艦隊これくしょん ストレンジリアル軍艦艦娘転生海戦譜season2 作:岩波命自
「撃ちー方始めぇッ! てぇーッ!」
突き上げるような長門の号令が海上に走り、直後彼女と陸奥の四一センチ三連装主砲と連装主砲の一斉射撃の轟音が鳴り響いた。
特殊砲撃のデータリンクで接続された二人の射撃管制装置が、長門が射撃目標を選定した三つの深海棲艦へ一式徹甲弾改と三式弾改二の二種類の異なる砲弾を、大気をぶるりと鳴動させて発射していく。長門の主砲が一式徹甲弾改を放ち、艦娘艦隊を陸上部から狙撃して来ていた砲台小鬼へ白い弾体を突き立て、砲身を叩き折り、本体を貫いて爆砕する。陸奥の主砲の砲口から放たれた三式弾改二が規定高度で起爆して島の上空で無数の散弾を散りばめ、無数に枝分かれした流星群となって降り注ぎ集積地棲姫を囲う様に置かれている深海棲艦の戦略物資を焼き払う。
二隻の戦艦艦娘の艦砲射撃によって島で大火災が発生し、オレンジの炎の色が周囲の昼間の空を、洋上を赤く染め上げていく。人類の知恵と科学技術の破壊の科学の産物によって島内の陸地が耕される中、長門と陸奥の展開する場所の内側に布陣する艦娘も攻撃に移っている。
「艦対地噴進弾、攻撃始め!」
青葉の鋭い射撃号令が下るや、それに応じる形で青葉の航空艤装上に増設される形で置かれていた四式二〇センチ対地噴進砲集中配備型から対地ロケット弾が撃ち上げられ、その後に続く霞、満潮、天霧、狭霧、陽炎からも四式やドイツ製のWG42が発射され、対地ロケット弾の雨を島へと注いでいく。さながら通常兵器の軍艦のVLS(垂直発射装置)から撃ち上げられる対地巡航ミサイルの群れの様な光景が艦娘の艤装上で繰り広げられる中、大量の対地ロケット弾と艦砲射撃の砲弾が大量の昼間の流れ星となりウィスキー島の離島棲姫、砲台小鬼、集積地棲姫と言った地上型深海棲艦の頭上を覆い隠し、鉄片と炸薬による死をもたらしていく。
青空を真っ黒に焦がさんと燃え上がる火災の手は、集積地棲姫を覆いつくし、呪詛の言葉を吐き散らかしていた集積地棲姫をオレンジ色の炎で滅却していく。集積地棲姫と言う名の通り、深海棲艦の物資集積所を務める同棲姫は文字通り可燃物の塊と同然であった。ひとたびマッチで火を付ければ轟々と燃え上がる。
砲台小鬼も沈黙し始めていた。沿岸部から海上の艦娘艦隊を正確に狙撃して来ていた厄介さ極まりないスナイパーだったが、航空隊の決死の空爆となる形で行った敵防空網破壊(DEAD)攻撃で相応の数の砲台小鬼が破壊され、残る小鬼も長門型の特殊砲撃によって薙ぎ払われていく。波の動揺と言う不安定要素を抱える艦娘と違い、地震を除けばまず揺れる事のない大地に足を付けている分、揺れと言う概念がないアドバンテージを持つ砲台小鬼の正確な狙撃と言うべき砲撃は、過去四度に渡るウィスキー島への攻略艦隊を退けてきたが、ウィスキー島を東西から挟撃する艦娘艦隊の攻撃で、その火点は次々に破壊されている。
頭上を航空機のエンジン音が響き渡りだし、青葉は空へと視線を巡らせた。自分達ウィスキー攻略艦隊と対を成すウィスキー島を東から攻撃していたエコー攻略艦隊と呼ばれる第五航空戦隊の翔鶴、瑞鶴、航空巡洋艦大峰、超甲巡愛鷹、防空駆逐艦涼月、冬月からなる空母機動部隊の艦載機群だ。砲台小鬼や離島棲姫の配備機体のインターセプトでその航空戦力は出撃の度に櫛の歯が欠けて行くように数をすり減らしていたが、機動部隊の指揮を執る翔鶴は可能な限りの航空攻撃を仕掛けるつもりの様だった。
既に島の上空の制空権は確保出来ていた。対地攻撃の為の爆装を抱く彗星一二型、爆装零戦隊である零戦六二型岩井隊、流星改が既に何度も何度も砲弾とロケット弾を撃ち込まれて猛煙と紅蓮の炎に包まれているウィスキー島へ、今となっては最早過剰と言える火力を投じて行く。その様子を、制空戦闘兼護衛を兼ねて出撃して来ていた戦闘機隊の震電改は手持ち無沙汰そうに島の上空を旋回して眺めていた。
離島棲姫の滑走路にクラスター爆弾である三号爆弾や、三一号光電管爆弾が投じられ、空中で無数の子爆弾に分かれた対地爆弾によって爆炎と土煙、土砂が宙へと舞い上げられる。流星改も水平飛行しながら徹甲爆弾を投下して、尚も艦娘艦隊へ砲撃を浴びせる砲台小鬼に精密爆撃の雨を降らせ、天からの一撃を食らわせその脳天を打ち砕く。
空爆は始まりがそうであったように、終わりも直ぐに訪れた。五航戦が送り出した攻撃隊は戦闘機隊を除けば四〇機程度とそれ程の規模を持たなかったので、空爆にかける火力の投射量もそれ程大規模なものとならなかったのだ。出撃の度に、対空砲火や迎撃機との空戦で一定、或いは不定の機数が空の塵と化し、海上の藻屑となって未帰還になるのが空母艦娘の航空隊の常だった。殊に対空戦闘能力も高い砲台小鬼相手には文字通り決死隊になってしまう。正確な損害報告は入っていないが、艦隊の対地攻撃に先立って空爆を実施している陸攻部隊である銀河江草隊や一式陸攻野中隊にも相応の被撃墜機は出している筈だった。
特殊砲撃を終え通常砲撃に移行する長門は後ろを振り返り、秋月が救急手当をしている水上機母艦艦娘の秋津洲を見やった。
「秋月、秋津洲の容体は?」
「帰ったら病院に入院して貰う事にはなりますが、大事には至っていません」
「私なら大丈夫かも。二本の脚で立てるから」
ふふっとどこか得意げな笑顔浮かべる秋津洲だが、頬を緩めた際にその右頬に出来た裂傷が痛んだのか、笑顔は直ぐに渋面に代わった。
秋津洲は艦娘の艦種の中でも補助艦艇艦娘に分類され、基本的には非戦闘系の艦娘と言える。無論、中には日進の様に最前線で戦う事も上等と言わんばかりの戦闘派な補助艦艇艦娘もいるにはいるが、秋津洲は駆逐艦娘や海防艦娘並みに撃たれ弱く、艤装の生命維持の為のシールド機能も相応の耐久性しかない。ただ秋津洲は補助艦艇艦娘としては回避技能に優れており、日進が別作戦で取り込み中の今、ウィスキー島攻略において水上機母艦ならではの強風改二水上戦闘機を載せての制空戦闘や、一二センチ三〇連装対空噴進砲による対空戦闘等、面に艦隊の防空と言う役割を担っていた。海域の異常により、ウィスキー攻略艦隊の進撃路には空母が組み込めない事が判明しているので空母代わりの制空権確保要員であった。
深海棲艦も秋津洲が戦闘艦艇ではなく、補助艦艇である事を見抜いていたのだろう、ポイント6-4Cの深海棲艦戦艦戦隊の戦艦ル級等道中の深海棲艦は秋津洲に集中砲撃を加えて来たが、鍛え抜かれた秋津洲自身の回避技量で何とか潜り抜けて来ていた。だがウィスキー島を前に彼女の気が抜けた途端に砲台小鬼の砲撃が着弾して、見事に戦闘不能に陥ってしまった。
あの様子では、艦載水上戦闘機隊は収容出来んな、と長門は自律神経の軽い乱れから溜息を吐き、対地攻撃に移行しているグレイッシュピンクの航空巡洋艦娘を見やる。
「長門より青葉へ。航空艤装に空きはあるか?」
「一応ありますけど、それが?」
「秋津洲が大破した以上は強風隊を収容出来ん。青葉の航空艤装で秋津洲の強風隊を預かってやってくれんか?」
「了解です。青葉、戦闘終了後、秋津洲さんの強風隊収容にかかります」
通信を切った時、カランと鐘が鳴り、ブザーが三回響き、長門の主砲が一式徹甲弾改を発射した。顔面を張り倒すかのような衝撃と、目をすぼめたくなる閃光が走り、一〇発の徹甲弾が尚も行動可能な砲台小鬼の元へと鉄塊を投げ飛ばす。砲台小鬼は陣地転換を試みていたが、撃破された味方の残骸に道を阻まれてもたもたと鈍い挙動をしている内に長門からの艦砲射撃を受けていた。
「第三射、弾着。半数が命中。同一諸元、効力射続行」
「装填完了次第、各砲、交互撃ち方に切り替え。ウィスキー島から深海棲艦の反応が消えるまで、砲撃を続行」
そう命じてから長門はもう一度溜息を吐いた。この艦砲射撃で弾薬庫の残弾は払底するだろうな。
約三〇分に渡る艦砲射撃が完了した後、ウィスキー島には動くもの一つ残っていなかった。
長門と陸奥と同じく二〇・三センチ四号砲で三式弾改二による間断の無い艦砲射撃を行っていた青葉が、長門からの「撃ち方止め」を確認して射撃を止めた後、辺りにはウィスキー島から立ち上がる深海棲艦の残骸や可燃物が燃える音と風の音、波の音だけが響いていた。
青葉は島から風に乗って押し寄せて来る熱風に顔をしかめた。ウィスキー島があるのは赤道直下近傍の中部太平洋。日光を遮るものも無く、遥か高空にある太陽は、海上にあってもその殺人的とも言える暑さに手加減をする事は無い。陽光だけでなく、海上にいるだけに高い湿度も艦娘の体力をじりじりと削り、集中力を削ぎ落していく。
≪スカイアイよりウィスキー、エコー攻略艦隊全隊へ。ウィスキー島の敵勢力の活動停止を確認した。ウィスキー揚陸艦隊は上陸を開始せよ≫
≪神州丸よりスカイアイ、了解した≫
ウィスキー攻略艦隊の後方に展開している艦娘母艦「わかたか」と共に、作戦指示の発令まで待機していた揚陸艦「ジェイムズ・H・ダナン」の艦橋に居る陸軍特殊船艦娘の神州丸が無線越しに返答を返す。
サンアントニオ級ドック型揚陸艦LPD-33「ジェイムズ・H・ダナン」の艦尾のウェルドックが開き、中から人類統合軍海兵隊の隊員と装備を満載したAAV7水陸両用装甲車とLAV-25水陸両用装甲兵員輸送車、LCAC-100揚陸艇、複合艇が発進し、艦の後部のヘリ甲板からはやはり海兵隊員を満載したMV-22輸送機が次々に発艦していった。
まず上陸部隊本隊に先んじて複合艇に乗った海兵隊の海兵隊武装偵察部隊が上陸し、上陸部隊本隊が上陸するにあたって必要な安全を確保すると、発煙弾を上げてLCAC、AAV7、LAV-25、MV-22に合図を送った。
対地攻撃を終えた艦娘達が再集結をする横で、上陸部隊を満載した揚陸艇、水陸両用装甲車が浜辺へ殺到し、ランプが下ろされるや海兵隊員や軽装甲車輛、トラックが浜辺へと降り立った。
島の広さは大体半日もあれば徒歩で一周出来る程度の小さな島だった。
「青葉、念の為、何人か連れて島の反対側の警戒監視に当たってくれ」
「了解です」
水平線上に姿を見せるエコー攻略艦隊に通信を入れつつ、新たな仕事を頼んでくる長門に軽く答礼すると青葉は天霧と狭霧を連れてウィスキー島の反対側へと回った。
「いやあ、今日一日だけで随分と地形を変えたもんだな」
言葉通り艦砲射撃で地図に記された地形の原形を喪ったウィスキー島の島影を見て、天霧が引き気味に言う。彼女も一二・七センチ連装主砲で艦砲射撃を行ったから、ある意味自分の行いがこうしたと言えるのだが、それはそれとして些かやり過ぎたのではないかと言う思いが彼女の中にあった。
「この島に投じた砲弾の総量の請求書に書かれた値段を考えるだけで、頭がくらくらしそうです」
考えたくもない事だが、と言う顔で狭霧が言う。相棒とも言える狭霧の台詞に天霧は尻馬に乗った様に頷く。
「アタシらの給料云年分だろうな」
「破壊は想像よりも容易いのですよ、お二人さん」
普段の陽気な態度はどこへ行ったのやら、シニカルさを湛えた笑みで青葉は島を眺めながら天霧と狭霧に言う。青葉が冷笑的な姿勢なのは、ここ最近の彼女の心境の変化にもあった。
ある意味、心の拠り所とも言えた青葉の本来の所属先である第六戦隊は、解隊とまでは行かないが、活動休止状態に近く、休暇名目で日本本土へ帰国した古鷹と衣笠の二人は現在予備艦娘に認定されて一線級の軍役から距離を置いている。その為今の人類統合軍海軍第八方面軍の最前線ショートランド泊地内で青葉が腹を割って話せる艦娘が少ない。第六戦隊でも加古はまだソロモン諸島戦線に配属されているが、ショートランド泊地からラバウル泊地へ異動となって青葉とは離れ離れだった。
第六戦隊以外だと、第八艦隊の戦友である鳥海、天龍、夕張、北上、大井、愛鷹、黒姫、大峰、磐梯がいるが、愛鷹型の四人は第六戦隊の活躍の場を奪ったような存在になってしまった事もあってか青葉としては少し気を許し難くなっており、同時に愛鷹型の四人もそう言った背景から青葉に申し訳ない気持ちもあって距離を少し置いて、様子見の姿勢だ。鳥海と天龍と夕張の内、鳥海は北太平洋を担当する第三方面軍に引き抜かれ、天龍は改二化による対潜、対空戦闘能力の強化で現在は海上交通路の護衛任務に従事しており、夕張はショートランド泊地で工作艦娘に代わるメカニック兼戦闘艦娘と言う多忙さであり、ソロモン諸島で武勇を誇った第八艦隊は現在の状況は距離感がバラバラか、多忙化でお互いに構う余裕がなくなっていた。
親友が不在と言う孤独感と同時に、未だに青葉の中で尾を引きずると言うか、影を落としているのが半年前の異世界と言えるストレンジリアル世界からの転生艦娘であり、親しくしていた戦艦艦娘タナガーの戦死だった。半年前のサーモン北方海域最深部での最終決戦で、深海魔鎖鬼の世界での交戦と、その直後の現世での戦艦水鬼率いる艦隊との戦いで、タナガーは戦艦水鬼と相打ちになって致命傷を負い、落命した。遺体を回収する事も叶わず、その場で水葬と言う体で葬られたタナガーの事で最近青葉は精神的に病みがちになっていた。
軍医からは軽度のPTSDと診断されていたが、艦娘として最前線に出る分には問題ないとして最前線から下げられる事は無く、逆に改二航と呼ばれる現在の航空巡洋艦艤装を与えられて、新たな配属先の第一六戦隊の主力艦娘として、ウィスキー島攻略戦等を始め青葉も青葉で多忙な日々を送っている。一六戦隊には北上と大井も所属していたが、今この二人は鳥海と同様第三方面軍に編入されており、不在だった。
第一六戦隊仲間となった軽巡艦娘の鬼怒や天霧と狭霧、浦波は青葉と仲良くしてくれる仲であったが、根本的に青葉の孤独感を紛らわせるには至っていなかった。青葉は決してコミュニケーション能力に問題を抱えた人間ではないし、打ち解け合うなら誰とでも打ち解けられる性格だったが、タナガーの戦死以降、病みがちな青葉が心を許し、腹を割って話せる艦娘と言うのはそう簡単に新規に作れるものではない。
そう言った環境の変化が青葉を本来の陽気でアクティブな性格から、シニカルさと物静かさの二つの要素を前面にした性格へと変えていた。オフの時は相変わらずカメラを握って写真を撮っている事もあるが、ネタが出尽くしたと言うのもあって、最近ではカメラを手に取る頻度も減っていた。
そんなこんなで色々な意味で気分が下降気味な青葉が天霧と狭霧と共にウィスキー島の反対側へと回った時、青葉の目に見慣れぬ者が目に入った。
ウィスキー島の反対側、即ち上陸地点や深海棲艦の地上型の配備場所とは反対側に当たる海岸は砲爆撃に晒されておらず、結果として自然がそのままに残っている。地形も変化しておらず。地図通りの地形が広がる中、その中の小さな浜辺に女性が座り込む様にして気を失っているのが見えのだ。
「誰かしら……」
「艦娘……かな」
狭霧が首を傾げ、天霧が眼鏡の位置を正しながら女性を見つめる。
「お二人はここで待機を。青葉が確認して来ます」
二人が距離を取って見つめる中、青葉は天霧と狭霧に待機を命じ、自ら女性の元へと向かう。何と言えばいいか、青葉の胸の底で新たな刺激感と高揚感が騒ぎだしていた。この感覚は今でも昨日の事の様に覚えている。戦艦艦娘タナガーと初めて邂逅した時の感覚と全く同じだった。
もしやまさかとは思いつつ、青葉は島の浜辺に座り込む姿勢で気を失っている女性の元に近づき、即座に女性の正体を察した。
現代の、艦娘が海軍の主戦力となる前のアメリカ海軍や中国海軍で幅を利かせていたスーパーキャリアー事大型航空母艦とそっくりな飛行甲板を左舷艤装とし、右手には背中の艤装から伸びるコードで繋がれた拳銃の上にMk.15 CIWSを載せたような火器艤装を握り、アメリカ海軍の帽章によく似た白い制帽を被り、左胸に刺繡された「30」の番号、右胸に金の刺繍文字で「O.M.D.F」と書かれた黒のコート、その内側に白いワイシャツに紺のネクタイを締め、オリーブドラブのズボンと軍艦の船体色を模したカラーリングのアンクルストラップ付ハイヒールを履いている。
コートの左胸に縫い込まれている「30」の番号は、航空艤装らしい左舷の飛行甲板の先端にも書き込まれていた。
セミロングの銀髪持ちの美しい風貌の女性だが、右頬には赤黒く刻まれた何かの傷跡があった。最近出来たものの様に見える。二〇代後半くらいと推定出来る容姿だが、年齢以上の貫禄と老獪さを素で放っている。穏やかそうな顔立ちだが芯の強さも同時に感じさせる顔立ちだ。
「ふーむ……」
艦娘、としか言いようが無い見た目をしているが現代の航空母艦の艦娘版は聞いた事が無い。何より飛行甲板の形からしてキティホーク級空母がベースと見受けるが、キティホーク級空母なら艦番号は「63」から欠番の「65」を挟んで「67」になる。この内CV-67「ジョン・F・ケネディ」は飛行甲板の形状が異なるので、実質「63」から「66」までと言う事になる。当然ながらその三隻の姉妹艦の中に「30」の番号を持つキティホーク級空母は存在しない。キティホーク級空母はアメリカ海軍でのみ運用され、ライセンス生産した国も無く、輸出された事も無いのでこの世界で艦番号「30」のキティホーク級空母は有り得ない番号と言う事になる。
タナガーの時と同様、この女性、いや艦娘はストレンジリアル世界からの転生者、いや転生艦だろうか? と青葉が浜辺へと上陸し、座り込む様にと言うより浜辺に突き刺さる大きな飛行甲板に身を預ける様にして座り込んで気を失っている女性の艤装らしきものを調べて回る。
名前だろうか、艤装の一部分に「CVN-30 Kestrel」の文字が書き込まれていた。
「ケストレル……」
それが彼女の名前なのだろうか、ともう一度女性の顔を見やった時、青葉は島のまだ燃えていない森の中へと続く足跡を見つけた。
まだ新しい足跡、と言うだけでは無かった。足跡の形からしてハイヒール状だが、ヒールの後ろから細長い板状の跡が付いている。艦娘の中でラダーヒールと呼ばれるものを備えている艦娘が砂浜や足元が緩い場所を歩くと出来る足跡のそれだ。誰かが島の内陸部へ上陸して、隠れている様子だった。
陸上部では重いだけの艤装を一部外して、サバイバルナイフ片手に青葉は島の森内部へと進んだ。
「青葉さーん、何処に行くんですか⁉」
狭霧が呼び止める声に軽く手を振って青葉は森の中へと足を踏み入れて行った。足跡は森の中へと続いている。それ程うっそうと生い茂っている訳でもないので、見通しは良い。
草木を踏みしめる青葉自身の足音が鳴る中、島の反対側からは車両の走る音が聞こえて来る。海兵隊が橋頭保を構築しているのだ。
「うん?」
青葉は目の前の岩の前にもたれ掛かるように気を失っている女性を見つけて、先程の「ケストレル」を見つけた時と同じ違和感に一瞬考えが止まった。
今目の前にいる女性は、「ケストレル」と同じ艦娘、それもこちらは右側の艤装が大量のVLSを埋め込んだ艦首を模した艤装、背中には旧ソ連圏の軍艦特有の大型のアンテナを頂いた艦橋を含む艦上構造物、そして左舷艤装にもVLSとヘリ格納庫を備えた艦尾を模した艤装を纏っている。艤装の構成からして心当たりある軍艦はキーロフ級重原子力ミサイル巡洋艦だが、青葉が見る限りでは、キーロフ級の一番艦から四番艦の全ての特徴に一致しない艦上構造物の構成だった。
衣服は如何にも旧共産圏の海軍士官らしい制服と制帽だが、青葉の知る限りではロシア海軍のそれに大分近い。靴は足跡を作ったのと同じヒールが舵になった黒のハイヒールだった。制帽の下からは陽光を反射して輝くブロンドの髪と、スラブ系らしい整った顔立ちが見える。スラブ系の艦娘と言えば青葉と面識があるのはロシア艦隊の戦艦艦娘ガングートと駆逐艦娘のタシュケントの二人だが、あの二人よりも細面であった。
周囲の様子を伺ってから、青葉は目の前の艦娘らしき女性を見下ろしながら、ふうと深いため息を吐いた。足跡を残したと言う意味で、今目の前で気にもたれて気を失っている女性、いや艦娘は間違いなく少し前までは意識があった事をうかがわせる。
「どうやら、『予想外の訪問者』が二人もこの世界に来たようですね……」
「ケストレル」とこのキーロフ級らしき艦娘。二人を回収し、目が覚めたら事情を聴いて、と言う事になるが、青葉はそれとは別に急激に胸の中に湧いて来る高揚感に心が躍る気分になるのを感じていた。
新しい出会いが、タナガーを喪って以来、もう無いだろうと思っていた新しい、出会いが自分に訪れたのだと青葉が理解するまでに要した時間はさほど長くは無かった。
そっと青葉は好奇心から目の前のキーロフ級のそれを模した艤装を纏う艦娘と思しき女性の艤装を調べる。なるべく無理に起こさない様に配慮しつつ、艦尾を模した艤装に彼女の名前が書き込まれているのではないかと思い、調べる。
予想通り、キリル文字で短く艦名が書き込まれていた。ロシア語をマスターしている訳では無いが、少なくともキリル文字のアルファベットは読む事が出来る青葉は、その黄色の文字で書かれている艦名を読み上げた。
「『ウミェールイ』……」
恐らく形容詞だろう、と青葉はその名前の予想を付けていた。青葉の限られたロシア語知識に基づいて推測すれば語尾が「~イ」で終わるロシア語の単語は大抵形容詞だ。最もロシア語なのかは正直自信が無い。キリル文字を使う国は少なくともこの世界にはロシア以外にも複数存在する。
「青葉さーん、大丈夫ですかー?」
沖合で待機している天霧が呼びかけて来る。青葉のヘッドセットの受信機能が切れていたので、大声を出すと言う声量では狭霧よりも得意な天霧が心配して声をかけて来たのだろう。
浜辺の方へと向き直ると、ヘッドセットの送受信を再びオンにして青葉は天霧と狭霧に連絡を入れた。
「上陸部隊に連絡して、輸送ヘリを二機寄こす様要請して下さい。長門さんには未確認の艦娘を二名回収したと、青葉が連絡しておきます」
「了解です」
「はい」
天霧と狭霧の二人の返事を聞いてから青葉は、くるっとウミェールイの方へと振り返って意識の無い彼女を見下ろした。
何故だろうか、ウミェールイには何かその未だ語られない彼女の身の上の内側に、彼女にとって闇深く、そして罪の意識に苛まれている過去を抱えている風に感じられて仕方が無かった。ケストレルが至って穏やかだが、思慮深く、包容力のあるものを放っているのとは対照的と言えた。
よいお年を。
ではまた次回のお話でお会いしましょう。