PERSONA-trinity heart-   作:善い思考

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Decision

 秦こころと名乗る少女に言われた通り母屋の方に向かうと、男女の話し声が聞こえてきた。声が聞こえた方向に歩を進める。

 すると、玄関前と思われる場所で霖之助と赤い巫女服(?)の少女が親しげに話していた。

 

「──じゃあ、次はこれの修理をお願いするわ」

 

「おい霊夢、まだ今回のお代をいただいていないんだが?」

 

「え? まぁまぁいいじゃないの霖之助さん。今度何かお代替わりの物を持ってくから」

 

「あのなぁ、キミはいつもそうやって……ん?」

 

 霖之助は近づいてくる青年の存在に気づいたようだった。

 

「すみません、取り込み中でしたかね……」

 

「あーいや、大丈夫だよ。霊夢、彼がさっき話した……」

 

 霖之助と話していた少女がこちらを向く。

 

「こんにちは、ここを管理している博麗霊夢といいます。霖之助さんからだいたいの話は聞きました」

 

「あ、はい……」

 

 青年は驚愕した。

 霖之助から聞いていた情報から、威厳溢れる麗人を想像していたのだが、どう見ても目の前の人物は未成年の少女、それに普通の人間だったからだ。人は見かけで判断してはいけないと理解しつつも、意外に思わずにはいられなかった。

 

「どうかしました?」

 

「いや、なんでもない……です」

 

「そう? ……それで、貴方の記憶のことだけれど、心当たりを順番に話します。いいですか?」

 

「あ、はい。お願いします」

 

「まず、今幻想郷で異変は何も起こっていなくて、誰かが記憶を失くしたって話も聞かない。妖怪が貴方だけを狙って術をかけたって可能性もあるけど、見た感じ妖怪の気配は感じないですね」

 

「見ただけで分かるんですか?」

 

「まぁ、巫女やってる経験で」

 

 今でも若く見えるが、一体いつから巫女をやっているんだろうか、と青年は疑問に思ったが、今は関係ないので一旦置いておくことにした。

 

「次に、試しに外の世界に出てみるって話ですけど、多分意味ないと思います」

 

「なんでですか?」

 

「というのも、ここ博麗神社は幻想郷と外の世界の境目にあって、内と外、どちらの世界にも属している場所なんです。鳥居を越えた先にある外の世界からも境内が見えます。つまり、この場所にいるということは、既に外に出ていることと同義なんです」

 

「ここが、すでに外?」

 

「はい。なので、ここを訪れた時点で記憶が戻らないということは、結界を緩めて外に出たとしても何も起こらないと思うんです」

 

「なるほど……」

 

 霖之助の言っていたとおり希望的観測だったが、外に出ても意味が無いということは、幻想郷で手がかりを探すしかないことになるため、顔には出さないようにしつつも心中で青年は落胆した。

 

「最後に記憶を取り戻す手がかりですけど……」

 

 そこまで言いかけ、霊夢は口をつぐむ。

 その先を話すことを躊躇っているようだった。

 

「どうしたんですか?」

 

「……いえ、心当たりはあります。でも、全ては言えません。確実じゃないし、危険だからです」

 

「それは……」

 

「危険だから、普通の人間の貴方にはオオスメしないってことです」

 

 そう聞き、青年はごくりと唾を飲んだ。

 幻想郷での危険、つまり命の保障はない、ということだ。

 

 青年は大きな選択を迫られる。

 

 身の安全をとるか、失くした記憶を追い求めるか。

 そもそも霊夢の言う手がかりを当たったとして、本当に記憶を取り戻せるのかも分からない。もしかしたら取り戻す記憶など無いのかもしれない。

 新しく生まれ変わったと頭を切り替え、幻想郷で生きていくか、外の世界に帰るのが安牌なのかもしれない。

 

 

 だが、それでも────

 

 

「……教えてください。俺には『力』があります」

 

 真実から目を遠ざけ、我が身可愛さに全てを忘れ、のうのうと生きることなど、出来なかった。

「本当の自分を知りたい」という感情に抗ってはいけない。

 足を止めてはいけないと、魂が叫んでいた。

 

「力? それってどういう……」

 

「霊夢、彼には己を守り、敵に抗う能力がある。実はここに来る途中で妖怪に襲われてね。その時、僕もこの目で見たんだ」

 

 それまで黙って2人の会話を聞いていた霖之助が口を開いた。

 

「彼の『精神の一部を具現化する能力』を」

 

「精神の一部を……具現化する?」

 

「名をペルソナというらしい。見てもらった方が早いだろう。キミ、ペルソナを出してみてくれないか」

 

「は、はい! さっきは勝手に出たので自分から出せるか分かんないですけど……」

 

 精神を集中させ、丹田のあたりに力を込める。

 先ほど顕現させた半人半蛇の姿形を思い浮かべ、体の内側から外に出ていくようなイメージをする。

 

 しかし……

 

「…………」

 

「……出ないな」

 

 ペルソナは現れなかった。

 何度か挑戦するが、一向に顕現する気配はない。

 

「な、なんで……」

 

 まさか襲われないと出ないとでもいうのか、それではあまりに使い勝手が悪い。

 青年が軽く絶望感を味わっていると、なにやら考え込んでいた霖之助が顔をあげた。

 

「……キミは、ペルソナを出した時、僕を助けたいと思ったらペルソナが行動したと言ったな。その時の気持ちを思い出してみてはどうだろう」

 

「わ、分かりました」

 

 再び精神を集中させ、身体に力を込める。

 目覚めてから今までの経験を思い返し、特に妖怪に襲われた時のことを思い浮かべる。そして、その時に感じた感情を呼び覚ます。

 

 助けられてばかりで何も出来ない無力感、何も成せず終わってしまう絶望感。

 そして、獣妖怪の鋭利な牙が喉元に接近した時に想起した、死に対する溢れんばかりの恐怖。

 

 だが、それらを払い除けなにより想起したのは……

 

 自分の手で誰かを助けたい、護りたいという確固たる意志。

 

 青年は意志を一つに固め──もう1人の己を呼んだ。

 

 

ペルソナ

 

 

 瞬間、青年を中心として突風が吹き、周囲に散らばる木の葉を吹き上がらせた。

 

 風が止むと、青年の背後には……

 

 背中に旗を背負い、甲冑を身にまとった、青年の半分ほどの大きさの獣がいた。手には軍配を持っている。

 黒い体毛、鋭い眼光をたたえた黄色の双眼、頭には可愛らしい大きな耳……

 

 その姿はどう見ても、二足歩行の「ネコ」であった。

 

「!?」

 

「こ、これがペルソナ……!」

 

「あ、あれ?」

 

 イメージしていたものとは異なる姿で顕現したペルソナに、霖之助だけでなく出した本人も愕然とした。

 

「いや、なんで2人が驚いてるのよ……」

 

「直前の戦闘で見たペルソナとは見た目が違うんだよ」

 

「え、どういうこと? 別の能力?」

 

「…………キミ、先の半人半蛇とは違うものをイメージしなかったかい?」

 

「う──ん…………」

 

 違うものと言われても、()()()()()()()()()()()()()思い返していただけの青年に心当たりなど──

 

「……あ、ついさっき会った女の子のことを一瞬思い浮かべた……かもしれないです」

 

「さっき会った? 誰だいそれは」

 

「えーと、その娘は賽銭箱の前にいたんですけど……」

 

 ・

 ・

 ・

 

 青年は2人に、秦こころと名乗る少女と出会いペルソナについて話したこと、また謎の声が聞こえたことを伝えた。

 

「あぁ、こころの事ね」

 

「僕は知らないな」

 

「多分霖之助さんも見てるわよ。ほら、今年の夏にあったお祭り騒ぎの時に人里で騒いでた妖怪。ちょっと前までウチで能を披露してたのよ」

 

「……あぁ、そんな妖怪もいたかな。少し見てすぐ帰ったから記憶になかった」

 

 人里で妖怪がお祭り騒ぎ、というワードに世紀末な光景を想像してしまい、青年は身震いした。人里の現状が少々心配になる。

 

「でも、それとペルソナ能力に何の関係があるのかしら」

 

「そうだな……その妖怪と話したあと、謎の声がまた聞こえたと言ったね」

 

「はい、絆がどうとか……」

 

「やはり推測になってしまうけれど、キミのペルソナ能力は他者からも影響を受けるのではないか? それによりもたらされるものが、成長なのか弱体化なのかは不明だが」

 

「じゃあ、こころと話したことによってペルソナが姿を変えた、もしくは進化したってこと?」

 

「数が増えたという可能性もあるやもしれない」

 

 元々謎の能力だったものが、更によく分からなくなり、青年は頭が痛くなる想いだった。

 数が増えたというのなら、可能性を感じて実に喜ばしいことだが、あの神聖なオーラを纏った半人半蛇から、甲冑を装備した猫に変身したのだとしたら、霖之助の言う通り弱体化なのかもしれない。見かけだけで判断するなら、だが。

 

「数が増えたと仮定するなら、望んだペルソナを発現させるには訓練が必要、ということかしらね」

 

「訓練しようあるのかな、これ……」

 

「というかなんで猫? こころに猫要素ないけど」

 

「謎だね。その妖怪の資質を感じ取った、とか?」

 

 ペルソナ能力については後日研究することになった。

 

 ・

 ・

 ・

 

「とりあえず身を守れるだけの力があることは分かったことだし、私の心当たりを教えます」

 

「お願いします」

 

「記憶を取り戻す手がかりになりそうなのは3つ。1つ目は、地底のさとり妖怪に心を読んでもらうこと。昔の記憶まで読めるのかは知らないけど、何かヒントを得られるかも。ただ、地底は危険な妖怪がウジャウジャいます。貴方のペルソナがどれほどの強さかは分からないけど、行くならそれ相応の力をつけたほうがいいと思います」

 

「地底? 地面の下に妖怪が住んでるんですか?」

 

「ええ、地上と地底を繋ぐ大きな穴が空いてるから、そこを降りれば行けます」

 

「そうですか……安全に行くには特訓が必要そうですね」

 

「2つ目は、閻魔が持っている鏡で過去を見てもらうこと」

 

「え、閻魔?」

 

「地獄の閻魔。いるんですよ、ここには」

 

 すでにツッコミどころが多すぎるが、一々口にしては話が進まないため、青年は何も言わなかった。

 

「閻魔は『浄玻璃の鏡』という物を持っていて、それで人の過去の行いを覗く……らしい。ただ、閻魔は多忙のようだし、もし会えたとしても私情のために使ってくれるかは怪しいです」

 

「その閻魔は何処にいるんですか?」

 

「三途の川を越えた先にある彼岸の更に先、地獄で働いてるらしいですけど、普通に行くのは不可能です。幻想郷の閻魔はたまに人里を訪れるし、その機会を待った方がいいかもしれません」

 

「さ、三途の川……というか地獄に行けるんですか」

 

 正直なところ、いくら記憶を取り戻すためとはいえ、行けたとしても地獄にはあまり行きたくない、と青年は思った。閻魔というのも、想像通りであれば死者を裁くという存在だろう。出来れば生きてるうちは会いたくない。

 

「3つ目は、聖徳王を頼ること。アイツは人の話を聞くだけで人の過去未来現在が分かる……だったかな。個人的にはあんまり信用ならないと思ってますけど」

 

「え、聖徳王って……あの聖徳太子?」

 

「そうそう、あの聖徳太子です。神出鬼没なので会おうと思って会える訳じゃないですけど、人里に来ることもあるので、人里で生活してたらいつか話を聞けるかも」

 

 青年は頭を抱える。本当に頭が痛くなってきた。

 奇想天外が日常茶飯事の世界なら、そこに住む住人も同様に規格外か。

 地底世界に、三途の川の先にいる地獄の閻魔、極めつけは日本人なら誰でも知っている偉人。

 嘘を言っているとは思わないが、あまりに常識外れで、入ってくる情報を容易に呑み込めない。

 

「……大丈夫ですか?」

 

「ちょっと頭が追いつかなくて……」

 

「まぁ、ですよね。簡単には理解出来ないと思います」

 

 青年は頭を切り替え、分からないものは無理に理解しようとせず、そういうモノがあると頭に留めておくことにした。

 

「それでまとめると、地底は行くとしても鍛えてから。閻魔と聖徳王は人里で張ってればいつか会えるかも。とりあえず当面は人里を拠点として、周辺で鍛錬しましょう。それで人里にいる間、閻魔か聖徳王に会えれば万々歳。会えなくても、いずれ地底に行ってさとり妖怪に心を見てもらう。そんな感じでどうでしょう?」

 

「……そうですね。ありがとうございます!」

 

 青年は霊夢に感謝すると同時に、畏敬の念を抱いた。

 

 霖之助は霊夢を『異変解決の専門家』と称した。

 この齢20に満たない少女は、幻想郷という常識外れな世界で、人妖ともに密接に関わり平和を維持しているのだ。

 更に、幻想郷にとって大きな意味を持つ、結界の管理という責務を全うしている。

 その小さな肩にどれほどの重責がのしかかっているのか。

 青年は彼女に同情しそうになったが、直ぐにその思考を振り払った。部外者が口を挟めることではなく、同情したところで彼女の手助けが出来るわけでもない。なにより、今は自分のことで精一杯なのだから。

 そして、やはり人を見かけで判断してはいけないと思い、一見可愛らしい猫のペルソナも強大な力を秘めているかもしれないと考えを改めた。

 

「そういえば、貴方のお名前は何て言うんですか?」

 

「実は、名前も分からないんです。不便ですよね」

 

「そうですか……持ち物に名前が書いてあれば良かったんですけどね」

 

「…………あっ」

 

「何よ霖之助さん。まさか回収してないなんて言わないわよね?」

 

「いや、違うんだ霊夢。僕は彼を助けるのに必死でね。周囲を見渡して持ち物が落ちていないか確認することすら忘れるほどに切羽詰まっていたのさ」

 

「…………」

 

 次の目的が決まった。

 倒れていた時の所持品が落ちていないか、無縁塚の探索だ。

 

青年は、聡明な霖之助の意外に抜けている一面を知った……




霊夢は一般人に対しては敬語のイメージ。
危険なら連れてってあげろよ霊夢!という感じですが彼女は多忙なので行けないのと、そこまでまだ主人公を信用していません。あとストーリーの都合上でこんな感じに。

●ランクupしたコミュ
『隠者』森近 霖之助:ランク2

ペルソナ〜トリニティ・ソウル〜は

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