきだろうという意思を感じる。霖之助は霊夢のことを金に無頓着だと言っていたが、あれは勘違いじゃなかろうか。

 ところで、既に書いてしまったため仕方ないが、このままだとカンザトは神社の回し者になってしまう。巫女の名を借りてる時点で手遅れな気もするが。

 

「じゃ、次は魔理沙ね。呼んでくるわ」

 

 用は済んだとばかりに霊夢は立ち上がり、退室しようとする。

 

 

 しかし、立ち上がった霊夢の目の前……画用紙が置いてあるちゃぶ台の上に、極小の影が躍り出た。

 

 

「待てーい! 話は聞かせてもらったわ!」

 

「あら針妙丸、いたの。静かだからいないと思ってたわ」

 

 現れたのは小人の友人、少名針妙丸。

 針妙丸の家(籠)は入室した時から視界に入っていたが、うんともすんとも言わなかったため、カンザトも勝手に不在だと思っていた。

 

「話は聞かせてもらったって……」

 

「フフフ。カンザトあなた、何やら面白いことやってるじゃないの」

 

「絵のこと?」

 

「そう! 貴方に、この高貴なる小人姫の堂々たる姿を描かせてやらんこともないわよ!」

 

 針妙丸は仁王立ちで自信たっぷりに言い放った。

 

「針妙丸も何か宣伝したいことがあるのか?」

 

「え? えっとねー」

 

 問うと、針妙丸は途端にぽやんとした顔になった。

 

「いや、コイツ暇だから描いてほしいだけよ」

 

「そんな! こと……ないもん」

 

 図星だったようで、声が尻すぼみになっていった。

 カンザトとしては拒む理由が無いため、ありがたい提案だ。

 

「針妙丸。是非描かせてくれ」

 

「! えぇ、えぇ、かかって来なさい!」

 

 彼女はモデルを何か物騒な物だと思っているのだろうか。

 それにしても次々に予約が入る。鉛筆削りを持ってきて良かった、とカンザトは思った。

 

「あ、そ。じゃ、終わったら魔理沙呼びに来てね」

 

「うん、分かった」

 

「アイツら、ちゃんと真面目にやってんのかしら」

 

 

 〜 一方その頃 〜

 

 

「森近サン、この道具はどのように使う物なのでしょうか。教えてくださいな」

 

「貴方でっかいねぇ。カンザトも大きいけど、貴方はもっと大きいよ! どうしたら私も大きくなれるかなぁ? ねぇ教えてー」

 

 霖之助が女子2人に絡まれていた。

 こころは霖之助が物知りであることを知っていたからで、こいしはただ目に付いた興味の対象に絡んでいるだけだ。

 

「はは、懐かれてやんの」

 

「魔理沙、君の方が親しいだろう。シャベルの扱い方を教えてやってくれないか」

 

「えぇ〜私も分からんなぁ。教えてくれーい」

 

「キミねぇ……面白がってるだろ」

 

 この後、様子を見に戻って来た霊夢が怒声を飛ばしたのは言うまでもない。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「最近どう? なんかあった?」

 

 小さな座布団に正座するモデルが世間話を持ちかけてきた。やはりただジッとしているだけでは手持ち無沙汰になるらしい。

 

「あれから……えーと、一緒に地底に行ってくれる人が見つかって、1人住人が増えた」

 

「おぉ、良かったわね! ……ん? 住人?」

 

「うん。色々あって一緒に住むことになった」

 

「もしかして、女?」

 

「え? うん」

 

「え、ウソ、ホントに!? へぇー……そういうタイプには見えなかったけど、案外やり手なのね」

 

 針妙丸はニヤニヤと口元を緩ませ、生暖かい目でカンザトを見た。

 

「そういう関係じゃないからね?」

 

 何か勘違いしてそうなので、一応否定しておく。

 今更だが、皆が皆こういった反応になるので、同居の件は今後気軽に明かさない方がいいかもしれない。

 

「え〜、またまたぁ。男女がひとつ屋根の下なんて、もうそういうことじゃないのよぉ」

 

 なんだか楽しそうだ。

 相手は人間では無いのだが。

 

 その同居人は妖怪だ……と言おうとして、針妙丸が妖怪に対し不信感を抱いていたことを思い出した。

 突然不機嫌になることはないだろうが、念の為伝えずにおいた。

 

「その人も地底に着いてきてくれるんだよ。で、その代わりに住む場所を提供してる感じ」

 

「へ? そりゃまた……特殊な関係ねぇ」

 

 本当に色恋沙汰ではなさそうだと考え直したのか、針妙丸は落ち着きを取り戻した。

 

「そういえば、地底にはいつ行く予定なの?」

 

「森近さんは雪が落ち着くまで待った方がいいって言ってたから、年明けの予定」

 

「そう……年明けか」

 

 気のせいだろうか、急にテンションが下がった気がする。声のトーンが快活な彼女らしくないというか……

 

「……ひとつだけお願い」

 

「ん?」

 

 針妙丸はカンザトに真剣な眼差しを向けた。

 雰囲気が変わったことを感じ、カンザトは思わず手を止めた。

 

「アマノジャクには気をつけて」

 

「アマノジャク?」

 

 カンザトはその名に聞き覚えがあった。

 天邪鬼……日本の有名な妖怪だ。わざと他人の意見に逆らい、正反対の行動をとる者を指す言葉でもある。つまり、針妙丸は「性格の悪い者に気をつけろ」と言いたいのだろうか。

 

「ひねくれ者の妖怪。黒髪に小さな角が生えてる」

 

 妖怪の事だった。どうやら幻想郷には天邪鬼も存在しているらしい。勝手なイメージだが、あまり強そうには思えない。

 

「……気をつけてっていうのは?」

 

「奴はかつて異変を起こし幻想郷転覆を企んだ妖怪よ」

 

 前言撤回。異変を起こし、あまつさえ世界を壊そうとしたとなれば、かなり強大かつ凶悪な妖怪だ。

 

「大罪人『鬼人正邪(きじん せいじゃ)』はこの世界のどこかに隠れてる」

 

「鬼人……正邪」

 

「奴にもう強大な力は残ってない。でも、私には奴がまだ何か企んでいるように思えてならないの」

 

「その妖怪がどこかに潜んでるかもしれないから、遭遇しないように気をつけてってことか」

 

 針妙丸は深く頷いた。

 

「もし……もしね? 旅先でアイツと出くわしてしまったら、戦闘は避けて、私にそのことを教えて欲しいの」

 

 戦闘自体を回避すべきとは、それほど危険な妖怪なのだろうか。針妙丸はカンザトの実力を知らないため、そのように警告しているのか、それとも。

 

 重苦しい雰囲気と端々に棘を感じる発言。そしてわざわざ妖怪一体を危険視し、警告する針妙丸の言動を受けて、カンザトはひとつの想像をした。

 

「言いたくなかったら言わなくていいんだけど……針妙丸はその妖怪を恨んでるのか?」

 

「…………そうね、恨んでる……かな」

 

 なんだか歯切れが悪い。

 針妙丸は目を伏せ、何かを堪えるように答えた。

 その小さな声は、すぐに答えが出せず、無理やり絞り出したかのような声だった。

 

「分かった、気をつけるよ。教えてくれてありがとう」

 

 

 怨恨とは無縁そうな針妙丸にも、恨む相手がいるようだ……

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「よっし、できた」

 

「見せて見せて!」

 

 すっかり先ほどの深刻な雰囲気が消え失せた針妙丸がトテトテと歩み寄ってきた。

 

「おー! すごくいいわ! カンザトにこんな才能があったなんて!」

 

 絵を見た針妙丸は目を輝かせた。それほど喜んでくれるのなら、描いた甲斐が有るというものだ。

 

「ありがとう。針妙丸も何か書く?」

 

「あー、そうね……」

 

 針妙丸に筆を差し出すと、両腕で抱きとめるように受け取った。筆は針妙丸の身長とほぼ同じだ。

 もし針妙丸が普通の人間と同じサイズの文字を書くとすると、見た目は書道パフォーマンスに近い。

 

「別に宣伝したいこともないし、座右の銘でも書こうかな」

 

 小人族繁栄祈願なんてどうだろう。

 とは思っても口に出さなかった。

 

「見てて! 私は小さいけど、あなた達に合わせて大きな字が書けるのよ!」

 

 そう誇らしげに言う針妙丸は筆に墨をつけると、画用紙に文字を書き始めた。

 

「ふっ、ほっ、よいしょ! 今日は良い字が書ける気がするわ!」

 

 アホ毛をピコピコと動かしながら、小人が全身を使い筆を巧みに操っている。

 

「……」

 

 突然だが、『キュートアグレッション』という言葉をご存知だろうか。

 キュートアグレッションとは、小動物などの可愛らしい小さき命を見ると攻撃的な衝動が湧いてくるという、『かわいそうはかわいい』的な心理現象のことである。

 

 この時カンザトがとった恐れを知らぬ行動は、それに近い感情によるものだと思われる。

 

 

 カンザトは、針妙丸が必死に動かす筆の持ち手部分の先端を指先で軽くつまんだ。

 

 

「うーんうーん、あれれ? なんか筆が急に重くなった気がするわ。運動不足かな」

 

 当然針妙丸は筆を動かしにくくなる。見上げれば背後にいる巨人が原因だとすぐ判明するが、字を書くことに気を取られている針妙丸は気がつかない。

 原因が分からないまま、彼女は突如扱いにくくなった筆と格闘し続けるわけだ。これはヒドイ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 念のため、カンザトの名誉のために弁明すると、彼は他者を痛めつけることに快楽を感じるサディストなどでは決してない。ただ、ちょっとしたイタズラ心が芽生えた末による行動なのだ。

 

「むっ、ふはぁ……重いよぉ。えぇ、なんでー?」

 

 針妙丸は体をゆらゆらと揺らし、混乱している。

 流石に可哀想になってきた。そろそろ指を離そう。

 

「ん? なんか暗い……って、あー!!!」

 

 と思っていたら、足元に影があることに気づいた針妙丸が振り向き、犯人がバレてしまった。

 

「こらー! 何やってんのよー!」

 

「ご、ごめん。つい」

 

「何がついよ! 私がこんなに必死になってんのに! やっていい事と悪い事があるでしょうがー!」

 

「そ、そうだよな。ホントごめん……」

 

 そこから数分間、憤る針妙丸にカンザトは全力で謝り倒すのだった。

 最終的に、里の甘味をここまで持ってくるということで示談となった。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「どうした、なんか疲れてね?」

 

「いや……大丈夫、自業自得だから。ハハ」

 

 何故かゲッソリとしているカンザトに、魔理沙は訝しげな視線を送った。

 

「何あったか知らんけど……商売、上手くいくといいな」

 

「ありがとう。霊夢、森近さん、霧雨さん……みんなが他人同然の俺を助けてくれて、本当にありがたいよ」

 

「ま、こんなハチャメチャな世界だが……いや、だからこそか。人間同士は助け合っていかないとな」

 

「……そうだな」

 

 人間は弱いからこそ、身を寄せあい助け合う互助精神が必要だ。時にそれは、強大な妖にも勝る力となるだろう。

 

「てか霧雨さんはやめろ。親父と被る。あと、さんも要らん」

 

「えーとじゃあ、魔理沙」

 

「おう」

 

 言われるがまま呼び捨てになった。そういえば、魔理沙は父親と折り合いがつかず実家を出ていたのだった。

 

「魔理沙は実家を出たって聞いたけど、今は里に住んでるのか?」

 

「いんや? 森に家があるからそこに住んでる」

 

「森って……香霖堂のすぐ側の森だよな。あそこはキノコの胞子が飛んでて、普通は住めないって聞いたけど」

 

「むしろその胞子が魔法使いにとっては色々と都合いいのさ。私以外にも住んでるヤツはいる。住めば都ってな」

 

 その言い方だと、魔法使いにとっても魔法の森は厳しく辛い場所だということになる。実際、大半の生物にとって過酷な環境であることには変わらないのだろう。

 

「そういえば森抜けて地底行くんだっけか。真っ直ぐ突っ切ったら見つからないと思うが、道に迷った時は案内してやるからウチ来いよ! お安くしとくぜ!」

 

「え、森の案内人でもやってんの?」

 

「案内人じゃなくて何でも屋だ。霧雨魔法店、店主在宅時は営業中だぜ。もし居なくても、探し出して直接依頼してくれよな」

 

 それは店としての体をなしていない気がする。そもそも危険な魔法の森に足を踏み入れる勇猛果敢な人間がどれほどいるか。

 

「そうだな……儲けが出たら頼もうかな。記憶を取り戻す方法を見つける依頼、とか」

 

「おぉ、聞いたぜ。記憶喪失とは大変なことになったな」

 

 おそらく、こころか霖之助から事情を聞いたのだろう。魔理沙は同情してくれているようだ。

 

「記憶なぁ……魔法でどうにか出来ればいいんだが、精神系はあんま使わないからなぁ」

 

「へぇ、魔法にも色々種類があるんだ」

 

「あぁ。自然要素や精霊、妖精を利用した属性魔法、医療系や精神系など人に作用するものから便利な生活魔法まで、なんでもござれだ。魔法ってのは奥深いんだぜ」

 

「へぇー……すごいな」

 

 魔理沙は嬉々として魔法を語る。

 対して、魔法の「ま」の字も知らないカンザトは片手間で聞いていることも手伝って、小学生並みの感想しか返せなかった。

 

 しかし……属性魔法や回復魔法、精神魔法など多岐にわたるというのは、ペルソナ能力に似ている、とも思った。ペルソナの放つ魔法の仕組みは不明だが。

 

「多分アリスも精神魔法は得意じゃないし……パチュリーはどうだったかな」

 

 魔理沙はブツブツと誰かの名を呟いている。どうやら魔法使いは他にも数人いるらしい。魔理沙以外の魔法使いに会ったことはないが、能ある鷹は爪を隠すように、身分を隠しているのだろうか。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「ふぅ、完成」

 

「おっ、待ってたぜ!」

 

 画用紙には、いつもの黒帽子を外した魔理沙の姿が描かれていた。

 こうして見ると、どこかお淑やかな印象を受ける。

 黙ってたら美人、とは絶対に言ってはいけない。口にすれば最後、彼女お得意の星魔法の餌食になることは確実だ。

 

「おぉいいじゃん! めっちゃ上手いな!」

 

「ホント? 良かった」

 

「へへ、なんか照れるな。自分の絵なんて普段見れないからよ」

 

 一日で既に4枚目。そろそろ集中力が切れてきたが、喜んでくれて何よりだ。

 

「じゃ、私も宣伝させてもらうかな〜っと」

 

「あ、やっぱり書くのね……」

 

 魔理沙は筆で霧雨魔法店の宣伝文句を綴った。

 だが、人里で宣伝したとて、里の人間に魔法の森の中まで来いというのはあまりに優しくない。

 その広告は意味をなすのか、いささか疑問である。

 

 

 さて、次なる依頼者は霖之助だが……

 

「香霖は今頃こき使われてるだろうから、また今度になるかもな」

 

 とのことなので、一度外に出て様子を見ることにした。

 

 カンザトと魔理沙が住居から出ると……

 

 

「いいかい? シャベルを扱う際は腕の動作が重要で、力はそれほど要らないんだ。雪を乗せたら一度後ろに引き、そこから勢いをつけて前に押し出すように……飛ばす!」

 

「ふむふむ、なるほど。こうやって……こう!」

 

「そうそう、上手いじゃないか」

 

「ホントですか?」

 

「あぁ。その調子でここら一帯の雪を一箇所に集めてくれ」

 

「よーし、燃えてきたあああああ」

 

「こころくん? そんなに激しくしなくても……うわっ、こっちに飛んできあばばばば」

 

「ねー雪合戦しようよぉ。あ、やっぱり雪だるま作ろー!」

 

「コラァ! あんた達、真面目にやらんかぁ!」

 

 やる気を出しすぎて空回りしているこころ。

 こころとこいしの扱いに悪戦苦闘する霖之助。

 自由気ままに遊ぶこいし、叱る霊夢。

 

 絵を描き始めてからしばらく経ったはずだが、雪かき組の作業は全く進んでおらず、境内の真っ白なカーペットは敷かれたままだった。

 

「俺も今から手伝った方が良さそう……かな」

 

「だな」

 

 霖之助の絵は後日、香霖堂にて描くこととなった。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「今日はみんなと話せて楽しかったな〜」

 

 大方作業が終了し、カンザトは鳥居の近くでこいしと話していた。

 

「雪かきなんて初めてやったけど、意外と楽しかったよ」

 

「こいし、手伝ってくれてありがとう」

 

「どういたしまして! たまには誰かのために何かするっていうのも悪くないね」

 

 ほぼ遊んでいたような気がするが、あれは何かした内に入るのだろうか。喉まで出かかったツッコミを、カンザトはぐっと飲み込んだ。

 

「うふふ、今日が終わっちゃうのがもったいないねぇ」

 

「また来ればいいよ。俺も、皆もまたこいしと話したいって思ってる」

 

 そう返されるとは思わなかったのか、こいしは意表を突かれたような顔をして、カンザトを見つめた。

 

「……そう、かな?」

 

「うん、きっと」

 

「そう……そうだと、いいな……」

 

 いつもの様に笑みを浮かべるこいし。しかし、その顔は普段より憂いを帯びている様に感じた。

 彼女は以前、人に認識されなくても寂しくないと言った。とはいえ、この反応と言動から思うに、寂しいとは言わないまでも誰かとの関わりを求めていることは確かだ。

 そして、認識されなくなった経緯について、『目を閉じたらこうなっちゃった』と言っていた。

 つまり無意識の存在になったことは不本意であり、彼女の望む生き方は他にある。

 

 だが、彼女自身がその想いを自覚しているかは不明だ。カンザトは彼女の心の内にどこまで踏み込んでいいものか迷い、躊躇った。

 

 

 普段認識されない分、こいしは人との交流を楽しんでいるようだ……

 

 

「そろそろ夜だね。時が経つのは早いや」

 

「……うん」

 

 一日の終わりを知らせるかのように、こいしの顔が夕焼けに染まる。

 夕方は逢魔が時と言い、魔の者が姿を現し活発になる時間帯らしいが、反対に今にも消え入りそうな、どこか切なげな雰囲気を漂わせる目前の少女はどうなのだろう。

 カンザトはそのようなことを考えながら、何を言うでもなくこいしの横顔を見つめていた。

 

「そこの2人! ご飯作ったから食べていきなさいよ」

 

 すると、後ろから霊夢が近づいてきた。

 

「一応頑張ってくれたからね。これぐらいはしてあげるわ」

 

「やった。正直めっちゃ腹減ってたんだよね」

 

 歩き疲れたどり着いた博麗神社で、集中して芸術活動に励み、さらに肉体労働を重ねた。カンザトの体は当然、空腹を訴えた。

 

「……」

 

 霊夢の後をついて行こうとしたカンザトだったが、ふと足を止めてこいしに向き直った。

 こいしは、彼女にしては珍しい、何か逡巡しているかのような表情をしていた。

 

「行こう、こいし。みんな待ってる」

 

 カンザトは姿勢を低くし、正面からこいしと向き合った。

 

 彼女の迷いは察せられないが、今晩の食事は働いた者全員への報酬なのだ。故に、全員いなければ始まらない。勿論、彼女もいてもらわなければ困る。

 

「……うん!」

 

 少しの間を置いたあと、こいしは弾むような声で答えた。

 

 カンザトはこころのように感情を読むことは出来ない。

 

 しかし、今だけは分かる。

 

 今のこいしの感情はきっと、『嬉しい』だ。

 

 

 その日の夕食は、カンザトが幻想郷に来て以来、最も賑やかな食卓となった。




登場人物が多くてセリフ過多な回でした。
自分はキュートアグレッションを某SNSの某botの井上で知りました。

●ランクupしたコミュ
『正義』少名針妙丸:ランク4
『刑死者』古明地こいし:ランク3

(アンケート用挿絵)

【挿絵表示】

こころの変装着は?(挿絵あり)

  • A.着物
  • B.パーカー
  • C.コート
  • D.とある学園の制服
  • E. >どうでもいい
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