3話にして幻想少女初登場です。
休憩を挟み、2人は目的地である博麗神社に向けて再び歩き始めた。青年にはまだ少し疲労感が残っていたが、いつまでも座っている訳にもいかないだろう。
道なりに進むと、木々が生い茂る森の中に道が続いていた。つい先ほど森の中から現れた妖怪に襲われたばかりなので進むのを躊躇ったが、勇気を振り絞り森の中へ歩を進める。
木々のざわめきを聞きながら、木の葉の隙間から差し込む陽の光が照らす道を行くと、目の前に石造の階段が見えてきた。石段の前に立ち上を見上げると、かなり長い石段であることが分かった。
「この石段を登った先が博麗神社だ。疲れているだろうけど頑張ってくれ」
そう言い霖之助が石段の一段目に片足を乗せる。青年は霖之助の言葉に多少ゲンナリしながらも、どうにか足を動かし階段を登り始めた。
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「──それで、先ほどキミが出したペルソナという存在についてだが……何か分かることは無いのかい? いつから使えたとか、どのような手段で出現するとか、アレ自体に意思はあるのか、とかね」
「うーん、それが何も分からないんですよね。使えるようになったのはさっきだと思うんですけど、突然体の中からブワーッと出てきて、俺がビックリしたぐらいで……」
「キミの体から出てきたのだから、やはりキミが使役していると思うんだが……そういえば、どうやって動かしていたんだ?」
「それもよく分からないんですけど、森近さんを助けたい!って思ったら勝手に突撃して行ったんですよ」
「助けたいと思ったら……か。推測だが、ペルソナはキミの意思が操作する、精神の一部が具現化した存在なのかもしれない」
「精神の一部?」
「ああ、先の戦闘でキミのソレは、妖怪の攻撃に対抗するため顕現し、キミの意思に即して行動した。そこから考えるに、半人半蛇は、悪意からキミを守るために精神の一部が具現化した姿なのではないか。いわば……身に纏う鎧だ」
「鎧……」
「それが先ほどは、『助けたい』という意思に呼応して敵を排除しようと行動し、矛となった……という考えはどうだろう」
「……声は、この世界を生き抜くための力と言いました。森近さんの言うとおり、ペルソナは鎧であって武器でもあるのかもしれません」
「まぁ、その『声』の言うことを鵜呑みにするなら、だけどね」
霖之助の考察力に感心しつつ登っていくと、石段の終わりが見えてきた。すでに足が悲鳴をあげているが、紆余曲折ありつつ、ついに博麗神社に到着した。
最後の一段を登り切り境内に足を踏み入れると、荘厳な雰囲気をまとった神社の本殿が姿を現した。参拝客は誰もいないようで、境内は静まり返っている。その静寂が神聖さを感じさせ、青年は異なる世界に来たかのような感覚に包まれた。
……まぁ、実際に異世界なのだが。
「やっと着いたね。お疲れ様。さて、霊夢はどこにいるかな」
霖之助は歩みを進め、青年は後をついていく。
ふと、青年は賽銭箱の前に誰かがいることに気づいた。
先ほど境内を見回した時は無人だったはずのその場所に、いつの間にか1人の少女がいた。
上着は青緑色のチェック柄、下は三日月型の穴が空いた薄桃色のバルーンスカートを履いている。髪は根元から先まで綺麗な桃色で、膝裏まである長髪がそよ風に吹かれ静かに揺れ動いている。また、頭には何かのお面をかけている。
だが、なにより目を惹かれたのは少女の顔立ちだった。非常に端正な目鼻口をしているのだが、まるで能面のように無表情で、髪と同じ桃色の瞳からはなんの感情も感じられない。その瞳はこちらを見ているようで、何も見ていないようだった。
青年の第一印象は、「すごい可愛い娘だけど、なんかちょっと怖い」であった。
その少女が、青年を真っ直ぐ見つめたまま近づいてくる。足が動いていないように見えるのは、気のせいだろうか。
不思議な魅力を孕んだ立ち姿に魅せられ、青年は一歩も動けずにいた。
「……」
少女が青年の目前で止まる。
少女は何も言葉を発さない。青年のことをジッと見つめ観察しているようだった。近くで見るとなおのこと分かる、『無』を体現したかのような表情に、その瞳に、青年は吸い込まれそうだった。
「あなた……」
十数秒の沈黙の後、ついに少女が口を開く。
「恋情を知ってる?」
唐突すぎるその問いの趣旨を理解出来ず、青年は直ぐに返答出来なかったが、脳を回転させどうにか口を動かす。
「し、らないと思う」
思考をめぐらせひねり出した返答はなんとも曖昧なものだった。
「…………本当にそうかな?」
「えっ」
「私を見つめるその顔!その表情! たしかに恋慕の念を感じたぞ。私には分かる」
「え、えーっと……?」
突然「私に恋してるだろ!分かってんだぞ!」と言われ、青年はただただ困惑するしか無かった。恋など、記憶を失っているのだから知るはずもない。
「……あれ? 何か間違えた? おかしいなぁ」
青年はギョッとした。
自分から話を振っておいて当惑する少女に、ではなく、少女の頭のお面が、まばたきをした瞬間に別のものに変化したのだ。直前まで被っていたはずのお面は何処にも見当たらない。
「ねぇ、あなた。誰か恋してる人に心当たりはない?」
不可解な現象を目の当たりにし混乱する青年をよそに、少女は質問を投げかける。
「ごめん……知らない」
「次の演目のために恋愛感情を学びたくて。貴方が私を情熱的に見つめてくるものだから、何か知ってるかなーと思ったんだけど」
「演目?」
「そう、我こそは感情を司る者、秦こころ! 今は博麗神社で能を披露させてもらってます」
ここまでの会話で青年は強烈な違和感を感じていた。会話中にコロコロと変化する面もそうだが、なによりも少女の表情と声色にだ。
表情は台詞に反して全くの無表情。眉をピクリとも動かさず、目や口の形はほぼ変化がない。声は抑揚が無く、語る内容と声色が一致せず無機質な印象を覚えた。ついでに、口調が安定しない。
そのチグハグさが、青年に違和感を覚えさせ、目の前の少女が人間では無いと直感させた。
「…………」
「おや? どうかしましたか?」
「い、いや……なんでもない。能って、能楽のことだよね。伝統芸能の」
「その通り! 能楽は私の得意分野。私は66種ある仮面を付け替えて変幻自在に演ずるのだ」
少女は誇らしげに語るが、やはり表情に変化は見られない。
「心の、仮面……」
仮面と言われ、つい先程の霖之助の言葉を思い出した。
「ん? なんですそれは?」
「あぁいや、なんでもな」
「もしかして、
「え?」
「教えて、そのお面のことを。私はより深く感情を学びたいの」
ずいっと前のめりになり迫ってくる少女に、青年はたしろぐ。とても押しが強い。
「も、森近さん」
たまらず霖之助に助けを求める……が。
いない。
先ほどまで前を歩いていたはずの頼れる古道具屋の店主は忽然と姿を消していた。つまり、誰かの助けは望めない。
「さあさあ、勿体ぶらずにその心の仮面とやらを出しなさい」
「えっと、心の仮面っていうのは……」
上手く伝えられるか心配ではあるが、観念して自分でも未だによく分かっていないモノについて話すことにした。
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「……なるほど。心の仮面というお面がある訳ではなく、貴方の精神の一部を力とする能力のことをそう呼称しただけ、と」
「うん。自分でもまだよく分かってないんだけど、ペルソナって名前らしいんだ」
「そう…………」
表情は変わらないが、なんとなく落胆しているのだろうと感じた。お面も心なしか悲しそうな顔をしている気がする。
「ごめん。力になれなかったみたいで」
「……いえ、心の力を具現化させるペルソナという能力、興味があるわ。それを私も習得できれば、より深く感情を理解出来るかもしれない。またお話、聞かせてね」
「え? まぁいいけど……」
「霊夢に用があるんでしょ? 母屋の方にいるから見に行くといいわ」
そう言い残し、少女はふわふわと浮きながら先ほど青年が登ってきた石段の方へ向かっていった。やはり、足が動いていないように見えたのは気のせいでは無かったようだ。
「またって……普段どこにいるんだろ」
無表情だが感情豊かな少女、秦こころはペルソナ能力について知りたいようだ……
「!」
我は汝…汝は我…
汝、新たなる絆を見出したり…
絆は即ち、まことを知る一歩なり。
汝、『星』のペルソナを生み出せし時、
我ら、更なる力の祝福を与えん…
……
……また、脳内に誰かの声が響いた。
この声は霖之助との会話中と、獣妖怪に襲われた時にも聞こえた。そして今は秦こころという少女との会話の後聞こえた。この声が何を伝えたいのかは未だ不明だが、ペルソナという能力と、時おり聞こえる誰かの声は間違いなく関係があると見ていいだろう。
青年はしばしその場に立ち尽くし、そのように思考していたが、少女の発言を思い出しハッとする。
霊夢は母屋の方にいる、と。
いつの間にか居なくなっていた霖之助もそちらに向かったのかもしれないと思い、青年は歩みを再開した。
こころちゃんの喋り方がよく分からないので、とりあえず口調を色々変えてみてます。
●解放されたコミュ
『星』秦 こころ:ランク1
ペルソナ〜トリニティ・ソウル〜は
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存在を知らない