艦隊これくしょん ストレンジリアル軍艦艦娘転生海戦譜season2   作:岩波命自

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 もしかしてエースコンバット5って海軍ネタ多い……?


第六話 間隙の第一波

「敵艦隊本隊の爆撃で旗艦が大破。戦闘の続行は不能と判断し、撤退か」

 可もなく不可もなくと言う口調、何を考えているのか探り難い口調でミューラーは、エリア6-5最深部海域から大破、重傷を負った愛鷹を抱えてショートランド泊地へと帰還して来た偵察隊の中で、司令部へ直に報告に上がって来た矢矧を前に、戦闘詳報をPCのディスプレイに表示させて言った。

「申し訳ありません。私を含め全員が天狗になっておりました。指導、処分等如何なる対応も覚悟しております」

「別に貴官らを罰するつもりは無い。相手が悪かったと言えるし、同時にタイミングが悪かったとも言える。君も含め偵察隊のメンバーはこれまで通り、艦娘職の勤務に当たって貰う。ただ、自分の腹が治まらないと言うのなら形式的に謹慎等の処罰は下せるが、どうするかね?」

「実は一つ、懸念事項が……」

 重い口振り矢矧に、ミューラーはディスプレイから顔を上げて、矢矧を見上げながらデスクの上で手を組み、先を促した。

「旗艦愛鷹の大破による撤退の最中、我が隊はエリア6-5最深部の敵主力艦隊から発艦したと推定される敵偵察機の触接を複数回確認しました。大峰の艦上機が何度かスクランブルし、三機の撃墜を確認しておりますが、撃墜してもその後から代わりの偵察機が追撃を行い、艦娘母艦への着艦中も、『わかたか』の対空兵装の射程外から我が方に触接を維持し続けられました。

『わかたか』は偽装航路を取りつつ、ショートランド泊地へと帰投しましたが、最悪深海棲艦にここの所在を掴まれた可能性が……」

「なるほど、確かに由々しき事態ではあるな。君は深海棲艦が打って出て来ると考えているのか?」

「可能性を全て考慮して、対応すべきであると小官は考えます」

 ショートランド泊地からエリア6-5最深部までの最短距離は、凡そ五〇〇キロ。深海棲艦の艦載機の行動可能範囲は最大でも半径一五〇キロ程度なので、これまで通りの進撃して来る艦娘艦隊を制圧している海域から撃退する受動的作戦行動を前提に深海棲艦が動くのであるなら、懸念するべき要素は無い。

 だが、深海棲艦は所謂人型タイプの登場以降、その行動範囲は拡大の一途を続けており、やろうと思えば人類側の基地への反攻作戦の実施も不可能ではなくなりつつある。普段の受動的戦術パターンから能動的戦術パターンへと深海棲艦が作戦を変えていれば、最前線基地の一つであり、激戦区ソロモン戦線を支える主要基地ショートランド泊地を破壊しに来る可能性は充分にある。

「了解した。偵察隊の残存艦はショートランド泊地防衛隊へ一時編入の上、別命あるまで同泊地の哨戒、警戒に当たる様に。何か質問は?」

「ありません」

 互いに敬礼し別れた。

 

 

 慰霊碑の前で静かに手を合わせていた青葉とニュージャージーは、合掌と瞑想を終えると、手を下ろしながら陽光を綺麗に反射する戦艦艦娘タナガーの慰霊碑を見つめた。

 ラフシーズ作戦から半年以上が過ぎ、ある程度の風雨による傷や汚れは出ているが、丁寧に青葉を始めとするラフシーズ作戦時の戦友たちが、慰霊碑の手入れ作業を行っていた。最もショートランド泊地に残留する当時の艦娘達は部署変更などで入れ替わりが激しく、実質定期的に訪れているのは青葉、アイオワ、ニュージャージーの三人だった。

「月日が過ぎるのも早いものですね」

「そう言うものよ。特に大人になってからは」

 しんみりとした口調で言う青葉に、ニュージャージーの返す言葉はドライだった。ただ口調はドライでも、ニュージャージーの目つきは寂しさをはっきりと湛えていた。ニュージャージーと言う艦娘にとって、タナガーと言う艦娘はアイオワ級四姉妹に新たに加わった新しい姉妹に似た存在であった。ケンタッキー、イリノイの艦娘戦力化計画が白紙化されている現状、アイオワ級姉妹がこれ以上増える事は無い。

 姉妹がこれ以上増える事は無い中で、アイオワ級姉妹は大抵四人揃って運用される事は少なかった。決まって二人のペア程度であり、姉妹全員の戦列を並べて戦うと言う事は、未経験の数よりも経験した数の方を数える方が楽であるくらいだ。そう言う意味ではニュージャージーにとって、タナガーと言う新たな姉妹的存在は愛おしく思っていたし、世話を焼く時は世話を焼いていたつもりだ。

 そう言う姉妹揃って戦う事の少なさに不満よりも寂しさを覚えていたニュージャージーにとって、青葉は本来羨む存在であった。第六戦隊と言う古鷹型と青葉型と言う異なる艦種の重巡艦娘で構成されている戦隊の一人である青葉だが、青葉型は古鷹型のマイナーチェンジ艦なので実質第六戦隊は四姉妹関係と言っても過言では無く、ラフシーズ作戦以前は決まってこの四人セットで運用される事もあって、仲の良さは第八方面軍隷下の艦娘達の間では有名だった。

 黄色い声を上げてじゃれあう六戦隊の姿がニュージャージーやアイオワには眩しく見えていた物だったが、ラフシーズ作戦以降、第六戦隊は予備戦力へ格下げされた事もあり、あれ程仲の良かった四人は離散してしまっている。艦娘と言う軍人職についている以上、上からの指示には服従するしかないとは言え、精鋭重巡戦隊としての栄光の場を失い、今では青葉一人の戦争になりつつある境遇にニュージャージーは同情の念を覚えていた。

 ふと背後から人の気配と足音がして、青葉が振り返るとケストレルが花束を抱えて歩いて来るのが見えた。

 青葉と視線が合ったケストレルは、花束を左手に持ち、右手で制帽を脱いで小脇に抱えて一礼した。青葉やニュージャージーと違って、前世は本物の軍艦、その中に宿る船魂だったと言うタナガーと同じ経緯を持つケストレルが先輩であるタナガーの慰霊碑を訪れるのは、ある意味で自然な流れと言えた。

 花束を慰霊碑の前に置くと、ハイヒールのヒールをカツンと音を立てて打ち合わせて直立不動し、上半身を斜め四五度に倒して黙祷するケストレルをニュージャージーと青葉が横目で見上げる。青葉からすればニュージャージーはひょろりと背の高い人物であったが、そのニュージャージーですら上目で見上げる程にケストレルは背が高かった。三人共靴のヒールで素の身長より大なり小なり頭身を嵩上げしているとは言っても、デフォルトでケストレルは大柄だった。女性離れしていると言っても良い程に大きい。

 

「貴女と共に、艦隊を組んでみたかったです……タナガー先輩」

 風にさあっと銀髪を吹き流されながら、黙祷を終えたケストレルは慰霊碑を前に目元を細め、口惜しさを滲ませた口調で言う。

「貴女とは話せる事も沢山あったでしょうに……」

「つかぬ事を聞きますがケストレルさん。タナガーさんがストレンジリアル世界で沈没した大陸戦争、その戦争はどちらが勝ったのですか?」

 言葉通りの付かぬ事を訪ねて来る青葉に、ケストレルは制帽を被り直しながら、前世であるストレンジリアル時代に聞いた話の記憶を辿る。彼女も軍艦の船魂と言う、人間の様な自由に情報や知識を見聞できる存在では無かったから、ストレンジリアル世界の事なら何でも知っていると言う訳では無いが、大き目な出来事くらいは乗員達の話題として聞いて来ただけに多少の知識はある。

「戦艦タナガーを含むエルジア海軍無敵艦隊がコンベース港の水底に消えた大陸戦争は、エルジアが首都を落とされ、残党軍の立てこもった軍事施設も精鋭部隊によって制圧されてエルジア側の全面敗北で終わったと記憶しています。その後、エルジア軍の急進派勢力が大規模な武装蜂起をするも、大陸戦争の英雄、メビウス1の手で鎮圧されたとも聞きます」

「メビウス1……」

「聞くところではメビウス1も『タナガー』以下無敵艦隊を屠ったISAFの航空部隊の一員だったとか。彼の赴く先の戦場でエルジア軍は常に敗北を喫して来たそうなので、エルジア軍からすれば『死神』の様な存在かも知れませんね。逆にISAFからすれば、『メビウスの輪』の様に無限大の勝利の可能性を導いてくれる『英雄』だったのかも知れない……」

 そこまで言ってからケストレルはふふっと笑みを浮かべて青葉とニュージャージーを見た。

「艦娘って言う存在も、この世界では『英雄』なのかも知れませんね」

「HEROも世知辛いわよ」

 苦笑を浮かべてニュージャージーは言う。「英雄になろうなんて誰も望んでいない、結果としてそうなる」と言ったのはいつの時代の誰の言葉だっただろうか。

 

 

 ショートランド泊地の医療施設の窓から海を見つめるウミェールイの目は、活力と言う物を取り戻しつつあった。尚その心の底には、ストレンジリアルで犯した過ちへの罪悪感が無い訳ではない。だが、今は前を向いて生きて行こう、そう考える様になる程度には彼女のメンタルは回復を遂げていた。

 窓の外から見える港湾部の海上を、四人の艦娘が単縦陣を組んで帰投して来るのが見えた。見惚れる程に長い黒いポニーテイルに凛とした顔立ちの、凛々しさ溢れる艦娘を先頭に、前髪よりも額の面積が広い艦娘に、不揃いの前髪の艦娘、タレ目気味の艦娘の三人が後に続いて来ていた。色んな容姿の艦娘達がこの基地には居る。自分が彼女達と交流を計れる機会が来るのかは、まだ分からないが自分の回復後は艦娘として配備される事が決まっているから、何れは同じ戦列に加わる事になるのだろう。

 彼女達は、戦争の中に身を置く中で悩み事や、自分の様に精神を参らせる事に直面した事はあるのだろうか、と言うふとした疑問がウミェールイの中で浮かぶ。艦娘と言っても軍人である事に変わりはないと思えば、きっとあるのだろう。過酷な戦い、過酷な海上の環境、生死の狭間で生きる存在である彼女達の心が常に安定しているとも思えない。

 だが、今の自分よりは落ち着き、安寧は得られているだろうな、と考えながらウミェールイは日本語の辞書とノートを開き、シャープペンシルを握った。

 

 

「提督、哨戒隊旗艦矢矧より報告です」

 参謀長の報告に第八方面軍の海軍司令官アッテンボロー少将は続けてくれと先を促した。

「ショートランド泊地北東二〇キロ地点にて、深海棲艦の偵察機を上空に見ゆ。敵深海棲艦空母機動部隊のショートランド近海への進出の可能性大と認む。基地の防空警戒態勢を強化されたし、です」

「先日の『わかたか』を追尾して来た奴らか……ミューラー司令官にショートランド泊地のDEFCONレベルを上げるよう具申だ。それと在港艦娘は即時出港可能な様に臨戦態勢に移行。万が一の時に備え、基地航空隊はスクランブル待機を発令だ」

 ラフシーズ作戦で大きく勢力圏の後退を余儀なくされただけに、奪還されたサーモン北方海域の再奪取もあり得るな、とアッテンボローは考えていた。しかしショートランド泊地がある限り、最前線基地が稼働する限りはサーモン北方海域を奪還しても、補給線確立前に再度の奪還作戦を統合軍が実施すれば、戦況は泥沼の膠着状態に移行しかねない。

 仮に深海棲艦がショートランド泊地を強襲するような事があれば、その時は全力で撃退するのみだろう。

 

 矢矧達哨戒隊が深海棲艦偵察機を発見してから暫く、ショートランド泊地を取り巻く緊張感は高まったが、一週間を過ぎても何も起きなかった。深海棲艦の深海艦載機群がショートランド泊地の頭上を覆いつくす事も無く、戦艦部隊の艦砲射撃の砲弾が泊地の敷地内に飛び込む事も無く、肩透かしを食らう様な平穏が続き、一時的に上げられていたDEFCONは程なくして下げられた。

 そんなDEFCONレベルの格下げが行われた日の翌日、鹿島とケストレル、それに青葉と翔鶴、天霧、狭霧の何時ものメンバーはケストレルの空母艦娘としての慣熟の最終段階へと乗り出していた。

「今日はケストレルさんの空母艦娘としての本領の訓練を実施します。ケストレルさん、マニュアルなどでの予習は大丈夫ですね?」

「ええ、知識はまあ。実際にやってみない事には何とも断言し難いですが」

 これまでの航行テクニックの習熟訓練と違い、艦載機運用の訓練と言う新たなステージへの不安を口にするケストレルに、翔鶴が包容力のある声で諭す様にフォローを入れる。

「大丈夫、コツさえ掴めば自然と身体が覚えて行ってくれます」

 先輩空母艦娘のその一言を受けても、ケストレルは緊張感を尚抱いていたが、やって見なければ出来るかそうかも分からないと自身を奮い立たせて、出港準備を進める仲間達の中で準備を進めた。

 ケストレルの艦載機は発着艦テストと言う事もあり五個飛行隊の内二個飛行隊に景雲改、三個飛行隊に橘花改を艦載していた。一個飛行隊八機、総計四〇機の新編ケストレル空母航空団は、乗り手の航空妖精の方でも慣熟を繰り返しているとは言え、空母艦娘ケストレルが外洋で発着艦訓練を行うのはこれが初めてになる。

「頑張ろう」

 自分自身を奮い立たせる様にケストレルが言った時、特徴的なヘッドセットの着信音が一同の耳元で鳴り響き、何事かと一同は耳を傾けた。

 その直後、泊地一帯の北東の空から航空妖精が乗る航空機とは異なる飛行物体の大群の接近する、轟々とした飛行音の群れの音が聞こえて来た。

 

 

 食堂の給湯器で何気なく水を紙コップに注いで、喉に流し込んでいた青葉と、自販機でコーラを買って飲んでいたニュージャージーの二人の耳に、唐突に食堂の天井に設けられているスピーカーから緊迫した基地司令部の管制要員の声が喚き声を吐き散らした。

「緊急警報! エリアG6E2、ヘディング150より深海艦載機群の大編隊が当基地に向け接近中! ショートランド泊地全部部署に発令、第一種深海警戒警報発令、対空戦闘用意! 半舷上陸中及び待機中の艦娘は至急各整備場より緊急出港! 非戦闘員並びに緊急出港が間に合わない艦娘は至急バンカーへ退避せよ!」

 遅れて鳴り響きだす空襲警報に、青葉とニュージャージーは一瞬顔を見合わせた後、互いに飲み干した紙コップや空き缶をゴミ箱に投げ込むや、全速力で艤装整備場へと駆け出して行った。

 駆けて行く最中、すれ違う基地要員達の怒号と指示の声が二人の耳の片側から飛び込んで、反対側の耳へと抜けて行った。KW環礁への本格的攻勢間近とあって、前哨基地であるウィスキー島へ移送予定の地上部隊や、支援部隊の隊員が多く駐留していただけに、基地の喧騒は余計に大きくなっていた。

 艦娘達も基地要員に漏れず、動き出していた。第八方面軍第八艦隊隷下に属している艦娘達が、自身の艤装を預けている整備場へと駆けて行く。仮眠中から飛び起きたばかりで制服が乱れてたり、シャワー浴びたばかりらしく濡れた髪を乾かす間もなく宿舎から飛び出して来た様々な艦種の艦娘達が、足音高く整備場へと向かう。

 日常的に歩く分には兎も角、走る際は明らかにデメリットにしか見えないハイヒール型の主機を履くニュージャージーの健脚に、驚く程に引き剥がされながらも青葉も遅れて整備場へ駆け込む。既に翔鶴、瑞鶴、鬼怒、天霧、狭霧が大急ぎで装備を整えていた。

 整備場へと飛び込んで来たニュージャージー、そして青葉の姿を見て、艤装整備員が艤装整備場長に叫ぶ。

「戦艦ニュージャージー、重巡青葉、出頭です!」

「セットアップの手順は最低限に留めて速やかに出港させろ! 皆いいか、整備場から発進完了後、港内で輪形陣を形成したら振り返らずにとにかく港外への脱出を最優先に動くんだ」

「迎撃機の準備は?」

 ただでやられてたまるか、と言わんばかりの表情で瑞鶴が艤装整備場長に尋ねる。答えはノーと言うジェスチャーだった。

「艤装への積み込み準備が間に合わん。基地のC-RAMの援護射撃を受けつつ、港外の洋上で艦載機と合流するんだ」

 舌打ちをし、端正な顔に苛立ちを浮かべつつも瑞鶴は抗弁せずに艤装整備場長の言葉に従った。

 ガントリークレーンの作動音と共にニュージャージーの大きな艤装が、艤装装着デッキに立つ彼女の元へと運ばれていく。タブレット端末で出港手順項目をスキップしながら、最低限の項目だけにチェックを入れる。

「It‘s hassle……(面倒くさい)」

 最低限のチェック項目ですら、一分一秒を争う今では惜しい時間なだけに、苛立ちをありありと口から漏らしながら、ニュージャージーはタブレット端末のチェックリストを消化すると、作業員に放って渡し、艤装のドッキングに備えた。

 別のクレーンが隣の艤装装着デッキに立つ青葉に、艤装を下ろし、接続していく。ニュージャージーと同様に軍用タブレット端末で装備を確認した青葉は、装備名を見て呟いた。

「改二乙装備かぁ……」

 青葉の改二装備の中でも、対空迎撃に優れた防空重巡装備と言える改二乙装備を今回は装備する事になっていた。現在のショートランド泊地には秋月型駆逐艦娘の秋月と初月が展開しているが、青葉とは発進する整備場が違うので、二人の出港準備がどうなっているのか分からなかった。

「対空迎撃に重点を置いた装備、って訳ですか」

「青葉、青葉の改二乙装備の防空能力が今この整備場にいる艦娘の中では一番高いから、青葉が防空管制艦だよ、いいね?」

 先に発進して既に整備場に面する海上に足を付けている鬼怒が青葉に向かって叫ぶ。

「ま……本気で言ってますそれ……?」

 思わず地の声と心の声での「マジで言ってる、それ?」と言いかけて青葉は言い直しながらタブレット端末を整備員に返した。

 先に整備場の外、港内に出た天霧と狭霧が、主砲を構えて対空警戒に当たる中、上空で力強いエンジン音が聞こえて来た。馴染みはまだ薄いが、人類側のエンジン音のそれであるその正体は、試製震電のエンジン音だった。

 試製と付く通り、実のところは先行試作量産型に類する機体だったが、局地戦闘機としては優秀な為、最前線の主力基地であるショートランド泊地に展開していた飛行隊に少数が配備されていた。特徴的なエンテ翼に機体後部にプロペラを置いた震電が八機、ハ43-44エンジンの音を響かせながら上昇していく。史実では試験飛行を数回した程度で終戦により未完の機体となった、ある意味意欲的に過ぎた試作戦闘機の航空妖精版の震電は、航空妖精が乗る仕様として現代の技術で制作される際に、実機で抱えていた問題点を改善して回った分、研究開発にかかるコストと期間が伸び、本来よりも大幅に配備予定がずれ込み、お茶を濁す様に先行試作量産型二〇機がショートランド泊地の航空基地に配備されていた。

 配備されたは良いが、二〇機全てが常に飛べる状態でもなく、稼働率、可動機数で見れば一〇機動かせられれば満点と言える状態であり、現にショートランド泊地から発進できた八機はそう言った可動可能な機体の答えであった。

 他に紫電改や零戦、F4Uといった機体が発進し、空に散発的なエンジン音を響かせる中、けたたましいヒールの音を響かせてケストレルが整備場に飛び込んで来た。整備場内に飛び込み、慌てて慣性が強く付いた長身をどたどたと減速させて止まる。

「ケストレルさん!?」

 驚いたように翔鶴がその名を口にする中、ケストレルは荒い息を整えてから艤装整備場長を見据えて、一言一句を噛み締める様に言った。

「私も、出港させてください」

「整備場長、いいんですか?」

 まだ練度的に心許ない、と言う意味を込め、バンカー避難させておくべきではと言う目で狭霧が自身の父親ほどもあろう歳の離れた艤装整備場長を見る。老獪な整備部隊の長が下した決断は、驚く程に速かった。

「ケストレル出港準備! 青葉、鬼怒、天霧、狭霧、悪いが翔鶴型の護衛がてらケストレルの護衛も頼むぞ!」

「了解だ!」

「は、はい!」

「えーい、こうなったらやるっきゃない! おーい、青葉、まだかい!?」

「今出ます、青葉改二乙、出港します。出港進路上に障害となるオブジェクト無し。青葉、港内出港速度にて前進開始」

 海中に轟然とした機関音を響かせ、海上には後方へ大きな水飛沫を噴き出して、青葉が整備場から緊急出港する。盛大に青葉の足元から整備場内へと吐き出された海水を嫌と言う程に浴びた整備員や整備場長の悪態を尻目に、青葉が港内へ出る。

「全艦、対空戦闘用意。旗艦指示の目標にて攻撃開始」

 そう言って顔を上げた青葉の視界一杯に深海艦載機群が見えた。立ち向かう航空妖精の邀撃飛行隊機は、大群として群れを成して押し寄せる深海艦載機群の数と比べれば寡兵に過ぎた。

「あんな少数の戦闘機じゃ、防ぎ切れないな……」

 眼鏡を太陽に向けない様に注意しながら空を見渡す天霧の呟きは、後半は整備場内から響き渡り出したケストレルの、天霧の様な艦娘数人分ほどはありそうな大出力タービンの轟々とした回転音にかき消された。

「Wow……」

「たまげてないでこっちに来てください」

 たまげたと言う風に原子力機関を搭載した艤装の使い手のケストレルの機関音にニュージャージーが口を半開きにして驚く中、青葉はニュージャージーにも輪形陣に加わる様に指示を出した。素直に長身のアメリカ戦艦艦娘が輪形陣に加わる中、青葉はニュージャージーに三式弾の在庫を尋ねた。

「ニュージャージーさん、三式弾の搭載弾数は?」

「……One shot分あるかないか、ってところね……」

「結構、両用砲と機関砲をスタンバイして待機。港長、こちら青葉、出港許可はまだですか!?」

≪ケストレルの出港まで君達の出港は後回しだ。先に出港可能な艦娘を外海へ出す≫

 青葉との交信の直後、他所へ飛ばす怒号までもがヘッドセットから流れ込む中、離陸が間に合った防空戦闘機隊が、深海艦載機群との交戦に移行し始める。同時に防空ラインに入った深海棲艦の艦爆や艦攻に対して、基地防空装備であるC-RAMが迎撃の火箭を青空へ向かって撃ち上げ始めた。

 

 

「機関部に通達。出港準備フェーズ3に移行」

「航路管制情報、周辺海域、空域に敵対するオブジェクト多数、対空警戒を厳とせよ」

「ダメージコントロール要員は原子炉区画の最終チェックを急げ」

「出港に関する中止信号、休止信号、共に無し」

「随伴艦との艦娘間データリンクは継続中」

「艤装並びにその運用に関する運用基準確認項目、緊急出港に付きステージ4までを省略」

「当艦からの出港シグナルに対し、港湾管制より『許可する、速やかなる退避を急がれたし』との返信あり」

 CIC、そして背中の艦橋に詰める航海科妖精達の発進準備確認が終わるや、ケストレルの立つ艤装装着デッキの前方の赤のライトが消え、緑のライトが点灯するや、赤い照明で埋もれていた発進レーンが緑の照明に切り替わり、ケストレルを招き入れる様に発進レーンが淡い緑の照明で蒼く照らし出された。

 軽く深呼吸をしてから、ケストレルは碧眼を真正面に向け、女性にしてはやや低めの声で自身の発進を宣告した。

「ケストレル、抜錨します。両舷前進微速」

「ケストレル、港内操艦モード、出港速度で前進開始」

 ケストレルの艦橋で航海長妖精が慎重に舵を握る。艦娘の方で舵を取るとは言え、こういう整備場からの発進の際は、艦娘の方で転んだり、姿勢を崩したりして事故を起こしたりしない様に、妖精の操艦補助で安全を図るのが基本だ。出港に限って言えば、艦娘の側が眠っていても、航海科妖精の操艦だけで出港くらいは出来なくもない。

 二基の原子炉と四基のタービンが作り出す出力でそろそろと前進していくケストレルの肌を、海風がさらっと撫で、彼女のズボンを艦首波が立てた水飛沫が濡らし、その下の脚にじわりと濡れた感触を与えて来る。微速前進で整備場を抜けたら、先行して発進済みの青葉達に合流して、ショートランド泊地からの避難を最優先に動く。頭の中でケストレルなりに簡易ブリーフィングを終えると、通常の艦娘より大きめの波を湧き立てながらケストレルは青葉達との合流を果たした。

「ケストレル、抜錨完了です! 港口へ向かいます!」

≪了解、ケストレル。ケストレル及び艦娘の脱出を優先しろ!≫

 青葉達の元へと向かおうとするケストレルの近くを、深海艦載機群の大群を見て泡を食って舫いを解いた後に何処へ逃げようかとうろうろする艀が接近し、進路を妨害しかける。それを確認した港長から怒鳴り声が飛び出す。

≪そこの艀! 気持ちは分かるが道を開けろ! 空母艦娘は貴重品なんだ!≫

≪ケストレル出港完了! 良い航海を!≫

 早くも後になっていく整備場の整備場長が背中を押して、送り出してくれるかの様な言葉を胸中で受け止めながら、ケストレルは青葉達の組む輪形陣の中央部へと移動していく。

 その時、ずん、と言う瞬間的な空気の鳴動と、耳をじんと痺れさせる炸裂音、海上に居ても伝わって来る振動と共に、ショートランド泊地の一角に紅蓮の炎と共に黒煙が上がった。深海艦載機群の爆撃が始まった。

 

 

≪隣の補給艦に爆弾命中した! 消火艇は何処だ!? 本艦に燃え移る! 助けてくれ!≫

≪なぜ進入に気づかなかったんだ!?≫

≪駆逐艦に爆弾が命中! 二隻、いや三隻……燃えているぞ!≫

≪駆逐艦ってのはどっちの駆逐艦だ!? 艦娘か、停泊艦か!?≫

≪これは演習ではない……≫

≪見りゃ分かるだろ、馬鹿野郎!≫

 怒号と悲鳴が飛び交う中、ケストレルを加えた臨時戦隊が輪形陣を組んで港外への脱出に移行する。

 そんな中、深海復讐艦攻の編隊が港内の海面を低空飛行してケストレルの頭上を飛び抜けると、別の整備場から脱出に移行し始めていた艦娘へ向けて魚雷を投下した。

「青葉より長門さん、陸奥さん、深海復讐艦攻が魚雷投下。そちらに何本か向かっていきます!」

≪見えている、そちらはそちらの事だけに専念しておけ。戦艦艦娘なら魚雷の一発二発なら何とかなる≫

 当たり所によってはそれどころじゃないでしょう、と言い返そうとした時、青葉達の耳に地球そのものが蠢く様な不気味な轟音が響く。地震が起きる時の前触れの様な空気そのものを重く震わせていると思わせる程の筆舌し難い音と共に、ショートランド泊地の地面が微かに上下した。

「何、今の音? 地震が起きる時の前触れみたいな凄い音だけど」

 張り付いた表情で鬼怒が誰と無く尋ねるが、答えをこの時知る者はいなかった。少なくとも鬼怒の傍にいる艦娘達の中には。

 地震大国日本育ちの青葉、鬼怒、翔鶴、瑞鶴、天霧、狭霧は兎も角、ニュージャージーとケストレルは慣れない、或いは初めて経験する音にこの世の終わりが来たかと思っているのではと感じさせる表情を浮かべる。

「Holy shit……Earthquake? (なんてこった、地震?)」

震える声でニュージャージーがケストレル以外の艦娘に聞く。それに対し、翔鶴がはっきりとした口調で答えた。

「いえ、あれは地震の音じゃありません……まさか……」

 何か思い当たる節があると言う顔で翔鶴が顔を強張らせた時、連続した爆発音が基地施設の方から鳴り響き、衝撃波と熱波が、赤道直下付近の温帯なショートランド泊地の風と違った熱風となって吹き付けて来た。

 

 

 

 

 





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 また次回のお話でお会いしましょう。
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