「おねむりさんだね」
カンザトは目元をこすりながら立ち上がる。見れば、こころと布都は未だ夢の中だ。
「ごめん。疲れてたみたいだ」
「いいよいいよ。寝る子は育つってメガネの店主さんも言ってたし」
「俺これ以上デカくなれるかな……」
「なれるよー。鬼よりおっきくなって、みんなを担いで!」
どういうわけか巨人並みの肩幅を要求されている。普通の人間が引き受けるには荷が重い。
「わー、私も担いでほしー!」
「おくうは飛べるでしょ」
こいしの後ろには見知らぬ二人の少女がいた。その容姿を見て、すぐに人ではないと分かった。
「お邪魔してます」
「ようこそ!」
「わっ、えっと……はい、ようこそいらっしゃいました」
赤髪の少女はどことなく落ち着かない様子に見える。
「お燐、なんか緊張してる?」
「え、いやー……」
もう一人の翼を持つ少女に問われると、お燐と呼ばれた少女はもみあげの上あたりをくしゃりとかき上げた。
「ウチ、外からお客さんってあんまり……っていうか全く来ないからさ」
来客が珍しいため緊張している、ということらしい。しかし突然上がり込んだ立場としては、緊張させるのは少々申し訳ない。
「普段通りで大丈夫ですよ」
「うーん、そういうわけにもなぁ」
「俺は客っていうか、泊まらせてもらう立場だから。全然気にしないで」
「……そう? だったらそうさせてもらおうかな」
少しは肩の力が抜けたのか、硬直していた2本の尻尾が緩慢な動きで揺れた。
「ここにはさとり様に記憶を見てもらうために来たんだって?」
「はい。結局それは難しいみたいなんですけど……」
「だよねぇ。しかしさとり様の目を頼って来る人がいるとはねぇ……」
「あんまりいないんですか? すごい力だと思いますけど」
「ん、まぁ……ね。妖怪の楽園といっても、なかなかままならないもんなのよ」
少女は少し気まずそうに微笑んだ。
「まーゆっくりしてって。そんなに居心地いいところでもないだろうけど」
「ありがとうございます」
礼を伝えると、少女は器用に片眉だけ曲げた。
「あーダメダメ。私に気楽にしろって言うならさ、そっちも敬語はやめてよ」
「あぁ……分かった。えっと……」
「あたいは火焔猫燐。燐って呼んでよ」
「霊烏路空です! よろしくお願いします!」
「よろしく。俺はカンザト」
「二人は我が家のペットだよ」
こいしの口から信じ難いワードが飛び出した。
「ペッ……ト……?」
家族や使用人ではなく、ペット?
チラリと、燐と空の方を見る。
「ペットでーす」
否定するどころか、笑顔が返ってきた。
「えぇ……?」
二人は妖怪なのだろうが、だとしても人間と同じように立って歩き喋る存在が
(……まあ、そういうこともあるか)
地底には地底の常識があるのだろう。地上の人間である自分がいくら気にしても無駄なので、そのうちカンザトは考えるのをやめた。
「そういえば前話したっけ」
「ああ、たしか命蓮寺で…………ん? ってことは」
2匹のペットを順番に見る。
「ん、どしたの」
「?」
燐の二つの耳がピコピコと動き、空の翼がバサリとはためいた。
あの日こいしは言った。『猫のお燐と、カラスのお空を飼っている』と。
「ネコと……カラス……?」
たしかに猫とカラスらしい特有の部位を有しているものの、二人はどこからどう見ても人の形をしている。かつてイメージしていた癒し空間が奇天烈な光景に変わっていく。
「どうしたニーサン、目が点になってるぞ」
「いや……なんか、思ってたのとだいぶ違った」
「?」
「お燐とお空はウチで色々してるんだよ」
「色々?」
「あたいは主に怨霊の管理。あとは屋敷内の掃除とかさとり様の身の回りのお世話とか、その他もろもろ」
「私は灼熱地獄を管理してるよ」
多少端折ったのかもしれないが、明らか仕事量に差がある。酉の市でこいしが言っていた「ウチには働き者の猫がいる」という発言はこういうことかと納得した。
「……待って、今怨霊って言った?」
「うん? 言ったけど?」
「い、いるの?」
「いるいる。コッチは上と違ってわんさか湧いてくるんだよ」
「マジか……」
おうちに帰りたくなってきた。危険な妖怪の巣窟とは聞いたが、怨霊の温床とは聞いていない。
「オニーサンもそのうち見かけることになるよ」
「怖いから勘弁して……」
「アハハ、オニーサン怖がりだねぇ」
「でも私たち以外のペットも怨霊の管理はやりたがらないし、普通はそういうものなんだよ」
空にフォローされてしまった。同調してくれそうな師匠は絶賛お休み中なので、味方がいない。
「二人の他にもペットいるんだな」
「いっぱいいるよ。みんなお姉ちゃんのところに集まってるの」
さとりは動物に好かれているらしい。妖怪としての特性によるものなのかは不明だが、いい妖怪ってやつは動物に好かれちまうんだ的なアレだろうか。
「ということはこいしもペットと仲良いんだな」
「ううん。私は全然」
「え、なんで?」
「見えないし、心読めないから。みんなは言いたいことを理解してくれるお姉ちゃんが好きみたい」
「……そっか」
カンザトはひとつ、思い違いをしていた。
古明地さとりの心を読む力は、さとり個人の能力だと思い込んでいた。それは誤りで、姉妹であり同種族であるこいしも同様に心を読めるはずなのだ。
しかし、こいしは何らかの要因により、その能力を備えていない。それはおそらく、こいしの現状に関係しているのだろう。ゆえに、今の彼女はペットからも好かれない。
「あ、あたいはこいし様も大好きですよ!」
「私もー!」
「なになに? 照れちゃうよー」
燐と空が駆け寄ってこいしの手を握る。こいしはペットたちの突然の行動に驚いたようだが、満更でもなさげだ。
「思ったより好きだったみたい」
両手を握られたままのこいしは、優しい笑みを見せた。
「みたいだな」
ペットから好かれない、というのも誤りだったようだ。
想像していた癒し空間はあながち間違いではなかったと思い、カンザトは思わず顔をほころばせた。
こいしはペットたちから慕われているようだ……
「そういえばお姉ちゃんが呼んでたよ」
「さとりさんが? なんだろ」
「分かんないけど、二人で話したいんだって」
先の話の続きか、早くも答えを出したのなら速やかに向かうべきだろう。
「分かった、ありがとう。行ってくる」
「行ってらっしゃい。私はこころちゃんで遊んでるから、ゆっくり話してていいよ」
こいしは眠るこころの背後に回り、長髪をわさわさと弄んだ。
「ほどほどにしてあげてな。多分怒るから」
「いひひ。それはカンザトにかかってるかなぁ。早く戻ってこないとお皿の人もいじっちゃうよ」
人質に取られた二人を気の毒に思いながら(他人事)、カンザトはさとりの自室へ向かった。
とても短いですがランクが上がるので一旦切ります。ですがこれ以降、1話の中で2つ以上ランクが上がることもありそうです。
●コミュランクup
『刑死者』古明地こいし:ランク3→4
ペルソナ〜トリニティ・ソウル〜は
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全話視聴済
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途中まで視聴
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未視聴
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存在を知らない