PERSONA-trinity heart-   作:善い思考

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辿る仙道 彼の地へ導く我が使命

 扉を開くと、木造の玄関ポーチに彼女は居た。カンザトからは背中しか見えないが、何をするでもなく夕暮れ時の森を眺めるその立ち姿は、たしかに『たそがれている』という表現が適切かもしれない。

 

「布都さん」

 

 音でこちらの存在に気づきそうなものだが、振り向く様子を見せない布都に少々戸惑いながらも、カンザトは思い切って声をかけた。

 

「……お、おぉ弟子よ。起きたか。身体はなんともなさそうだな」

 

「布都さんも元気そうで良かったです」

 

「うぅむ。我は見ての通り、すこぶる壮健である」

 

 見ると、服に軽く土汚れがついている程度だ。

 自ら言う通り元気そうな姿を直に見て、カンザトは安堵した。

 

「……んー、まぁなんだ。先はなんとも難儀であったな。我も本気でやり合うなど久しかったからのう、なかなかに苦戦してしまったわ。されども、我らはこうして五体満足で生きておる。これはまさしくひたむきな修行の成果であり……ああいや、今はそんなことより旅程を練り直すことが先決か──」

 

「……?」

 

 気のせいでなければ、布都がいつもより挙動不審に見える。普段から動きの多い彼女だが、今は目線が宙を彷徨い、つくられたぎこちない笑みを浮かべながら早口に喋っている。

 

「魔理沙とアリスさんがご飯を作ってくれてるみたいですよ。とりあえず食べませんか?」

 

「へっ? ごはん……? お、おぅそうじゃな! 頭を使う前に、まずは腹ごしらえといくか!」

 

 そわそわしている布都に疑問を覚えながらも、目覚めた時から抱えていた思いを伝えることにした。

 

「あの、布都さん」

 

「……なんだ?」

 

 ささやかな緊張感を覚えつつ、切り出す。

 

「すみませんでした」

 

「……は?」

 

 布都の顔から笑みが失せた。

 

「こんなに大変なことになるなんて思ってませんでした。森に……というか、里の外にあんな危険なのが居るなんて知らなかったんです」

 

 事前情報から、目的地である地底世界は十分に警戒していた。ところが、大いなる試練は道中に待ち受けていた。

 

「無理言って付いてきてもらったのも、こんな命懸けになるなんて思ってなかったからです」

 

 此度臨む旅は命をかけるほどではない。その認識は甘かったと、先の死闘で思い知った。

 

「だから……その、すみませんでした。俺の問題なのに、来たくなかった布都さんを巻き込んで、危険な目に合わせて」

 

 彼女の同行には心から感謝している。

 同時に、昏倒する布都を抱き逃げ出した時、決闘の勝敗による決めごととはいえ、嫌がる彼女を無理に連れてきたことを悔いた。

 そして、自身より格上の布都を一撃で伸した異形と、これからの旅路に恐れを抱いた。

 

「つい、なんとかなるって……きっと無事に帰ってこられるって思ったんです」

 

 言い訳だと理解しつつも、弁解せずにはいられなかった。今なら、いくら能天気と言われても反論できないだろう。

 

「助けてくれてありがとうございました。でも、俺が思っているより、この旅は危険かもしれない」

 

「……」

 

 布都は惑いを隠せなかった。

 失態を誤魔化すのに必死で、カンザトがこれほど責任を感じているなど思ってもみなかったからだ。

 不安げながらも目を逸らさず見つめてくる彼の顔を見つめ返せない。

 

 謝りたいのは、むしろ──

 

「ここから先は──」

 

「や、やめろ……!」

 

「え……」

 

 頭の中がぐちゃぐちゃになり、声が震えた。

 

「謝るな! お主が謝るでない!」

 

 この男に謝られると、自分は立つ瀬がない。

 高を括り、慢心していたのはこちらだ。屠自古へ言ったように己は高みの見物を決め込み、痛い目を見るなら自分以外だと考えていた。

 

 それがどうだ。

 

 門弟の手本となる立場にありながら自分は真っ先に倒れ、傷を治してもらい、逃がされた。

 その事実のなんと悔しく、情けないことか。

 

「我は自らの意思でこの旅に同行し、アレと戦ったのだ。そこに迷いなどあろうはずも無い!」

 

 嘘だ。この旅には嫌々ついてきた。

 それどころか、敵にしてやられ寒空の下放置された状態で目覚めた時は、二人を置いて帰ってやろうとさえ思った。一方的にやられた屈辱はあれど、師匠としてのプライドや義務など、命に比べれば軽いものだった。

 それでも、そんな自分を引き止めたのは──

 

 

『布都、彼を頼みますよ』

 

 

 心から崇敬する、師の御詞。

 あの御方に失望されたくない。

 その一心で森を翔び、異形との再戦に挑んだ。

 もし弟子を放置し、一人でのこのこ逃げ帰ろうものなら、それは疑いようもなく師の期待を裏切る所業だ。その時の自分はきっと、慙愧(ざんき)に堪えないだろう。

 

「お主は何も悪くない! だからその情けない顔をやめろ!」

 

 だが布都は、自身を突き動かしたもう一つの契機に気がついていなかった。

 

「お主はよく働き、見事怪物の首を討ち取った……それで良いではないか! 我への負い目など捨て置け!」

 

 それは、冷えた手を温めるマジックアイテムの炎気。不確かで茫漠な、それでいて悪い気はしない、仲間との繋がりだった。

 

「あまり、見くびってくれるな……」

 

 布都はカンザトを睨む。目尻には微かに涙が浮かんでいた。

 弟子の心遣いを感じながらも素直にものを言えず、不遜な態度をとってしまうのは彼女の悪癖か、それとも一周回って愛嬌か。

 

「すみません……?」

 

 彼女の動揺するワケが分からず、カンザトは曖昧に謝った。

 

「面霊気にも同じことを言ったのか?」

 

「あ……言ってません」

 

 カンザトはここで初めて、『きっとこころは何を言わずとも同行してくれるだろう』と思い込んでいたことに気がついた。

 

「あとで言います」

 

 こころも自分の頼みに応え、同行してくれているのだ。しっかりと伝えるべきだろう。問答無用でこの旅に「命をかけろ」など、取引として誠意を欠いている。

 

「いい。言わんでいい」

 

「いや、そういうわけには」

 

「お主がいくら遠慮したところで、あ奴はついてくるだろう。普段の態度を見ていれば分かるわ」

 

「そう、ですかね」

 

「どうして当の本人が分かっとらんのだ。変なところで鈍いのう」

 

「……」

 

「お主はもっと欲張らんかい! 太子様に十の欲を見ていただくかぁ?」

 

「欲張るって……」

 

「ほれ、我に言ってみい。『僕には師匠のお力が必要です、どうか着いてきてください』とな」

 

「えぇ、それはちょっと…………着いて来てくれるんですか?」

 

「だからそう言っとる。もう腑抜けたことをぬかすでないぞ」

 

 一度難局に直面し、二度地に伏せ、ついに覚悟は決まった。

 

 我が師は、民草を教え導く聖徳導士である。

 なれば、聖徳王の近衛兵たる我こそが迷える一行を地底世界へと導き、ひいては主に誇れる己を取り戻さん。

 

 それこそが、物部導士の掲げる旅の本懐である。

 

「布都さん」

 

「ん?」

 

「ありがとうございます。布都さんが来てくれるなら俺、まだ頑張れそうです」

 

「……ふん、お主が我を案ずるなど千四百年は早いわ!」

 

 

 

 困難を共に乗り越え、布都との絆が深まった……

 

 

 

「中、入りますか」

 

「うむ、我は空腹じゃ」

 

 布都は、己の弱さをひた隠す。

 己の言葉を信じてくれた仲間を欺く自分自身から、目を背ける。

 

 二人はいつまで、我を信じるだろうか。

 我はいつまで、“ 頼りになる師匠 ”の仮面を被っていられるだろうか。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 夕飯は旬の食材を使った鍋料理だった。5人で食卓を囲み、ひとつの鍋をつつく。

 

「やっぱ冬は鍋だよな」

 

「ほれ、遠慮するな。食え食え」

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

「お前はもっと遠慮しろよ」

 

 カンザトの皿を取り上げ、鍋の具をよそう布都。先輩風を吹かせたいのだろうか。

 我が物顔に振る舞う客人に、家主である魔理沙は苦笑した。

 

「布都、私も」

 

「む……しようがないのう」

 

 微妙な間を空けて、布都はこころの取り皿にも具をよそった。今の間は弟子でもない者に善くすべきか悩んでいた時間なのだろう。

 

「お味はどう?」

 

「美味しいです」

 

「よかったー。あんまり人に作ることないから、ちょっと心配だったのよね」

 

「すごく美味いぞ! マーガトロイドさん!」

 

「ふふ、いっぱい食べてね。自分の作った料理で喜んでもらえるっていいわねぇ」

 

 カンザトとこころが喜ぶ様子に、アリスは慈愛に満ちた笑みを見せた。

 

「母親みたいなこと言ってら。てか私も作ったんだが」

 

「細かいこと気にしないの」

 

「えぇ……」

 

 二人は魔法の森で一人暮らししているため、比較的料理は得意なのだろう。温かい食事でもてなされ、一行は身体の芯から温まるようだった。

 

「そういえば布都さん、魔理沙と知り合いなんですね」

 

「んむ? えうにああよくはあいお」

 

「飲み込んでから喋れ〜」

 

 やり取りを見るに特段仲が良いわけではなさそうだが、それなりに見知った間柄だと伺える。

 

「別に仲良いわけじゃないけどな。前会ったのも夏頃だし」

 

「むぐぐむぐむぐ」

 

「幻想郷に来たばっかで調子乗ってたコイツをシメたのはだいぶ前だな」

 

「んぐ!?」

 

 驚いた布都は盛大にむせた。

 慌ててカンザトが水を差し出す。

 

「最近どーよ、お前んとこの親玉は。元気か?」

 

「ゲホッゲホッ……な、なんと無礼な……!」

 

「ちょっとぉ、食事時ぐらい静かにしてよね」

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 空になった鍋を片付けたあとは、ドライフルーツのデザートが運ばれてきた。実に豪勢だが、複数人の来客は久しいため、張り切って腕によりをかけた結果なのかもしれない。

 

「これからどうすんだ?」

 

「うーん、地底に行くのは変わんないけど……」

 

 カンザトはチラリと窓の外を見る。既に日は落ち、魔法の森の木々は夜闇に溶け込んでいた。

 

「あのですね、非常に申し訳ないんですが」

 

「お、おう。どうした?」

 

「一日だけ泊めていただけないでしょうか」

 

 今から野宿は勘弁して欲しい。その思いでカンザトは頼み込む。

 

「なんだ、変に身構えちまった。頼まれなくてもそのつもりだったから安心しろ。あんなのがいる森に放り出すほど私は薄情じゃないからな」

 

「そうねぇ、私たちが知らないぐらい珍しい生き物か、新参者の妖怪なのかもしれないけど、貴方たちが遭遇した一体だけとは限らないものね」

 

「うっ、たしかに……」

 

 一体すら苦戦したのに、複数に襲われたら果たしてどうなってしまうのか。

 自身を苦しめた化け物が列を成して突撃してくる地獄絵図を想像して、布都はつい先ほど決めた覚悟が早くも揺らぎそうになった。

 同じく痛い目を見たカンザトも、渋い表情になる。

 

「声を発さないのがなんとも不気味よね。もしかして操ってる術者がいて、どこかから遠隔操作してたり?」

 

「アリスの人形ともろ同じじゃん。なーんだ、犯人は案外近くにいたんだな」

 

「針串刺しにされたいみたいね」

 

「すみませんでした」

 

 操り主が潜んでいる可能性は思い浮かばなかった。

 魔術に造詣が深い者がいると自分たちには無い視点から意見が出るので、カンザトは感心した。

 

「ここらへんに住んでて、デカい魔造生物を操れるぐらいの魔力量がある誰か……なるほど、真犯人はパチュリーか」

 

「思いつきで知り合いに罪を着せるのはやめなさい」

 

「アイツなら研究の一環でやりそうじゃね?」

 

「流石にそんな危険なことは…………いや、彼女、基本的に外でたがらないから、自分の代わりにソレを動かして活動していた可能性はある……?」

 

 魔理沙の突飛な推理により、見知らぬ誰かさんが犯人に仕立て上げられそうになっている。

 

「わたし……」

 

 不意に口を開いたこころへ、皆の視線が集まる。

 

「あの生き物の感情を操ろうとしたの」

 

「感情を?」

 

 こころの能力を知らないアリスは疑問符を浮かべた。

 

「どうだった?」

 

 魔理沙は話の続きを促す。

 皆の注目を浴びるこころは、ひと呼吸おいてから自信なさげに呟いた。

 

「出来なかった。だけど、なんだか寂しそうだった」

 

「はぁ……?」

 

「寂しい……?」

 

 予想外の答えに、布都と魔理沙は眉をひそめた。

 カンザトとアリスは小首を傾げる。

 

「やっぱアイツじゃね? いっつも図書館にこもりっきりで寂しいんだよ、実は」

 

「えぇー、そうかなぁ。そんな風には見えないけど」

 

 引きこもりらしい誰かさんの容疑者疑惑が強まっていく。このままでは本当にとっ捕まえられそうだ。

 

「あと……何かが見えた。大きい男の人と女の子が喋ってた」

 

「お主、あたまでも打ったか?」

 

 真面目な話に水を差すなと、こころは布都の顔をジッと見つめて圧をかけた。

 

「アレの頭ん中を覗いたってことか? お前そんなことまで出来んの?」

 

「出来ない……はず。初めてのことだったから、私自身混乱してる」

 

 当人以外はその感覚を理解できないため、原理を説明することは不可能だが、他人の脳内を覗き見る行為はこころの能力の範疇外なのだろう。

 

「その2人はどんな格好してた?」

 

 アリスが詳細を訊く。

 

「……女の子は、赤いドレスを着てた。男の人は……」

 

 言いかけて、何かに気づいたこころは顔を上げた。

 

「私が男の人視点になってたから、分からない」

 

「おいおい、そりゃおかしな話だぜ。ならなんで大きいって分かったんだよ」

 

「目線が高かったから。女の子を見下ろしてたの」

 

 つまり、こころは能力の発動によりその男性の記憶を追体験したということだろうか。なんとも奇妙な話だ。

 

「女の子の格好をもっと詳しく思い出せない? 幻想郷の住人なら、私たちで分かるかも」

 

「一瞬だったから曖昧だけど……こう、膝下まであるドレス着てて、髪も赤くて……」

 

 カンザトはその容姿を聞き、何か引っかかるものがあった。

 

 赤いドレスを着た、赤毛の少女。

 

 なんだか覚えがあるような──

 

「あっ!!」

 

「うぎゃあ!」

 

「うおっ」

 

 記憶を遡り、思い出した。

 思わず声を出すと、横から悲鳴が聞こえた。

 

「お、おぉお主〜! 脅かすでないぃ〜!」

 

「す、すみません。痛い、痛いです」

 

 涙目の布都がポコポコと殴ってくる。こころの持ち出した奇妙な話が怖かったのだろうか。

 

「突然どうした?」

 

「その女の子、俺も見たかもしれない」

 

「マジか! どこで?」

 

「えっと、酉の市のちょっと前に神社の雪かき手伝ったじゃん。あの帰りに」

 

「あー、そういえばキョンシーと会うために墓地に侵入したんだっけ。あそこでか」

 

「こころ。その女の子、目元が青くなかった?」

 

「ん……そう言われればそう、かも」

 

 点と点が繋がった。

 芳香の様子を見に赴いた共同墓地にて遭遇した幽霊(?)は、おそらくこころの見たビジョンに登場した少女と同一人物だ。

 

「ということはつまり?」

 

「……えーっと」

 

 だからどうしたという話である。それだけで判明する真実は無い。点と点を結んだ線は、その先どこへも繋がらなかった。

 

「こころが見た映像が異形(あいつ)の頭の中だとしたら……」

 

「それは怪物の記憶、もしくは術者の記憶で、その中に出てきた赤い少女は怪物か術者と関わりある人物……ってとこかしら」

 

「何奴だ? その女は」

 

「そんな時間に墓場にいたってことは命蓮寺の連中かもな」

 

「どうかしらねぇ。お坊さんは明日に備えて寝る時間帯じゃないの? ただの野良妖怪って方がありうる気がするけど」

 

 カンザトはあの日の情景を思い返す。

 野良妖怪にしては()()()()()という存在感が薄かったように感じる。こころが気配すら感じていなかった点も気になる。

 

「カンザトさん、その女の子は墓地で何してたの?」

 

「何をって言うか……突然目の前に現れて、なにか言って消えました」

 

「そこんとこ詳しく」

 

「たしか……誰かを倒して、私を解放して欲しい、的なことを言ってた気がする。あと多分、俺のことを知ってた」

 

 あの夜の恐怖体験は脳髄の奥底に封印していたが、よくよく考えると、少女の発言は気になることばかりだ。

 

「そこに封印されているのか?」

 

「お前らと同じだな」

 

「ぐぬ、あれは寺の連中の小狡い謀略で……」

 

「これは単なる想像だし、推理でもなんでもないけど」

 

 二人の小競り合いを無視して、アリスが発言する。

 

「墓地にいてすぐ姿を消したなら、その女の子は実体のない亡霊かもしれない」

 

 カンザトは顔を強ばらせる。

 なんとなく予想はしていたが、第三者の見解により、お化けにロックオンされた説が濃くなった。

 

「亡霊は生前によって性質が違う……と言われているわ。仮にその娘が生前の記憶のせいで墓地に縛り付けられた霊、いわゆる地縛霊なら、カンザトさんに何かを成して欲しいと願ったのも頷ける」

 

「あー、私を解放して欲しいってのはそういうことか。成仏したいんかな」

 

「そして、少女と関係のありそうな青い怪物。ちょっと飛躍しちゃうけど、その怪物こそが赤い少女の倒して欲しい相手だったんじゃないかしら」

 

「てことは、お前らは少女に導かれ……たかは分からんけど、たまたま森に入った結果、たまたま出会った因縁の相手を倒してたってことになるわけか」

 

「知らないうちに憑かれて、怨みを晴らすために動かされてたってこともあるかもねぇ」

 

 ティーカップに口をつけながら、サラリと恐ろしいことを言うアリス。他人事だからこその冷静な態度なのか、永く生きた幻想郷の住人はその程度で動じないのか。

 

「弟子よ。我はなんだか薄ら寒くなってきたぞ」

 

「俺もです」

 

 青ざめた怖がり二人は揃って身震いした。

 カンザトはまだしも、布都の場合、身近にザ・幽霊と称しても差し支えない存在がいるのだが。

 

「でも……なんか、違う気がする」

 

 そこに異を唱える者がいた。

 あの時流れ込んできた感情は、他人への恨み辛みじゃない。純粋で、胸が締め付けられる、悲痛な『想い』だった。

 

「あの男の人も、会いたい人がいると願ってた。悪い人には思えない」

 

「問答無用で我らに襲いかかってきた奴が悪党でないとは思えぬのだが」

 

「誰かが森に来るのを待ってたってことですかね」

 

「会いたい人……ねぇ」

 

「赤い女の子に話してたってことは、その娘が会いたい人ってわけでもなさそうね」

 

 答えは出せず、場が静まり返る。

 色々と話し合ったが結局謎は謎のまま、現状は依然として五里霧中である。

 

「その2人のことが分かれば、進展しそうではあるけど」

 

「もう死んでんなら本人には確かめよう無いしなぁ……手っ取り早く幽々子か妖夢に聞いてみっか? 一番詳しいだろ、あいつら」

 

「うーん、推理段階でわざわざ会いに行くのもねぇ。どうせ宴会の時にでも現れるだろうから、その時に訊いてみてもいいかもね」

 

 魔理沙の知り合いには霊の専門家までいるらしい。霊媒師とかだろうか。

 

「ま、何はともあれまずは地底だろ。記憶が戻ればそいつらのことも分かるかもしれないし」

 

「しかし、あんなのがまだいるやもしれぬのか……」

 

 布都がため息をつく。

 もし再び遭遇するようなことがあれば、選ぶは逃げの一手だが、常に襲撃を恐れながらの旅は気が休まらないだろう。

 

「私が地底の入口まで護衛してやろうか? 格安で請け負うぜ」

 

「ほんと? お願いしようかな」

 

「それぐらいでお金とるんじゃないの。みみっちい」

 

「霧雨魔法店に身内びいきは適用されないぜ!」

 

「ではワタクシ、秦こころのプライベート能楽でどうにか」

 

「いらね」

 

「ガーン」

 

 やる気満々で立ち上がったこころの提案を、魔理沙はバッサリと断った。

 

「いや、ちゃんと払うよ。依頼だから」

 

「おお、話が分かるな。まいどあり!」

 

「カンザトさん、あんまり魔理沙に優しくするとつけ上がるから気をつけてね」

 

「へへへ、遠慮せずに優しくしてくれていいぞ」

 

 作戦会議と四方山話をしているうちに、夜は更けていく。しばらくしてアリスは自宅へ帰ったため*1、一行は明日に備えて早めに休むことにした。

 

「そういや寝るとこねぇわ」

 

「俺が寝てたベッドは?」

 

「あれ私の」

 

「え゛」

 

 カンザトは人のベッドでぐーすか眠りこけていたことを謝ってから、休息をとる。寝床が無いので、毛布を借りて床に寝転がることになった。*2

 

「……すぅ」

 

「たいしさまぁ〜……みぃててくだされぇ〜……ぐぅ」

 

 ソファへ横になり寝息をたてるこころと布都を横目に、思う。

 

 明日、絶対身体痛くなるな。

 

*1
カンザトとこころがかなり心配した

*2
自分こそが床で寝ると言うこころとの譲り合いの結果




●ランクupコミュ
『法王』物部布都:ランク4

ペルソナ〜トリニティ・ソウル〜は

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