艦隊これくしょん ストレンジリアル軍艦艦娘転生海戦譜season2   作:岩波命自

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 エースコンバットオーケストラコンサート、行きたかった……(横須賀艦これリアイベに行ってたので、趣味予算が足りなかった)
 CD買います。
 所で「エースコンバット8」は何時発売何ですかねえ……

注:相互さん所でお借りしていたニュージャージーの本話でのキャラ描写の逆輸入があったので、そこから更に彼女の描写に少し掘り下げを入れてます。


第一三話 空母の戦い Ⅱ

 ケストレルから発艦したヴァイパー、オメガの二個中隊計一六機の橘花改は、音速で向かって来る深海噴式燕戦爆の編隊に向けて、フィンガーフォー編隊を四つ組んで迎撃に向かっていた。

 二基のネ二〇B型ターボ・ジェットエンジンの甲高いエンジン音を鳴らしながら、ヴァイパー隊とオメガ隊は第三任務群の前方の第一、第五航空戦隊の組む輪形陣上空を航過する。その後方からレシプロ艦上戦闘機の中でもまだ機速の早い方である烈風改二が、WEP(戦時緊急出力)でその発動機にブーストをかけながら必死に追い上がって来る。

 高高度を悠然と飛ぶ橘花改の先陣を切るコールサイン・ヴァイパー1の航空妖精は、烈風改二よりも一〇〇キロ程足の速い橘花改を操りながら、前方の四方へ視線を凝らす。空中統合管制機が付いているとは言え、目視による「タリホー」をコールするのは航空妖精の視力にかかっていた。下手な艦娘よりも視力の良い航空妖精達が碧天の高空を凝視する中、ストーンヘッドから警報が入る。

≪アラート、バンディット多数。ベクター069、エンジェル1、マック0・7≫

≪ヴァイパー2よりヴァイパー・リーダー、エネミー・タリホー。11オクロック・ロー≫

 ヴァイパー1は身体を左にねじって一一時下方に視線を転じる。眼下の碧海の上空三〇〇メートル程を多数の燕に似た形をした物体が、音速で飛んでいた。燕は音速で飛ぶ事は無い。敵機だ、深海噴式燕戦爆で間違いない。

「ターゲット・マージ。全機、アタック!」

 ぐるっと機体を左ロールさせ、スプリットSを描く形で反転降下していくヴァイパー隊に続き、オメガ隊もそれに倣う。

「ヴァイパー1、エンゲージ」

 上方からの高度の優位を生かして襲い掛かる橘花改に、遅まきながら深海噴式燕戦爆が反応する。一二機が反転し、アフターバーナーらしき炎を機尾から吐き出し、飛行機雲を引き連ねて猛然と上昇して来る。

 ヴァイパー1は照準器のレティクルを覗き込みながら、スロットルレバーの引き金に手をかける。照準器の中央に捉えた深海噴式燕戦爆を電波距離計が計り、彼我の相対距離を照準器に反映して来る。目盛りが急激にその数字を減らしていく中、距離三〇〇を目前にして、ヴァイパー1は叫んだ。

「ヨーイ、てぇっ!」

 左右の翼から作動音が響き、前方へと白線が伸ばされていく。ドイツ製の空対空ロケット、R4Mの改良型、R4MⅡだった。原形では無誘導の弾幕で直に当てる必要があるロケット弾だったのに対し、Ⅱ(ツヴァイ)では弾頭に近接信管を内蔵する事で仮に直撃せずとも、距離次第では充填されている炸薬と散弾が襲い掛かる仕組みに改良されていた。

 ヴァイパー、オメガ両隊には一機当たり二四発のR4MⅡが搭載されており、ヴァイパー隊の一斉射撃だけでも、理論上は一二機の深海噴式燕戦爆を一瞬で殲滅出来る量の空対空ロケット弾が装填されていた。

 八機の橘花改から、無数にも思える白線が伸び、上昇して向かって来る深海噴式燕戦爆を無数のロケット弾の弾幕が包み込む。すれ違いざまにドップラー波を検知出来たR4MⅡが炸裂し、ヘキソゲン炸薬によって作り出された爆発、爆風が不運な深海噴式燕戦爆を強打する。ヴァイパー隊の前方で先手を取られた深海噴式燕戦爆が爆風と爆煙の中に一時姿を消す。一拍置いて、健在な機体が爆煙を振りほどき飛び出して来る。一二機の深海噴式燕戦爆は七機に数を減らしつつも、果敢に上昇を続け、反撃の銃火を解き放つ。

 既存の深海棲艦戦や深海猫艦戦の系譜よりも大口径なのが一目で分かる太い銃火が、橘花改へ向けて撃ち上げられて来る。

 右のラダーペダルを踏み込み、機体をスライドさせて打ち上げられて来る銃火を避けたヴァイパー1は、銃撃が止むや、左ラダーペダルを踏んで機首を深海噴式燕戦爆に向け、操縦桿のトリガーに指をかけた。照準器の中央に深海噴式燕戦爆を捉える。相手が再び撃つより先に、その思いのままトリガーを押し込んだ。

「ヴァイパー1、ガンズ・ガンズ・ガンズ」

 三〇ミリ機銃二門が咆える。二〇ミリや一二・七ミリ、七・七ミリと言った機銃と比べ、その銃声は連射と言うよりは連打と言うべき射撃音が鳴り、曳光弾の輝きを伴いながら深海噴式燕戦爆に襲い掛かる。燕の様な後退した翼を翻し、橘花改の銃撃を躱した深海噴式燕戦爆とヴァイパー隊が相対するヘッドオン状態からすれ違い、即座に反転に移る。

 ヴァイパー隊はスロットルを絞り、操縦桿を引き寄せて垂直ループに転じる。原形の橘花には無い自動空戦フラップが展張され、ターボ・ジェット戦闘機にしては小さ目な旋回半径を描きながらヴァイパー隊の八機は垂直ループを行う。キャノピーの向こうで、左右に分かれて水平旋回する深海噴式燕戦爆が見えた。左に三機、右に四機。左右から挟撃する算段だったのだろうが、ここは悪手となって出た。高度の差はヴァイパー隊にあり、再び深海噴式燕戦爆は上空から撃ち降ろされる目に遭った。

 右に水平旋回した噴式燕戦爆に、三〇ミリの銃火が伸びる。銃弾が大きい上に、発射機構たる機銃も大きいので、装弾数は決して多くは無い。断続的な射撃が許されない橘花改の銃撃が、二機の噴式燕戦爆を掴み取り、特徴的な後退翼を叩き折った。

 二機の深海噴式燕戦爆が主翼を折られ、失った翼の方を軸に、破断面から黒煙を引いて回転しながら空から転げ落ちて行く。螺旋状に描かれる墜落の跡が二条引かれる中、ヴァイパー隊は無理なドッグファイトを仕掛けず、一時距離を取って再び反転に転じる。その後をがむしゃらに追いかける深海噴式燕戦爆はエンジン推力では恐らく互角に見える挙動をしているが、深海噴式燕戦爆の動き自体には慣れの概念を感じさせない。立ち回り、射撃において、未熟さ、未発達さを感じさせるものがあった。

「空対空戦闘は苦手かい?」

 艦娘艦隊でも決してメジャーな存在では無いにせよ、それでも空母艦娘での運用、実戦経験において深海棲艦よりも一日の長がある橘花改の搭乗員妖精達は、自分達の持つアドバンテージの優越を覚えながら、旋回を終え、無理な突入を仕掛けて来る深海噴式燕戦爆の横から銃弾を叩き込む。

 更に三機が散り果て、残った二機の深海噴式燕戦爆は編隊を組み直して、再度ヴァイパー隊に立ち向かおうとする。

 しかし、その間にオメガ隊が二〇機の深海噴式燕戦爆の編隊に襲い掛かる。直掩機はヴァイパー隊が全て引き付けたので、オメガ隊は安心して挑めた。射程内に収めた深海噴式燕戦爆に対し、オメガ隊は充分な必中距離を狙って射撃を開始した。

 大量のR4MⅡが弾幕となって二〇機の深海噴式燕戦爆を包み込む。爆装している深海噴式燕戦爆は、一斉射で全滅しまいと左右に分かれて回避行動を取るが、胴体の下に抱える爆弾が重すぎるのか、その動きはキレが無い。逃げ惑う雛鳥に容赦なく花火が打ち込まれ、炸裂した爆風が鉄の欠片と共に襲い掛かる。

 一瞬にして、一二機の爆装噴式燕戦爆が爆散し、粉々になった機体の破片を、爆煙の四方へ投げ出す中、生き残った一機が咳き込むような音を推進部から上げて、編隊から外れる。爆散した僚機の破片か、R4ⅯⅡの撒き散らした破片か、異物を吸い込んでエンジンのタービンブレード等の内部機構を破損したらしい。

 R4MⅡを撃ち尽くしたオメガ隊は残る爆装噴式燕戦爆に三〇ミリの弾丸を見舞った。通常の攻撃機の様に、後部に旋回銃座を持たない噴式燕戦爆は、背後を取れば実に与しやすい「的」であった。

 

 

≪敵噴式攻撃隊の撃破を確認≫

 ストーンヘッドのその知らせに、本能的なもどかしさを覚えながらケストレルはやや食い気味に問う。

「こちらの損害は?」

≪損害は無し、損傷も無しだ≫

 その言葉にケストレルは灰の中に溜まっていた空気を全て吐き出す様な大きな溜息を吐いた。興奮の裏で、被撃墜機を出したら、と思うと心臓の鼓動が異常に速くなり、頭の中は常にその事しか考えられない状態になっていた。一機も失いたくない、その思いが強すぎるがあまり、些かケストレルは自身の艦載機の安否に過敏になるきらいがあった。勿論、自身の艦載機に対して無情になったら空母艦娘は引退同然だが、赤城や加賀、翔鶴、瑞鶴達、既存の空母艦娘達がある程度の犠牲が出てしまうのは、戦争下における必要な犠牲と割り切っているのに対し、ケストレルは割り切らず、決して諦めない信条の持ち主だった。

 その姿を背後から見つめるウミェールイは、きっと自分には理解が及ばない世界の話なのだろうと、ケストレルの信条を理解するのを半ば諦めていた。彼女にとって、艦載機などミサイル一発一発の消耗品に近しい存在だ。違いなど航空妖精が乗っているか居ないかの程度でしかなく、仮に自身が空母艦娘だったとしても、被撃墜機が出ても、航空妖精がベイルアウトさえ出来ていれば、その時点で大勝利だと考えていた。

 ケストレルは、その点、ベイルアウトで助かる可能性と言うのが眼中に入っていない様な一面を、ウミェールイは感じ取っていた。

 或いは、事実上の本格的な実戦を前に、ケストレルは些か緊張し過ぎているのかも知れない。無理もなかろう、とウミェールイは眼を細める。

 ストレンジリアルでウミェールイはユークトバニア海軍太平洋艦隊の旗艦巡洋艦「ウミェールイ」として、「ケストレル」を含むオーシア海軍艦隊と砲火を交えた経験がある。その時に見て来た事、乗員の話を聞いて来た経験から言えば、「ケストレル」は多くの出撃機を出撃の度に失い、多くの作戦機とそれに乗る搭乗員を失っている。前世での辛い経験談が、今の空母艦娘としての信条の根幹になっているのだろう。

 制帽の鍔に手をやりながら、ウミェールイは青空を見上げた。

「空は、教えてくれないか……」

 

 

 午前一〇時一七分。

 灰褐色の硝煙で薄汚れた空の見上げたレキシントンは、溜息と共に「損害報告」とだけヘッドセットに吹き込んだ。

 乱れた輪形陣の周囲で海面に突っ込んだ撃墜機の燃える焦げ臭い匂いと、人間の肌が焼ける匂い、流血の匂いが潮風に混じって周囲に漂い、やや遅れて消火剤の匂いがそれに加わる。

「軽巡洋艦リノ、駆逐艦コラハン、ベンナム大破、重巡ビロクシー中破、重巡ビンセンス小破。大破艦娘は全員戦闘、航行不能。救難ヘリの派遣を要請します」

 素早く味方の損害状況を纏めたサラトガが事務的に告げる。第一七任務部隊は三人の空母艦娘に対し、日本艦隊と違って戦艦以外の艦種の艦娘を大勢随伴護衛に付けていた。主任務が囮であり、尚且つただではやられない様、レキシントン、サラトガ、ワスプの三人を分割して、三個の輪形陣を組んでいた。一群辺りの随伴艦は一〇人を超え、鉄壁と化した防空陣を敷いていたが、母数が増えればそれだけ被弾艦娘も増える。

 寧ろ重厚な輪形陣を切り崩そうと、深海棲艦の攻撃隊も積極的に三人の空母よりも随伴艦に狙いを定めて来ていた。結果が三人大破、一人中破、一人小破と言う被害だった。

「やってくれるわね……『四明山』の損害は?」

 ちらりと視界に入れた揚陸艦からも黒煙が上がっている。

「被弾一発。戦闘、航行に支障なし」

 損害を確認した軽巡艦娘ヘレナが返す。

「了解。各艦、艦載機収容次第、次の襲撃に備えよ」

 早くも疲労が少しばかり顔に滲むレキシントン、サラトガ、ワスプの飛行甲板へ、F6F-5が舞い戻って来る。何機かはよたよたと覚束ない挙動で飛行甲板を目指して来て、着艦と同時にギアがへし折れてへたり込んだり、胴体が割れて部品を甲板の周囲にぶちまけた。

 着艦出来るだけ、まだマシだ。着艦直前に海面に突っ込んで、駆逐艦娘が回収に走り回る羽目も何度も起きる。乗機と共に海没を免れた航空妖精が、救命胴衣にしがみ付いて浮かび上がって来る。

「敵の攻撃隊の直掩機が今回は多かった様ね」

 若干、トーンの落ちた声でワスプが言う。そうでなければここまで艦隊直掩機のF6F-5が返り討ちに会う事も無い。

 直掩隊の隊長機妖精が、レキシントンの肩に這い上がって来て、報告する。

「敵攻撃隊の直掩機は深海猫艦戦でした。第一次攻撃隊よりも直掩機の数を増やしていたようです。気持ち体感、三割り増しってところですかね。深海猫艦戦、ヘルキャットのカウンター機なだけに戦闘が拮抗して、こちらも痛く噛まれましたよ」

 深海猫艦戦は艦娘艦隊がF6F系列を配備し始めてから姿を見せ始めた、いわばF6Fカウンター機だ。現在第一七任務部隊に配備されているのは、マイナーチェンジ型のF6F-5だから、デフォルトのF6Fのカウンターの深海猫艦戦よりも少し性能で勝るが、概ね誤差の範囲と言っていいだろう。同格の戦闘機同士の戦いとなれば、勝敗はやはり数で決まり始める。

「CAG(ケイグ:航空団司令)に未帰還機と再出撃不能機の集計をお願い。パーティはまだまだ続くわよ」

「了解です」

 艤装内に戻る航空妖精を見送ると、レキシントンは再びため息を吐いて、空を見上げた。

 じっと空の一角に焦点を合わせて見上げていると、一瞬、きらりと空の一角が光った。

「何かしら?」

 反射で零れた言葉を口にしながら空の一点を見つめるレキシントンの目に、高速で空を過る物体が見えた。レシプロ機ではありえない速度で飛ぶそれは、遅れてやって来た飛行音を後に、第一七任務部隊の頭上を飛び抜け、後方へと去って行った。

「ストーンヘッド、こちらレキシントン。アンノウン一機を目視で確認。そちらのレーダーで何かContactはあるか、オーバー」

≪こちらストーンヘッド。我が方レーダー補足無し。レキシントン、アンノウンについて再送せよ≫

「超音速と思われる速度で我が隊上空を通過、的針は恐らく250、高度、速度は不明。数は一機、繰り返す、一機」

 返答しながらレキシントンは反射的に脳内で呟く。敵はジェット機かつステルス機?

≪その件了解。一航戦、五航戦、第三任務群へ伝達する。アウト≫

「今の見てた?」

 通信を終えながらレキシントンはヘレナに問う。

「あんな大きな音を立てて飛ぶのを見過ごすわけがないわよ。レーダーで見えなくても、音で丸わかりよ。最もレーダーも波長が合わなければ探知は困難ね」

「あれも深海棲艦のジェット機だと思う?」

「それ以外に何があるって言うのよ。こっちのキッカカイやケイウンカイはあっち方角から来ないわ」

 確かにそうだ。

「でも一機だけって……」

 疑問を挟み込むタスカルーサに、ヘレナは明朗に答えた。

「偵察機でしょ。単機で突入何て、核爆弾でも抱えてない限り出来っこないわよ」

「ジェット偵察機ね……あれだけ足が速ければ、触接こそ難しくても、強行偵察には持ってこいね」

 そう言ってレキシントンは歯噛みした。アメリカ空母艦娘にも、せめてFHファントムやF2Hバンシー、F9Fパンサーでも配備されていれば、新たに登場した深海噴式燕戦爆にだって対抗出来るであろうに。一応、現代の第五世代戦闘機や第四・五世代戦闘機の様な超音速を発揮出来る機体ではない限りレシプロ機では太刀打ち出来なくは無いが、やはり速度の差は大きな障壁になる。

 最もジェット機を配備するとなれば、空母艦娘の側もそれに対応した改装をしなければならないが、とレキシントンは翔鶴型姉妹と加賀の苦労を思い出しながら胸中で苦笑を浮かべる。飛行甲板は大変に重くなり、足に履く主機艤装もまた重量に対応して大出力かつ大型化するので、陸上で歩くのは不可能だ。出撃の度に履き替え、重い飛行甲板を背負うのは体力的な消耗が一層激しくなるだろうから、レキシントン的には今の艤装が最も身体に合うまでもあった。

 せめてもっとジェット機対応の艤装が軽量化されれば、そう思うレキシントンの見つめる先で、未確認機の姿は青空の向こうへと消えた。

 

 

≪アラート、シングル・バンディット。ベクター029、エンジェル2、マック1≫

 ストーンヘッドからの知らせにウミェールイは眉間に皺をよせ、本能的に対空戦闘用意を脳内で発する。彼女の意を感じ取った艤装が戦闘ポジションに展開し、FCレーダーが捜索を開始する。マック1、つまりマッハ一なら艦対空ミサイルで余裕をもって絡め捕れる。鳥がマッハの速度で飛ぶ訳が無いし、この海原のど真ん中を渡る渡り鳥も居ない。現状、味方機が来る方向でも無いから、間違いなく深海棲艦の艦載機だ。

「シングル? 一機だけ?」

 単機で何をしようと言うのか、と困惑する青葉に、鬼怒が答える。

「偵察機だよ多分。ジェット機の編隊を送り込んで艦娘を一蹴してやったと思ったら、まさかの返り討ちにあったんだから、強行偵察を行う機体を送り込んで犯人を捜しているんだよ」

「こちらウミェールイ。青葉さん、敵偵察機、撃墜しますか?」

 そう言いながらウミェールイは射撃グリップのセーフティーに親指をかけて、人差し指をトリガーにかけていた。既に長射程の艦対空ミサイルなら射程内だ。対空レーダーは捕捉出来ていないが、ストーンヘッドに具体的な追跡諸元を伝達して貰えれば、後は対空ミサイルのシーカーがモノを言ってくれる。

 射撃命令を待つウミェールイに、青葉は冷静な声で答えた。

「見逃して構いません。敵の空母を引きずり出すのが今回の作戦の主目標です。敵偵察機がこちらの位置を把握して、母艦に伝達し、深海噴式燕戦爆の攻撃隊が来るのなら、それは寧ろ好都合です」

「But……深海噴式燕戦爆の母艦だけでなく、他の空母部隊からの攻撃隊まで寄せ付けて飽和攻撃を受けたら……」

 青葉の策に異を唱えるニュージャージーに、青葉は被せる様に返した。

「その為のケストレルとウミェールイです」

 

 

 程なく、深海噴式燕戦爆よりも足が速い偵察機が第三任務群の上空を通過した。形状は噴式燕戦爆に近いが、偵察機仕様なのか、やや胴体が長く感じられた。三分程度、第三任務群の上空を行ったり来たりした後、母艦の控える方角へと戻って行った。

「ストーンヘッド、敵偵察機はトレース出来ていますか?」

 ケストレルの問いに、ストーンヘッドは望む答えを返してくれなかった。

≪ネガティブ、レーダー反射が小さすぎて、継続的な追跡が困難だ。敵は小さな機体に加えて、ある程度のステルス性を持たされているのかも知れん。飛来した方位から、凡その展開位置を予測する。暫し待て≫

「ステルス機? 深海棲艦が?」

 狭霧の怪訝な言葉は全員が思う事でもあった。最も、深海棲艦の艦載機が人類軍のF-35戦闘機やB-21爆撃機の様な完全ステルス機である必要は無い。深海棲艦の航空機は、機体自体が小鳥か、よくて鷲や小型ドローン程度の大きさなので、そもそものレーダー反射面積が小さい。そこに多少のステルス性のある物質を塗れば、大体の人類側の電子の目は誤魔化せる。

 母艦群の予測位置を割り出すのが先か、それとも敵空母部隊から、攻撃隊が殺到するのが先か。

 時計の秒針が恐ろしく早く動いているように感じられる一秒が過ぎ、瞬く間に一分が過ぎて、五分が経つ。緊迫が張り詰める中、ニュージャージーの呟きが流れる。

「Wise as serpents, Innocent as doves……(蛇のように賢く、鳩の様に素直に)」

「どう言う意味?」

 何気なく天霧が問うと、エドワーズが右手の人差し指で眼鏡の位置を正しながら答えた。

「日本人に分かりやすく言いますと、『しっかりやりましょう』です」

「ご信仰深い国の人は違うね……」

 皮肉ると言うよりも、その敬虔さと熱心さに感嘆する様に天霧は言った。エドワーズは、天霧に付け加えようとして、止めた。ニュージャージーが寝坊して、よく従軍神父の聖書日課への参加をサボっているくらいには信仰心が薄い事を。

 ニュージャージーからすれば聖書の一節の引用は、慣用句の引用と同レベルの感覚であり、そこに熱心なクリスチャンの精神は殆ど無い。吸収される事を拒まない知識の概念の範疇で覚えた話であり、少しばかり気取った言い回し以上の所では無かった。

 そう言うだらしない一面はあるけど、とエドワーズはニュージャージーの大きな背と艤装を横目で一瞥しながら言うのを止めた理由を思い浮かべる。座学で四苦八苦する自分に、小学校の問題を解くかの様にすらすらと回答して大尉への昇進試験を助けてくれたニュージャージーの知的さには頭が上がらないし、ザルな一面はあれど、一緒に居てくれると大変に頼もしい艦娘である。熱心なカトリック教徒のエドワーズには眉を顰める要素はあると言えばあるが、溜息一つで許せる話だった。

 そんな時、ストーンヘッドから警報が入る。

≪アラート、ベクター069からバンディット約三〇、エンジェル1、マック〇・七。目標群ブラボーと呼称。新たな目標検知。ベクター077よりバンディット、いやエネミー約六〇、エンジェル1。目標群チャーリーと呼称。更に検知。ベクター029、エネミー約三〇、ブラボー、チャーリーと同高度。目標群デルタと呼称。デルタの速度、ブラボーと同じ≫

「マジか。深海噴式燕戦爆の母艦、二隻か、二群あったって事?」

 呻き声を漏らすリアリーに対し、ケストレルは逆にほくそ笑んでいた。釣り上がった。

「発艦可能な機体は全て対空兵装にて発艦始め。急いで」

 ケストレルの格納庫で、主翼にR4MⅡを、機首に三〇ミリ弾を装填した橘花改が続々と四基のエレベーターで飛行甲板へと上げられて来る。蒸気カタパルトが、艤装内の原子炉から供給される蒸気をふんだんに用いてブライドルワイヤーでカタパルトに接続された橘花改を空へと弾き飛ばし、直掩機を続々と空へ上げていく。

 一方、青葉はウミェールイに対空迎撃の用意を命じていた。

「ウミェールイさん、対空戦闘用意。防空指揮艦指示の目標、攻撃開始命令を待て」

「パニャートナ(了解)」

 巡洋艦の艦娘と言うよりは、戦艦艦娘の艤装と言っても良い程に大柄なウミェールイの艤装で、FCレーダーを始めとする各種レーダーが捜索を始め、目標の方位、高度、速度を正確に捉えようと、異なる波長の電子の波を空へ打ち、深海棲艦艦載機群の捕捉に務める。

 

 一〇分以内に、橘花改の三個中隊二四機が発艦を終えた。最初に防空戦闘に上がったヴァイパー隊とオメガ隊に加えて、ヘイロー隊の八機が加わる。ケストレル航空団には他にアルファ隊とデルタ隊の景雲改も艦載されており、この機体でも対空戦闘が出来ない訳では無いが、ケストレル航空団では対艦対地攻撃機としての役割を与えられているので、発艦する事は無い。

 

 

 午前一〇時三二分。

 加賀は恨めしさと不満が入り混じった表情を空へと向けていた。ストーンヘッドから接近の知らせが入った敵攻撃隊は、一航戦、五航戦の輪形陣には目もくれずに対空射撃の射程外を通り過ぎ、後方の第三任務群へと向かって行った。三群にも上る攻撃隊の飽和攻撃を受けては、栄えある一航戦、新鋭の五航戦、それを囲う様に布陣する歴戦の艦娘達の手に余る状況になり得たが、深海棲艦艦載機群からは爆弾は愚か機銃弾一発すら飛んで来なかった。

 狙われなかった事への安堵よりも、無視された事への屈辱が加賀の中でふつふつと湧き上がっていた。滅多な事で露骨に感情をその顔に浮かべない加賀が、じわりとだが歪んだ表情を浮かべる一方、隣の相棒、赤城は真剣な眼差しを崩さない。赤城と加賀の後ろに続く翔鶴と瑞鶴の表情は伺えないが、無線越しに瑞鶴がぶつぶつと文句を呟く一方、翔鶴は黙して語らないので反応は赤城と翔鶴、加賀と瑞鶴が同じ感じだろう。

 加賀は眼中にないように振る舞われた事への屈辱と怒りを覚えながらも、それを赤城や翔鶴と瑞鶴に溢す事はしなかった。ずっと一緒に戦って来た戦友であり相棒の赤城は自分の不満の捌け口では無いし、翔鶴と瑞鶴には、空母艦娘と言うキャリアの中では先輩に当たる自分が、私情に塗れた負の言葉の羅列をぶちまけるのは先輩としてのメンツが立たないと言う二つの理由で彼女の中で強い自制心が働いた。

 アンガーマネジメントはこれでも上手い方だと言う自信はあるから、後で上手く発散しておこうと加賀はぐっと堪えつつ、後方に控える第三任務群の健闘を祈った。

 

 

 同時刻。

「来た!」

 ヴァイパー1は蒼空の一点に黒いゴマをまぶした様な影が、急速に大きくなって来るのを目視で確認した。

「エネミー・タリホー。ヴァイパー1、エンゲージ」

≪ヴァイパー3、エンゲージ≫

≪オメガ1、エンゲージ≫

≪オメガ11、エンゲージ≫

≪ヘイロー2、エンゲージ≫

≪ヘイロー9、エンゲージ≫

 ケストレルを発った橘花改は各中隊八機ずつとは言え、各隊の一番機から八番機までを揃えて発艦させた訳ではなく、即時発艦が可能な機体を各中隊八機ずつ発艦させたので、「8」よりも大きい番号のコールサインも何人かいたし、一番機が「1」ではないヘイロー隊と言う例もあった。

 ヴァイパー、オメガ、ヘイロー各隊とも、前方に捉えた目標群デルタの深海噴式燕戦爆六〇機に向けて照準器の中央に編隊を収めると、一斉にR4MⅡを放った。

 空が無数の白線で埋め尽くされる中、虚空で幾つもの炎の花が咲き乱れ、褐色の煙と、黒煙が青空のキャンパスを汚す。

 装薬で打ち出されたら、後は運動エネルギーで飛び、勢いを失えば弾道が落下する機銃弾よりも、弾頭が自力で推進する分、ある程度弾道が直進するR4MⅡが機銃弾よりも緩やかな弾道のカーブを描いて襲い掛かり、鉄の欠片の雨を指向された方向へとぶちまける。

 流石に第一次攻撃隊の生き残りがR4MⅡの事を知らせていたのだろうか。爆発の規模に比して、生き残った機体は多かった。黒煙を翼端やエンジンポッド等の角から引きながら姿を現した深海噴式燕戦爆が、直ちに編隊を組み直して、爆装機と直掩機に分かれる。

 ほぼ同数の直掩機に対し、ヴァイパー、オメガ、ヘイロー各隊の橘花改は増槽を投げ捨て、機銃で斬りかかった。

 

 

 




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