PERSONA-trinity heart-   作:善い思考

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能力(ちから)の行く先

 カンザトがいなくなってから、こころは異形をその場に留めるためヒット&アウェイに徹していた。木々はペルソナの斬撃によりなぎ倒され、太陽の下、異形の全貌をしかと把握できた。

 薙刀を振るう彼女の胸中に渦巻く感情は、「悔しさ」だった。

 なぜならこころは、宗教戦争にて歴戦の猛者たちと互角に渡り合った己を、かなりの実力者だと自負していた。カンザトに負傷者を連れて行かせたあとは、この敵と戦い、あわよくば……

 

 

 

『こころ大丈夫かな……ハラハラ』

 

『ただいま』

 

『こころ! アイツは!?』

 

『聞いて驚け。私が倒した』

 

『マジで!? スゲェ!』

 

『いぇーい。楽勝だったもん』

 

『つえー!』

 

『ぐぬぬー我の負けじゃー。これからは師匠と呼ばせてくれー』

 

『むふふ。くるしゅうないぞ〜』

 

『すごいすごい!』

 

『そうでしょうそうでしょう』

 

『すごいすごいすごいすごい!』

 

『わははははは┗=͟͟͞͞( ˙∀˙)=͟͟͞͞┛』

 

『すごいすごいすごいすごいすご(ry』

 

 

 

 ……的な展開を妄想していたのだが、現実はそう上手くいかなかった。

 というのも、しばらく戦闘を続けて、こころはひとつの変化に気づく。

 

(速くなってる)

 

 最初は自分の動きについてこれず防戦一方だった異形が、だんだんと攻撃を回避することが増えているのだ。

 一向に口は開かないが、学習する知能があるのか、もしや本気を出していなかったというのか。

 どちらにせよ長期戦になると戦況が悪くなるやもしれない。倒すなら早めに片をつけるべきだ。

 

 しかし、腕のような機構が盾の役割を果たし、己の斬撃は決定打にならない。

 ならば狙うは、二足直立する人型を思わせる中心の部位。どこが核なのかは不明だが、頭部を潰すか、胴体を真っ二つにでもしてやれば甚大なダメージを与えられることだろう。

 そのように攻め口を定めたこころは、空中に複数の能面を出現させると、異形めがけて突進させた。

 

(この程度、無意味か)

 

 予想通り容易に防がれ、芯には届かない。殺傷力のないお面とはいえ霊気を纏った重い突撃であるはずなのだが、奴の重心は揺るがない。

 しかし当然、こころはそれを見越していた。

 

 面の突進で気を引いているうちに、自身は背後に回り込む。

 そして中心の人型──本体めがけて、得物を横薙ぎにする。

 

(通る)

 

 確信を胸に、切っ先を異形の腰部分へと振るう。

 

 ──だが

 

「!?」

 

 視界が乱暴に揺れ、体を何かに押される感覚。

 異変に気づいた時には遅かった。

 

(誘われた……!?)

 

 赤紫色の掌が、首から下を鷲掴みにしていた。

 見ると、腕のような部位の片方が、本体との接合部から外れていた。

 

 切り離せたのか。

 表情を変えずに、心の中で歯噛みする。

 

 すぐに逃げ出そうともがくも、異形の握力は増していく。

 

「あ……ぅぁ……っ!!」

 

 華奢な体にかかる圧が強くなっていき、骨が軋む。

 苦痛に悶える今の自分は、とても珍しく感情的かもしれない。

 このままでは握り潰されてしまう。

 こころは内側から霊気を放出し、青白い炎を纏った。次いで、出現させたままにしていた能面を掌に激突させた。

 

(今だ……)

 

 衝撃で異形の力が緩む。

 その隙を見逃さず、こころは拘束から抜け出した。

 

 が、それすら見越していたかのように反対の掌から衝撃波が発され、こころの肉体を襲った。

 体を捻って避けようとするも、痛みに叫ぶ体では反応が間に合わず、直撃してしまった。

 

「あぁ……っ!」

 

 咄嗟に新たな面を出現させて防壁にしたが、その程度で勢いを殺せるはずもなく、こころは数メートル弾き飛ばされてしまった。軽い体が宙を舞い、雪にまみれながら地面を転がる。

 

「ぅ……」

 

 手痛い一撃を食らってしまった。痛みに堪えて立ち上がる。

 そこへ間髪入れずに衝撃波が放射され、こころは再び地面に転がった。

 今度はこちらが防戦一方だ。どうにかして反撃に出るか、逃走を図るべきだろう。

 頭の中では不利な戦況を冷静に分析していたが、地に手をつけるこころは、自身の体が震えていることに気がついた。

 

(これは……)

 

 こころは自分のことながら、強い感情の芽生えに驚いた。

 

 それは平穏な日常ではまず味わうことのないネガティブな感情──『恐怖』だった。

 

 それは生き方を変えるきっかけになった、かつての宗教戦争においても感じることはなかったものだ。

 恐れているのは異形か、迫り来る死に対してか、それとも。

 

 私は死ぬのか。付喪神として生を受けてから、明確に死を意識したことはないけれど、おそらくこのままでは──

 

「だめ……」

 

 まだ終われない。私の目標も、彼の目的も、何一つ達成出来ていない。それじゃ私は何のために……

 

 こころは恐怖を紛らわすかのように、コートの襟を握りしめた。色とりどりの楽しい思い出が蘇り、己に勇気を与えてくれるようだった。

 

「……」

 

 起死回生の策はある。

 奴に知能があるなら、感情を持っている可能性がある。つまり、自分の能力なら奴の感情を乱し、無理やり隙をつくりだすことが出来る。

 

 だが、こころは能力の使用を躊躇っていた。

 それは暴走状態に陥った過ちによるものだったが──

 

 いや、躊躇っている場合ではない。やらなきゃやられる。

 

 こころは意識を集中させ、異形の兜に似た顔面を注視した。

 

 此の先天は、我を懊悩煩悶させる。

 世人を狂わせ、希望の星を隠す災い。

 (しか)し我々を我々たらしめる。

 ならば此の力、転禍為福(てんかいふく)

 甘受し、心の暗黒を照らそう。

 無用の長物か、天賦の才か、其れは此度定む。

 (かつ)て悔いた能力(ちから)、今一度行使する。

 

 

 

 憑依──

 

 

 

 ……

 

 

 

俺は……死んだのか?

 

『──』

 

俺には、君の願いを叶える力は無い。それでも、俺の願いを叶えてくれるのか?

 

『──』

 

……別れを言いたい相手がいる

 

 

 

 ……

 

 

 

「…………!!!」

 

 こころは目を見開き、呆然とした。

 

(なに、今の)

 

 異形の感情を読み取ろうとすると、謎のビジョンが頭の中に映し出された。

 

 長身の男と、赤いドレスの少女が会話していた。

 

 それと一緒に流れ込んできた、悲痛な感情。

 

「寂しいの……?」

 

 返事は無いが、異形はピタリと攻撃の手を止め、森と一体化したかのようにその場で佇んでいた。

 

(どういうこと……)

 

 困惑する彼女を我に返らせたのは、徐々に近づく雪を踏みしめる音だった。

 そして感じる、とても身近な魂の鼓動。

 それは、この場にいるはずのない者。

 

「こころ……っ!」

 

「なんで……」

 

 息を切らしたカンザトが駆け寄ってきた。

 

「大丈夫か!?」

 

「えぇ、なんとか」

 

 助けに来てくれて嬉しい気持ちと、不甲斐なさが溢れ出した。

 

「布都さんは安全な場所に寝かしてきたから、こころも一緒に逃げよう」

 

「それは……難しいと思う。アイツは私たちと違って直進して追いかけてくるし、思っていたよりも素早かった」

 

 二人だけなら逃げられる。対峙してみて、その考えは甘かったと感じた。

 奴の遠距離攻撃の射程を考えると、身を隠し闇から不意打ちを仕掛けてくる危険性がある。むしろ、明るみに全身を視認している今の方が好都合とも言える。

 

「だから、ここで倒す」

 

 今の姿を誰かに見られれば、先ほどまで手酷くやられていたのに、どの口が言うのかと揶揄されることだろう。

 それでも私がやらなければと、こころは己を奮い立たせ、薙刀の柄を握り直した。

 

「俺も戦う」

 

 カンザトはこころの横に並び立つ。

 

「足でまといかもしれないけど、こころを一人にしたくない」

 

 カンザトはここまで、「こころを失いたくない」という自己都合で走った来た。それは恐れを燃やし、勇気をみなぎらせるに充分な望みだった。

 

「俺のペルソナは……仲間を、こころを守るために使う」

 

 迷いを帯びた力は、時として悪戯に他者を傷つける凶器となる。カンザトはこころの言葉を胸に、もう一人の自分(ペルソナ)を己が信じる様に使うことを決断した。

 

「……そう。心強いわ」

 

 こころは、彼の心境のわずかな変化に気がついた。抱えた不安を乗り越えた先の、優しさゆえの強さを、彼の横顔から感じ取った。

 ならば、拒否しては無粋というものだ。

 

 士気の向上をもみ消すかのように、二人のいる位置へ衝撃波が迸る。

 カンザトはセイリュウに身を守らせると、すかさず全体中回復(メディラマ)で自身とこころの傷を癒した。

 

「くっ……こころ! 動ける!?」

 

「大丈夫。ありがとう」

 

「どう戦えば……」

 

「アレは遠くから攻撃しても衝撃波で吹き飛ばしてくるし、真正面から戦っても押し負ける可能性が高い。だから、隙を狙う」

 

 何の捻りもない単純な案だが、敵の情報が少ないため致し方ない。

 

「どちらかが動きを抑えて、その隙にもう一人が攻撃しましょう」

 

「分かった」

 

「でもひとつ問題があって、アイツの腕は硬いから、おそらく本体を狙わないと仕留め切れない。そうなると懐に潜り込む必要があるんだけど……」

 

「それは危険だな」

 

「ええ。それに本体を狙ったとて攻撃が通るかは分からない」

 

 それを聞いてカンザトは、ひとつ策を思いついた。

 堅牢な敵の牙城を崩す方法……人によっては反則技だと言いそうな魔法を、ペルソナは持っている。

 

「俺、前にペルソナは色んな技を使えるって言ったよな」

 

「うん」

 

「あの硬さは俺のペルソナならなんとか出来るかもしれない。だから俺が抑えてるうちに、こころは攻撃を頼む」

 

「なるほど……了解」

 

 奴がこちらの会話を聞いているかは不明だが、念のため手の内が割れることを警戒して言葉を濁した。そのため不確かな物言いになってしまったのだが、こころは迷いなく了承した。

 

「カンザト」

 

 こころが自身を護るセイリュウの鱗に触れる。

 彼の強さが、温もりが、(ペルソナ)を通して伝わってくる気がした。

 

「頼りにしてる」

 

 芽生えた恐怖は消え、震えはとうに止まっていた。

 誰かに頼れる心強さを、こころはひしひしと感じていた。

 

「うん、俺もだ」

 

 戦況は未だ不利なまま。

 しかしなぜだろう、こころと目を合わせるカンザトの口元には、笑みが浮かんでいた。

 

 手始めに、カンザトは道教の武神『ナタタイシ』を追従させながら異形目掛けて走り、全体俊敏性強化(マハスクカジャ)により自身とこころの素早さを高めた。

 異形は突如速度を上げた害敵に驚く素振りを見せずに、掌を広げて衝撃波で迎撃する。

 当然うって来るだろうと予測していたカンザトは急停止し、横へ跳び衝撃波をかわした。素の状態では避けるのに苦労した攻撃も、身体能力を強化したおかげで危なげなく対処できる。

 

 少し距離が縮まったところで、ナタタイシを物理技『電光石火』により、拳の間合いまで急接近させた。技名通り稲妻のような速度でナタタイシの右拳が異形の本体目掛けて振るわれるも、こころの読み通り腕のような機構に受け止められ、金剛の如き拳打が狙い所へ当たることはなかった。

 

(やっぱ防がれるか……でも)

 

 そこまで近づけば、逆転の一手を外さない。

 位置をそのままに、カンザトはペルソナをナタタイシから太陽神『ミトラス』へ切り替えた。

 

防御力弱化(ラクンダ)

 

 目に見える変化がないため、命中したかは判別つかないが、これにより多少は攻撃が通りやすくなったはずだ。

 

「こころ! 今のうちに──」

 

 追撃を呼びかけようとして、ハッとした。

 魔法を当てることに集中して気づけなかったが、視界から異形の片腕がどこかへ消えたのだ。

 視線を周囲へ巡らせ、腕を見つけるよりも速く、強い風圧が肉体にかかった。だがそれは、体全体が軋むような、あの衝撃波ではない。攻撃されたと思しき方向へ顔を向けると、目と鼻の先まで接近していた異形の片腕が、蜘蛛の糸のような繊維に捕縛され、動きを止めていた。

 

『怒声の大蜘蛛面』

 

 カンザトを救ったのは、こころの土蜘蛛の面から吐き出された糸だった。網のように異形の腕を覆い、ずるずると自らの元へ引き寄せている。

 だが次の瞬間、捕らえられた腕の輪郭がぼやけたかと思うと、瞬く間に実体を消した。

 

「拘束も効かないか。小癪なヤツめ!」

 

「ありがとうこころ、助かった」

 

「アイツは腕を切り離せる。対処に気をつけて」

 

「了解。腕をしっかり見とかないとな」

 

 こころが土蜘蛛の面をしまいながら注意を促す。

 そんなお面持ってたのかと追求したいところだったが、今は目の前の敵に集中しなければならない。

 

「とりあえず魔法当てたから、多少は柔らかくなったはず」

 

「じゃあ私が本体をやるから、カンザトは」

 

「アイツの動きを抑える、だろ」

 

「ええ、お願い」

 

 事前準備は完了した。あとは当初の作戦通り、カンザトが前衛を、こころはフィニッシャーを務め奴を仕留める。俊敏性強化(スクカジャ)が効いている今のうちに、勝負を決めるべきだろう。

 

 カンザトは異形に向かって一直線に走り、巨象の怪物『ギリメカラ』を召喚すると、召喚者本人の何倍もの長さのあるサーベルを、敵の本体めがけて振り下ろした。

 対して異形は、ガキン! と金属音を鳴らしながら、ギリメカラの剛腕から繰り出される重い剣撃を難なく受け止めた。本当に術が効いているのか疑わしくなる硬さだが、ともかく狙いは本体だ。

 

(このまま押さえつけて……)

 

 すると自由な方の腕から、負けじと衝撃波が放出された。

 至近距離の衝撃波に強い危機感を覚えたカンザトは、ギリメカラに防御を命じる。

 しかし衝撃の波がカンザトを覆う刹那、間に若女の面が割り込んできた。

 

『憂嘆の長壁面』

 

 若女の面が増殖し、攻撃を退ける障壁となった。

 おかげでギリメカラは力を緩めることなく、腕を押さえつける。

 

「こころ!」

 

 待ってましたと、こころがカンザトの背後から飛び出した。

 大きく振りかぶった薙刀が一閃。

 本体を真っ二つにした──かに思われたが、異形は腕を接合部から外して後退し、すんでのところで刃をかわした。弾みでギリメカラの押さえつける力が緩まる。そのままふわりと浮き上がり距離をとると、拘束から逃れた両腕を装着し直した。

 

「今の感じ! 攻めるぞ!」

 

 こころの号令に、カンザトは前へ前へと疾走して応える。

 初めての共闘のはずなのだが……なぜだろう、二人は互いに、相方の動きがなんとはなしに理解できた。

 今が攻めどきとばかりに、二人は一気呵成に突き進む。

 

「コイツならどうだ!」

 

 カンザトは異形の正面に立ちはだかると、多腕の巨人『ヘカトンケイル』を顕現させ、異形に掴みかかった。

 異形は再び掌を開き、衝撃波で対抗しようとする。

 

「何度も食らうかよ……!」

 

 だが開き切るより早く、ヘカトンケイルの多腕が掌を展開する前の状態に押さえ込んだ。

 先ほどはギリギリで逃がしたが、本体ごと捕まえた今こそ最大の好機。

 こころが猛然と跳躍する。

 

 今度こそ、逃がさない──

 

 こころは両手に意志をのせて、霊力の込められた薙刀を上段から振り下ろす。

 

 異形は逃げようともがくことなく……

 

 全身から妖しい光を発し、力を放出した。

 

「なっ……!?」

 

 カンザトが気づいた時には、後ろに吹き飛ばされていた。何が起きたのかは理解できた。だが反応は出来なかった。

 

(暴発させた!)

 

 閉じたままの掌から衝撃波を放出し、自分ごと爆発させたのだ。生身の人間には到底真似出来ない、硬質な肉体をもつ異形だからこそ出来る、苦し紛れの行動。

 だが今の二人にとっては、チャンスがピンチに裏返った瞬間だった。

 

「こころ! 逃げろっ!!」

 

 攻撃し損ね、無防備な状態で空中に放り出されたこころのすぐ近くには、自由を取り戻した両腕がある。

 

「うおぉ!!!」

 

 カンザトは、ヒヒの姿をした月の神『トート』を呼び出し電撃魔法を撃とうとするが、そのような猶予はなく、掌がこころへ迫る。

 

 

 諦めてたまるか……! 

 

 

 

 ボッ

 

 

 

 刹那、爆発音を響かせ、異形の両腕が爆ぜた。

 

「どいておれ! 面霊気!」

 

 その声を聞き、空中で体勢を持ち直したこころは高く浮き上がった。

 

 

 炎符『太乙真火』

 

 

 次々に立ち昇る火柱が異形を囲ったかと思うと、凄まじい爆発音を轟かせて大爆発を引き起こした。

 

「あ……!」

 

 視線の先、髪をたなびかせ、未だ決着のつかぬ戦場に威風堂々と参戦したのは──

 

「我が足でまといなど……到底耐えられぬわ!」

 

 襲撃者への報復を誓い、闘志をみなぎらせた物部布都だった。




技名は文章の演出上書いてるだけで、実際は言ってません。スペルカードルールじゃないから宣言する必要ないので。血〇戦線とか〇面〇イダーゼ〇ワンみたいな技名が字幕で出るあれです。

ペルソナ〜トリニティ・ソウル〜は

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