艦隊これくしょん ストレンジリアル軍艦艦娘転生海戦譜season2   作:岩波命自

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第一一話 第三任務群集結

「四度目の輸送任務も失敗か」

 第八方面軍第八艦隊司令官のアッテンボロー少将の落胆した声が、会議室内に響く。

 輸送艦隊の損害報告に来たアッテンボローの副官兼首席参謀の井村大佐は事務的な口調と表情を崩さず、淡々と司令官に被害の報告を行う。

「我が方の損害は、揚陸艦『王指山』、重巡艦娘衣笠、軽巡艦娘五十鈴大破、護衛空母雲鷹中破、重巡艦娘古鷹、杉が小破。『王指山』乗員九名が戦死、一八名が重軽傷です。『王指山』からの報告ではダメージコントロールにより致命的な火災、浸水などは食い止められるも、自力航行は困難により作戦続行は不能と判断して撤退を決定しました。現在、ラバウルから救難艦として外洋タグボート二隻が『王指山』の救難に向かっています」

「負傷し、大破中破した艦娘はどうだ?」

「大破した衣笠と五十鈴を始め雲鷹、古鷹、杉らは『王指山』に収容され、同艦の軍医の手当てを受けた模様。少なくとも命に別状はないとの事です」

 井村の言う「命の別状はない」と言う文言にアッテンボローは何かもっと適切な表現は無いものか、と言う顔をした。命に別状は無いとは言っても、四肢がもがれたり、顔面の原形が失われたりしても、死亡する可能性が無いなら「命に別状は無し」の判定になってしまう。大破艦娘よりも小破艦娘の方が実は怪我の具合で言えば酷い事だって時にはある。

「大破艦娘の怪我の具合をもう少し正確に頼む。早期の戦線復帰は可能か?」

「結論から申し上げますと、衣笠、五十鈴共に全治一か月の重傷です。意識はあり、会話も可能と言う事で先に述べたとおりの報告を」

「つまり、我々は貴重な重巡艦娘と、有力な防空対潜軽巡を一人ずつ戦列から失ったと言う訳だな」

「そういう事になります」

 愛鷹型超甲巡で編成された第二戦隊の編成で、第六戦隊の青葉型、古鷹型重巡艦娘は重要度を失った様に見えるが、実際はここソロモン戦線に配備される重巡戦力の一角を担うだけに、決して軽んじられる存在の艦娘ではない。アッテンボローとしても、ストレンジリアル世界からの転生艦娘であるケストレルとウミェールイからなる空母機動部隊の直掩艦として第六戦隊を復帰させて編入する予定だったから、出鼻を挫かれた様なものである。

「衣笠と五十鈴がやられた以上、新編の『第三任務群』の編成はある程度書き換えねばならん。当初の定数を割る事になるが、他に補充出来る艦娘も居ない。定数割れ状態で艦隊編成を実施する。それと第四次輸送作戦が失敗したからには、ウィスキー島から一時艦娘艦隊の撤退も視野に入れねばなるまい」

「偵察衛星からの情報では、先に奪還したサーモン北方海域に再編された深海南方任務部隊本隊、水上打撃群、機動部隊の再展開の兆候が見られるとの事ですが、ウィスキー島から主力を引けば、再編した深海棲艦艦隊にサーモン北方海域を奪還されかねませんが」

「そうは言ってもだがな……」

 アッテンボローは視線を、第八方面軍の補給計画全般を担当する後方主任参謀の川島中佐に向けた。

「事実だけを申しますと、現在のウィスキー島に集積された物資では以てあと二週間以内には、同島に駐留する全ての艦娘が行動不能になります。弾薬類に不足は無いとし、食料も腹八分に切り詰めれば持つとしても、艤装を動かすに必要な燃料が尽きます。輸送機による空輸である程度枯渇迄の期間は伸ばせますが、それも時間稼ぎに過ぎません。兵站担当として、潔くウィスキー島より退くか、補給線を脅かす敵深海棲艦機動艦隊の撃滅を企図した機動艦隊の出動以外に、このソロモンにおける我が方の優勢は維持出来ません」

「大和型にアイオワを始めとする有力な戦艦群を欠いた状況で、取れる作戦は一つです」

 そう進言する井村にアッテンボローは顔面を引き締めて呟く。

「空母機動部隊による艦隊決戦か」

「幸い、我が方の空母戦力は戦艦戦力に比べて充実しています。一航戦と五航戦の四人に加え、第一七任務部隊のホーネット、レキシントン、サラトガが動員可能です。またラバウルでは現在ワスプが航空隊の練度再編成中で、作戦実施期間にもよりますが空母機動部隊への動員は可能です」

 空母艦娘ワスプは王武共和国近海での空母機動部隊戦で艦載機を消耗して、ラバウルで航空隊の補充を受ける為に後退していた艦娘だった。中型空母艦娘のワスプから、特別にエセックス級空母艦娘のワスプ(Ⅱ)となった特殊な経歴の持ち主でもある。なお彼女の姉妹艦のイントレピッドはウィスキー島に送られており、姉妹共闘は望めない。

「動員可能空母は七ないし八人か」

 第八艦隊の航空参謀のミン中佐が独語する様に呟くと、作戦参謀のパヴリチェンコ中佐が言った。

「輸送艦隊を襲った深海棲艦の新型機の存在もあります。報告によれば深海棲艦もジェット機を配備した可能性が高い。ジェット機運用が可能な五航戦と加賀の艤装をジェット機対応した改二護にして我が方もジェット艦載機で対応すべきかと」

「ジェット機カウンター空母が増えると、通常の対艦攻撃を行うレシプロ艦載機が減る。深海棲艦のジェット機対応する空母は一人に絞るべきかと」

「ならば一人で多数のジェット機を運用できる空母艦娘を」

「そんな艦娘が何処にいる?」

 討議が白熱しかけた幕僚達にアッテンボローは明朗な声で言った。

「ラバウルに錬成完了したのがいるじゃないか、一人」

 

 

「私も、ですか?」

 自らドライバーを手に、航空艤装のカタパルトの整備をしていたケストレルが意外そうに伝えに来た青葉に聞き返す。制帽と上着を脱ぎベージュの制服の上からエプロンを付け、手にはグローブをはめ、椅子に座って台座に固定された自身の艤装を自ら整備するケストレルの座高だけでも、自身より少し下な程度と言う巨躯を見下ろしながら青葉は微笑交じりに答える。

「充分、艦娘として一丁前に戦える練度になっている事を認められているって事ですよ。艦娘、ひいてはストレンジリアルでは軍艦そのものだったケストレルさんにとっては本懐と言える出番では?」

「それは確かにそうですね」

 青葉を横目に、手に取ったカタパルトを片目で見て、真っ直ぐに伸びているか確認する。問題無しと判定したカタパルトを航空艤装の艦首にはめ込み、ボルトで固定すると、工廠妖精達が蒸気の配管や配線等を妖精ならではの小さな手で接続していく。台座の下には空気パイプが繋がれており、原子炉からの蒸気に代わって圧搾空気をカタパルトに送り込めるようになっており、カタパルトの動作確認が行えた。

「動作チェック。キャット1、射出」

 ケストレルと青葉が見守る中、ケストレルの指示で圧搾空気を蒸気に代わってチャージしたカタパルトが、装備妖精と工廠妖精の合図やハンドサインを経て、作動音と共にレールを滑走する。最大パワーで走らせる鉄道模型の様な滑走音を立ててレールの上をカタパルトのシャトルが走り、終端で勢いを殺して止まる。

 同じ事を第二、第三、第四カタパルトで行い、全て問題無し、と工廠妖精が右手の親指をサムズアップして自慢げに笑みを浮かべる。

「それで私はどの艦隊に属する事に?」

 腰の後ろに手を回してエプロンの腰ひもを解きながらケストレルは問うた。初めて会った時や洋上航行時に着ている上着の下に隠れていたグラマラスな身体付きを横目に、青葉は整備場に来る前に目に通した艦隊編成表を思い出して答える。

「ケストレルさんを中核に、ニュージャージー、青葉、鬼怒、ウミェールイさん、天霧、狭霧、ヘイウッド・L・エドワーズ、リチャード・P・リアリーで第三任務群を編成します」

「戦艦一、重巡一、軽巡一、ミサイル巡洋艦一、駆逐艦四とは豪華な護衛ですね」

 

 ふとストレンジリアル世界での二〇一〇年一二月二九日のセレス海での戦いで空母「ケストレル」の随伴艦を思い出して、ケストレルは皮肉な笑みを浮かべた。あの戦争では「ケストレル」が属する第三艦隊は開戦時のユークトバニア連邦共和国空軍の奇襲攻撃で多数の艦艇が、第三艦隊の母港セント・ヒューレット軍港内で大破着底させられ、オーシア連邦国防海軍の中でも精強な第三艦隊は随分とその戦力を打ち減らされてしまっていた。更にはその後の海を跨いだユークトバニア連邦共和国本土へのオーシア連邦軍の逆侵攻を前に行われたオーシア海軍第三艦隊残余と第二、第七艦隊とユークトバニア海軍太平洋艦隊の「アドミラル・ミレヴァ」と「アドミラル・バシェフ」の二隻の空母戦闘群を相手にした艦隊戦で第三艦隊は更にその数を減らしてしまい、第二艦隊の「バーベッド」空母打撃群に主力部隊の座を譲り、「ケストレル」と第三艦隊の残余となった駆逐艦四隻は北のフィヨルドの地、カーウィン島へと退く事となった。

 ケストレルが潜水艦の奇襲攻撃で沈んだ時に巻き添えを食らう様に撃沈された駆逐艦「フィンチ」は、開戦時以来からの付き合いであり、ある意味で同じ第三艦隊所属同士、腐れ縁にも等しい間だったが、彼女はこの世界には転生出来なかったのか、少なくともケストレル、ウミェールイと共には発見されていない。

 思い返せば色々な艦が居たなと、ケストレルは亡き艦や、転生時に分かれてしまった艦に思いを馳せる。忠義を貫き、艦隊司令官に逆らって艦隊を離反し、共闘関係を結んだユークトバニア海軍ミサイル駆逐艦「グムラク」。セント・ヒューレット軍港からの脱出時に「フィンチ」と共に随伴してくれた対空防衛艦「エクスキャリバー」。地獄耳と言っても良い位、あの戦争の黒幕達の通信やユークトバニア領内のレジスタンスらからの通信を傍受していた通信情報艦「アンドロメダ」。それに、VF-10やVFA-206と言った「ケストレル」の賑やかな艦載機達。もう戻れないあの日の賑やかさが不意に懐かしくなる。

 

「ケストレルさん?」

 青葉の呼び掛ける声で、空母艦娘となったケストレルは我に返った。

「失礼。ちょっと思い出話を」

「……プリブリーフィングは三〇分後。本ブリーフィングと出撃日程は後日通達されます。まあ、川島中佐の話が本当なら二週間以内には作戦行動に入らないと拙いんですが……」

「二週間以内とは?」

 溜息を交える青葉に、ケストレルはどう言う事? と問いかける。

「ウィスキー島に駐留する艦娘の艤装燃料が、どう工面しても二週間は持たないからです。皆、ケストレルさんやウミェールイさんの様な無限の動力源で動いていないので。輸送艦による燃料輸送も失敗しましたし、輸送機じゃ輸送出来る燃料の量が少ない」

「なるほどです」

 腹が減っては何とやら。人の身体を得てから、体力の概念も授かった身としてウィスキー島の窮状はケストレルにも分かった。

 

 

 プリブリーフィングに集まった艦娘の数は、動員する艦娘全員と言う事でも無かっただけに意外と少な目だった。作戦の要となる一航戦の赤城、加賀、五航戦の翔鶴、瑞鶴、第一七任務部隊のレキシントン、サラトガ、ホーネット、それに予備戦力として航空隊が錬成途上なだけで本人のコンディションは万全なワスプの八人の空母艦娘とそれに随行する重巡艦娘や軽巡艦娘が副官的に集まっていた。

 集合時間から五分遅れでアッテンボローが幕僚を従えてブリーフィングルームへ入室して来た。

 プリブリーフィングが始まると、ブリーフィングルームの前面にある大画面の液晶ディスプレイにスイッチが入り、有線ケーブルで繋がれたノート軍用タブレットから、事前情報が表示された。

「作戦目標を令達する。今作戦はウィスキー島への補給路を脅かす敵深海棲艦機動艦隊の誘引撃滅にある」

 演台の縁に手を突いたアッテンボローが切り出す。艦隊司令官から目配せされた井村がタブレットを操作して、作戦予定海域を大画面のディスプレイに表示させる。

「作戦海域はここ、エリアZ2Kだ。第一次から第四次までのウィスキー島への輸送艦隊は全てこのエリアで襲撃を受け、撃退の憂き目にあっている。その為、我が方は敵機動部隊に真正面から勝負を仕掛けるべく、深海棲艦に察知されやすい大規模機動艦隊を以て同海域へ進出する」

 大規模機動部隊、か。仲間が大勢居るのは心強い話だ。ケストレルは最後尾の席で聞きながら思った。

 戦艦艦娘戦力が孤立したウィスキー島に集中している都合上、空母主体の作戦になった訳だが、ケストレルが思う分には今回は艦娘と深海棲艦同士、足を海面に付けて目視確認しての交戦と言う視覚的分かりやすさがある一方、交戦距離の限界が大きい砲雷同時戦よりも、攻撃と防御、そして索敵のリーチが長い航空戦主体の今作戦は、位置が不明な敵空母と勝負するには全くの打ってつけの作戦に思えた。

「敵の出現率を確実なものに近づける為、作戦実行に当たっては第三次輸送作戦に参加した揚陸艦『四明山』を囮として参加させる。第一七任務部隊は囮兼誘引役として出撃する『四明山』の直掩と、必要に応じての反攻戦力とする。

 一航戦、五航戦、それから空母ケストレルを中核とする第三任務群は主攻とし、敵機動部隊の放つ攻撃隊をAWACSストーンヘッドがトレース、発艦地点を逆探の後攻撃隊を発艦させ、補給路を攻撃する敵機動部隊を撃滅する。なお空母ワスプ率いる機動部隊、第一七・二任務部隊は後詰の戦力として艦娘母艦『ジオフォン』にて待機。必要に応じて各戦線への支援部隊として投入を現場判断にて行う。

 事前の交戦情報から敵は方位040度から飛来する可能性が高い。捜索撃滅戦を担う一航戦、五航戦は艦上偵察機彩雲にて敵艦隊の現在位置に関する航空偵察を実施。可能な限りの触接を目標とする。敵機動部隊位置を特定次第、一航戦、五航戦、及び状況によっては第一七任務部隊も航空攻撃を実行。敵空母、並びに随伴護衛艦を叩け。尚敵空母には新型種の深海ジェット艦載機と呼ぶべきジェット機の存在が確認されている。ジェット機運用空母の現在位置が判明次第、第三任務群ケストレルは制空戦闘機隊を発艦させ、エリアZ2Kにおける航空優勢の確保を任務目標とせよ」

 深海ジェット艦載機。その仮称に赤城、加賀、翔鶴、瑞鶴、レキシントン、サラトガ、ホーネット、ワスプが表情を硬くする。何時ぞやは来るだろうと予期して来た深海棲艦のジェット艦載機の存在が、遂に現実のものとして自分達の目の前に姿を現した事と、未だ知れぬその深海棲艦のジェット艦載機の脅威度に八人の長い背筋がざわりと粟立つ。普段冷静で、滅多な事で感情を大きく表に出さない加賀ですら明らかに緊張を貼り付かせていた。

 一方、余裕の表情をただ一人浮かべるケストレルは、この世界に来てから知ったとある軍人の言葉を脳内で引用しながら、続けられるブリーフィングに耳を傾けた。

「作戦参加艦娘は以下の通り。一航戦空母赤城、加賀。重巡利根、筑摩、軽巡長良、駆逐艦浦風、谷風、磯風、浜風。五航戦翔鶴、瑞鶴、二戦隊愛鷹、磐梯……」

 井村の読み上げる作戦参加艦娘の名前をケストレルは頭に刻み込む様に覚えていく。記憶力については自信があるから、名前さえ分かれば後で人事部門のサーバーにアクセスして顔も覚えれば、連絡等で不便を起こす事はない。

「……第三任務群、空母ケストレル、戦艦ニュージャージー、重巡青葉、軽巡鬼怒、ミサイル巡洋艦ウミェールイ、駆逐艦天霧、狭霧、ヘイウッド・L・エドワーズ、リチャード・P・リアリー。以上となる」

「プリブリーフィングは以上。各自何か質問等はあるかな?」

 誰も手を上げなかった。

「では、作戦開始準備の下令あるまで各自、護衛の艦娘との情報共有と連携の再確認を。以上解散」

 

 

 ショートランド泊地からの脱出艦隊の編成をそのまま流用した形で編成された第三任務群の艦娘達は、青葉からの招集を受けて全員がラバウル泊地の基地施設の一角の小規模な会議室に集った。

「作戦前に当たり、第三任務群と言う分艦隊の旗艦を誰にするか。予め決めておきたいのですが」

 音頭を取って切り出す青葉の言葉に、鬼怒が何の疑いを持った様子もなく言う。

「第三任務群の基幹戦力はケストレルさんなのだから、旗艦もケストレルさんで良いんじゃないの?」

「それはちょっと賛同出来ないわね」

 渋面を浮かべたニュージャージーの反対意見に、鬼怒が何故? と言う顔を振り向ける。

「ケストレルは艦娘としての練度はperfectでしょうけど、艦娘分艦隊指揮官としての錬成は途上か、そもそも受けていないでしょう?」

「確かに私が受けた艦娘としての再練兵の内容はあくまでも一人の空母艦娘としての立ち回りであり、艦隊指揮までは習っていませんね」

 ストレンジリアルでは臨時戦隊旗艦や、「ケストレル」空母打撃群の旗艦だったのだが、と前世の体験を思い返しながらも、ケストレル自身はあくまでも慎重論を口にする。

「私が基幹戦力とは言え、旗艦を任されるなら第三任務群の指揮を執るにふさわしい、経験ある艦娘がなるべきでしょう」

「となると、やっぱ旗艦は青葉?」

 そう言って第三任務群唯一の重巡艦娘を見るリアリーに青葉は頭を振る。

「青葉は防空指揮艦としての任があります。役職を被らせるのは宜しくないでしょう」

「一応ですが、私やリアリー、天霧さん、狭霧さんは艦隊旗艦を担えるだけの通信機能を艤装に持たないので、駆逐艦娘も必然的に旗艦は担えません」

 リアリーと同じアメリカ人でありながら、日本人である青葉や鬼怒と何ら遜色のないレベルに堪能な標準弁の日本語でエドワーズが言う。リアリーもエドワーズと同じレベルに日本語達者だが、微妙にその言い回しには関西弁らしさがある不思議な日本語習得者である。ある意味、時折英語が混じるニュージャージーが余程話す言葉に生粋のアメリカ人らしさがある。

 エドワーズの言葉で駆逐艦娘全員が消去法的に旗艦候補から外れた事で、必然的と言う流れで全員の視線は鬼怒とニュージャージーに注がれる。ウミェールイはケストレルと事情が同じなので最初から宛にされていないし、ウミェールイ自身も艦隊旗艦を買って出る程、自己過信になってはいない。

「えええ、じゃあ鬼怒が旗艦って事ォ?」

「Meが旗艦やるわよ」

 まあそうなるだろうな、と言う表情でニュージャージーは肩を軽くすくめながら急に込み上げて来る欠伸を噛み殺し、赤い髪を掻き上げる。別に難しい注文ではない。艦隊旗艦、それも分艦隊レベルの第三任務群よりも大きな規模の艦娘艦隊の旗艦の経験だってあるニュージャージーには、任されて不足も過剰も無い役職だった。最も願わくは青葉辺りに押し付けておきたかったのは本音ではあるが。

「宜しくお願い致します」

 軽く一礼するケストレルにニュージャージーは微笑を浮かべて返した。

「Leave it up to me(任せて)」

 第三任務群のポジショニングはすんなりと決まって行った。第三任務群旗艦はニュージャージー、防空指揮艦は青葉、対潜指揮艦は鬼怒となる。

 ウミェールイは青葉の指揮下の元、防空艦として作戦に従事する事となった。天霧、狭霧、リアリー、エドワーズの四人は基本対潜護衛艦として、補助的に対空も担当する、と言う役回りが決定された。

「最強の布陣じゃあないか、ええ? 艦対空ミサイルを持つウミェールイさんなら深海棲艦がジェット機飛ばしてこようが、ミサイルの在庫が続く限り空は安泰だ。あたしらは足元の敵にだけ注意してりゃいい。楽勝じゃないか」

 そう言う天霧に確かにそうとも取れると青葉は頷きながら、ケストレルとウミェールイに尋ねる。

「どうです、深海棲艦のジェット艦載機が出てきたら迎撃出来る自信はありますか?」

「ジェット機を見たらどうするか、撃ち落とすだけですよ」

 諧謔を含ませたケストレルの返しに、ニュージャージーが暫し天井を見上げた後、思い出した様に言った。

「チャック・イェーガーの言葉ね」

「誰です、その方?」

「フルネームはチャールズ・エルウッド・イェーガー。この世界で初めて音速の壁を越えたアメリカ空軍のパイロットさんですよ」

 知らぬ人物の名前に率直な疑問を口にするウミェールイに、ケストレルが文献を読んで知見を得た人物について簡潔に語る。

「まあ、私自身が撃ち落とす訳ではないけれど」

「そりゃあ、ケストレルは空母ですから。艦載機との交戦は私の分野です」

 お株を全部持って行かれてはミサイル巡洋艦として立つ瀬が無い、と少しは自身の存在を主張する様にウミェールイは少しだけ強めの口調で言った。

 そのやり取りを見ながら青葉は物思いにふける。実際天霧の言う通りである。今度は実弾を完全装備しての出撃だし、ケストレルは編成された固有の航空団を載せている。ショートランド泊地からの脱出行の時とは全く違う、戦える状態で作戦に挑める。対空はウミェールイ、対水上戦も大口径の戦艦級の艦砲を持つニュージャージーが居るし、対潜も鬼怒と駆逐艦四人もいるので第三任務群の戦闘能力のバランスは極めて良い。艦娘の組まされる艦隊は、その任務用途に応じて比重の置かれる艦娘の配備や装備が変わるので「艦隊戦型」や「対空戦闘型」「対潜戦闘型」「船団護衛型」と複数あるが、第三任務群の場合は対水上対空対潜の全てが両立した「バランス型」と言える。

 強いて第三任務群の弱点を上げるとすれば、中核となるケストレル、ウミェールイの両名が青葉達と違って艦娘になってからの経験が浅い所だが、そこは二人の短期間での技量の習熟に期待するしかないし、それを補って守るのが先輩である自分達の務めであろうと考えても居た。

「深海棲艦、果たして囮の揚陸艦と随伴の艦娘艦隊に襲撃を仕掛けて来るかな」

 疑問を呈する鬼怒に青葉が答える。

「一〇〇パーセントこちらの策に乗って来ると言う保証はないね。深海棲艦がこっち側の作戦だと見抜いた場合、手を出して来ない可能性も無い訳じゃない。だけど、裏を返せばここで艦娘艦隊の空母艦娘戦力に打撃を与える事が出来れば、深海棲艦側にここソロモンでの海域優勢が傾く。

 深海棲艦が艦隊温存策を取る可能性もあれば、逆に出せる機動艦隊をありったけ動員して艦隊決戦を挑んで来る可能性もある」

「デカい餌を釣るんだから、デカい獲物が掛かってくれないと困るな」

 希望論ではある事は承知の上で天霧がその希望に賭ける様に呟く。

「過去に大規模な艦娘艦隊を出撃させて、深海棲艦が大規模艦隊で迎え撃って来なかった事例はありませんし、空振りに終わる事は杞憂だと思いますが……」

 それまで黙っていた狭霧が過去の事例を基に言う。実際、狭霧の言う通り、過去に実施された峡一号作戦を含め、艦娘艦隊が大規模艦隊を出動させれば、比例する形で深海棲艦も大艦隊を出して艦隊決戦を挑んで来るパターンが数多く記録されている。余程のイレギュラーな展開に発展しなければ深海棲艦は統合軍の艦娘空母機動部隊に対して、アクションを起こす事は間違い無いだろう。

「真正面から空母機動部隊戦を仕掛けて来るとも限らないわ。潜水艦や水上艦隊を突っ込ませて来る可能性もある。

 いつだってAccidentは起きるものよ」

 そう語るニュージャージーに全員が頷いた。

 潜水艦か、とケストレルは唇を噛み締めた。浮沈艦伝説を築いていた私を沈めたのも潜水艦だったわね、とストレンジリアルの時の自身の最期を思い返しながら、苦い思い出を噛み締める。潜水艦と言う存在に対して軽度のトラウマを抱えるケストレルにとって、また潜水艦に襲われるのだけは勘弁願いたいものだった。

 

 

「何用でしょうか?」

 アッテンボローはミューラーの執務室に出頭して、デスク越しに対面しながら尋ねた。

「うむ、深海棲艦のジェット機の事なんだが。仮にあれが艦載機なのなら固有名も付けねばならんし、母艦も識別名を付けねばなと思ってな。

 ここら一帯で深海棲艦の陸上航空基地は幾つかあるが、方角的にも、またこれは完全な推測だが航続距離的にもあのジェット機は艦載機の可能性が高いから、何処かに母艦が居る可能性は高い。その母艦と深海ジェット艦載機の識別名を考えておこうとな」

「空母棲姫で運用しているのなら、近年確認された空母棲姫Ⅱに続く空母棲姫Ⅲと呼ぶべきかと。ヲ級だった場合は……ヲ級改Ⅲとでも呼びましょうか。ヌ級は……どうでしょうね。案外艦載機容量の多い個体も確認されていますし、ジェット機運用空母が存在する場合はヌ級改Ⅱと呼称しましょうか」

 そう語りつつアッテンボローは手持ちのタブレット端末を開いて、古鷹が記録したガンカメラに映る深海ジェット艦載機の機影を再確認する。

「艦載機はどう呼ぶ?」

「……翼の形状が燕に似ているので深海噴式燕戦爆、とでも呼びましょうか。戦闘機なのか、攻撃機なのか現状判別が尽きませぬが」

「貴官は他にもジェット艦載機が居ると思うか?」

「可能性はあるかと。無いと断定するより、あるかも知れないと身構え続けておく方が、受ける痛みも少ないでしょう」

「そうだな。では艦載機に関しては当面、確認された機体は深海噴式燕戦爆と仮称する。同機の母艦が確認され次第、貴官の上げた候補名から正式名を決定する」

「了解です」

 タブレット端末の電源をオフにして答えるアッテンボローにミューラーはふと問いを投げかけた。

「なあアッテンボロー。深海棲艦は、太平洋戦争時の死者と戦没艦の怨念が生み出した負の感情の化身と言う仮説が存在する訳だが、私の記憶が正しければ太平洋戦争中にジェット機を運用する航空母艦はアメリカ海軍や英国海軍ですら配備していなかったと記憶している。

 もし私が耳にした深海棲艦の正体に関する仮説が本当なのだとしたら、この深海棲艦のジェット機運用空母とジェット艦載機は何が由来なのだろうな?」

「奴等もただただ怨念を源に新戦力を作り出しているのではなく、戦況に応じて既存の戦力を基に新たな戦力をクリエイトして来ているのではないでしょうか。我々が対深海の戦略や出方に応じて艦娘の改二化改装を実施し、新型の艤装兵装や航空機を開発して来るのに合わせて、向こうもelite級、flagship級、改、改Ⅱと繰り出して来ている訳ですし。

 最初は怨念が今生ある存在への逆恨みから始めたのかも知れませんが、ただ怨念のままには戦えない、いや勝てないと深海棲艦も学習し、新たな戦術、装備を作り出して来ているのではないかと」

 そのアッテンボローの語りを聞いて、ミューラーは自身の席の背もたれに深々と腰掛け、深い溜息を洩らしながら頷いた。

「そうなのかもしれんな。そうであると私は願いたいよ」

「司令官には何か別の考えでも?」

「無い訳ではない。が、確証は無い以上、貴官相手でも話すのは憚れる。それだけだ、下がって良し」

 

 

 アッテンボローはミューラーの執務室を辞した後、ミューラーの想定する事を自分なりに推測してみたが、風呂敷が広がるばかりで、畳める着地点が見つからなかった。想像と言う無数の線は幾らでも引く事が出来るが、結び付けられる答えは一つしかない。ましてや様々に引いた想像と言う線が答えに結び付かない場合もあるにはある。

 だが彼も気にならない訳では無かった。ジェット機を運用する深海棲艦、あれは一体何を由来としているのだろうか。




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