PERSONA-trinity heart-   作:善い思考

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1話の後書きで、幻想郷各地でコミュを結ぶと書きましたが、かなり人里周辺に寄ってます。



正義の小人姫と月下の飛頭蛮

 人里で住み始めてから1週間が経過した。

 最初の頃は現代日本との生活の違いにかなり戸惑ったが、外での記憶が無いこともあってか、1週間が経つ頃には慣れてきていた。

 最も大変だったのがインフラの有無だ。ガスが無く、火を起こすとなると炭や油を燃やすしかない。ガスコンロか電気コンロしか使ったことがないカンザトは近隣住民に力を貸してもらい、悪戦苦闘しながらどうにか熱源を確保した。

 また、料理をする際は、簡単なレシピは分かるが経験が無いため、全て手探りで作った結果、不味いとは言い切れないが美味しいとも言い難い微妙なものが出来上がったり……

 カンザトは、何をするにも記憶が無いというのは不便だと痛感した。記憶があったところで文明レベルのギャップに対応出来るかは不明だが。

 

 最低限の生活基盤は整ったので、いよいよ人里周辺を散策しつつ鍛錬を始めようかと思ったが、周辺情報が一切分からないことに気づいた。そのため、報告も兼ねて再度博麗神社に赴き、霊夢を訪ねることにした。

 

 

「博麗さーん! ごめんくださーい」

 

 以前話をした玄関前に立ち声をかけるも、返答は無い。

 どこかに出かけているなら待っていようかと逡巡するも、巫女の仕事内容が一切分からず、待機していれば戻ってくるのかも分からないため、日を改めることにした。

 踵を返し来た道を戻ろうとすると……

 

「おーい、そこの貴方」

 

 どこか遠くから微かに声が聞こえてきた。

 耳をすませたが、秋風でざわめく木の葉の音が聞こえるのみ。空耳かと思い歩みを再開する。

 

「待って待って! 霊夢に用があるんでしょ? 本殿に来て!」

 

 またどこかから声が聞こえた。声の主は霊夢を知っているようで、怪しいと思いつつも言われた場所に向かう。

 しかし、そこには誰もおらず、本殿の縁に籠と木槌のような物が置いてあるだけだった。

 

「誰もいない……」

 

「ちょっと! 私はここよ!」

 

「ん?」

 

 先程よりハッキリ聞こえるようになった声の方に目線を向け、籠の横をよくよく見ると、そこには朱色の着物を着た極小の人間がいた。青紫色の髪を揺らしながら、あげた腕を左右に振って存在をアピールしている。

 その姿を見たまま言葉にするならば、正に「小人」であった。神話であれば妖精やコロポックルの類かもしれない。

 

「ち、小さい……」

 

「元はこんなに小さくないのよ! 色々あって縮んじゃった」

 

「はぁ……それでキミは誰?」

 

「私の名前は少名針妙丸(すくなしんみょうまる)! 見ての通り小人よ」

 

カンザトの予想通り小人だった。幻想郷には小人もいるのかと驚いていると、針妙丸と名乗った極小の少女は言葉を続けた。

 

「ねぇ、貴方にお願いがあるんだけど……私を人里に連れてってくれない?」

 

「キミを? 何で?」

 

「私、見ての通り小さいから人里に行きたくてもひとりじゃ行けないのよ。で、困ってたところに、貴方の声が聞こえてきたから声をかけたってわけ」

 

「なるほど……でも霊夢は?」

 

「霊夢なら人里に行ったわ。探しに行く意味でも、丁度いいでしょう?」

 

 少し思案する。この後の予定を考え、特に予定もなければ断る理由もない、とすぐに結論は出た。

 

「分かった。つれてくよ」

 

「ホント!?ありがとう!あなたの名前は?」

 

「俺は……カンザトっていうんだ。よろしく」

 

「よろしく、カンザト! 移動する時は何処かに入れさせてもらうわ」

 

「里には何の用なの?」

 

「ただの買い物よ。じゃ、行きましょ!」

 

 小人族の少女、少名針妙丸を人里へ連れていくことになった。もし落ちたりしてもすぐに気づけるという理由で、コートの胸ポケットに入ってもらうことにした。

 

 ・

 ・

 ・

 

「へぇー、貴方外来人だったのね」

 

「まぁ……たぶん」

 

「多分って何よ」

 

「実は記憶が無くて。無縁塚で倒れてるところを森近さんに助けてもらったんだ」

 

「記憶が無い!? はぁー……それは大変ねぇ」

 

「それで博麗さんに記憶を取り戻す手がかりを教えてもらったんだ」

 

「たしかに霊夢なら色々知ってそう」

 

 身の上話をしながら歩いていると、あっという間に人里に着いた。気ままな一人旅もいいが、誰か話し相手がいた方が楽しいとカンザトは思った。

 里はいつも通り賑わっており、人々の活気で満ち溢れていた。小人は幻想郷でも珍しい存在のようで、針妙丸はあまり目立たないように胸ポケットの奥に潜り込んだ。

 針妙丸が指定した店を回り、目当ての物を購入していく。勿論、針妙丸が外に出てきて支払う訳にはいかないので、カンザトが立て替えている。

 

 何軒目かの裁縫道具の店を退店した時、突然針妙丸が胸ポケットから上半身を乗り出した。

 

「どうした?」

 

「カンザト……あいつ」

 

 針妙丸がどこかを指さす。指し示した方を見ると、赤いマントを身にまとい、頭に大きな青紫色のリボンをつけた赤髪の女性がいた。和服が一般的な里では珍しい、洋服を着た存在に目を引かれた。

 

「たしかに、珍しい格好してるな……」

 

「そうじゃなくて! アイツ多分妖怪よ!」

 

「えっ!?」

 

 カンザトがもう一度目を向けると、その人物は人混みを抜けて路地裏に入っていくところだった。

 

「追いかけましょ!」

 

「え、追いかけてどうすんのさ?」

 

「いいから!」

 

「えぇー……危ないよ」

 

 追いかけてもし戦闘になったら困るのだが……と思ったが、針妙丸に押し切られて後を追う。

 相手は走っていた様子はなく、すぐに追いついた。改めて見ても、カンザトにはその者が妖怪だと分からなかった。

 

「ちょっとそこの貴方! 妖怪が人里で何してるのよ!」

 

 カンザトがどう動くべきか悩んでいると、針妙丸が躊躇することなく声をかけてしまった。

 

 後ろから突然妖怪呼ばわりされたその者は、針妙丸の声に気づきこちらを振り向いた。

 遠くからでは気づかなかったが、口を覆うほどのオーバーサイズのマントの中には黒い上着を着ており、下は緋色のスカートを履いている。さらに黒いブーツを履いており、人里では目立ちそうな全身西洋服だった。

 瞳は赤色で、こちらを怪訝そうに見つめる鋭い目つきが印象的だった。

 

「何アンタ、私に何か用?」

 

「……あ、いや、用があるのは俺じゃなくて」

 

「こらー! 妖怪がこんなところで何してるのって聞いてんのー!」

 

 針妙丸が胸ポケットから勢いよく飛び出す。カンザトは地面に落ちる前に慌ててキャッチした。

 

「え、小人? 何で私が妖怪だって……」

 

「貴方から小槌の魔力の残滓を感じたからよ! 所有者である私の目は誤魔化せないわ!」

 

「小槌の魔力……? まさか、以前私に宿った謎の魔力のことか!」

 

 カンザトは、小槌の魔力とは何ぞや、と疑問に思ったが、今口を出すと話がややこしくなりそうなので黙っておいた。

 

「そうよ! 貴方は小槌の魔力で暴走した妖怪でしょ! 人里に潜伏して何を企てている!」

 

「……別に何も。私は里で静かに暮らしているだけで何も企んでなんかいないわ。魔力にあてられて暴れてしまったのも不本意よ」

 

「そんな話信じられるとでも?」

 

「里で暴れたりしたらすぐに巫女が飛んできて成敗されるし……他の妖怪も黙ってないでしょ。私はそこまで命知らずじゃないわ」

 

「それは……ぬぐぅ……」

 

 カンザトは詳細は分からずとも、なんとなく話の流れが理解出来た。

 針妙丸は、目の前の妖怪が人里に潜伏し何か悪巧みをしていると踏んで詰め寄ったが、妖怪少女は、そんな企みは無いし実行出来るわけが無いと否定した。

 つまり早とちりだったわけで、針妙丸はそれ以上何も言えなくなっている。

 

「疑いは晴れたかしら? それにしても、普通の人間にバレちゃうなんて……」

 

 妖怪少女はカンザトを値踏みするようにジッと見つめてきたかと思うと、ゆっくりと近づいてきた。

 

「な、なんですか?」

 

「アンタ、私のこと周りに黙っててくれない?」

 

「妖怪がいることを秘密にしろってことですか?」

 

「そう。代わりに何か困り事があれば助けてあげてもいいわ。妖怪にしか知り得ないことって、意外とあるのよ」

 

「はぁ、別にいいですけど……」

 

「取引成立、ね。私の名は赤蛮奇(せきばんき)。アンタは?」

 

「……カンザトです」

 

「カンザトね。私はただ平穏に暮らしたいだけなの。くれぐれも内密にしてちょうだい」

 

 突き刺すような鋭い視線を向けられ、たじろいでいるうちに、あれよあれよと話を進められて、何故か妖怪の協力者ができてしまった。展開が早いというか……気のせいかもしれないが、彼女は何か焦っているような気がする。

 

 赤マントの妖怪少女、赤蛮奇に存在を口外しないよう言いつけられた……

 

 

「!」

 

 

 

 我は汝…汝は我…

 

 汝、新たなる絆を見出したり…

 

 絆は即ち、まことを知る一歩なり。

 

 汝、『月』のペルソナを生み出せし時、

 

 我ら、更なる力の祝福を与えん…

 

 

 

 ……………

 

「ちょ、ちょっとー! 何勝手に話進めてるのよ!」

 

「アンタには関係ないでしょ、小人ちゃん」

 

「ないけど! カンザトを誑かそうとしてるようにしか思えないわ!」

 

「それが妖怪の本分ってもんでしょ。今はそういうつもりないけど」

 

「やっぱり信用できないわー!」

 

 ・

 ・

 ・

 

 赤蛮奇と別れたカンザトは、目当ての物を購入出来たため博麗神社に戻ってきた。

 本殿の縁に腰を下ろす。

 

「カンザト、妖怪の言うことをあまり信じちゃダメよ」

 

「え?あぁうん……」

 

「妖怪は人間を騙してなんぼなんだから!」

 

「もしかして、経験則?」

 

「うっ……と、とにかく妖怪ってのはそういうものなの」

 

 針妙丸は赤蛮奇のことが気がかりのようだ。過去に妖怪に騙された経験でもあるのかもしれない。

 だが、こうして出会ったばかりの人間に良心で忠告してくれるあたり、正義感が強いのだろう。その正義感からくる発言なのかもしれない。

 カンザトがそう考えていると、針妙丸はパッと表情を明るくしてこちらに顔を向けた。

 

「それにしても連れてってくれて助かったわ! ありがとう、カンザト」

 

「いえいえ、これぐらいならいつでもいいよ」

 

「ホント? それじゃあお言葉に甘えて、里に用があるときはまた頼むわね!」

 

 小人の少女、少名針妙丸と知り合った……

 

 

「!」

 

 

 

 我は汝…汝は我…

 

 汝、新たなる絆を見出したり…

 

 絆は即ち、まことを知る一歩なり。

 

 汝、『正義』のペルソナを生み出せし時、

 

 我ら、更なる力の祝福を与えん…

 

 

 

 ……………

 

「そういえば、何の用で買い物したんだ?」

 

「霊夢に日頃の感謝を込めて着物を贈るの。その材料!」

 

「へぇー、いいね」

 

「でしょ? 針の扱いは得意なのよ」

 

 針妙丸が、見てる者も元気になるような快活な笑顔を見せる。

 その体躯で普通の人間サイズの着物を作るのか? という疑問が湧いたが、きっと全身を使い巧みな技術で仕立てるのだろうと思い、口には出さなかった。

 結局この日、霊夢とは会えなかったが、不思議な縁が2つ結ばれたのだった。




幻想郷のインフラ整備が分からないのでとりあえずガスは無いことにしました。電気と水道は状況に応じて生やすかもしれません。
針妙丸の言っている「贈り物」は、東方鈴奈庵2巻読切のやつ。

●解放されたコミュ
『正義』少名 針妙丸:ランク1
『月』赤蛮奇:ランク1

ペルソナ〜トリニティ・ソウル〜は

  • 全話視聴済
  • 途中まで視聴
  • 未視聴
  • 存在を知らない
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