PERSONA-trinity heart-   作:善い思考

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小動物と戯れるこころちゃんを書きたかっただけ


こぼれ噺:ココロは猫をかぶらない

 時は遡り、こいしの能力について調査を続けていた頃の話。

 カンザトは地霊殿のエントランスの掃除をしていた。さとりに長期滞在の対価として労働を要求されたわけではない。無償で居座り続けるのに罪悪感を覚えた彼が、自ら進んで申し出たことだ。

 

「ここらへん結構ホコリが……ん?」

 

 位置が高く背が足りなかったのか、掃き残しがある窓枠を掃除していると、視界の端を大きめの影が横切った。

 

「猫だ」

 

 猫。どこからどう見ても、黒猫だ。

 普通と違うのは、尻尾が2本あることだろうか。次いで、トレードマークかのように耳に装着された黒いリボンが目を引いた。

 

「さとりさんのペットかな」

 

 地霊殿には多数のペットが放し飼いされており、小規模な動物園かと見まごうほどだ。この黒猫も屋敷に住まう1匹なのだろうが、その姿にはどこか“彼女”の面影があった。

 

「燐さん……じゃないよね?」

 

 な〜お

 

「鳴いた……」

 

 意を決して話しかけたところ、とても猫らしい鳴き声が返ってきた。なんとなく、「違うよ」と言っている気がした。

 

「お?」

 

 二股に分かれた尾をゆらりと揺らしながら近寄ってくる黒猫。人懐っこい性格なのか、足元まで来てゴロゴロと喉を鳴らし始めた。

 

「……撫でてもいいかな」

 

 なんとなく、周囲をぐるりと見回す。エントランスに自分以外誰もいないことを確認してから、しゃがんで右手を差し出してみる。

 すると、黒猫は指先の匂いを嗅ぎ、額を擦り寄せてきた。

 挨拶は上手くいき、許可が出たのだろう。記憶にある対猫用挨拶を実践したが、記憶喪失後の薄らぼんやりした知識でも案外と役に立つものだ。

 

「おお、いい毛並み」

 

 優しく丁寧に頭を撫でてやる。初対面の人間が接触しても黒猫は嫌がらない。撫でられるのが気持ちいいのか、目を細めてこちらの手を素直を受け入れる様は、撫でられ慣れている印象を受けた。

 

「あー癒される」

 

「何してるの?」

 

「おわっ!」

 

 撫でるのに夢中で、警戒を怠ってしまったせいだろうか。接近してくるこころに全く気がつかなかった。

 

「びっくりした……」

 

「ん? なにか怪しいな。つまみ食いでもしてたのかな?」

 

「違うよ……猫がいたから撫でてただけ」

 

「ねこ?」

 

「ほら。こうやって撫でてあげたら気持ちよさそうでさー、かわいいよなー」

 

「ふむ……」

 

 こころがすぐ横にしゃがむ。

 

「にゃーん」

 

 うにゃ?

 

「うにゃにゃにゃにゃ」

 

 うにゃーにゃんにゃんにゃーお

 

「うにゃんにゃにゃおーん」

 

「……なに? なにやってんの?」

 

「喋ってる」

 

「なに言ってるか分かんの? すご!」

 

「全然わかんない」

 

「えぇ……」

 

 今の鳴き声合戦はなんだったのか。突如猫化したかと驚いた気持ちを返してほしい。

 

「でも感情は分かるよ。撫でられて喜んでる」

 

「マジで? よかったー」

 

「じゃ、次はわたし」

 

 ズイっと、ピンクの頭頂が急接近してきた。

 

「……なにが?」

 

「化け猫さんが、撫でられて嬉しそうだから。そんなにいいものなら私も味わってみたい」

 

「え?」

 

 何を言っているんだこの娘は。いやそんなことより、他に聞き捨てならないワードがあった気がする。

 

「ほれほれ、早く撫でくりまわさんかい」

 

「ちょっと待って」

 

「早う早う! 今すぐに! 早急に!」

 

「ちょっ、ストップストップ! 圧が強い!」

 

「どしたの。まさか撫でたくないと申すか」

 

「違くて。今化け猫って言ったけど、まさか……」

 

「ん? これ、燐だよ」

 

 予感的中。思わず顔をしかめた。

 

 にゃー

 

 返事するかのように鳴いた次の瞬間、黒猫の身体が炎に包まれる。熱を感じない炎が霞むように消えた時、そこには実に見慣れた姿のネコマタ少女が立っていた。

 

「たはは、バレちまったかい」

 

「さっき訊いた時なにも言わなかったのに……」

 

「返事したじゃん」

 

 鳴いただけでは返事をしたと言えないだろう。ネコ語が分かるわけもないのだから。

 

「勤労中のニーサンに癒しをあげようかと思ってね。悪くなかったろう?」

 

「ええまぁ……」

 

 しっかり癒されてしまったため否定できなかった。しかし不安なのは、さきの行いがセクハラに該当しないかということ。化け猫に化かされた哀れな人間ということで、無罪放免にならないだろうか。

 

「さとり様もたまに撫でてくれるんだ」

 

「へー……」

 

 それはどんな光景だろう。あのさとりが猫なで声を出して、ペットたちと戯れる様を想像してみる。

 

「いきなりニヤついてどうしたニーサン。なんか気持ち悪いぞ」

 

「へっ!? いや何も!」

 

「何考えてたか知らないけど、ここにさとり様がいなくてよかったねぇ」

 

「別に変なこと考えてないから……」

 

 助けを求めるようにこころの方を見ると、冊子のような物を抱えていることに気づいた。

 

「それ、どうしたの」

 

「さとりから借りた」

 

「へぇ、なんの本?」

 

「これは……」

 

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 

 エントランスでカンザトの後ろ姿を見かける少し前。こころはさとりの自室を訪れていた。

 

「貴方は本に詳しいか?」

 

「本? ええまあ、それなりに読むけど」

 

「私に本を貸してくれないだろうか」

 

「いいですけど……ジャンルは?」

 

「人の愛を描いた作品」

 

「恋愛小説ってこと?」

 

 頷くこころを見て、さとりは内心で小首を傾げた。こころがそういった読み物を嗜むタイプだとは思わなかったためだ。

 その疑問を晴らすため、サードアイを向ける。

 

「……なるほど。勉強熱心ですね」

 

「?」

 

「恋愛モノと言えるか分からないけれど、心理描写が豊富なものを何冊か見繕うわ」

 

 さとりは背後に佇む本棚から、こころの求めていそうな本を抜き取る。

 

「どうぞ」

 

「こんなにいいの?」

 

「私はもう何度も読んだので。新しい人に読まれた方が本も嬉しいでしょう」

 

「ありがとう。しばらく借りてもいい?」

 

「構いませんよ。あ……待って」

 

 感謝を述べて去ろうとするこころを引き止める。

 

「これも追加で」

 

 そうして差し出したのは、今渡した数冊の本より薄く、作りも荒い、本より冊子と言った方が正しいような物だった。

 

「これは?」

 

「この本、私が書いたんです。ついでなので、読んでもらえませんか?」

 

「すごい! 本書けるの?」

 

「書けると言っていいのか……所詮素人の趣味程度なので」

 

 こころはさとりを尊敬した。たとえ素人技術でも、自分にはできない事を手がける彼女を、素直に凄いと思った。

 

「他の人には見せないようにしてくださいね」

 

「なんで? 色んな人に自慢しようよ」

 

「……恥ずかしいので」

 

「私には見せたのに?」

 

「貴方なら、率直な感想を言ってくれそうなので」

 

「そうなの?」

 

「貴方は心に正直だから」

 

 そう言われても、こころはいまいちピンと来なかった。自分で思ったことは無いし、これまで他人に指摘されたことも無かった。

 

「ともかく、他の人には内緒でお願いします」

 

「わかった」

 

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 

「……ひみつ」

 

 さとりとの約束を守り、1冊の本を隠した。

 

「え? あぁそう……」

 

 カンザトは「こころが隠し事なんて珍しいな」と不思議に思った。それと同時に、彼女のまだ見ぬ一面を知れた気がして嬉しかった。

 

【挿絵表示】

 

 





古明地さとりの薄い本(誇張なし)

ペルソナ〜トリニティ・ソウル〜は

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