PERSONA-trinity heart-   作:善い思考

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今回の挿絵微ホラー注意


清心濁れと悪魔は嗤う

 香霖堂を出た一行は霖之助に別れの挨拶を済ませ、冬の森へ足を踏み入れた。

 

「このまま真っ直ぐ歩けば、そこまで時間かからないで出られるはずです」

 

 一度森を通った経験のあるカンザトを先頭に歩く3人。野良妖怪の襲撃程度は起こりうるが、道に迷ったりしなければ滞りなく進むことが出来るだろう。

 

「雪のせいで足場が悪いな……何事も無いといいが」

 

 足元の悪さは飛ぶことで改善されるが、この鬱蒼とした森の中、どちらにせよ戦闘に向かない。

 

「あと変なキノコの胞子が漂ってるらしいんで、息吸う時は気をつけてください」

 

「そんなの気をつけようないではないか。視界も悪いし最悪な環境じゃな……」

 

 布都が本日何度目か分からない溜息を吐く。

 冬季は一部を除き、ほとんどのキノコが姿を消すが、魔法の森に群生する化け物茸にその通説が通用するかは不明だ。秋季よりかは胞子の濃度が薄れていると思いたい。

 

「晴れてるのに薄暗いね」

 

 こころが森の風景を眺めた率直な感想を述べる。

 先ほどまで頭上に広がっていた空は背の高い木々の樹冠に遮られ、霞むような青を視界に映す。

 しかし同時に、その弱々しい木漏れ日が地面の雪に反射した風景は、仄暗く怪しげな森を幻想的に演出していた。

 

「結構綺麗なんだけど……あんまり楽しむ余裕ないな」

 

 あとは、いつ外敵と遭遇するか分からない不安と有害物質による健康被害さえ無ければ、のんびりと散策を楽しみたいところだ。

 

「こんな環境を楽しめる者がおるなら、そやつは相当な悪趣味じゃな」

 

 何気なく口から出た言葉だろうが、森に棲む一部の者に対して深く刺さる発言だ。カンザトはそれに該当しそうな魔法使いの少女の顔を思い浮かべ、なんとも言えない気持ちになった。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 それからしばらく歩を進めた頃。

 

「のう、我は初見ゆえ確かなことは言えんが……」

 

 布都が立ち止まり、真剣な顔付きで周囲に目を配る。

 

「静かすぎぬか?」

 

 言われてみれば、聞こえるのは雪を踏みしめる音と木々のざわめきだけで、本来聞こえるはずの動物や鳥の鳴き声が一切聞こえてこなかった。

 

「たしかに……俺が前来た時より静かかもしれないです」

 

 それどころか、警戒していた野良妖怪にも遭遇しない。これは単なる偶然なのか。

 

「お主が以前立ち入った時は秋口だと言っていたな」

 

「たしか10月ぐらいです」

 

「現在は真冬だ。その頃と条件が変わっただけなら、この不安は杞憂に終わる」

 

 単純に気温の低下により、野外を跋扈する妖怪が減ったという可能性はある。動物型の妖怪に冬眠という生態があるかは不明だが。

 

「……なるたけ警戒しておくことだ。我々が踏み込んだこの領域、何が起こるか分かったものではない」

 

「はい」

 

 布都の言葉を受けて、カンザトはより一層気を引き締める。師と自称するだけあって、周囲に気を配り警戒を怠らない布都を頼もしく感じた。

 

「ねぇ、あれ」

 

 歩行を再開するため正面へ向き直ったその時、踏み出そうとした足をこころの一声が止めた。

 

「どうした?」

 

 こころの人差し指が薄暗がりのある一点を捉えている。

 指し示す先に視線を送ると……

 

「誰かいる」

 

 暗くてよく見えないが、大木に隠れるようにして人影が蹲っていた。

 

「人、だよな」

 

「こんな場所に? 人型の妖ではないか?」

 

「うーん……胞子が邪魔して、見ただけじゃ判別つかない」

 

 三者顔を見合わせ相談するが、結論は出ない。

 わずかな沈黙のあと、誰にともなく蹲る者の元へ歩き出した。

 

 あと十数歩という所まで近づいた。ここまで接近すれば相手もこちらの存在に気がつくはずなのだが、その者は両手で頭を押さえて顔を上げようとしない。

 容姿を窺うと、黒髪の所々に赤と白の毛が混じった、おそらくは女性だと分かった。布切れをマントのようにして身にまとっている。

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

 カンザトが一歩前に出て恐る恐る声をかけるも、女性は蹲ったまま返事をしない。

 どうしたものかと、後ろに待機する二人に目線を投げた次の瞬間──

 

「……! カンザト!」

 

 突如、一向に動かなかった女性が、唸り声をあげ猛然と飛びかかってきた。

 

 驚いたカンザトは振り返るが、避けるより早く襲撃者の凶刃が振るわれるだろう。

 迫る危機に、こころだけがいち早く気づいたものの、彼を助けるには一歩届かない。

 

 しまった、罠か。間に合わない。

 

 誰もがそう思った。

 

 

 

 ズッ

 

 

 

 ──ピタリと、襲撃者の動きが空中で停止した。

 

「ぁ……!?」

 

 襲撃者の双眸が驚きに見開かれる。

 カンザトも同様、目を見開き驚愕を顕にした。

 

 おそらく、防衛本能による行動だったのだろう。布都の警告が無ければ警戒心が薄れたままで、こうはならなかったように思える。

 

「なん……だ」

 

 襲撃者の身体を、カンザトの背後から伸びる巨大な腕が鷲掴みにしていた。

 

「ぃっ……!」

 

 囚われの襲撃者はカンザトの背後に視線を向けると、小さく悲鳴を漏らした。

 ソレは薄闇より這い出て、身の毛のよだつ蛇眼を獲物に向ける。

 

「な、なん……お前……ッ!」

 

【挿絵表示】

 

 細長い六つの腕を持ち、不気味な笑みを浮かべる神話の龍『ヴァスキ』が、召喚者の背後より出現した。

 

「人間じゃねぇのかよ……!」

 

 苦虫を噛み潰したような顔をする襲撃者。異形を召喚したカンザトを、人外だと勘違いしたようだ。

 

「おいカンザト! こんな狭所で巨大なヤツを予告なく出すでない! 心臓飛び出るかと思ったわ!」

 

「す、すみません。びっくりして咄嗟に」

 

 宙に飛び、龍の巨体を避けた布都がカンザトの横に降り立ち非難する。とはいえ、後ろに気を配れるほど余裕がなかったのだから仕方がない。

 

「妖か」

 

 布都は鷲掴みにされたまま身動きの取れない妖怪を睥睨する。

 

「さっさと殺せ」

 

 そして、冷たく命じた。

 

「え?」

 

「どうせ放したら暴れる。そのまま握り潰してしまえ」

 

「そこまでしなくても……」

 

「何故だ。スペルカードルールなんぞ守らんで襲ってきたのはこの妖の方だぞ? 殺されても文句は言うまい」

 

「くっそ……っ! 離せ……!」

 

 布都の言葉に強い危機感を覚えた妖怪は、どうにか抜け出そうともがく。だが龍の掴む力は強く、上半身を身悶えさせるだけに終わった。

 

(ころ……す)

 

 この妖怪を殺す。一方的に命を奪う。

 それが可能な力を、自分は持っている。

 

 流れとしてそうなるのは当然だし、布都の命令は何らおかしくない。言う通り、解放してしまえば再び襲いかかってくるかもしれない。ならばそれは正当防衛だろう。

 

 だが、命ぜられたからといって、言われるがまま凶行に及ぶのか? 

 

 自分と同じように喋り、人の形をした生物を殺せるのか。そもそも姿かたちに関わらず、襲ってきたという理由だけで妖怪を殺すこと自体、正しいのか。

 

 頭の中でぐるぐると思考が渦巻き、上手くまとまらない。自分は今、大きな岐路に立たされているのではないか。

 

 途端に、寒さを感じていた身体から脂汗が吹き出した。

 

 

 ──どうする? 

 

 

 操作主の精神状態が伝播したのか、ヴァスキが大蛇のように長い躰を震わせた。少し動くだけで森がざわめく。まるで彼の心境を表しているかのようだった。

 

「カンザト」

 

 誰かに名を呼ばれた。

 

 こころだ。

 動揺する自分とは真反対に無表情なこころが、横に並び立ち声をかけてきた。

 

「いい。また襲ってきても私が追い払うから。逃がしてあげて」

 

「……でも」

 

「いいから」

 

 強い意志を感じる眼差しが向けられる。

 カンザトは彼女の瞳を見つめ返す。

 

 頭によぎるのは、いいのか? という許されたい思い。

 

「あ……」

 

 

 そんな自分が……情けなかった。

 

 

「ハァ、あまっちょろいのう……」

 

 布都はため息をつきながらも、強要してこなかった。この男には出来ないだろうと予想していたのかもしれない。

 本当に甘いし、覚悟が出来ていなかった。

 人里から離れた喰うか喰われるかの世界で、何があっても突き進むという覚悟が。

 その事実を自覚し、カンザトは眉を歪ませ歯噛みした。

 

 ヴァスキが音もなく消滅すると、自由になった妖怪は呻き声を漏らしながら地に伏せた。

 

「ぐ……情けをかけたつもりか? 要らないんだよそんなの……!」

 

 地面に両手をつきながら起き上がり、激しい怒りの灯った眼を見せる。

 

「こやつ、何故に放してもらっといて強気なんだ」

 

 小さな角の生えた妖怪はよろめきながら立ち上がると、三者の顔を睨みつけた。口元にはニヤついた笑みを浮かべている。

 

「我はいずれ世界を裏返す者」

 

 掌を天に向け、血が出そうなほど強く握る。

 

「クク、次会ったらその腑抜け面、引き裂いてやるからな……!」

 

 そして自身を容易く捕らえた憎き人間の面に対し、穿つように人差し指を向けた。

 

 カンザトは気圧され、ごくりと唾を飲んだ。台詞だけ聞くと三下なのだが、声音と全身から迸る気迫がただの野良妖怪ではなかった。

 

 

 

 謎の妖怪に因縁をつけられた……

 

 

 

「!?」

 

 

 

 我は汝…汝は我…

 

 汝、新たなる絆を見出したり…

 

 絆は即ち、まことを知る一歩なり。

 

 汝、『悪魔』のペルソナを生み出せし時、

 

 我ら、更なる力の祝福を与えん…

 

 

 

 ……………

 

 

 非常に恐ろしいことを吐き捨てると、妖怪は走り去っていった。

 

「変なのに目つけられちゃったね」

 

「怖い……」

 

「まぁ、ご大層に嘯いておったが、この程度反撃できない時点で無理じゃろ」

 

 いや、反撃出来なかったのは自分も同じだ。逃げて助かったのは、むしろこちらの方かもしれない。

 

「…………」

 

 迷いと不甲斐なさに苛まれ、カンザトは俯いた。

 

 まただ、また迷っている。

 芳香と戦った時、布都と手合わせをした時、さらには酉の市の火災を鎮静させる時、自分は迷ってばかりいる。

 

「カンザト……」

 

 こころの心配そうな声は耳に届かなかった。

 布都から力を持て余して危なっかしいと言われたが、ぐうの音も出ない。そこいらの野良妖怪なら一捻り出来る力を持ちながら、本人は矛先を定められずにいる。

 

(地底に行ったら……)

 

 カンザトは、迫り来る血濡れの未来が恐ろしかった。

 

「ほれ、あんな雑魚は気にせず早う進むぞ! 野宿はまっぴらごめんだ!」

 

 カンザトの鬱屈した胸の内を知ってか知らずか、布都は一層調子よく声を出して、旅の再会を促した。

 

 が、すぐにその歩みは止められる。

 

「布都さん?」

 

「……なんだあれは」

 

 視線の奥、記憶にあるどの生物の形態にも当てはまらない大柄な異形が佇んでいた。

 一目で分かる硬質な青紫色の何かを守るようにして、極大の翼に近い物体が浮いている。

 

「え……?」

 

 それは、異変の予兆。

 

「また変なのがいる」

 

 波及する歪み。

 

「今度はどう見ても人間じゃないな」

 

 平穏が鎌首をもたげる。




これで全コミュ解放です。ここからガンガン上げていきたい。

●解放されたコミュ
『悪魔』鬼人正邪:ランク1

ペルソナ〜トリニティ・ソウル〜は

  • 全話視聴済
  • 途中まで視聴
  • 未視聴
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