艦隊これくしょん ストレンジリアル軍艦艦娘転生海戦譜season2   作:岩波命自

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(活動報告にも書いた不定期投稿とは?)


第二一話 Story of my life

 航空偵察写真が会議室のディスプレイに表示されている。熱源画像方式(サーマル)の、灰色と白で色分けされた画像と、カラーの生の画像の二種類が表示されており、サーマルの方では六隻の艦隊が二群明瞭に白く表示されていた。白くハイライトされたオブジェクトの内、大型艦と分かるものは二群合計で四つ、中型艦が一つ、それ以外は全て駆逐艦級の小型のものだった。

 カラーの画像を見ると、黄色く光る空母ヲ級flagship級が二隻と、赤く光るレ級elite級が一隻確認出来る。ヲ級とレ級よりも群を抜いて大きいのは南方棲戦姫だが、一隻しか確認出来ない。

「偵察衛星、並びに無人偵察機による航空偵察の結果がこちらとなります」

 第八艦隊航空参謀ミン中佐がレーザーポインターを片手に、偵察映像の解説を始める。

「敵サーモン北方海域最深部に再展開を完了した敵深海棲艦艦隊は二群。主力艦を南方棲戦姫一隻、空母ヲ級改flagship級一隻、防空巡ツ級一隻、駆逐艦ハ級後期型三隻からなる一群、空母ヲ級改flagship級一隻、戦艦レ級elite級一隻、駆逐艦ハ級後期型四隻からなる一群が確認されました。

 結論から申し上げますと、サーモン北方海域最深部敵主力艦隊は、先のカウントダウン作戦の影響からか、大幅に展開戦力の弱体化が認められます。但し、弱体化したとは言え、現在サーモン北方海域最深部に展開する敵艦隊を先遣部隊として、サーモン北方海域最深部における橋頭保維持の為の駐留部隊とするのを良しとすれば、ここソロモン海域における制海権維持に今後影響を与える可能性は大きいと見るべきかと思います」

 そこでミン中佐は区切り、次の解説を作戦参謀パヴリチェンコ中佐に引き継ぐ。大柄な体を窮屈そうに沈めていた椅子から立ち上がったパヴリチェンコは、会議室のディスプレイに表示される画像を切り替える様に頼むと、ディスプレイに表示される画像について語り始めた。

「目下、我が第八方面軍並びに第八艦隊が攻略を目的とするコードネームKW環礁、もとい旧クウェゼリン環礁に展開する深海棲艦ですが、カウントダウン作戦の前に実施されたローレライ作戦により、敵空母機動部隊は大きな損害を被った模様であり、元々同環礁に展開していた三群の任務部隊主力群の内、現在でもポイント6-5Mに駐留するのはトラックナンバー3の一群のみとなっております。

 ただし、ローレライ作戦で大損害を被った敵機動部隊の一群が同環礁へ合流を図った為、事実上の戦力は二群二四隻となります。なお、合流した敵機動部隊には、ローレライ作戦で確認された空母棲姫Ⅲが一隻、空母ヲ級改Ⅲが一隻を主軸とする機動部隊である事が確認出来ます。またカウントダウン作戦で殲滅した敵補給艦隊の一部の残骸を大峰と鳥海が調査した結果、敵輸送補給艦ワ級の搭載物資の中に、深海噴式燕戦爆のものとみられる物品が存在していた事から、合流した敵機動部隊の艦載機定数は、本来の数を割り込んでいる可能性があります」

 どよめきが会議室に会する第八方面軍司令部幕僚に広がる。その上座でミューラー司令官が厳かな声で言った。

「敵深海棲艦艦隊は、度重なる戦力消耗と補給艦隊の喪失によって、本来の定数の艦隊と艦載機を再配置出来ていない。その解釈で間違いないな」

「間違いありません」

 アッテンボローが頷く。

 ふむと鼻の奥を鳴らして椅子に深々と座り込むミューラーに、アッテンボローは言葉を続ける。

「直ちに第八艦隊の全力を挙げて、サーモン北方海域最深部とKW環礁の完全奪還作戦を実施すべきです……と言いたい所ではありますが、残念ながら我が方の艦娘艦隊の戦備も万全とは言えないのが現状です」

「装備は整っている筈だが、何処に不安要素があるのかね?」

 そう尋ねるミューラーに、第八方面軍の情報参謀から、統合軍各方面軍内に新設された方面軍艦娘参謀へと移籍を果たしたギャリソン大佐が答えた。

「艦娘艦隊の練度面に、不安が見受けられます。殊に、ウィスキー島で兵糧攻めの憂き目に遭っていた大和型戦艦艦娘などの主力艦娘は、同地での艦隊運動演習の積極実施が不可能だった為、技量、練度の低下が見受けられます。

 新設の第三任務群も同様です。新規配属となった第六戦隊、第一六戦隊との艦隊運動演習をまだ実施出来ていません。配備されている艦娘の個々の練度は確かなものがありますが、艦隊を組む艦娘同士の阿吽の呼吸、戦技演習等に不安を抱えています」

 それを聞いたアッテンボローが大きな溜息をもらす。

「全く何て事だ。我々はガールスカウトを指揮して、敵と戦わねばならんのか」

「焦りはやる事はあるまい」

 ミューラーが微笑みかける。

「敵も大打撃を被っている今、向こうも向こうで受け身の構えだろう。時間を長くかければ向こうの守りも硬くなるが、その前にこちらは再錬成に励んで、然るべきタイミングでこの戦域における制海権奪還に挑めばいい話だ。

 アッテンボロー、主力艦隊は当面の間再錬成の為に引き抜くが、また深海棲艦が再度の補給艦隊を送り込んで来る可能性は充分にある。それに備え、潜水艦娘と巡洋艦娘による通商破壊部隊をいくらか編成しろ。敵が補給艦隊を送り込めば、叩き、狩りを実弾実地演習とする。敵もカウントダウン作戦で有力な護衛艦隊を喪失している以上、有力な護衛艦隊を随行させる事も難しい筈だ」

「了解です」

 承知とアッテンボローは頷く。

「次期大規模作戦の控え、艦隊強化期間とする訳ですが、司令官としましてはポイント5-5Sとポイント6-5Mを同時に攻める腹積もりですか?」

 確認する様に尋ねて来る第八艦隊首席参謀の井村大佐が言う。

「私としてはそのつもりだ。二正面作戦は攻勢側に大きな負担を強いる事は歴史が証明しているが、今の我々にはその攻勢を支えるだけの兵站が整っている。そして敵は弱体化している。二つの海域で大規模な攻勢を仕掛け、深海棲艦が抵抗する猶予を与える事無く、一気に押し返す。それが私の想定案だ」

「問題は、攻勢の終わった後も続く兵站の維持です」

 後方主任参謀の川島中佐の言葉に、ミューラーは分かっていると頷く。

「王武が統合政府に加わった事で、補給線を短くする事は出来ているが、向こうの用意が整わなければ、前提条件は意味を成さない。それに向こうの世論の問題もある。仮にポイント5-5S、6-5Mを攻略し、海域を奪還出来たにしろ、制海権を維持する為の補給線の維持は今後の問題になろう」

 王武共和国はKW環礁がある旧クウェゼリンの南、旧ナウルよりも南にあるソロモン諸島でも最北にある人類圏の国だった。統合政府に加盟したとは言え、軍組織の統合化は一朝一夕にして進むものではない。第一次世界大戦後の建国以来、第二次世界大戦時から貫いて来た武装中立国を国是として来ただけに、ある日突然の統合政府加盟は王武国内で少なからず混乱を起こしている。あっさりと迎合した組織や企業も多いが、王武国民の多くは困惑が大きいと言う。

 そんな国に、兵站拠点としての任を任せるのは、些か申し訳ない気分になるのがミューラーの本音だ。

「駐留部隊の規模にもよりますが、場合によっては二万トン級の補給艦を一体何隻用意する羽目になる事やら……」

 兵站の重要さを良く知るプロフェッショナルなだけに、幕僚達の中でもひときわ険しい表情を浮かべて、想定される補給線の維持問題を考える川島に、ミューラーは苦笑交じりに言った。

「私は生憎兵站のプロでは無いので、中佐等の本職の意見を聞きつつ策を立てる迄だ。補給部門が無理と言うなら、先の作戦も見直す事になるだろう」

「小官も戦術と戦略の本職では無いので、発言によっては越権行為に当たるかも知れません。ですが、兵や艦娘を飢え死にさせるのは、後方主任幕僚として、最も恥じるべき想定です。そこの所ご理解の程を」

「承知している」

 兵站のプロフェッショナルでは無いと前置きしているとは言え、方面軍司令官を任される程には各分野への造形を持ち合わせているだけに、ミューラーの反応は川島の意思を深く尊重した敬意ある物になっていた。

 ミューラーは改めて会議室にいる幕僚全員に、今後の方針を伝えた。

「目下、第八艦隊の達する戦略目標は三つだ。一つ、サーモン北方海域最深部への再攻略に向けた艦隊の再錬成、一つ、KW環礁攻略部隊である第三任務群の錬成、一つ、今後繰り出されてくる可能性がある敵補給艦隊に対する通商破壊戦だ。

 この三条件をクリアした暁には、我が第八方面軍は管轄戦域における深海棲艦の脅威を完全に取り除く事となる。その栄誉を預かる事にはやる気持ちもあるかも知れないが、功を焦って取り返しのつかない失態を演じる事の無いよう、艦娘各位にも伝達する様に」

 

 

 ―三日後―

 

 空に二重反転ローターのせわしない音が二つ鳴り響いていた。

 航空妖精が乗り込むKa-25哨戒ヘリ二機が、ラバウルの東、シンプソン湾の海上に展開する第三任務群の周囲を飛び回っていた。一つは対潜哨戒、もう一つは航空妖精の慣熟飛行の最終フェーズを兼ねていた。

 第八艦隊司令部から、練度向上を目的に強化期間が設けられ、第六戦隊と第一六戦隊を新たに加えて再編された第三任務群を構成する一七名の艦娘達と、その中核をなす空母艦娘ケストレルの航空団に新たに配備されたF-14A四機、F-14B二機、F-18C四機、F-18E四機、F-35C二機の戦闘機一六機、S-3B対潜哨戒機三機の航空戦力は、艦隊運動演習と戦技演習の二つをこなす事が当面の課題となっていた。

 一七名に膨れ上がった第三任務群は、現在、艦隊旗艦を務める戦艦艦娘ニュージャージーと艦隊の中核をなす空母艦娘ケストレル、防空と対潜哨戒を担う軽空母艦娘瑞鳳、そして巡洋艦ウミェールイからなる複縦陣を中心に、その左右前方に重巡青葉、加古、左右後方に古鷹、衣笠、輪形陣の最前衛に鬼怒、輪形陣右翼に敷波、綾波、エドワーズ、左翼に磯波、浦波、リアリー、後衛にフィンチ、グムラクを配した大規模な艦隊陣形を形成していた。

「壮観な眺めね」

 ストレンジリアルでの寂しい空母戦闘群編成を思い返しながら、ケストレルは微笑を浮かべていた。軍艦では無いが、軍艦と概ね同じ仕事をこなせる艦娘が前後左右に大勢おり、それらが各々の持ち場について輪形陣の中央に位置する主力艦娘を守っている。これ程の規模の艦隊を見るのは一体何時以来だろうか。

 再び上空をフライパスするKa-25の機影を見上げてケストレルは勇悦に満ちた表情を浮かべる。ウミェールイの艤装からサルベージされて修理が行われていたKa-25哨戒ヘリの修理も完了し、今はウミェールイとグムラクにそれぞれ「ストレンジャー1」「ストレンジャー2」と言うコールサインで再配備されていた。これにより、かねてより不安が残っていた艦隊の対潜能力は哨戒ヘリとS-3B対潜哨戒機の配備によってその不安を払拭される事となった。

 昨日艦隊運動演習を実施し、今日は戦技演習を実施すると言う事でのラバウルを出航した第三任務群だったが、どの様なメニューの戦技演習を実施するのかは封緘命令書に記されている為、まだ分からない。

 今日も今日とて南洋の赤道付近の強い日差しを降らす太陽を前に、ケストレルの格好も変わっていた。一番の外観上の特徴であった黒いコートは無く、カーキ色の将校服となっていた。ズボンの丈は変わらないが、トップスに関しては更に半袖のシャツとなっており、この世界に転生した時よりもよりソロモン海域の気候に適した服飾へと改良がされていた。

 同じ事がウミェールイ、フィンチ、グムラクに言えた。フィンチの白タイツとグムラクの黒タイツは脱がれ、ほっそりとした足先に白ソックスと主機艤装と言う涼しい足回りになり、腰から上も上着が無くなり長袖の制服から半袖の制服へと変更されている。ウミェールイの制服だけは長袖のままだったが、紺の制服から白い夏服仕様へと変わっていた。制帽の天井が白いのも相まって、奇しくもこの場に居る艦娘の中でも最もアッテンボローやミューラーの様な「提督」っぽい格好になっていた。最もアッテンボロー、ミューラー共に普段から夏服略装ではあったが。

「両舷前進原速、赤黒無し」

 事務的な口調で、「提督」っぽい格好のウミェールイが報告を上げる。

 第三任務群における言語は日本語で統一されていた。艦隊を構成する艦娘の半分以上は日本艦娘だし、ニュージャージー以下アメリカ艦娘は日本語の会話能力において日本人と何ら遜色ない語学力があり、ストレンジリアル組の四人も日本語を完全習得している為、一部例外を除き、共通言語を日本語にしていた。

「時計合わせ、ヒトサンマルマルまで後五秒」

 艦隊旗艦ニュージャージーの声で一六名の艦娘が一斉に自身の腕時計の盤面と針を見やる。

「ヒトサンマルマル、ジャスト。封緘命令書開封。各員、演習内容を確認されたし」

 長女アイオワによく似た声ながら、そのアイオワの口振りを極めてネイティブな日本語話者に、かつ高いテンションと明るく開放的性格なアイオワの性格を極めて冷静沈着で生真面目さを前面に出した様な彼女の指令に、一斉に封を破く音が鳴り響く。

 そして二つの反応が第三任務群の艦娘から上がった。一つは戦技演習内容を読んでの呻き声、一つは同内容に対して鼻の奥を鳴らして成程と頷く反応だった。前者の反応を示した艦娘は主として「対潜戦」が出来ない六戦隊の重巡艦娘から上がっていた。

「『戦技演習内容、ASW(対潜戦闘)。襲撃行動を行う赤軍潜水艦を全て無力化せよ。尚、航空機の使用は禁じ、艦隊独自での対潜戦闘を実施されたし』ねぇ……」

 封緘命令書の命令文をフィンチがすらすらとした日本語で読み上げる。その青少年の様な快活さと明朗で活気に満ちた声が特徴的なフィンチとは反対に、行動の基本は静であり、性格面ではフィンチと対照的に大人しく、女性にしては低め声が特徴的なグムラクがその後を続ける。

「『なお、青軍艦隊空母ケストレル撃沈判定を持って第三任務群の敗北と認定する』ですか」

「おおう……」

 抉って来るな艦隊司令部、いや水上訓練指導群は……とフィンチは、前方のケストレルの背中を見て、苦笑いを浮かべた。

 

 一方、フィンチから同情交じりの視線を向けられていたケストレル自身はと言うと、この戦技演習を監督する練習巡洋艦艦娘香取や、指導官達からの挑戦状と受け取っていた。前世で潜水艦に沈められたケストレルが、再び潜水艦に襲われた際に、その脅威の手から逃れられるのかの腕試しをされているのだと思うと、武者震いと言うモノが込み上げて来る。

 せめて短魚雷でもあれば、とねだっても仕方のない事を考えながら、ケストレルは自身に求められている分野が回避テクニックにある事を読み取る。対抗演習に投入される潜水艦は勿論訓練用の魚雷を撃って来るだろうが、信管自体は実弾と同じものが使われるから、場合によってはケストレルの強烈な艦首波で魚雷を跳ね返すパワープレイが出来るかもしれない。或いは、巨大な艤装を持っている割には驚く程に旋回半径が小さい機動性の高さを生かした回避テクニックと言う頭脳プレイになるかもしれない。

「赤軍の潜水艦、どんな出方をするか、お楽しみね」

 笑みと共に読み終えた命令書を握り潰しながら、ケストレルは足元の海面を見下ろして、海面を挟んだ側の世界に居る存在に向かって呼び掛けた。

 

「対潜戦ですか……」

 落胆の吐息交じりに青葉は呟いた。予想では対空戦闘か、対潜戦だろうとは思っていたが、少なくとも対空戦闘なら六戦隊にもまだやれる事がある。主砲を用いての対空射撃は勿論、改二乙形態の青葉なら主砲に加えて高角砲と機銃を用いての中、近距離の対空射撃もこなせる。少数だが瑞雲改二を用いての防空戦闘だってこなせるくらいだ。

 ウミェールイ、フィンチ、グムラクと言う絶対に狙いを外す事の無い艦対空ミサイルを備える防空艦娘が居るとは言え、彼女達の弾薬庫に装填されているミサイルの数は、砲弾と比べて遥かに少ない。今回の対抗演習で一航戦、二航戦、五航戦の総力を挙げた物量を前面に押し立てた航空攻撃が行われば、弾切れに追い込んで強引に突破すると言う手も無くはない。そんな時、既存の防空艦娘である青葉や鬼怒、フレッチャー級のエドワーズとリアリー、それに艦隊旗艦のニュージャージーに備わる対空兵装は文字通り最後の砦となる。

 だが、想定される訓練の状況が対潜戦となれば話は別だ。艦隊合計何十門にも上る対空火器も、海面下から忍び寄る潜水艦には殆どと言ってよいくらいに役立たたない。潜望鏡深度に浮上している潜水艦か、浮上砲撃戦を挑んで来る潜水艦を相手すると言う限定的な局面でしか活躍の見込みがない。

「元気出せよ青葉」

 六戦隊第一小隊の相棒の加古が励ましの声を送って来る。加古自身もその表情には多少落胆の陰りを見せてはいたけれど、加古は加古なりに割り切っている様だった。

「出番無いじゃーん!」

 一方、青葉と加古よりも大きなリアクションを見せる衣笠のあからさまに落胆した声が海上に響く。一人活動継続期間が長かった青葉が精神的に少し変化し、思った事を直ぐに口にせず呑み込む癖が出たのと対照的に、衣笠は昔と変わりないはっきりと感じた事を物申す正直さがあった。

「良いところなしね……」

 六戦隊の四人の長女的なポジションの古鷹も、流石に落ち込んだ声を上げていた。全員が改二になっても、深海棲艦の重巡の性能のインフレーションを前に二線級化が否めない六戦隊の重巡艦娘の中でも重巡艦娘の矜持を失わない古鷹だが、そのプライドも自分達が対応出来る局面でのみ現れる。対潜戦と言うどうしようもない想定局面において物置でしかない重巡艦娘に出来る事は精々艦隊の隊列を乱さない事、くらいだ。それもそれで重要な役回りなのは四人とも分かっているが、しっくり来ないのは実際ある。

 

「Story of my life」

 自嘲の笑みを交えながら、嘆く六戦隊の重巡艦娘を横目に、ニュージャージーは呟いていた。

 対潜戦が出来ない、と言う意味では戦艦である彼女もまた全くと言っていい程に寄与出来ない。航空戦艦艦娘ならまだしも、純然たる戦艦であるニュージャージーには対潜攻撃の手段がまず皆無だ。六戦隊の重巡艦娘と同じような対潜戦での限定的局面があるなら高角砲で応戦も出来るだろうが、彼女の艤装の最大の得物たるMk.7 一六インチ三連装砲は潜水艦を前に無力でしかない。

 だが、演習など望んだとおりにならないのが定石だとニュージャージーは加古以上に割り切っていた。起きて欲しくない事が、起きて欲しくないタイミングで必ず起こる。実戦でそう言った最悪のタイミングで最悪の事が起きた時に対応出来る様にする為に、演習は内容が時に理不尽な形で進む。

 ニュージャージーの呟いた「Story of my life(私の人生ってこんなものよ)」は正に、望み通りにならない事が常、と言う艦娘人生への諦観と、開き直りが込められたものだった。

 

「対潜戦、航空機は無し……何のために再整備したヘリコプターなのやら……」

 演習と言うモノはそう言うモノだと分かっていても、折角飛ばせるようになったKa-25ヘリコプターが、現状只の遊覧飛行状態になってしまった事へ、ウミェールイは溜息を交えながら残念な気分になる。

 それでもって、とウミェールイは改めてヘッドセットを聴音モードにスイッチを切り替えて、そのイヤフォンから聞こえて来る恐ろしい迄の騒音に思わずミュートしたくなる衝動に駆られる。自分とケストレル、フィンチ、グムラクが可能な限り静粛性を発揮出来る様に考えている軍艦の世代であるのに対し、他一三名の艦娘は、由来となった軍艦の世代も相まり静粛性など知るものかと言わんばかりの水中騒音を出している。

 これ程の喧騒が常時響いている様では、幾ら可聴能力に優れたストレンジリアル組のパッシブソーナーの可聴範囲も大分縮退する事になる。由来となった軍艦の世代の違うとこうも弊害が出るものか、と想定していなかった痛手にウミェールイは一人渋面を浮かべていた。

 同時にやはり大艦隊で運用するより、ストレンジリアル組の四人だけで艦隊を組んだ方が、都合が良いのでは? と言う考えも浮かぶ。或いは、ストレンジリアル組と、第三任務群の他の艦娘は別群にして運用するなど、運用上の改善点は幾らでもある筈だ。今言える事としては、現在の編成では、ストレンジリアル組は対潜戦においてその能力を存分に発揮する事が出来ないと言う事だった。

「片耳潰された状態で潜水艦を探せって言われる様なものね」

 今はやれる事をやって演習を乗り切るしかないと、渋面を振り払い、ウミェールイは策を講じる事に思念を集中させた。「巧みな」と言う自身の艦名の様な奇をてらう程の柔軟な思考力をまだ磨けていないが、何か策を考えてそれを経験値にしなければ、「ウミェールイ」と言う艦名も名前倒れだ。

 

 

 彼女にとって、それは実に難易度の高い相手ではあったが、やりようによっては不可能ではないとも思っていた。

 現在艦娘艦隊に配備されている姉妹艦は姉と自分の二人だけと言う少々特殊な潜水艦娘だが、その特殊さは艤装の高性能さに比例している。巡潜型と呼ばれる潜水艦娘達と違い、彼女と姉は水中での速力を重視した機動性の高さで知られる最新鋭艦娘であった。

 まあ、と彼女は決して浮かれない視線で、ダイバーゴーグル越しに見上げる海面を凝視した。相手は一七人、襲撃行動を行うこちらは自分と姉のたった二人だ。水上艦は少数の潜水艦すらも脅威になる存在とは言え、相手には理不尽なまでに可聴範囲に優れたソーナーを備えた水上艦娘が四人も居る。艤装の由来となった軍艦の世代が、半世紀ほど違うが故に当然ではあったが、楽な相手とは言い難い。

 緊張の生唾を、リブリーザーを加える口の奥で呑み込む彼女の肩をとんとんと姉が叩く。気張るな、と説く姉は優しく微笑み、手を振って展開位置へと離れていく。両手でグリップを握る水中スクーターの様な艤装と、サイハイブーツのオープントゥとヒールの間のソールから側面に突き出す形に取り付けてあるスクリューが低速回転し、後方へと流れる姉の脚の踵の真下についているラダーヒールが、彼女の姉の身体を艤装と共に進路を右へと調整していく。

 私も動かなきゃ、と彼女も姉と全く同じ構成の艤装と主機艤装でゆっくりと進路を左へ取り、展開を始める。

 彼女と姉が特殊な潜水艦娘たらしめる要因である高性能電池の調子は全く問題ない。潜水艦娘として着任、拝命した時はその艤装の電池の初期不良の多さに姉と艤装整備員共々頭を抱え込んだものだが、今では全くと言っていい程に動作不良を起こさないくらいに安定している。ある意味で、彼女の由来である潜水艦が目指した理想像を、艦娘と言う形で完全なものにした感は大変に大きい。

 やがて、日本の祭りの山車が祭り人達の喧騒と共に走って来るかのような大艦隊の航走音を、彼女のパッシブソーナーが捉えた。

 艦隊の中央にいるのはアイオワ級戦艦艦娘に、異世界の軍艦が艦娘として転生したと言う特殊な出自の原子力空母艦娘、同じ出自の重原子力ミサイル巡洋艦艦娘と、お馴染みの祥鳳型軽空母 ―これは瑞鳳だ― の「足音」もとい流体雑音が鳴り響いている。その周囲には改二改装を経ても二線級になりつつある四人の重巡艦娘に、長良型改二の軽巡艦娘、綾波型駆逐艦娘が四人とフレッチャー級駆逐艦娘が二人に、二人の原子力艦娘と同じ出自の駆逐艦娘が二人……。

 フッとリブリーザーの下で彼女はほくそ笑んだ。これだけ僚艦の音が騒々しいのでは、幾ら可聴範囲の優れた四人の艦娘の耳も、仲間の「足音」にマスキングされてろくに聞こえたものでは無いだろう。

 ゴーグルの向こうに見える海面が白く沸き立つのが見えた。一七名の艦娘が大艦隊を構成して前進して来る航跡の気泡だ。

 その気泡を凝視し、彼女は襲撃行動に移行した。青軍艦隊、真正面。まずは外周の対空、対潜護衛艦を何隻か仕留めて外堀を埋める必要があるだろう。

「シップス・レディ、ウェポンズ・レディ、ソリューションズ・レディ、オール・レディ……」

 解析値を魚雷に入力し、狙いを定めた軽巡艦娘へと艦首を向ける。水中スクーターの様な艤装の前面の魚雷発射管の外扉が開口し、発射管への注水が行われる。

「ファイヤー」

 彼女の性格と口調らしい、語尾にエクスクラメーションマークが付かない淡々とした台詞が呟かれ、ゴトンと言う射出音と共に演習弾頭の魚雷が一発、海中へとするりと滑り出し、機関部がスクリューを回転させて自走を開始させる。

「海の中では、誰より強く、ありたいな……」

 魚雷発射後も、低速回転を維持するスクリューに気を配りながら、潜特型潜水艦娘伊203は独語した。




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