PERSONA-trinity heart-   作:善い思考

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忘れじの足跡

 翌日、カンザトたちは魔理沙に旅のあらましを伝えた。

 誰と出会い、何を話し、どんな事実が判明したのか──そして浮上する新たな謎と、怪物との遭遇について。

 

「はー……なるほど」

 

 話を聞き終えた魔理沙は口を半開きにして、呆然と呟いた。

 

「なんつーか……情報過多だな」

 

「俺もそう思う……」

 

「ブン屋が聞けば目の色変えて飛びつきそうだ」

 

「それで、何個か訊きたいんだけど」

 

 露わになった疑問を解消するために問う。主に、黒い怪物と鬼人正邪について聞いておきたい。

 

「まあ待て、聞き手は多い方がいいだろ。顔見せついでに香霖のとこ行こうぜ」

 

 

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「こーりーん、アイツら帰ってきたぞー!」

 

 魔理沙が勢いよく香霖堂の扉を開けると、そこには既に来客がいた。

 

「あ、魔理沙。丁度良かった、貴方にも伝えておかないとね」

 

「アリス? こんなところでなにやってんだ」

 

 店内にいたのはアリスだった。何やら霖之助と話していた様子。

 

「こんなところとはなんだ。君にとっては物置小屋でも、僕からしたら宝物庫だというのに」

 

「そこまで言ってないぞ」

 

 悪戯っぽく笑う魔理沙に、霖之助がカウンターに肘をつきながらやれやれとため息をつく。

 扉の前でそのやり取りを聞いていたカンザトは、自分がやっと日常に帰ってきたような気がした。

 

「お邪魔します」

 

「カンザトさん! 戻ってきてたのね」

 

「おかえり。元気そうでよかった」

 

 こちらの存在に気づいたアリスと霖之助の表情が、パッと明るくなる。

 

「元気ですけど……」

 

「全くもって無事ではなかったわー!」

 

「そうだそうだー」

 

 背後から布都とこころが飛び出した。二人の言う通り、昨晩予期せぬ戦闘があったせいて、最終的に無事とは言い難い旅路となった。

 

「おや……何やら不測の事態に見舞われたようだね」

 

「怪物だ! 怪物が出たのだ!」

 

「昨日の夜なんですけど──」

 

 カンザトは黒く巨大な怪物に遭遇したこと、そこで天邪鬼が襲われていたことを話した。

 

「奇妙な生物だな……僕も長く生きているけれど、そんなのは見たことがないし知識にもない」

 

「アリスも分からないよな?」

 

「ええ。でも、ひとつ気になることが出来たわ。ホントは後で話すつもりだったけど」

 

「それは先に話した例の件かな?」

 

 霖之助に問われ、アリスは真剣な表情で頷いた。

 

「私が大穴の前で話したこと、覚えてる?」

 

「死体があったんでしたっけ」

 

「妖の遺骸、それも奇っ怪な有様だったと言っておったな」

 

「そうそう。アレね、一箇所じゃなかったわ」

 

「何ぃ?」

 

「貴方たちが地底に行ってる間、森の中を探索してたんだけど……森の至るところで肉が外側に露出した妖怪の死体を見つけたのよ」

 

 それが何を示しているのかは分からない。けれども、魔法の森を根城とする彼女に言わせても異常事態なのだと察し、カンザトは顔をしかめる。

 

「それで、最初はカンザトさんが森の中で遭遇したっていう青い怪物がやったのかと思ってたんだけど」

 

「今の話に出てきた謎の生物が引き起こした異常の可能性もある、と思い至ったんだね」

 

「ええ。いやにタイミングがいいから」

 

 巨影が、獲物を求める獣の如く野良妖怪を無差別に襲う。

 その可能性を考慮し、カンザトは巨影の行動を思い返す。

 

「ありえるかもしれない。鬼人正邪もアイツに襲われたらしいし」

 

「懲らしめるために襲ったわけはないでしょうしねぇ」

 

「しかし、お主に対してはちと違ったぞ」

 

 布都が言うには、カンザトがいなくなった後の巨影は、布都とこころの前で奇妙な動きを見せたらしい。

 

「そうだ。俺が戻った時に、アレの狙いは俺だって言ってましたけど、なんでそう思ったんですか?」

 

「お主が去ったのち、我らは怪物がそちらへ向かわぬよう立ち回っておったのだが……怪物はしきりにお主を追おうとしたのだ」

 

「私たちが目の前にいるのに、攻撃の手を止めてそっちに行こうとしてたよ」

 

「終いには分裂して、子分どもをお主のいる方へ向かわせ始めた。あれは食い止められんかった」

 

「だから俺が戻った時、あんな近くにいたんですね」

 

「小さいのが何体か森の中にいたと思うけど、戻ってくる時に気づかなかった?」

 

「……それどころじゃなかった」

 

 あの時は一刻も早く二人のもとに戻ることに頭が支配され、周囲に気を配る余裕がなかった。

 

「カンザトって、変なのに狙われるフェロモンでも出してんじゃねーの? 今度調べてやろうか?」

 

「えー……そうなのかな」

 

「真面目に取り合わなくていいわよ。ただの偶然かもしれないし」

 

「捕食者が逃げる獲物を優先的に追いかけようとするのは、自然と言えば自然だよ」

 

 そこで、アリスがぽつりと呟く。

 

「これって『異変』なのかしら」

 

「あー……ぽいっちゃぽいけど、なんか今までのとは違う気がすんだよな。明らかな悪意を感じるっていうか……」

 

「悪意と言えば、それこそ天邪鬼とか怪しくない?」

 

「なるほどな、もっかいシメるか」

 

 カンザトが「本人は否定してた」と言うと、「天邪鬼だから簡単に嘘つくぞ」とのことだった。

 

「なあ魔理沙、鬼人正邪のいそうな場所って分かる?」

 

「んぁ〜……? いやわかんね」

 

「天邪鬼と会うつもりなら、危険だからよしたほうがいいと思うが」

 

「コイツら荷物盗られたんだよ。だから、異変関係なく天邪鬼を探してるんだってさ」

 

 カンザトは緊張の面持ちで霖之助の前に立つ。

 

「森近さん……あの……」

 

「……どうしたんだい。叱られ待ちの子供みたいな顔をしているが」

 

「すみません、せっかく貰った道具を鬼人正邪に盗られちゃったんです」

 

「貰った道具って……ああ、陰陽玉と護符のことか」

 

 申し訳なさに、カンザトは目を伏せながら頷いた。

 

「なに、気にする事はない。あれは既に君にあげたもので、その後を僕がどうこう言う権利は無いし、盗まれてしまったのも君のせいではないんだから謝る必要は無いよ」

 

「はい……」

 

「それより、他にもっと大事な物が入っていたんじゃないか?」

 

 リュックサックの中に入っていたのは、青娥に貰ったマジックアイテム、陰陽玉と護符、服とお金とその他諸々だ。

 

「護符も中にあったのか。なら大丈夫そうだな」

 

「え?」

 

「あの護符には霊夢の神力が込められているから、邪な気を持つ存在を跳ね除けるんだ。故に、その天邪鬼が触れようものなら……」

 

「もしかして、中身に触れないってことですか?」

 

 霖之助は「おそらくね」と肯定した。

 対し、魔理沙が残念そうな顔になる。

 

「でも、それなら用済みってことで捨てられちまうな」

 

「そうとも限らない」

 

「なんでだ?」

 

「天邪鬼が君の鞄を奪った目的はなんだと思う?」

 

「お金……ですかね?」

 

「もしかしてマジックアイテム狙いで盗ったってのか?」

 

 魔理沙の質問が正解だったのだろう。霖之助は深く頷いた。

 

「もちろん金銭も目的の一つかもしれない。だがもし、マジックアイテムという明確な標的があって荷物を狙ったのであれば……」

 

 そこで霖之助は一度言葉を区切り、真剣な眼差しでカンザトを見つめた。

 

「天邪鬼は、もう一度キミの前に姿を現す」

 

「……え」

 

「願ったり叶ったりじゃん。こころ、返り討ちにしてやれよ」

 

「もちろん。怒りの感情に身を任せて、ボッコボコにしてやるぞ」

 

「……たしかに、むしろ好都合か。カバン取り返せるチャンスだもんな」

 

 動揺する自分とは反対にやる気をみなぎらせるこころを見て、前向きに気持ちを切り替える。

 

「大丈夫かしら……その妖怪、異変の元凶なのよね。危なくない?」

 

「アイツもう力失ってるし大丈夫だろ。カンザトなら撃退できる」

 

「魔理沙は鬼人正邪のこと、よく知ってるんだな」

 

「まあ……アイツが起こした異変、解決したの私だし」

 

「え、そうなの?」

 

 横からアリスが、「霊夢もでしょ」と補足した。

 博麗の巫女である霊夢が異変解決に尽力するのは分かるが、魔理沙も貢献したとは思わなかった。

 

「今まで聞いたことなかったけど、鬼人正邪ってどんな異変を起こしたんだ?」

 

「えーっと……道具が変になる異変て言やいいのかな。何の変哲もない普通の道具たちが、いきなり付喪神みたいに勝手に動き出したんだよ」

 

「へー……」

 

「今ショボいって思ったろ」

 

 図星を突かれ、カンザトは言葉に詰まった。まさにその通り、大した実害を感じられず、気のない返事をしてしまったのだ。

 

「それだけなら良かったんだけどな。魔力にあてられたそこらへんの雑魚妖怪どもがイキがりはじめてさー」

 

「あの時は森全体の様子がおかしかったわね。濃い魔力と強い殺気で張り詰めていたわ」

 

「うわ、全然ショボくなかった……」

 

「その原因が鬼人正邪。アイツが打出の小槌の魔力を幻想郷中にバラまいたせいで、妖怪と道具が暴走してたらしい」

 

「打出の小槌……ってもしかして、針妙丸が言ってたやつ?」

 

「そうそれ。使用者の願いを叶える小人族の秘宝だぜ」

 

「なんでそれを鬼人正邪が? 針妙丸から奪ったのか?」

 

 自分のリュックサックと同じように打出の小槌を強奪して、幻想郷全体を危機に晒す──そんな悪事を働いたのだとしたら、どこまでも許せない輩だ。

 

「酷いな。針妙丸の大切な物なのに」

 

「あー……そう、な」

 

「どうした?」

 

「あ、いや別になんでも。……とにかく、その小槌の魔力はもう回収されたから、鬼人正邪は弱くなってるんだ」

 

「そうは言っても、異変を起こすぐらいだし元から強いんだよな?」

 

「天邪鬼は本来、力の弱い妖怪だ。名に鬼と入っているが、本物の鬼のように強靭な膂力を誇るわけでも、何か一芸に秀でているわけでもない」

 

 カンザトの疑問に、霖之助が答えてくれた。そんな弱小妖怪が異変を起こせたのも、打出の小槌が振り撒いた魔力の影響なのだろう。

 

「ならたしかに、いきなり襲われても大丈夫そうか」

 

 そこでふと、カンザトは上着のポケットを探り、中からとある物を取り出す。

 

「森近さん、これ何か分かりますか?」

 

「あら、可愛いお人形さんね」

 

「お主、まだ捨てておらんかったのか」

 

「ポイ捨てはダメかなって……」

 

 カウンター上に出したのは、鬼人正邪が自分の注意を引きつける際に使用した謎の日本人形。

 霖之助はそれをそっと手に取って、しげしげと眺める。

 

「これは……」

 

 彼の細められた黄金の瞳に、鋭利な光が奔った──ような気がした。

 

「これはマジックアイテムだな。だが……少し特殊だ」

 

「ただの人形じゃないのか?」

 

 魔理沙がそう言うと、アリスは霖之助の手にある人形に人差し指を当てた。

 

「不思議な魔力が宿ってるわね」

 

「マジで? どれどれ……」

 

 魔理沙が日本人形をひったくる。

 次の瞬間、両目を見開き叫んだ。

 

「小槌の魔力だ!」

 

 その言葉に、全員が一様に驚いた。

 

「どういうこと? カンザトさん、その人形はどこで手に入れたの?」

 

 アリスに問われ、カンザトは戸惑いながらも事の経緯を伝える。

 

「打出の小槌の魔力は、鬼人正邪から完全に消え去ったわけではないってことかしら」

 

「それか、小槌の魔力が抜け切ってない道具をずっと持ってたってことだけど……どちらにせよ厄介だぜ。こういうのが一つとは限らないからな」

 

「……どうやら一筋縄ではいかないようだね」

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 憂い事が生まれてしまったが、ひとまず報告を続けることにする。

 やはりと言うべきか、その中でも皆の興味を引いたのは、『赤いドレスの少女』と『さとりの能力により断片的に思い出した過去の記憶』であり、合間合間に挟まれる霖之助たちからの質問もそれが中心だった。

 

「ふと思ったんだが……復活した記憶の光景を、カンザトくんが写実してはどうだろう」

 

 薄暮へと移り変わる窓の外を横目に、霖之助がそう提案した。

 

「ああ、いいかもしれないわね。それなら私たちにもカンザトさんの見た光景が伝わるし」

 

「だが、思い出すのも辛い記憶を描き起こすなど、もはや自傷行為に近い。無理にやるものではないが」

 

「いえ……それが手がかりになるなら、やってみます」

 

 強い意志を湛えた顔つきを見て、霖之助は小さく微笑んだ。

 

「家に帰って、落ち着いてからでもやってみてくれ」

 

 日が暮れる前に帰ろうということで、詳細な話し合いは後日とした。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 香霖堂を後にした三人は、行きとは違いゆったりとした足取りで人里を目指す。しばらく歩き、夕空の下に佇む馴染みの街並みを視界に捉えた。

 

「帰ってきたな」

 

「うー、足が棒になりそうだぞ」

 

「うはは、修行が足らんのう」

 

「なにおう」

 

 三人は空を飛ばずに、徒歩で人里前まで戻ってきた。あとは帰るだけなので、ひとっ飛びに帰ってもよかったのだが……

 

「でも、楽しかったな」

 

 これまでの旅路も──

 

「この帰り道も」

 

 カンザトは遠くを見つめ、どこか清々しい声色で言う。その横顔を見て、こころと布都はつられるように同じ景色へ視線をやった。

 

 そっと、こころが口を開く。

 

「わたし、この旅でたくさんの感情を学べた。楽しいものばかりじゃなかったけど……多分、ひとつでも欠いたら、わたしの目指す場所から遠のいてしまう、大切な経験だったと思う。だから──」

 

 カンザトが右へ顔を向けると、桜色の瞳が自分を見つめていた。

 

「あなたについて来てよかった」

 

 相変わらずの無表情。

 だが、カンザトは理解していた。彼女が心の底から己に共感し、微笑んでいるのだと。

 

「まあなんだ……その……」

 

 反対を向くと、布都のなんとも言えない表情があった。素直に共感できないほど苦難が多かった、それでもたしかに──という複雑な表情だ。

 

「我も、悪くない旅だったと思う」

 

 頬に淡く朱が差しているように見えたのは、夕焼けのせいではなさそうだ。

 

「……あのような怪物と戦うのは、二度とごめんだがな!」

 

 すぐに不機嫌そうな顔つきになった布都を見て、カンザトは思わず吹き出した。

 

「それは俺も同意見ですね」

 

 

 長旅を通じて、布都のことを理解できた気がする……

 

 

 再び人里の町並みを見つめる。一日の終わりが近づき、ぽつぽつと小さな明かりが灯り始めていた。

 

「トラウマを思い出して寝込んでた時、さとりさんは俺がまた立ち上がることを信じてくれてたみたいだけど……たぶん独りじゃ、落ち込むだけで終わってた」

 

 独りでは見られなかった景色がある。今目の前に広がる美しい夕焼けも、そのうちのひとつだろう。

 

「俺が立ち上がれたのは、こころと布都さんの──みんなのおかげだ」

 

 皆の想いと、背を押す言葉。それらが無ければ、自分は今ここに立っていないだろう。

 

 だから──

 

「ありがとう」

 

 彼方へ広がる雲を見上げて、すうっと息を吸い込む。冷気が鼻を通ると、微かに春の香りがした。

 

 長きにわたる旅路が、ひとつの区切りを迎える。

 

 幻想郷の冬が、去っていく。





●コミュランクup
『法王』物部布都:ランク6→7

これにて地底編終了。ここまで読んでくれた皆様、ありがとうございました。また、お気に入り、感想、ここすきなどしてくれた方々、大変励みになりました。本当にありがとうございます。<(_ _)>
次回からコミュニティ編スタートです。


以下、ただの宣伝
先日、リスペクト元の幻想入り作品が更新されたので、まだの方は是非チェックをお願いします。画面がリバイバル仕様で感動しますよ。

ペルソナ〜トリニティ・ソウル〜は

  • 全話視聴済
  • 途中まで視聴
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