走る。元来た道を全速力で。
一心不乱に足を動かす。
狡猾な輩にしてやられた鬱憤を無理くり発散させるように、力任せに大地を蹴る。
暴走機関車の如き疾走で、行きより遥かに早い時間で森を抜けた先──
「二人とも! 大丈夫か!」
こころと布都は無事だった。倒れることなく、怪物と戦い続けている。
だが巨大な影も未だ健在であり、さらに戦況は大きく変化していた。
「カンザト、用心せよ!」
遠くから、切羽詰まった布都の声が飛んでくる。
「こやつ……分裂するぞ!」
白を覆い隠すほどのヘドロが地面を埋め尽くしている。その正体は小柄な怪物の大群であり、中心にいるこころと布都目がけて一斉に殺到していた。
サイズが子供の背丈ほどで脅威度は低いが、数が異常だった。
「……っ! 今行く!」
「カンザト! 横に!」
助けに入ろうと踏み出した意識が、こころのいつになく焦った声で止まる。
ガサリ
と、近くの薮が不自然に揺れた。
「カンザト! こやつらの狙いは──」
反射的に動かした視界の端で、黒い物体が残像を作った。
「お主だ!!!」
言葉の意味を理解するのと、脇腹に触手が直撃したのは、ほぼ同時だった。
「ぐぅっ……」
カンザトは衝撃を逃しきれず、左肩から地面に倒れ込んだ。
奴らはその隙を見逃さない。間髪入れず、槍と見紛う触手が標的を貫こうと降ってくる。
カンザトは咄嗟に『オオクニヌシ』を召喚し、刀身を横に構えてその攻撃を受け止めた。続けざまに触手を打ち払い、反撃とばかりに踏み込んで、小柄な影の一体を一刀両断する。
これで奴らの猛攻が終わるはずもなく、触手が1本、2本、3本……ひと振りでは到底対処しきれない数の触手が迫る。
オオクニヌシは眼前の有象無象を見据え、右手に携えた直刀を勢いよく振り下ろした。
瞬く間に触手が斬り飛ばされ、地面に落ちていく。
その剣撃は、敵対者を死の国に引きずり込むまで終わらない。
脅威を感じ取ったのか、こころと布都に群がっていた敵まで、地を揺らす勢いでこちらに押し寄せてくる。
カンザトは迎撃をペルソナに任せようと、後退して距離を取る。
その判断が、命取りだったのだろう。
景色がいっそう暗くなり、足元が黒く染まる。
振り返った先には、虚無を体現する黒──怪物の巨体がそびえ立っていた。
「……っ!?」
雑魚を相手取っているオオクニヌシを呼び寄せ──られない。
何故か。その原因は、身体の奥から感じる、後ろに引っ張られるような違和感にあった。
オオクニヌシの甲冑に、おびただしい量の触手が巻きついているのだ。
背後に気を取られた一瞬、オオクニヌシは影の大群を前にして無防備になった。奴らはその隙に食らいつき、オオクニヌシの自由を奪ったのだ。
「やばっ……」
実戦経験の浅いペルソナ使いには、明確な弱点がある。
それは、戦闘においてペルソナに頼りすぎてしまうということ。多くはペルソナの操作だけで対処できてしまうため、召喚者本人が対抗手段を持つ必要性が薄いのだ。
或る使い手は刀剣と銃器で自らを武装し、また或る者は己の肉体を鍛え上げることで肉弾戦を有利に進めた。
対して、カンザトには“それ”がない。
武器を持たず、体捌きも未熟。ペルソナ召喚時は膂力が強化されるため、並大抵の人間よりは戦えるが、この化け物と渡り合うには物足りなさが拭えない。
つまり、巨影を前にして対抗手段であるペルソナを封じられた今のカンザトは、丸裸で捕食者の口元に放り出されたも同然だった。
「不味いぞ!」
「カンザト!」
その弱点を知っているこころと布都は、彼を支援するため飛んだ。しかし、間に割り込むには距離がある。
巨影の腕が迫る。
カンザトはそれを避けようとするが、呆気なく肩から下を鷲掴みにされてしまい、腕だけが辛うじて動かせる状態になった。
「また握り潰す気か」と身構えた次の瞬間。
ぐちゃっと不快な音を立てて、巨影の内側から何本もの細長い触手が飛び出た。
「は──ッ」
ヒュッ、と喉の奥から細い音が漏れた。
得体の知れない、本能的な恐怖。精神が不安一色に裏返るような、どうしようもない衝動。
何故か、アレに捕まったら、物凄く恐ろしいことが起きる予感がした。
死か、
“怪物の狙い”は自分らしい。
狙うのは命か、それとも──
「カンザトっ──!」
こころの声が遠ざかっていく。やけに小さく聞こえるのは、頭が死の気配を感じ取っているからなのか。
……
大変だったけど、なんとか地底に行って、記憶が少し蘇って、色んな人と知り合えて……
迷いはしたけど、みんなのおかげで残りの記憶も全部思い出したいって、強く思えたんだ。
ここまで、みんな無事で歩いてきたんだ。
じゃあ
──こんなところで、死ねるかよ。
何かが落下する。
怪物の手と、自由になったカンザトだ。
カンザトを掴んでいたはずの腕は、手首から先が存在していない。
そこにある事実はただひとつ。
引き抜いた剣で、手首を断ち切った。
誰が?
こころか布都か、ペルソナか……それとも、予期せぬ乱入者か。
いずれも違う。
右手で直刀『
それは、直前までオオクニヌシの手に握られていた刀。隠し持っていたのではなく、
この能力の使い方は、カンザトが無意識的に覚え、覚醒させたものではない。発想を与えたのは、第二の師である紅美鈴だった。
『ペルソナって、たくさんいるんですよね』
『? はい』
『武器のペルソナっていないんですか?』
『武器? 武器そのものはないですね』
『えっとじゃあ、武器を持ったペルソナは?』
『それならいますよ。たくさん』
『そのペルソナから武器を借りたら……戦術の幅が広がると思いませんか?』
彼女の言葉により、ペルソナの肉体や携えた武器も肉体の一部分と解釈し、局所的に顕現させる特訓に挑んだ。
つまるところ、カンザトが行ったのはペルソナ顕現の応用──ペルソナの『部分顕現』である。
「はぁぁっ!!」
巨影との間合いを詰める。奴が反応するよりも早く、直刀を斜めに振り下ろした。
刃が触れると、直刀は水面を滑るかのように肉体へ食い込み、勢いを失うことなくその身を斜めに裂いた。その刀は不思議と軽く、それでいて鋭い切れ味を見せる。
『──ッ!』
巨影が呻きに似た怪音を発した。
効いている証拠だと思いたいが、奴は雷の槍で貫かれても、まるで堪えていなかった。驚異的な再生能力を備えているのか、空いたはずの風穴も塞がっている。
ならば、再生が追いつかないほどバラバラにするか、一撃で肉体活動を停止させるような“弱点”を見つけるほかないのだろう。
そう
あれが奴の心臓──『ウィークポイント』だ。
と、確信した刹那、背後で何かがぐしゃりと潰れた。
音の正体は、投擲された薙刀と丸皿により、オオクニヌシを拘束していた敵が一掃されたものだった。
カンザトはわずかに口角を上げる。
──なんて、頼りになる仲間だ。
「来いッ!! オオクニヌシ!!!」
渾身の呼びかけに応じ、自由を取り戻したオオクニヌシが一挙動で召喚主の横に並び立つ。その手には、腰に差していた短刀がある。
カンザトは右から左へ横薙ぎに。
オオクニヌシは頭上から真っ直ぐ振り下ろす。
剣術の心得など皆無。今はそれでいい。ただ、思うがままに振り抜くのみ。
二振りの刀が十字に交差する。月の魔力を帯びた軌跡は汚泥を斬り断ち、影に閃く。
『十文字・月影』
心臓が四つに分断され、瓦解していく。
────ッッッ!!!
ゲル状の肉体が大きく跳ね、時が止まったかのように固まる。やがて、虚空へ伸びていた腕が力無くだらりと垂れた。
「またとない好機!」
「行くぞ!」
巨影の眼前まで飛んできた布都とこころが叫ぶ。
敵はダウンし、仲間がすぐ側で仲間が闘志を滾らせているこの状況。
そう、これが千載一遇のチャンス。
正面はカンザトが、左右からはこころと布都が飛びかかった。
「総……攻撃だあああっっ!!!!」
布都の張り裂けんばかりの号令が、夜の平野に響き渡る。
「!」
魂に火がつき、身体が勝手に動き出した。三人はそれぞれの武器を手に、全身全霊でとどめの連撃を叩き込む。まさに三位一体。まるで全員の意志がひとつに合わさり、巨大な矛として敵を穿つような……
・
・
・
気づけば、影の大群は消えていた。
攻撃に次ぐ攻撃。息もつかせぬ怒涛の連撃。
ふっと緊張の糸が切れた三人は、大きく息を吐いてその場にへたり込んだ。
「つ、疲れた……」
「それはこちらの台詞だ……お主が戻るまで、ずっとアレを足止めしていたのだぞ」
「あ、そうですよね……すみません」
「……いや、今の発言は撤回する。お主のことだ、何か不測の事態が起こったのだろう?」
「はい、まあ、色々と」
「というか、私たちだけで倒せればよかったんだけど」
「うむ……そうだな」
「斬っても撃ち込んでも、全然効いてる風じゃなかったの」
思うに、アレは弱点を常にズラしているのではないか。自分は運良く隙をつき、懐に入り込めたため、弱点を隠される前に攻撃できたのではないか、とカンザトは思った。
「時にお主、先ほど刀を持っておらんかったか?」
「あれは……ペルソナが持ってたやつです」
「ペルソナが……? 受け取ったということか? いやしかし、あの時ペルソナはお主から離れていたではないか」
「あ、もしかして美鈴さんが言ってたやつ?」
「うん、練習ではあんま上手くいかなかったけど、なんでかさっきは成功したな」
「な、なに? 何の話だ!」
布都はその場にいなかったため知らなかったのだろう。
カンザトは部分顕現の特訓について伝えた。
「わ、我の知らぬところでいつの間に……」
師としてショックを受けているのか、布都は眉尻を下げて唇を尖らせた。
「ま、まあいい。して、助けてやった妖はどうなった?」
「えっと、それが」
まんまと騙された失態は、正直なところ言いにくい。とはいえ喋らないわけにもいかないのだが。
・
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話終わると布都は、驚愕と困惑、それから怒りと様々な感情を顔面で器用に表現していた。
「うぬぬ……なんと悪辣な……! 許せぬ……」
「優しさを無下にしやがって。次あったらどうしてやろうか」
「俺も完全に油断してた。青娥さんから貰ったマジックアイテムとか入ってたし、なんとか取り返したいけど……」
「既に遠くへ逃げているうえ、かなり警戒しておるはずだ。そう易々とは見つからぬだろうな」
三人一緒に、う〜んと唸る。
「まあ、気になることは多々あろうが、ともかく今は……」
布都はその容姿に似合わない、「よっこいせ」と聞こえてきそうな重い動作で立ち上がった。
「帰るぞ」
「そうですね……」
ドッと疲れたが、こんな場所で休むわけにもいかないので、一行は行動を再開した。
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「ん?」
自宅で書物を読み耽っていた魔理沙は、何者かのノックに気づき顔を上げた。
「だーれだこんな夜更けに訪ねてくる不届き者は〜」
心当たりはないが、おそらくアリスか霊夢あたりだろうと見当をつけ、特に警戒することなく扉を開ける。
「なんの用だ〜……ってわぁ!?」
そこにいたのは、見るからに疲れきった様子のカンザト、こころ、布都の三人だった。それだけならまだしも、衣服のあちこちに擦れた跡があり、髪も乱れているため、彼らの身に何かが起こったことは明白だった。
「ごめん魔理沙、また泊まらせてほしい」
「お、おう……」
次の日曜日は博麗神社例大祭があるそうです。例大祭は行ったこと無いので、いつか行きたいです。
ペルソナ〜トリニティ・ソウル〜は
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全話視聴済
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途中まで視聴
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未視聴
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存在を知らない