艦隊これくしょん ストレンジリアル軍艦艦娘転生海戦譜season2   作:岩波命自

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BF6楽しいー! って思ってたら投稿し忘れるところでした。

追記F〇CK! ウィスキー島に取り残された一航戦と、ショートランド泊地から脱出する一航戦の二つがある事に気が付いたので、二航戦に書き替えました。誤設定申し訳ない


第一〇話 新たなる翼

 ショートランド泊地壊滅から一か月が過ぎ、世界はその年最後の月を迎えた。

 壊滅したショートランド泊地に代わって、基地機能の移転が行われたラバウル泊地には、多数の艦娘や軍将兵、資材、物資が集積され、ショートランド泊地に代わる新たな一大基地として機能を開始していた。第八方面軍も司令部機能をラバウルに移し、現在のショートランド泊地には泊地機能の復旧に当たる工兵部隊と警備部隊以外、艦娘艦隊すら駐屯していなかった。

 ラバウル泊地に滞りなく基地機能を移転出来たのは良かったが、問題は別に発生している。深海棲艦との戦争の前線基地を形成するウィスキー島までの物資経由地であったショートランド泊地が失われた事で、補給線は伸び切り、ウィスキー島守備隊と同島に展開する第八艦隊隷下の艦娘艦隊は補給が滞り、慢性的な物資不足に陥っている。特にウィスキー島に前線配備していた大和型戦艦艦娘の大和と武蔵、アイオワ級戦艦艦娘のアイオワ、ノースカロライナ級戦艦艦娘ワシントン、サウスダコタ級戦艦艦娘サウスダコタ、マサチューセッツ、正規空母蒼龍、飛龍と言った大型艦娘は燃料不足により積極的な活動が大幅に制限され、艤装を外して基地業務の補佐を行う意外にする事が無い。

 無論、ウィスキー島への補給は維持する努力が行われているが、一週間前には補給物資を満載し、護衛の艦娘と共にウィスキー島へ向かっていた揚陸艦「ハリスバーグ」が、三日前にはやはり護衛の艦娘と共にウィスキー島へ補給物資を満載して向かっていた揚陸艦「四明山」が、深海棲艦の空母艦載機部隊の空爆により大きな損傷を被り、ラバウル泊地へと引き返している。

 随伴護衛艦娘は第六戦隊第二小隊の重巡艦娘古鷹、衣笠、護衛空母艦娘として大鷹、雲鷹、神鷹等があてがわれているが、護衛空母艦娘の航空戦力では対抗しえない正規空母、軽空母戦力を通商破壊に投入して来る深海棲艦を前に、護衛艦娘がどれだけ努力を重ねても、輸送艦への被弾を許してしまっている。護衛空母艦娘は主に対潜戦を重視していたから、迎撃機たる戦闘機が旧式の九六式艦上戦闘機改止まりだった事が敗因の一つである事も否めない。

 その為、統合軍はウィスキー島への補給を輸送機に依存しているが、ウィスキー島に整備出来た飛行場では余り大型の輸送機は離着陸出来ず、また飛行場の規模の問題からC-17輸送機が二機並ぶのが精一杯なので、多数の輸送機によるピストン輸送を捌ききれない問題もある。必然的に小ぶりなC-130輸送機による空輸が主体となり、補給物資の供給量は輸送艦一隻で運ぶよりも大幅に低下している。

 輸送機で運ばれる物資は航空燃料、食料、その他備品、弾薬と量数が限定される事もあり、大量の艦娘用燃料を消費する大型艦娘の艤装を自在に動かせる潤沢な燃料の供給が全く出来ていない状況だった。そう、細くなる補給線を前に、最前線で人類が誇る最強火力の戦艦艦娘が戦う以前に飢えようとしていたのだ。

 この為、一時戦線の後退が第八方面軍から艦隊総軍を始めとする統合軍参謀本部に提案されていたが、深海棲艦の反攻作戦を危惧する軍上層部が二つ返事で了承する筈も無く、前線部隊と後方の司令部とで生まれる溝を境に協議は難航していた。

 

 

 艤装を動かす為の燃料と言う概念の枷がないケストレルとウミェールイは、ラバウル泊地の近海で香取型姉妹や一六戦隊等の艦娘達と共に、慣熟訓練に明け暮れる日々を送っていた。既に艦娘としての練度が完成しかけていたケストレルは充分な練度が達成されており、ウミェールイもまた猛特訓の末一端の艦娘としての形が出来上がりつつあった。

 空母艦娘であるケストレル自身の艦娘としての練度の完成度は、既存の空母艦娘の練度の完成よりも勝手が大きく違う所はある。弓矢系や銃器を模した航空艤装で撃ち出す既存の空母艦娘と違い、ケストレルの航空艤装はそれらと比べて遥かに優れた発艦能力を備える蒸気カタパルトが四基あり、フル装備の景雲改や橘花改すら余裕で制動をかけられる油圧式アレスティングワイヤーを備え、更に発着艦を同時にこなせるアングルドデッキと言う現世の空母艦娘からすればオーパーツと言っていい航空艤装だらけなのだ。空母艦娘らしく、自ら深海棲艦と撃ち合う様な火器艤装は無いものの、CIWSと短SAMを備えている分、秋月型一人よりも遥かに優れた個艦防空能力を発揮出来る。

 ウミェールイはケストレルと違い、純粋な水上戦闘艦娘であるが、砲撃戦の火力は駆逐艦並みであり、主砲砲戦に限れば決して強いとは言えない。だが彼女の真価はその大きな艤装内に埋め込まれたVLSに装填された大量の誘導兵器にあった。戦艦の分厚い装甲すら貫く艦対艦ミサイル、優れた機動力を持つ深海艦載機群を捉えた獲物を必ず仕留めるグングニルの様な艦対空ミサイルがある。艦対艦ミサイルを用いれば、戦艦並みの火力を、艦対空ミサイルを用いれば防空艦娘以上の戦いをする事が出来た。

 一つ、二人の運用において問題がるとすれば、ケストレルはその格納庫内にあった艦載機の復元と、それに対応した航空妖精の育成の遅れ、ウミェールイは主兵装である誘導弾の補充問題だったが、少なくともウミェールイに関しては解決の目途がついている。二人がストレンジリアル世界から現世へと来る前に、既に転生して来ていた戦艦艦娘タナガーが運用していた艦対艦ミサイルと艦対艦巡航ミサイルのミサイル技術の解析、それらを参考に艦娘サイズへの誘導弾の小型化、量産の目途が立ち、ウミェールイの使用された艦対艦ミサイルと艦対空ミサイルのVLSの内、艦対空ミサイルVLSには新しいミサイルが既に補充されていた。戦艦艦娘タナガーは失われてしまったが、彼女がこの世界に持ち込んだ技術的遺産は受け継がれていた。

 最もウミェールイの艦対艦ミサイルとタナガーの艦対艦ミサイルは仕様が違うので、タナガーへの補充用として製造されていた艦対艦ミサイルはケストレルの自衛用と言う名目で装備され、この結果ケストレルは純然たる空母艦娘でありながら艦対艦ミサイルを備えた「ケストレル改」としての改装を施された。一方ウミェールイの艦対艦ミサイルに関しては艦娘の艤装、装備、弾薬の製造開発を担う、ノース・オーシャン・ファウンダー・インダストリー社に新たな製造ラインを設ける事で対応されていた。

 

 

 黄色いジャージと緑のヘルメットを着用した発艦士官妖精が身を屈め、左腕を伸ばし、甲板にタッチしてから艦首方向へと真っ直ぐ指し示すポーズを取ると、それを確認した緑ジャージ、緑ヘルメットのカタパルト妖精が射出ボタンを押した。

 ケストレルの大柄な身体の左側に展開されている大きな航空艤装上でスチームカタパルトの作動音が響き、カタパルトのシャトルに接続されたブライドルワイヤーに引っ張られる形で橘花改が射出されていく。瞬時に時速二六〇キロ程にまで加速された橘花改が甲板を離れ、空を掴むと天空へと吸い上げられるようにジェット戦闘機は上昇して行った。

「ヴァイパー1、Good shot (発艦よし)」

 エアボス妖精の乾いた報告に、ケストレルは制帽をジェット機の噴射で吹き飛ばされない様に抑えながら無言で頷く。

「ヴァイパー2、最終アプローチを終える。残り三六〇メートル。フックダウンを確認、進入角良し、進入速度良し、ボールをコールせよ」

 首を回して自身の右舷後方から左舷前方へ向けて進入して来る橘花改を視界に収める。着艦フック、フラップ、ギアを下した橘花改が、エンジン音の金切り声を徐々に近づけながら、ふらりふらりと失速寸前の機体を巧みに操り、進入して来る。その二基のジェットエンジンの音が極限まで高まったかと思った瞬間、主脚が甲板を叩き、尾部のフックがアレスティングワイヤーを捉える。ワイヤーによって急制動をかけられた橘花改は、万一ワイヤーが切れた時の着艦復行(ボルタ―)、やり直しに備えてエンジン出力を最大にするが、フックが捉えたワイヤーでがっちりと制動されている橘花改はアングルドデッキの先端から飛び出す事は無く、瞬時にコックピットの航空妖精はスロットルを引き絞り、出力を落とす。

 ペッと吐き出すように外れたワイヤーを緑のジャージとヘルメットのフックランナーが戻しにかかる中、黄色のジャージとヘルメットの誘導員が駐機場所へと橘花改を誘導していく。

 ケストレルは再度視線を艦首側に向ける。艦首の二番カタパルトにはヴァイパー1の僚機を務めるヴァイパー3が射出準備を終えていた。発艦士官が片腕をかざして手首を振ってヴァイパー3の橘花改に出力を上げろのハンドサインを送り、もう片方の腕で射出要員の退避確認、艦首方向の安全確認、各方向の安全確認を指さしで行う。バレエダンサーの演技の様なそれらが終わると、優雅に身体を屈めて、右腕を伸ばし、右手を甲板に触れ、次いで艦首方向へと突き出す。

 がくりと一瞬揺れながら、ヴァイパー3がカタパルトによって打ち出され、最大速度で風上へ向かって進むケストレルを瞬く間に後に追いやって、空へと昇って行く。

「賑やかね」

 甲板に並ぶ多数の橘花改、景雲改と航空妖精、装備妖精を眺めながら、ケストレルは愛おしそうに呟く。自分がストレンジリアル世界の艦艇だった頃、甲板を埋め尽くすほどの艦載機は、出撃の度に櫛の歯が欠けたように必ず何機かが帰って来る事は無く、次第に空きが目立つようになっていくのが常套だった。無論、作戦期間外の平時ではその様な事は無かったけれど、自分がセレス海に没する直前のあの日など、甲板に並んでいたのは四機の戦闘機と退艦する乗員を載せた数機のヘリコプターくらいであり、非常に閑散としていた物だった。

 この世界でもまた帰って来ない機体が出る辛みに耐える日が来るのか。それとも全機が常に帰還する喜びの日々が続くのか。願わくは、後者の喜びとそれに裏打ちされた勇悦を望みたいところではある。

 ヴァイパー3の機影が遠くなっていく中、ケストレルは視線を左に向ける。並走するウミェールイの長身がすぐそこにあった。艦隊は現在、ケストレルとウミェールイを中心に、前方を青葉、右翼を天霧と狭霧、左翼に浦波と敷波、後衛に鬼怒と一六戦隊を中核とした艦娘を配置した輪形陣を組んでいた。

二人のストレンジリアル世界艦娘と一六戦隊による艦隊運動演習はこれと言った文句のないまま、所定の行動を消化しつつある。先導艦の青葉の一斉回頭号令が下るや、八人の背中側へと延びる白い航跡が綺麗に、揃って曲がり、隊列を一センチとずらさない。

「お互い、ブランクはない様ね」

「まあ沈んだのは、互いについ昨日の事の様な話ですから」

 苦笑交じりにウミェールイはケストレルに返す。メンタルが回復して、既に松井医師も日常生活に支障なしと判断を下している。ただ、いつぶり返すか分からないので、ウミェールイとはチーム、エレメントを組む関係になっている都合上、傍にいるケストレルが見守ってあげて欲しい、と松井は言っていた。

 

 轟、というジェットエンジンの音を響かせて空を過る橘花改の機影を見上げながら、青葉は人知れずに溜息を漏らした。

「空は誰よりも速く、誰よりも高く飛んだ者の世界なのかな……」

 自分は飛行機に乗って移動する時を除けば、一生海と地面を這って戦う存在か。そう思うと青葉も、自身の頭上の世界、空への憧憬の念が浮かんで来る。天空と言う世界は人を魅了する世界なのだろうか。そんな誰もを魅了する世界をこの目で経験してみたいものだ。座席に乗って他人が操縦する機体に揺られるのではなく、青葉自身が操縦桿を握って空を舞ってみたい、という願望に似た思いが浮かび上がる。

「艦娘を退役する時が来たら、転職先はパイロットにでもしようかしら……」

≪何か言ったぁ?≫

 つい無線のチャンネルを開いたままのが聞こえていたらしい鬼怒が、袖を引く様に青葉の意識を海上へ引き戻した。

 

 

「対空戦闘用意!」

 船団護衛部隊旗艦を務める古鷹から対空迎撃に備えの号令が下る。五分程前、深海棲艦の艦上偵察機の触接を受け、護衛空母雲鷹から九六式艦上戦闘機改に代わって配備された紫電改四艦上戦闘機四機がスクランブルして迎撃に上がったものの、エンゲージに至る前に艦偵は高度を上げて遁走していた。

 船団は重巡艦娘古鷹を旗艦に、同衣笠、軽巡艦娘五十鈴、駆逐艦娘桃、梅、杉、榧、そして雲鷹からなり、ウィスキー島への輸送任務に就く揚陸艦「王指山」を護衛していた。修理中の「四明山」の同型艦の071型ドック型揚陸艦で、艦首には五星紅旗ではなく、「UN」の旗がはためいている。統合軍の軍艦旗は現状国連軍時代のモノをそのまま使い続けているので、青地に白文字で「UN」と書かれた国連軍の旗が現在でも運用されている。

 護衛の艦娘達が対空戦闘の構えをとる中、「王指山」でも、警報が鳴り、乗員が艦内通路を駆け、水密扉を閉鎖しながら各自の持ち場へとついて行く。かつての中華人民共和国人民解放海軍(PLAN)時代から「王指山」に乗り込むベテラン乗員達の配備が完了すると、各兵装の火器管制にも火が入る。旧東側陣営の軍艦らしく、一三〇ミリ単装砲と三〇ミリCIWS四基と揚陸艦にしては中々な重武装の同艦だ。

 後方のストーンヘッドから事務的なオペレートが入る。

≪方位040へ敵偵察機遁走。追撃は困難、迎撃隊は随時船団上空へ戻り、戦闘空中哨戒に当たれ≫

「逃げ足の速い偵察機ね……」

 危機感と苛立ちを交えながら古鷹は呟く。船団の位置を報告された筈だから、十数分後には艦上攻撃機がわらわらと群がって来るだろう。そうなる前に雲鷹からは紫電改四の増援機の発艦が続けられている。旧式の九六式艦上戦闘機改よりも優れた空戦能力を持つ紫電改四であれば、これまでの様な酷い目には遭わずに済むだろう。過去二回の船団への空襲による輸送作戦失敗により、護衛空母の対潜哨戒機の定数を削減する代わりに戦闘機の搭載定数を増やしているから、今度は防げるかもしれないと言う自身が古鷹達にはあった。

「方位040度に逃げたって事は、そっちから敵の攻撃隊は来るかな」

概ね北東に去った偵察機の方角に母艦が居るのであれば同方位から敵機群は来るはずだ。ストーンヘッドと言う早期警戒機によって誘導された紫電改四戦闘機隊が事前に待ち伏せを仕掛けられれば、あとは松型姉妹と五十鈴の、そして「王指山」の対空射撃で対応出来るかも知れない。

「王指山」と雲鷹を中心に、先頭に衣笠、五十鈴、後衛に古鷹、右翼に桃、梅、左翼に杉、榧を配置した輪形陣を組む一同に、程なくストーンヘッドから敵機来襲の知らせが入る。

≪レーダーコンタクト。方位040より不明機接近。SIFコード反応なし。機速、約七〇〇キロ、機数二四≫

「時速七〇〇キロって、幾らなんでも速過ぎない?」

 輪形陣の先陣を切る衣笠が怪訝な声を上げる。高角砲を構える五十鈴も何かおかしいと言う表情を浮かべて空を睨む。

「新型機……?」

 古鷹の脳裏に嫌な予感が過る。

 程なく不明機は深海艦載機群とは異なる音を鳴らしながら、遠方の空に黒点の群れを浮かび上がらせた。空を鳴動させ、五臓六腑を震わせに来る轟音を鳴らしながら接近する航空機群に、紫電改四の編隊は瞬く間に、一発も撃つ事なく突破された。想定以上の相対速度ですれ違った敵機群を追跡しようと、紫電改四隊が続々と反転し追撃するが、瞬く間にその距離は離れていく。

「左対空戦闘、トラックナンバー3001、主砲、撃ちー方始めぇッ!」

 右腕で構える二基の二〇・三センチ連装主砲二号砲に三式弾を込め、射撃開始の号令を古鷹は叫ぶ。

 急激に黒点から、シルエットを明瞭にし始める機影に古鷹は引き金を引き絞った後に、右目と左の義眼で追いながら胸の内側で呻く。速い!

 古鷹の射撃号令と共に発射された三式弾は、合わせて射撃を開始した衣笠の三式弾と合わせて近接する機影に向かって飛翔し、遭遇した事のない速さで飛ぶ新型機の遥か後ろで、無意味な炸裂を起こして、空を硝煙で汚す。

「照尺している暇はないわ、各艦、撃ちまくって!」

 五十鈴が叫び、彼女の高角砲、機銃が一斉に弾幕を打ち上げる。桃、梅、杉、榧からも主砲となる高角砲と機銃の射撃が打ち上げられ、それに遅れて古鷹、衣笠の機銃座も射撃を始める。早口で発射される機銃弾の発射数を数えられそうな低発射速度の対空機銃の射撃音が響き、それに交じって小太鼓を叩くような砲声を轟かせて五十鈴と松型姉妹四人の高角砲が対空弾を撃ち上げる。

 不明機二四機は耳を塞ぎたくなるような轟音を鳴らしながら一直線に「王指山」へ突撃していく。ちらりと古鷹の目に見えた胴体の腹部には、深海艦載機群で運用されている航空爆弾らしきものが抱えられていた。

「王指山」の左舷艦首側CIWSが射撃を開始する。猛牛の唸り声を思わせる間断の無い一つの音となって響き渡る射撃音と共に、赤い曳光弾で出来た鞭が虚空をしなり、接近する不明機群の鼻先を薙ぎ払う。全自動照準のCIWSの射撃管制レーダーは、小さすぎる不明機のレーダー反射波に正確な照準を合わせられず、辛うじて映ったエコーを頼りに手動照準で弾幕を張っていた。

 艦娘の機銃とは桁違いな弾丸の投射量に一瞬、不明機群は怯むが、照準が正確でないと分かると姿勢を整え、突入隊形を維持する。

 

「深海棲艦の自爆ドローンか?」

 外部カメラの映す映像を見て「王指山」の戦術士官が呟いた時、不明機は次々に胴体下に抱えていた航空爆弾を解き放ち、揚陸艦の頭上を飛び抜けて行く。

「CICよりブリッジ、左舷、衝撃に備え!」

 戦術士官がヘッドセットを掴んで叫んだ直後、CICの頭上の左舷側に鈍い衝突音が複数回鳴り響いた。一瞬、誰もが不発かと疑った時、「王指山」の左舷測を貫いた八発の爆弾が遅動信管を作動させて炸裂した。

八つの爆炎が破孔から噴き出し、艦内にめり込んで起爆した航空爆弾が「王指山」の内側から破壊の嵐を振るっていく。レーダーアレイとCIWSが吹き飛んだ上部構造物ごと宙を舞い、〇四甲板から第三甲板にかけての広い範囲で「王指山」の艦体は破壊された。左舷測の被弾痕付近にいた乗員は押し寄せた音速を超える衝撃波と爆炎に身体を引き裂かれ、或いは砕かれ、吹き飛んだ破片やひしゃげ、崩れた隔壁や天井の下敷きになって死んでいった。

「王指山」へ爆撃を敢行した一二機中、八機が航空爆弾を叩き付け、無視出来ない損害を与える中、もう一隊の一二機が、四機ずつの三個編隊に分かれて、「王指山」の護衛に当たっていた艦娘に襲い掛かった。

 

「クソが! あたしらも血祭りにあげる気か!」

 杉が喚き声を上げながら高角砲を放つ。護衛の艦娘を狙う不明機、いや新型機は的の大きな「王指山」と違って、狙いの小さい艦娘相手には減速せざるを得なかったのだろうか、減速をかけて比較的遅めの機速で爆撃に移る。遅めと言っても、既存の深海艦載機群と比べれば十分速い。

 新型機の狙いは明確だった。大型艦を集中的に狙って来ていたのだ。キーンと言う推進音を響かせ、雲鷹、五十鈴、衣笠へ向けて新型機は爆撃コースに乗る。

「敵機、三群に分かれ向かって来る!」

 艦対空噴進砲の発射音に負けない声で雲鷹が叫ぶ。

 推進装置のものらしき轟音を響かせながら、爆弾を投下した新型機がフルスロットルへと加速した音を瞬間的に鳴らし、撃ち上げられて来る対空砲火を意に介さず次々に離脱に入っていく。

「挨拶の一つくらいしていきなさいよ!」

 護衛対象がやられたと言うのと、耳を塞ぎたくなるような轟音が癪に障った衣笠が飛び去る機影を見つめながら恨めし気に喚いた時、彼女は背後から迫る殺気に顔面を凍り付かせた。

「危ない!」

 五十鈴の警告が飛んだ時、その五十鈴の艤装に二発の爆弾が直撃し、大容量の炸薬の炸裂の火焔と黒煙を噴き上げた。同じ業火が衣笠を襲う直前、彼女の脳裏を過ったのは、「このミスを聞いたら青葉に笑われるかな……」と言う心配だった。

 二度の爆発音と紅蓮の炎と共に、衣笠の手持ちの主砲が宙を舞った。

 

 

 泊地の食堂からは緊急出港していく艦娘達の姿が見えた。負傷離脱から復帰したばかりの愛鷹を先頭に大峰、利根、矢矧、涼波、藤波の六人がいそいそとシンプソン湾を南下していくのが見えた。沖合には艦娘母艦「わかたか」がおり、沖合で合流する様だった。

「Accidentの様ね」

 レタスの咀嚼音を盛大に響かせながらハンバーガーをかぶり付くニュージャージーが言う。ケストレルはテーブルを挟んだ向かい側のニュージャージーに相槌を打ちながらも、ニュージャージーのその優雅に組まれた長い脚の先が自分の脛を蹴っている事にいい加減気付いてくれないだろうか、とスパゲティを無音で啜りながら思った。

「また輸送作戦失敗、ですかね」

 溜息の吐息を交えながら同席する青葉が咀嚼し切ったラーメンを呑み下して言う。出港予定にない艦娘艦隊がいそいそと緊急出港すると言う事は、救援を要請する艦隊が近傍に居ると言う事になる。消去法で現在ラバウル近海を航行中の艦隊と言えば、今朝出港したばかりのウィスキー島への輸送船団しかない。三度目の正直と言わんばかりに随伴する護衛空母雲鷹の空母航空団の制空戦闘機の比重を増やし、更にその制空戦闘機そのものを更新し、二個護衛部隊に分散配置されていた古鷹と衣笠を集中配置するなどの強化を行った護衛部隊でさえ被害を出したとなれば、相応の深海棲艦に襲われたと見るのが妥当だが。

「このままだと、ウィスキー島に送り込んだっきり動かせない大和さん達が島で置物になるどころか、最悪、戦艦の誉れは浜で死ぬ事になるよね」

 暗に艤装の自沈処分を示唆する鬼怒の言葉に、青葉、ケストレル、ニュージャージー、ウミェールイは重い表情を浮かべる。

「アイオワ、体重落ちているかもね……」

 自分と同じよく食べる、良くも悪くもアメリカ人らしい食生活の姉の事を案じるニュージャージーの少ししんみりとした口調に、ケストレルは励ます様に諭す。

「逆に考えるのですよ。案外この期にダイエットになるとか」

「アイオワがこれ以上減量したらひょろひょろの痩せっぽちになるわよ」

 苦笑交じりにニュージャージーは言う。まだ会った事のないニュージャージーの姉はどんな人物なのだろうか、とケストレルは目の前のアイオワ級戦艦艦娘のグラマラスな身体付きをちらりと見て、軽く鼻の奥を鳴らした。姉妹で大差ないのだとすれば想像に難くないか。

「アイオワさんや大和さんって、どんな感じの戦艦艦娘なのです?」

「どう、って……」

 話題を切り替えるウミェールイの問いに、青葉とニュージャージーが互いに顔を見合わせる。今まで日常の中で何の疑問を抱かずに接して来た仲間や姉妹の感想に、直ぐには答えが見つからず言葉に詰まる。

「大和撫子、って概念がストレンジリアル世界にあるか分かりませんからねえ……」

「要は容姿端麗な淑女って意味ですか」

 ウミェールイが話題の切り替えが上手いのなら、解釈の切り替えが上手いケストレルの言葉に青葉はそれだと頷く。

「アイオワは……まぁ、Meの見た目に戦闘機のノーズアートに描かれるピンナップガールみたいな派手さを足したみたいな女性よ」

「極めて言い得て妙」

 自身の姉を語るニュージャージーの言葉に鬼怒がまさにその通りだと頷く。と、同時に鬼怒は隣のウミェールイに耳打ちする様に言った。

「ま、大和さんもアイオワさんといい勝負してるグラマーさんだよ」

「戦艦艦娘ってそう言う体躯の女性が選抜基準にでもなっているですか?」

「それは……多分無いと思うけど……」

 若干の困惑を交えて言うウミェールイの言葉に、鬼怒は否定出来ない現実に唸り声を上げる。そもそもだがウミェールイだって中々に言い身体付きである。上着を脱いだワイシャツの下を盛り上げる胸部もスカートの後ろ側を盛り上げる臀部の大きさも鬼怒よりも大きい。そしてスラブ系の鼻の高い整った顔立ちに、シベリアの雪原に反射する陽光のように輝くブロンド。ウミェールイと言う艦娘としての母体となった軍艦や国が、この世界で言うロシア海軍の世界最大の水上戦闘艦であるキーロフ級重原子力ミサイル巡洋艦と同じなのだと言うのだから、国柄やキーロフ級の規模を鑑みればそうなるのかも知れないが。

 視線を転じればケストレルも、恐らくは着痩せしているのではないか? と疑わざるを得ない予感はして来る。ストレンジリアル世界では一〇万トン級の原子力空母だったと言うから、そう言う体躯になるのも不思議では無いのだろう。艦娘と言うのは不思議な事に大型艦になればなるほど、グラマラスな体躯の者は多くなる。

 大型艦娘であればある程、食事カロリーの要求値は大きい。戦艦艦娘は自身の主砲の発射時の衝撃に耐え、巨大な艤装を纏って長時間行動できるだけの体力を要求するから、グラマラスなだけでなく運動神経も大変に優れている。中にはその恵まれた運動神経を利用して剣道の有段者としての資格を生かし、刀剣を帯刀して、それで深海棲艦を斬り伏せる剣技を身に着けた愛鷹や伊勢型と言った日本艦娘も居る。ただ体躯が良いだけでなく、能動と受動の両方に体力を使う局面に強いのが大型艦娘だ。

 とは言え食事量の要求量が多いと言う事は、それだけ平時から兵站への負担も鬼怒や青葉と言った艦娘より大きい。無論、補給の滞るウィスキー島では課せられる食事制限に異を唱える程、艦娘は暴君的存在でも無い。所詮、艦娘とて士官級の階級だらけの兵隊同然だ。

「ま、食える内に食っておくのもやる事の一つよ」

「全く持ってその通り」

 新しいハンバーガーの包みを開きながら言うニュージャージーにしたりと青葉が同意する。

「あの、ニュージャージーさん」

 ふと溜息交じりにケストレルが呼ぶ。What? と無言で先を促すニュージャージーに、ケストレルは僅かに苛立ちを含ませた声で右手の人差し指でテーブルの下を指さした。

「私の脛を蹴るの止めてもらえます?」




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