艦隊これくしょん ストレンジリアル軍艦艦娘転生海戦譜season2   作:岩波命自

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※ミューラーとギャリソンのセリフが合体してるミスを発見して修正しました。


第三話 南洋の艦隊

 第八方面軍第八艦隊司令部の中にある提督執務室の前で、海軍大佐の階級章を襟と肩に付けたブラウンの髪の男は提督執務室へ入る前に右手を襟元に伸ばした。そこにあるネクタイを軽く調整して、締め心地を整えると第八方面軍第八艦隊情報参謀エドワード・ギャリソン大佐は改めて提督執務室へのドアをノックした。

 木製のドアをノックするやや高めな音が二回響き、中から「入れ」と一声だけ返って来る。

「失礼します」

 小脇に抱えたファイルを手にギャリソンは提督執務室へと太く長い足を踏み入れた。

 デスクで書類仕事に勤しむ提督、金髪だが、どちらかと言うとややグレーがかった黄土色に近い髪が特徴的な第八方面軍司令官レオンハルト・ミューラー中将がペンを動かす片手を止めて入室して来たギャリソンを見上げる。

「ギャリソンか。ふむ、どうやら新しい艦娘についての情報が纏まったか」

 容姿同様の年齢不相応の、恐らく二〇代後半に聞こえる若々しい声でミューラーは問う。中将と言う階級には確かに速い年齢であるミューラーだが、それでも若々しさが前面に出過ぎており、年齢を詐称していると言う噂が実しやかに第八方面軍の陸空海兵隊だけでなく、その傘下の海軍第八艦隊の将兵の間でささやかれる程だった。

 最もギャリソンはそんな事はどうでも良い。配属替えで人類統合海軍第七艦隊司令官に移動した前任の北敦中将の後任として赴任したミューラー提督に対して童顔だと陰口を叩く程彼は非礼な人間ではないし、そう言う事への関心も無い。小脇に抱えていたファイルをミューラーのデスクの上に置き、「出だし程度ですが」とだけまずは語る。

 デスクに置かれたファイルを手に取り、ミューラーは表紙を捲り、手早く書面に目を通していく。

「今度も未知の艦娘の発見者は青葉か。あいつには艦娘を察知する第六感でも備わっているかな?」

「その第六感もどうやら独特なセンサーとして機能する様で」

「ふーむ……ひとまず二人とも身体的に外傷、内傷共に無し、か。健康体で何よりだ。一人は空母艦娘ケストレル、もう片方は……巡洋艦娘ウミェールイと言う所か」

「現在艤装については技術部に解析を依頼して、実施中の所ですが、以前ここで拾った戦艦艦娘タナガーと違い、艤装は完全に近代軍艦のそれです。タナガーも一応SLCM、SSM、CIWSと近代兵器を複数装備していましたが、彼女が主に使用していたのは一六インチ三連装主砲と五インチ連装両用砲でしたから概ね既存のアイオワ級戦艦艦娘と大差は無かった面はありました。

 今回はまるっきり違います」

 ページを捲るミューラーの手が止まり、ケストレルとウミェールイの二人の艤装の機関部の主動力源に記述に最初の注意、注目、興味が向けられる。

「……原子炉を搭載……とな?」

「はい。恐らくこの世に現存するあらゆる原子炉の中でも最小の物を彼女達は備えています。サイズこそは最小ですが、原理は既存の原子炉の理論で構成されています」

「ケストレルは加圧水型原子炉、ウミェールイは加圧水型原子炉に加えて、重油焚きボイラー……ケストレルは兎も角、ウミェールイはCONAS艦と言う事か」

「一般的に言うコンバインド・ニュークリア・アンド・スティームのCONAS機関ではなく、ウミェールイはコンバインド・ニュークリア・オア・スティームで、この原理は旧ロシア連邦海軍のキーロフ級重原子力ミサイル巡洋艦で使用例があるものです。簡単に言えば、原子炉を止める必要がある時に蒸気タービンのみで艦の機能を稼働させると言うものです」

「つまりは異なる動力を二つ備えているのがウミェールイの艤装機関部の特徴と言う事か。キーロフ級重原子力ミサイル巡洋艦の機関については多少聞いた事はあるが、それを艦娘サイズに落とし込むとは。

 一方のケストレルは原子力一択か」

「はい。艦娘艤装出力換算で二基の原子炉で二六万馬力を発揮可能だとの事です。ちなみにウミェールイの原子炉は二基で一四万馬力です」

「アイオワ級艦娘で二二万馬力相当なのに、それをケストレルは越えるのか。流石は核の恩恵と言うべきか」

 そこまで言ってミューラーは核動力ならではのメリットとデメリットにも気が付く。軽く目の端を吊り上げ、核動力の文字を見つめながら呟く様に言う。

「つまりは燃料の概念がほぼほぼ存在しないから給油と言う問題がない、か。だがしかし、その一方で燃料棒の炉心に寿秒が来れば、その交換が必要になる」

「技術部の報告では、当面、最低でも一〇年単位でその炉心寿命の問題は無いと見ています。技術部の感想を直にお伝えすると、その最低一〇年の間に、艦娘用の原子炉の開発と炉心交換技術を確立出来れば問題なしと。核動力は既存の動力ですし、小型化技術も進んでいるので、彼女達の原子炉のメカニズムを解析する事で、既存の核動力の小型化問題が一挙に解決するだろうとも」

「最低一〇年の猶予を与えてくれるとは、未知の技術の皮を被った既知の技術か」

 そう締めて機関部のページを捲ったミューラーは次いでケストレルの航空艤装内部の報告書に視線を落とした。

「ケストレルの航空艤装には艦載機があったか」

「はい。しかし、奇怪な事に格納庫いっぱいに詰められたそれら艦載機の中には、艦上運用に適さない機体が多数。F-15CやSu-27など空母で運用できる機体ではありません」

「一部は破損して使用不可? 移送中に破損したのか?」

「いえ、状態からして転生前、恐らくは前世で、これは小官の推測ですが、航空機運搬任務の途中に撃沈され、転覆沈没時に格納庫内で機体が横転して破損したものが、そのまま艦娘の航空艤装内でも引き継がれたのかと。破損機体の集計も行っていますが、半数ほどは部品取りにしかならないかと。

 一方でF-14シリーズやF-18シリーズ、F-35、A-6E、EA-6B、ラファールMなど空母艦上機も複数ありました。何機かはやはり破損していますが、恐らくは修理、飛行可能にはなるだろうと。最もそのサイズの航空機を飛ばせる航空妖精が今のところ一切いない事には留意すべきですが」

 釘を刺す様に告げるギャリソンの言葉に、ミューラーは顎を揉みながら興味深そうに記事を読む。機体は修理出来ても、或いは現代の技術でリバースエンジニアリング等が出来たとしても、その機体の中に押し込まれている電子機器の操作、機体の操縦、そして既存の航空妖精が操る航空機とは全く訳が違う空戦、空爆の為の戦技技術の習得。一朝一夕にして航空妖精が習得する事が出来る領域ではない。根本的な機体の性能から戦い方が違い過ぎるのだ。

 即戦力としては宛になりそうにない、とミューラーは何かにすがる様な目線でウミェールイの艤装についての報告書へとページを捲った。

「ウミェールイの艤装は……なんと」

「はい、内部を確認した所、数名ですが妖精が確認されました。艤装に関してですが、殆どが誘導弾、つまりミサイルです。此処の部分はキーロフ級重原子力ミサイル巡洋艦と同一と言って差し支えないかと。艤装の取り扱いに関しては」

 ふとギャリソンの口を遮ってミューラーが片手を上げて「ストップ」のポーズをとる。何か問題が、と目で問うギャリソンにミューラーは大事な事を忘れていると、大前提要素をギャリソンに語った。

「ケストレル、ウミェールイの二人が艦娘として我が軍の将兵となってくれるか、その重要な前提条件を貴官は忘れている。艦娘と断定したのではなく、あくまでも現段階では艦娘『らしい』と言う仮の段階であって、まだ彼女達が艦娘であると断定できたわけでもない。状況証拠では十中八九艦娘と言えるが。もう一つ、彼女達が人類統合軍の艦娘として現在の深海棲艦との戦争を戦ってくれるか、この意思確認も必要だ。

 当然の事ながら、我が人類統合軍に属する艦娘は皆、その艤装の技術水準は第二次世界大戦レベルに留まっている。ケストレルの航空艤装やウミェールイの兵装艤装は明らかにこの世界における冷戦期以降の軍艦のそれであり、尚且つこの世界には原子力空母『ケストレル』と重原子力ミサイル巡洋艦『ウミェールイ』なる艦艇は存在した事がない。つまり、現状九割九分の確率で彼女達がこの世の者では無かった可能性が高い」

 確かに、とギャリソンは軽く唸りながら頷く。ケストレルとウミェールイ、共にこの世界の住人ではないのだとするのなら、深海棲艦と言う存在、概念も知らないだろう。彼女達がこの世に現れた事には何か意味があるのかも知れないとして、彼女達に現在の世界を説明し、艦娘として戦ってくれるか、と言う意思の確認は必要だ。曲がりなりにも人類統合軍は志願兵制だ。本人の意思に沿わずに軍役を強いる事は国際法上認可されていない。それが艦娘であれ、そうでなかれであろうとだ。

「二人の身の内についての聞き取り調査を頼む。ウミェールイは確か艤装にキリル文字で艦名が書いてあったそうだな?」

「はい。現地で確認した青葉も、技術部もキリル文字で書かれた『ウミェールイ』の名を確認しています」

「そうなると、スラブ語が話せる者が必要だな。まず試すはロシア語だろう。太平洋総軍ロシア艦娘艦隊に連絡を入れて通訳担当の艦娘を一人呼ぶとしよう」

「艦娘をですか? 軍内の女性翻訳家の方が良いのでは?」

「仮にウミェールイが艦娘であった場合、同郷の言葉を話せる艦娘が相手をしてくれると言う事は、ウミェールイの心理的なストレスの軽減にもつながり、円滑な事情聴取にもなると思うのだがね」

 なる程。よくよく頭の回転が速い方だ、とギャリソンは新任の提督の若々しい顔を見て感心した。同時にミューラーへの感心と鏡を返す様に、己の、現在の深海棲艦との戦争が日常と化し、その日常化で醸成された常識に基づいて話を進めていた自分の見識の狭さに今になって気が付くところであった。

 

 

 ミューラーの部屋を辞したギャリソンはその足でケストレルとウミェールイが収容されている医療棟へと赴いた。

 一方、ミューラーは現在の第八方面軍の参謀長となっている岩瀬昭少将や、第八方面具隷下の海軍第八艦隊司令官のラスティ・アッテンボロー少将、陸軍司令官の桐生憲政少将、空軍司令官のオリバー・コクラン少将、海兵隊のヴァルター・シャルフコッフ少将らを集めて第八方面軍としての今後の方針についての協議に入った。ケストレルとウミェールイと言う今のところは正体の知れない女性二人よりもウィスキー島を攻略した事でKW環礁攻略への足掛かりを得た訳だから、次なる攻勢についての情報共有や作戦計画実施に当たって、実行に移してから現れたほころびの確認等が行われた。

「現時点ではウィスキー島への補給路の確保は第八艦隊として、出来たと言いたいところですが、もう少し護衛の戦力を強化したい所存です」

 ミューラーと同様、年齢不相応に若いアッテンボローの言葉に、ミューラーはほうと何をどう強化したいのか、海軍司令官に聞く。ミューラーも海軍出身であるが、現在は第八方面軍と言う陸海空の全軍を総括する司令官なので、現職の海軍司令官のアッテンボローならではの要求する事項があるのかもしれないと思ったのだ。

「具体的に貴官が望む戦力の強化とは?」

「そうですね。単刀直入に言いますと、現在の我が第八艦隊の海上護衛戦力は主に軽巡、駆逐艦、海防艦、そして護衛空母を主体とするものです。この戦力では強力な、戦艦系や重巡系を主力とする深海水上部隊の襲撃を受けた場合、彼女らを肉壁として輸送艦を逃がす作戦を取らねばならないかもしれないと危惧する所です。

 現在、日本本土で暇を貰っている第六戦隊第二小隊を輸送護衛に当たらせたいと小官は具申する所です」

「六戦隊第一小隊の青葉とラバウル泊地の加古はどうするのかね?」

 強面の桐生が素の表情で問う。問いかけ方は素の疑問を投げかけているのだが、如何せん強面が祟って常に怪訝、或いは不機嫌そうに聞いて来ている様に見える。桐生とは既に付き合いも長いのでアッテンボローも特にその強面に動じた様子も無く、同僚の問いかけに現在の艦娘艦隊の運用方針を伝達する。

「一六戦隊へ編入した青葉とラバウル泊地配属の加古はそのままです。六戦隊の第二小隊の重巡艦娘、彼女達を一人ずつ輸送艦の護衛に当てるだけで対水上防護力を強化した輸送艦の運航が二交代、或いは輸送艦の運行本数を二本に増便する事が出来る。勿論、二人を纏めて運用する事でより密度の高い水上護衛戦力として活用する事も可能です。だが今の我が第八方面軍には多くの物資が、本数を多くした輸送艦で前線へ送らなければならない事情がある」

「新編成……もう新編成と呼ぶには時期も過ぎたが、二戦隊の船団護衛はどうかな?」

 コクランの提案にアッテンボローは思案を巡らせる表情を浮かべ、特に意味も無く会議室の天井を見上げた。

「その場合、今手が空いている黒姫と磐梯の二人と六戦隊の二小隊の古鷹と衣笠をミックスして組ませるのが効果的かもですな。

 幸い四人共艦隊を組んだ経験があるから回転整合の経験もある」

「ではその旨で調整を頼むアッテンボロー」

「了解です」

 次いでシャルフコッフが最前線基地を構築しているウィスキー島の現状について報告を入れた。シャルフコッフは流石にミューラーやアッテンボローと違い、その階級と積み重ねて来た軍歴、キャリア相応の年齢と風貌と言った出で立ちだった。海兵隊らしい太い腕、分厚い胸板が海兵隊の略装の下から強い主張を見せている。

「ウィスキー島の前線基地化は順調に進んでいます。既に現地の深海棲艦の掃蕩は完了。放棄された滑走路の安全確保が確認され次第、滑走路の再整備と野戦飛行場の建設に着手します。

 現在工兵部隊の手で前線基地として必要な港湾設備、医療設備などの基地の構築も進められています。大破した艦娘を完全修理して再び最前線に送り返すには不足ですが、大破した艦娘を水底では無く、病床に繋いでやれるだけの設備は建設出来るでしょう」

 そう言ってシャルフコッフは手元のタブレット端末を操作して会議室の大画面ディスプレイに島に建てる仮説の基地施設の建物の概略図を表示させた。

「プレハブ小屋ではありますが、見た目に反して台風が来ても吹き飛ばないくらい頑丈です。そのまま基地施設して恒久化しても問題ない位のものですよ」

「結構。では明後日、KW環礁への威力偵察艦隊として一六戦隊とその支援機を出撃させる。彼らが未踏領域であるKW環礁海域の敵情報を把握してくれれば、我々もどう動くべきかが分かるだろう。

 現在の我が軍の抱える未解決事項も含めて、な」

 ケストレルとウミェールイの二人を脳裏に浮かべてミューラーは当たりか、外れかの二択が答えとして存在するコイントスの行く先を見る様な目で四人を見て締めた。

 

 

 二人部屋に収容されていたケストレルとウミェールイの内、ケストレルは既に目を覚ましていた。目を覚ましたケストレルに対して軍医の牧平が彼女の手首に手を当てて脈を計っていた。対照的にウミェールィは依然ベッドに横になったまま眠っていた。

「二人の調子は?」

「……問題は無しですね。健康そのものです」

「あの、私は……」

 状況が呑み込めない様子のケストレルが困惑顔で病衣を着ている自分の身体と腕を見て、牧平とギャリソンに尋ねる。彼女の口から出たのはアメリカ人であるギャリソンにも聞き馴染みのあるアメリカ式英語だった。

「自己紹介と行きましょうか。私は人類統合軍第八方面軍情報参謀エドワード・ギャリソン大佐。君の名前は空母ケストレルで間違いないですね?」

「え、ええっと……そう、ですね。確かに、私はケストレルです……」

 困惑は止まぬが、自らがケストレルと言う存在である事は彼女の中でも認知出来ている様だった。以前同じようなやり取りをしたタナガーははっきりと初対面の時点から自分がかつて戦艦タナガーのそのものであり、その船魂だったと言う自覚があったが、ケストレルに関しては今その自覚よりも何がどうなっているのかの情報不足から来る戸惑いと困惑が上回っているらしい。

「困惑する事が多い事でしょうが、簡潔に言うならばケストレル。貴女は今、人間としての姿を得てこの世に生れ落ちた、と言う事になるのです。

 積もる話が多いですが、一つ一つ解決していきましょう」

「はあ……ではわたくしからご質問宜しいでしょうか?」

「何でも聞いてくれて構いませんよ」

 ケストレルは目の前に椅子を置いて応対してくれる見た事のない階級章と制服のギャリソン大佐と言う男に対して、何を質問するべきかでまず迷った。何から聞けばいい? と混乱する彼女にギャリソンは急かす事も無く、傍らの牧平も静かに自分を見つめていた。

「では最初に、なぜ軍艦だった筈のわたくしが人の姿になったのです……」

「それは私達にも分かりません。貴女の様に前世は軍艦だった事を自称する者は以前にも居ましたが、私達はそれに対する科学的根拠をまだ、そして今後とも得られる見込みがない、と言うのが現状なのです」

「前世は軍艦だった者……わたくし以外にも居るのですか、その様な艦が?」

 興味を示して来るケストレルに対してギャリソンはここで一つ、彼女の前世の確認の為にも、戦艦タナガーと言うカードを切ってみる事にした。

「戦艦タナガーと言う艦艇に聞き覚えはありますかな?」

「ええ、存じております。エルジア海軍の無敵艦隊ことエイギル艦隊の旗艦を務めていた戦艦ですね。大陸戦争時、ISAFのラフシーズ作戦で撃沈されたと記憶しております」

 繋がった、とギャリソンは確信を得た。それまで支えの無い舞台に浮かんでいたようなケストレルの存在の下に、確かな基盤が生まれたかのような感覚を得た。彼女はタナガーと同じ、ストレンジリアルの世界から来た者だ。

 ケストレルにこの世界について話す前に、タナガーの事を含めて全てを語る必要があると考えたギャリソンは、ケストレルの碧眼を見つめて口を開いた。

「戦艦タナガーも貴女が来る半年程前、この世界に現れて、艦娘として我が人類統合海軍の一員として戦ってくれていたのですよ」

「カンムス?」

「艦娘と言うのは、在りし日の、具体的に言えば第二次世界大戦時の軍艦の記憶を継承して、現在我々人類が人類統合軍として世界各国の軍事力を統合して戦っている未知の敵、深海棲艦と戦う為に最適化された軍の兵科の一種を示します。簡単に言えば海上を船の様に自由自在に動き回れる重装機動歩兵の様な存在ですね。

 しかし、貴女やタナガーの様な異なる世界の船魂が、人の姿を得て、我々の現世に転生して来てなった者もいる。隣に寝ているウミェールイの事は君も知っておりますかな?」

「はい……わたくしが空母『ケストレル』だった時、相対した敵艦でした。私達の手で沈めた艦です」

 衝撃の発言に今度はギャリソンが驚く番だった。ケストレルが「私達」と言ったのは、ケストレルがと言うより彼女の艦載機がウミェールイを沈めたから、その様なニュアンスになったのだろう。

複雑な視線を隣のベッドで眠るウミェールイに向けるケストレルに、牧平がそっと彼女に提言した。

「部屋を分けましょうか。思う所は大きいでしょうし」

「そうしていただけると幸いです」

 かつての敵同士、と言うだけでなく、自身が間接的に手にかけた相手であると言う事実がケストレルにとって今のこの部屋は非常に気まずい環境であった。

 程なく牧平が呼んだ看護師たちの手でウミェールイのベッドが別室へと移され、ギャリソンは一対一でケストレルへの事情説明を行った。

 ケストレルの前世は、この世界ではストレンジリアルと呼んでいる事。今の人類世界はケストレルが軍艦として存在したストレンジリアル世界とは全く異なるが、要所要所では通じるものがある異世界だと言う事。人類が深海棲艦と艦娘を主として長い戦争を繰り広げている事。そして何よりケストレルがリアルワールドに転生して来た時の身なりや装備からしてケストレルも艦娘として転生を果たした可能性が高いと言う事。

「……なるほど。わたくしから質問があるのですが、タナガーも艦娘としてこの世に転生し、艦娘として戦ったと仰りますが、全て過去形で話されていますね? 今タナガーはどうされているのです? 軍務を全うして除隊したのですか?」

「……亡くなりました……半年前に……戦死です」

 淡々とやり取りをしていたギャリソンが初めて落ち込んだ声で返す。声と同様、視線と表情も沈んだ情報参謀にケストレルも非常に残念そうな表情を浮かべた。

 ストレンジリアルの時代に生きていた頃、ケストレルはタナガーと会った事があった。無論、人の姿ではなく、艦としての姿であったが、オーシアとエルジアとの親善交流の一環として、ケストレルがエルジア共和国の首都ファーバンティを訪れた際、親善訪問のオーシア艦隊を出迎えたのがエイギル艦隊の旗艦として世界にも名を轟かせていたタナガーだった。世界が隕石騒ぎもといユリシーズの災厄による混乱に陥る前の、ケストレルがまだ生まれて間もない頃の話だった。

 人としての姿を持たないから、ケストレルがタナガーと会った時、年下の人間が、年上の人間に敬意を持って接するのと同様、ケストレルからすればタナガーは母国こそ違えど大先輩に当たる戦艦であり。艦として長寿な艦だったのもあってかなり緊張したのを覚えている。あの大先輩がユージア大陸で起きた世界大戦の最中に撃沈されて失われた事はケストレルにとってはショックだったし、自分より先に人間として現世に転生した先でも自分より先に逝ってしまった事は衝撃であった。

「ギャリソン大佐や人類統合軍の皆様方は、わたくしにタナガーの意志を継げと?」

 ケストレルのその問いにギャリソンは次なる決め手となるカードを、手札も分からないカードを切った。

「貴女が艦娘となるか、それとも現世に転生する際に持参して来ていた装備、いわゆる艤装を捨て、一市民として過ごす事を望むのであれば、我々として貴女の意思を尊重したい。強制はしません、貴女が自分自身の意志を持って決める事です」

「わたくしの意志で……」

 そう呟いたケストレルは右手を見つめた。指先を丸めたり、伸ばしたりして人としての身体を確かめる様に手を動かした後、暫く一人にさせて欲しいと答えた。

 

 

「元は敵艦同士か」

 デスクに頬杖をついてミューラーはギャリソンの持って来た報告書を眺めた。

 必要な時は呼んでくれとだけ残して辞したので、ほぼ丸一日ギャリソンはケストレルとは顔を合わせていない。あれから食事と水以外、まともに誰かと話す事無く、一人で閉じこもってしまったケストレルが今何を考えているのか、二人には分からない。ただ、単純な悩みと言う括りでは済まない問題と向き合っているのだろうと言う事くらいしか推し量れない。

「目が覚めたら、自分が生まれ育った祖国は存在しない異世界に、それも勝手の違う人間の姿を得て生まれ変わって来た。突拍子の無い、にわかには信じがたい超常現象的な話だな。当人が困惑するのも無理はない。我々も理解が及ばない所はあるが」

「問題は、タナガー、ケストレル、ウミェールイと前例が出た以上、今後とも彼女達の様なストレンジリアルの軍艦が艦娘、いえ人間として転生して来るかも知れぬ、と言う可能性があると言う事です。その場合、どれ程の転生者が艦娘となってくれるか、それとも市民として生きて行く事を選ぶか。

 ストレンジリアルの世界からの転生者は概ね、西暦かは分かりませんが、二〇世紀の末頃世代の軍艦です。タナガーは二〇世紀の中頃生まれでしたが、彼女は近代化改装によって現代艦艇と遜色ない性能を得ていた。しかしケストレルやウミェールイは艦娘として見た場合、今の我が軍の艦娘を凌駕する一種の超兵器的な存在と言えましょう」

「艦娘サイズにモダンなイズされたミサイルに、精密照準された艦砲、艦娘サイズに落とし込められていない原子力機関だからな。超兵器と括っても強ち間違っていないと言えるだろう」

 読み終えた報告書のファイルを閉じたミューラーは、ため息を吐いた。

「貴官は引き続き、ストレンジリアルの世界からの転生者への対応を頼む。そろそろ一六戦隊もKW環礁への強行偵察を終えて『わかたか』へ帰投する頃だろう」

 

 

 ミューラーの一室を辞したギャリソンは医療棟の牧平からの呼び出しを受けて、直ぐに医療棟へと向かった。

「ケストレルさんがお話したいと」

 先日訪れたばかりのケストレルが居る部屋へと再び牧平の先導の元に案内されながら、ギャリソンはケストレルが何を話したいのか考えていた。先に散ったタナガーの後を継ぐ形でケストレルも艦娘となるのか、艤装を捨て、一市民として生きる事を選ぶのか。もし後者ならどこの国に定住させるべきか。話す言語の壁から言ってアメリカが望ましいだろうか。だが元は軍艦だった彼女が、一人の市民として過ごすには多大な苦労が付きまとう可能性は高いだろう。今まで生活の場であった側の軍艦が、炊事、洗濯と言った生活の営み自体を自分で行うのは、それ以前に誰かにレクチャーされなければ何も出来ないまま路頭に迷う事になる。

 ウミェールイが別室に移された事で二人部屋に一人でベッドに腰かけて待っていたケストレルは、牧平がギャリソンを連れて入室して来ると、立ち上がって出迎えた。

「それでお話とは?」

 そう尋ねるギャリソンはケストレルにベッドに座る様に促しながら、自分も牧平が用意した椅子に座る。

 両手を膝の前に組み、両目はギャリソンをしっかりと見据えたケストレルは丸一日も考えて決めた自らの進退を、彼に伝えた。

「丸一日考えて、考えて、わたくしは決断しました。わたくしも艦娘として、戦列に加えて頂きたいのです。

 無念に散った同じ世界の艦が生きられなかった世界を、艦娘として生まれ変わってその意志を、航跡を継いでいきたい」

 人間としての姿を得てからの困惑、不安を鎮め、求められた進退についての答えを丸一日の時間を費やして考え、自問自答を続けて決断した確かな決意、信念、意志を湛えた眼がギャリソンを見つめる。そのそれ程頭身は高く無いが意思の強さ、芯の強さは人一倍なケストレルの碧眼の見つめ返し、ギャリソンは頷いた。

「了解しました。退院次第、軍への入隊手続きを取りましょう。所でウミェールイの方は……」

「彼女とは別れて以来あっていないのでわたくしからは何とも。牧平さんなら何かご存じでは?」

 そう言って牧平を見るケストレルとつられて視線を転じるギャリソンの二人の視線に、牧平はゆっくりと首を横に振った。

「まだ目が覚めません。検査結果では脳に障害がある様子もないので、多分眠っているだけかと」

「目が覚めたら、教えてください。きちんと彼女とは一対一で話し合いたい……」

「彼女の艤装にはキリル文字で艦名が書いてありましたから、恐らく貴女が話せる言語を理解出来るかは……」

 無理では、と渋面を浮かべて言うギャリソンに、ケストレルは問題ないと首を振る。前世で相対した時の記憶が確かなら問題はない筈だ。

「多少訛りはありますが、ユークトバニアでもわたくしが介する言葉を介する人はいました。彼女もきっと話せるでしょう」

「そうですか。ただ貴女の話す言葉、この世界では英語と呼びますが、英語以外にももう一つ言語をマスターして貰います。コミュニケーションの関係上、英語よりも母国語の方が過ごしやすいと言う艦娘は多いので」

「了解です」

 初対面時よりもどこか軍人らしいハキハキとした口調になったケストレルが頷いた。

 やらねばならない手続きや艦娘としての活動に必要な講習、実技を考えると、気が遠くなりそうな気分になるギャリソンだったが、実際の所彼が行うのはその一部であり、他は人事部や練習艦娘の鹿島の担当分野によるところが大きかった。結局のところギャリソンは情報参謀だから彼自身が行うケストレルの艦娘着任に必要な仕事は寧ろないと言っていい。

 とは言え、ケストレルを一丁前の空母艦娘にするには一日にしてなる話では無いだろうと言う事だけは、ギャリソンだけでなくケストレル自身も自覚していた。だが、幸いにもタナガーと言う前例があるから、何かしら彼女が残した経験が今回も生きる形になる可能性はあった。

 果たして空母艦娘ケストレル、どれ程やってくれるかな……品定めをする目で銀髪の艦娘を見つめながら、ギャリソンは今後への期待と不安を入り交えて見つめていた。

 

 




 露骨過ぎるアッテンボローも含めてミューラー、シャルフコッフ、コクランはそれぞれ銀河英雄伝説の登場人物が名前や容姿のモチーフです。桐生だけオリジナル。

 次回のお話でまたお会いしましょう。
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