艦隊これくしょん ストレンジリアル軍艦艦娘転生海戦譜season2 作:岩波命自
ストレンジリアル世界の艦艇の転生艦これ二次創作同業者、お猿プロダクションさんよりX(旧Twitter)の場にて弊空母艦娘ケストレルの絵の二次絵を頂きました。ありがとうございました。
気になる方は「こーさん@お猿プロダクションinハーメルン・なろう」さんのXアカウントのメディア欄をご確認願えたら幸いです。投稿日7月7日となっております。
「あの波間に浮いているのは……人……?」
愕然とした口ぶりでウミェールイは、崩壊し、鉄とコンクリートの無残な廃棄場と化して随分と泊地と呼ぶには烏滸がましい程に狭くなったショートランド泊地の海面に浮かぶ「ソレ」を見つめて、呻き声を上げた。
周囲を未だに怒号と負傷者の悲鳴が飛び交い、健在な救急車と消防車のサイレンが鳴りやまない。上空には救難ヘリが飛び回り、泊地全体の被害を上空から確認しつつ、被災者の救助に周っていた。人工の泊地の大半が崩壊して沈んだ事で、多くの基地要員が瓦礫と共に海に投げ出され、救助を求めている。傷を負った同僚を庇い、立ち泳ぎで支えながら、救助のヘリや複合艇を懸命に呼ぶ者の声が瓦礫の向こうから聞こえて来る。
地獄絵図、阿鼻叫喚と化すショートランド泊地、いやショートランド泊地だった場所の一角で立ち尽くすウミェールイは、理不尽に殺されていく基地要員の姿に目を背けたくなった。
(とんでもないものを見てしまった……あの残骸が崩壊して、炎で海を埋める前に、あそこに浮かんでいたのは……あれは人間の頭だったんじゃ……あんなに大勢の……)
止めてくれ、こんな光景はもう沢山だ……。そう念じて目を背けた自分に、一歩後ろからその姿を見ているもうひとりの自分が、それは違う、と首を振る。どう違うのか? 今私が行うべきは、目の前の惨事から目を背け、逃げる事ではない。深海棲艦の攻撃で、同じような惨劇が他の所で起き、もっと多くの人間の命が失われるのを防ぐ事じゃないのだろうか? 目を背けず、前を見据え、あらゆる事を直視し、真正面から向き合っていくべきなのではないか?
あんな理不尽な、抗う術も無く一方的な死に方……あんなのは人の死に方じゃない。押し潰されて苦しかったろうに、痛かったろうに、怖かったろうに、悔しかったろうに、辛かったろうに、生きていたかったろうに……。
「許せない……」
めらりと発火の音を立てて、それまで光の灯らない曇った目付きだったウミェールイの一対の碧眼に、上へと燃え滾る炎が光となって宿った。勿論本当に彼女の蒼い目から火が出た訳ではないけれど、惨事の元凶(少なくともウミェールイはこの時そう思っていた)である深海棲艦と言う存在に、波間に浮かぶ「人」だったものが味わった苦しみを、痛みを、返してやりたい。艦娘として、ひいては人間としての感情である「怒り」が、この世に転生してからこっち、虚脱に支配されていたウミェールイに「戦う」と言う意思を芽生えさせていた。
どこかでタンクが爆発し、爆発音と爆風が泊地内を駆け抜け、それは火の粉と共にウミェールイの少し黄土色が混じった金色に輝くブロンドの髪をばさっと掻き揚げた。その顔の下には、今までの生きる意味を見出せなかった停滞していたウミェールイの顔は無かった。一瞬で戦士の顔になった訳では無いが、戦う意思を固めた艦娘の顔がそこにはあった。その前にストレンジリアル世界の頃、艦内に設けられた教会で催されたミサで見たのを思い出しながら、見よう見まねで死者に向けて右肩から左肩にかけて十字を切り、ウミェールイのかつての母国ユークトバニアの言葉で短く「アミン」と呟くと、支給されていた日常着に目を落として、首を横に振った。
こんな衣服では戦えない。
「ケストレルさん、あれを見ましたか……」
不意に話題を振って来た青葉の問いかけに、ケストレルは何のことか分からず、返答に窮した。艦隊を構成する誰もが押し黙っているくらいの事は新参者のケストレルでも分かる。何か見てはいけない物、あるいは聞いてはいけないものが周りを囲う先輩艦娘達の目と耳で見聞きしてしまったらしい。
「……いいえ」
「そうですか、なら、いいんです……」
それ以上続ける事無く青葉は輪形陣の先頭に立って、艦隊をリードした。
その後ろから、脱出に成功した艦娘に向けて長門が、緊急周波数で呼びかける。無事な艦娘が誰かを把握する誰何だった。事前に周波数合わせなどする暇も無かったから、ある種のオープンチャンネルでの呼びかけになっていた。拾う事が出来るのなら深海棲艦も傍受可能な通信周波帯だ。
脱出に成功した艦娘は青葉やケストレルを含む輪形陣の他に長門と陸奥、秋月、照月、更に合流を図る重巡タスカルーサ、ノーザンプトン、ヒューストン、軽巡ヘレナ、ブルックリン、アトランタ、空母レキシントン、駆逐艦娘フレッチャー、護衛駆逐艦娘サミュエル・B・ロバーツら一群もある。本来なら彼女達の周囲はフレッチャーとサムだけでなく大勢のアメリカ駆逐艦娘達で構成されたDESRONが囲うはずだが、その駆逐艦娘達は悉くショートランド泊地崩壊の波に呑まれて航行不能で追随不可能だった。フレッチャーとサム以外に駆逐艦が居ない以上は巡洋艦以上の艦娘で大型正規空母艦娘であるレキシントンを護衛しなければならなかった。最もそのレキシントンも、五航戦やケストレルと同じく艦載機を欠いた状態だったのだが。
他にも脱出できた艦娘艦隊はあった。航空巡洋戦艦とも言うべき愛鷹型超甲巡艦娘の大峰、姉妹艦娘にして純超甲巡艦娘の黒姫、磐梯、阿賀野型軽巡艦娘の矢矧、長良、第三二駆逐隊の涼波、早波、藤波、玉波、宗谷、山汐丸、陽炎、不知火、霞、霰も合流を計って来ている。一方、一一駆の吹雪、初雪、白雪、深雪と三一駆の朝霜と長波はショートランド泊地救援の為に引き返していた。発艦が間に合わなかった艦娘がショートランド泊地に多数閉じ込められている状況だから、彼女達が脱出する際の随伴護衛艦としての役目もあった。
「艦隊は外海へ出ます。頼みますよ、どこかの誰かさん……青葉達を無事にラバウルへ脱出させてくださいよ」
呟く青葉の言葉をケストレルも聞いた時、ヘッドセットから長門のよくとおる張りのある声が全艦娘の耳に入った。
「こちらは第一戦隊第二小隊長門。無事に脱出に成功した各艦、おめでとう。これより私が指揮を執り、臨時艦隊を編成する。前方に敵艦隊の封鎖線がある。これを突破し、安全な海域へ脱出する。諸君の健闘を祈る。上空の味方機、援護を求む」
「こちら重巡青葉、了解。これより艦隊を長門さんの指揮下に預けます。青葉より輪形陣全艦、減速、両舷前進強速。赤二〇」
脱出した艦娘の全ての指揮を引き受ける事を宣言した長門に、青葉は素直に指揮権を委譲する。今この場にいる艦娘で、艦隊旗艦の経験がある艦娘は長門、陸奥、ニュージャージー、翔鶴、霞、矢矧と少なくなかったが、その中でも長門は元第七方面軍第七艦隊、いわゆる事実上の日本艦隊の総旗艦を一時期務めていたキャリアを持つ。大艦隊の旗艦任務と言う点において、これ程の適任者はいなかった。
全くの雑多な艦娘数の臨時艦隊が組み上げらて行く中、前方の水平線上に深海棲艦の封鎖艦隊が見えて来る。遠くて見えづらいが、重巡ネ級改が一隻に大型駆逐艦ナ級が三隻の小規模な分艦隊が布陣している様だった。
「Assault Vanguard Fleet……」
背が高いからが故に先にその姿を目視確認出来たのであろうニュージャージーが忌々し気に言う。個体にもよるが、重巡でネ級改、駆逐艦でナ級という組み合わせは控え目に言って、弾薬や燃料の搭載と言う意味で不完全な状態で発艦したショートランド泊地脱出艦隊の艦娘達には厳しい相手だった。アサルト・ヴァンガード・フリートとは深海棲艦が仕立てる強襲前衛艦隊の事を示す。大体これを成す深海棲艦は、深海艦艇の中でも脅威度の高い艦ばかりで構成して、強襲から威力偵察までこなす万能部隊だった。向こうは弾薬と燃料を沢山抱えて、手ぐすねを引いて射撃体勢を取っているだろう。一方、艦娘艦隊は少なくとも火力負けこそしていないが、その火力を存分に発揮させるに必要な実弾の装填が不十分だった。戦闘能力は本来の半分以下だと思えば、ある程度の目安となるだろう。
それに加えて上空には、泊地を爆撃した空母艦載機群の別動隊らしき機影も見えて来ている。その中に一際大きな機影を見つけて、ケストレルは事前に鹿島から教え込まれた深海棲艦航空機識別票を脳裏に思い起こして、その機影の名を口にする。
「深海双発陸爆が三機……それに深海猫艦戦が一機に、深海復讐艦攻が四機」
「深海双発陸爆だぁ? そいつは空母艦載機じゃないぜ。陸上機だ。一体、どっから飛んで来たんだ?」
呻き声と共に天霧が空の一点から徐々に大きくなってくる深海棲艦の陸上爆撃機の機影を、やや度の強い眼鏡のレンズ越しに凝視する。
「あたしの低い裸眼視力を補うこの眼鏡が嘘をついていなければ、恐ろしく面倒な爆撃を行って来る奴が三機もいると言う事かい」
「私の知見が間違っていなければ、天霧さんの見えた機影はその通りでしょう」
新参者故なのか、或いは深海双発陸爆を発進させられる地上基地が他に無いから俄かに信じられなかったのか、兎も角天霧の疑いの言葉に軽く傷ついたケストレルが軽く皮肉を込めた声を返す。
そんな時、今度は正規の統合軍の無線周波数を用いて、臨時艦隊を成す艦娘全員の耳に名乗る声が現れる。
≪こちら空中統合管制機ストーンヘッド。統合空中管制指揮官だ。ショートランド泊地より脱出に成功した全艦娘に令達する。方位2-8-0へ転進し、ラバウルより緊急出港して急行する艦娘母艦『ウィンドホバー』と合流せよ。残弾のある戦艦艦娘並びに重巡以上の艦娘は第四警戒航行序列とし、方位2-7-5、的針0-9-7へ二四ノットで進行中の敵封鎖艦隊を叩け。敵封鎖艦隊は重巡ネ級改一隻、大型駆逐艦ナ級三隻、及び艦隊補助と思われるPT小鬼群二隻の全六隻編成。脅威だが、ネ級改、ナ級、小鬼の艦種毎の小規模群で展開している。火力を集中させれば突破は不可能ではない。残りの艦娘で空母レキシントン、翔鶴、瑞鶴、ケストレルを護る。
各艦、撃沈に拘泥せず、敵艦艇の戦闘不能を目途に突破を優先せよ。以上≫
声から分かる、ユーモラスのセンスが無さげな堅物そうな男性の事務的な指示が入る。あの酷い崩壊から逃れて来た艦娘に労いの言葉も、慰めの言葉一つもない、コールサイン通り「石頭」そうな統合空中管制指揮官。だが送って来る情報に不確かなものも、不誠実な物も無い。
統合空中管制指揮官とはAEW&C機と哨戒機を統合した新型機E-16ジョイントバード統合空中管制機に乗り込む管制指揮官の事で、海軍の哨戒機としての洋上捜索レーダーの管制員と、AEW&C機としての空中警戒管制機としての早期警戒レーダー管制員の二つの任務を一つの機体内に統合したE-16の機内で洋上と空の管制員を指揮する指揮官の事だった。E-16自体はそれまでのAEW&C機と哨戒機を別々に上げる手間を省くE-8ジョイントスターズの発展型と言える空中管制機だった。
激戦区を担う第八方面軍に優先配備されたE-16の内、ラバウルの航空基地から緊急発進して来た機体がセンサーの探知圏内にショートランド泊地の艦娘達を収めている状況だった。当然ながらそのセンサー圏内には敵勢艦隊である深海棲艦も含まれる。
「良い声だな、感じ悪そうだけど」
口角を吊り上げて苦みと共に笑みを浮かべた天霧のヘッドセットにぴしゃりと貼り倒す様にストーンヘッドから注意が飛んで来る。
≪私語は慎め≫
ネ級改とナ級がはっきりと見える距離になる頃には、艦娘艦隊も艦隊陣形の移行が完了していた。
陸奥、ニュージャージー、黒姫、磐梯、タスカルーサ、ノーザンプトン、ヒューストン、ヘレナが第四警戒航行序列を組み、点在する様に布陣するネ級改とナ級へ砲撃戦を挑んでいく。長門と青葉、大峰はそれぞれの艦隊旗艦、分艦隊旗艦任務や砲戦で被弾するとその持ち前の艤装の機能が失われると言う事で外された。
「撃ちー方始めぇッ! 撃て!」
姉に負けず劣らず張りと鋭さすらある陸奥の射撃号令が海上を突き抜け、それに続いてニュージャージーの英語の射撃号令と黒姫、磐梯の射撃号令が飛ぶ。
海上を一瞬暗く染め、瞬間的に周囲の空間を真っ白に染め上げる発砲の閃光が幾つも走り、遅れて一六インチ級と一二インチ級の二種類の大口径主砲の発砲音が遠雷の様に轟いて来る。先行して射撃を開始した四人の身体を褐色の砲煙が一瞬まとわりつき、合成風によって直ぐに引き剥がされる。
虚空を飛ぶ徹甲弾がオレンジに光りながら、雲がかかり始めて来ている青空を急な斜面の山を思わせる弾道を描いて飛翔していく。本来なら「砲撃」と言う全ての兵科に置いて共通要綱である発射弾数と言う投射量で勝負する艦砲射撃も、そもそもの弾薬庫の装弾数の少なさから、些か物足りなさをその第一射の砲声からも醸し出していた。
空母艦娘であるケストレルですら、その砲撃の砲声の威勢の無さに気が付いた。単純に各艦娘の発射弾数が少ないのだ。全力斉射を行えば一〇斉射すれば弾薬庫が空になってしまう有様であるが故に、全員が最初から斉射は諦めている。
水上砲戦は空母のやる事じゃない、と割り切り、ケストレルは空に目を向ける。深海双発陸爆と深海猫艦戦、深海復讐艦攻の三機種が、対空兵装の射程外から艦娘達を挑発する様にふわふわと飛んでいる。水上砲戦に使う徹甲弾だけでなく、対空戦闘に使う対空弾の在庫も払底しかけているから、弾幕を張って追い払うと言う撃ち方が出来ない。深海棲艦航空機もそれを分かって挑発して来ているかのような立ち回り方をしていた。
だが、もっと嫌らしい動きをしてくるのは、PT小鬼群だった。非常に厄介と言うべきか、雷撃態勢に入ったと思わせる突撃をしたかと思えば、艦娘の側が迎撃の砲火を開く直前の距離で反転離脱するのだ。ブラフを何回も何回も仕掛けて、艦娘の方がブラフと油断した隙をついて、本命の魚雷を発射して来る可能性があるだけに、主にPT小鬼群対策のエキスパートでもある天霧を中心に、苛立ちとひやりとする焦りの瞬間が何度も生まれた。
「封鎖線までの距離、約四キロ」
変わらず翔鶴、瑞鶴、ケストレルを中心とした輪形陣の前衛に立つ青葉が、双眼鏡のレンジファインダーを参照して深海封鎖艦隊までの距離を告げる。
≪アノ空母ヲ中心トシタ隊形ダ、展開開始。戦果ヲ上ゲル又トナイ機会ダ、行クゾ!≫
長門が事前に開いていたオープンチャンネルを介して、封鎖艦隊の指揮艦らしきネ級改の無線までもが混線して来る。
「遠くから空母を狙っている別の敵機群がどこかにいる筈だよ。長距離渡洋攻撃陸上攻撃機に注意」
「こんなところで沈んで堪るもんじゃないわ」
青葉に防空管制艦の座を譲っているとは言え、僚艦防空艦としての仕事はこなす鬼怒が高角砲を構えて注意喚起を飛ばす。それにリアリーが武者震いと共に言う。
少し離れた海上では陸奥以下の艦隊がネ級改とナ級と砲戦を展開している。少ない砲弾をどう生かして、突破するかで陸奥も頭を悩ませている様だった。
その時、ストーンヘッドから警報が入る。
≪警報、敵機群第二波が接近。深海復讐艦攻一四機、深海猫艦戦二機。方位0-1-1、高度五〇〇。セクター・デルタブラヴォーより接近中の味方航空部隊へ、深海艦載機群を迎撃せよ≫
≪こちらオメガ1、了解した。これより迎撃に移る≫
無線から聞こえて来た航空妖精の声に、ケストレルはハッと反射的に空を見上げる。オメガ隊はケストレルの艦載機部隊予定のコールサインだ。ショートランド泊地の航空基地から上がって来て、そのまま防空戦闘に移行していたらしい。
キーンと言うジェットエンジンの轟音を響かせて、四機の橘花改が飛来する。ショートランド泊地の防空戦闘にも駆り出されただろうから、各機とも残弾は少ないかも知れないが、居ないよりはマシだ。
「こちらケストレル。オメガ隊、交戦を許可します。必ず帰還して下さい」
≪Copy≫
耳を聾するジェットエンジンの音を残して艦隊上空を飛び抜けた四機の橘花改が、艦娘の目視で辛うじて見える距離で深海棲艦の攻撃隊と会敵する。三〇ミリ機関砲の射撃音が連続して空を引っ掻く前に、航空妖精がエンゲージを宣告する。
≪オメガ1、交戦!≫
≪オメガ3、交戦!≫
≪オメガ11、交戦!≫
≪オメガ12、交戦!≫
どうにも「エンゲージ」を宣告するオメガ隊機のナンバーからして、上がって来ていたのは中隊を構成する小隊毎ではなく、バラバラな上がれる機体だけが上がって来ていたようだった。
ケストレルが見上げる空の一角で、橘花改の引くコントレイルが大き目な旋回半径と曳光弾の軌跡を空に刻み、その刻まれた後に引っかかった深海艦載機群が黒煙を吐いて海上へと落下していく。
「全艦、対空戦闘用意!」
なけなしの三式弾を主砲に装填した青葉が号令を発する。
するとそれをまるで聞いていたかのように、PT小鬼群が再び雷撃態勢に入った。艦隊が対空戦闘に備えて、主砲と機関砲の照準を空に向けたのを見計らって吶喊を開始して来る。間の悪い事に、艦隊の周囲をぐるぐると牧羊犬の如く囲う様に動いていた天霧がちょうど反対側に居て、PT小鬼群へ射撃を行えない状態だった。一時的にだが、PT小鬼群とケストレルとの間に、雷撃射線の同線がつながった。
「やるか、やられるかね……イレギュラーなやり方だけど、やってみようかしらね」
少なくともストレンジリアル世界の時に、やった前例は無かった事にケストレルは挑んだ。
「近SAM発射機、射撃管制装置は水平へ。PT小鬼群へレーダー照射」
「何をする気です?」
SAMって対空ミサイルですよね? と言う疑念を浮かべた狭霧の問いかけに、ケストレルはぶっつけ本番の戦術を語った。
「近SAMで水上射撃です。SSMと違って貫徹能力は低いし、そもそもそう言う用途を想定して無いとはいえ、PT小鬼群相手なら何とかなるかも知れない」
ケストレルの近SAMは射撃管制装置による個別誘導だから、射撃管制装置がPT小鬼群を捕捉して、SAMを誘導し続けられるのなら当てられない事は無い。長身の空母艦娘の語る戦術に、狭霧はふと昔学んだ過去の、狭霧自信が生まれる前の時代の軍事作戦で、アメリカ海軍の軍艦が艦対空ミサイルで交戦国の軍艦に対艦攻撃した事例を思い出した。前例が無い訳ではないし、艦娘に艦隊戦力の主力を取られる前の軍艦の誘導弾の中でもSM-6艦対空ミサイルは対艦ミサイルも兼ねらえる仕様だったので、対空ミサイルで対艦攻撃は不可能な話では無いだろう。
「近SAM攻撃始め」
「射線方向クリア。近SAM発射始め! てぇッ!」
CIC妖精が叫び、発射ボタンを叩くと、ケストレルの航空艤装の左舷艦尾に設けられている近SAM発射機から、二発の近SAMが発射炎をなびかせ、キャニスターの蓋を突き破って空中へと飛び出していった。
「発射、誘導開始」
三次元の動きが可能な航空機と違い、PT小鬼群の動きはケストレル自身と同じ二次元の動きな分、誘導自体は難しくなかった。
大柄の空母艦娘から放たれた二つの細長い飛翔体がブースターの吐き出す軌跡を後ろに引きながら、PT小鬼群に向かって渾身の力で引き絞って放たれた矢の様な速さで迫る。高速高機動艦のPT小鬼群も、慌てて開口しかけていた魚雷発射管の蓋を閉鎖して回避運動に入るが、その矢は自らの意思を持っているかのように逃げる小鬼群の背を追いまわした。
貧弱な火箭がPT小鬼群から発射され、迫り来る矢を捉えようと曳光弾の鞭を振るうが、光り輝く二つの矢は振るわれる鞭が振るう前に突き抜け、PT小鬼群の艤装へ突き刺さった。
海上に爆炎が二つ。一隻はピンポイントに魚雷発射管に食らって爆沈し、一隻は機関部に食らい、漏れ出た深海棲艦固有の機関部燃料に火災の火が燃え移って炎上し始めた。
海上にPT小鬼群の上げる黒煙が二つ昇るのが見えた途端、それまでぶらぶらと飛んでいただけだった深海双発陸爆三機と深海猫艦戦一機、深海復讐艦攻四機が散開して四方から囲い込む様に艦隊へ攻撃を開始した。
「方位2-6-5より陸爆三機、方位1-3-2より艦攻四機、接近」
「対空戦闘! 防空管制艦指示の目標! 攻撃始め!」
青葉の号令が叫ばれるや、二〇・三センチ連装主砲と一二・七センチ高角砲、主砲、五インチ両用砲が威力調整破片弾や三式弾を撃ち上げた。
ヘイウッドとリアリーの二人のMk.37GFCSに管制された五インチ砲が、艦攻一機を瞬く間に空の消し炭に変え、鬼怒の高角砲が陸爆一機を損傷させ、姿勢をぐらつかせる。泊地での対空戦闘で消費した分も含め残弾が少ない状況、狙いすました対空狙撃とでもいうべき射撃が深海航空機の元へと撃ち出される。
鬼怒の砲撃と、青葉の三式弾の至近弾で三機の陸爆は一時的に姿勢を崩したものの、直ぐに立て直し、魚雷投下にしては高く、水平爆撃にしては低すぎる高度で突入して来た。
「反跳爆撃する気だ」
呻き声に等しい声で青葉は陸爆のやろうとする戦術を見抜いて言う。海面に爆弾と投下し、水切りの要領で海面を跳ねさせて爆弾を当てる爆撃だ。意外に回避しづらい爆撃で、対抗策は爆弾を投下される前に撃ち落とす事だった。
「くっそ、もっと残弾があれば……ケストレルさん、近SAMは発射可能ですか?」
「射線方向を確保できません! 皆さんがもっと間隔を取るか、265度方向を開けて下さい!」
残弾が少ない中、確実に目標に弾体を命中させるミサイル程、有効な迎撃手段はない。防空管制艦としての青葉の決断は早かった。
「265度方向、空母ケストレルは射線を確保し次第、SAM攻撃始め!」
まさか艤装に備わる装備が第二次大戦レベルで止まっている艦娘の身で、ミサイルの攻撃指示を出す事になるとは。そう思いながら青葉はケストレルの為に面舵に切って近SAMの射角を確保する。翔鶴と瑞鶴が取り舵に切って、ケストレルと陸爆三機の間に障害となる存在をどかすと、ケストレルは先程PT小鬼群へSAMを発射した発射機を回して、陸爆三機へレーダー照射を開始する。
「トラックナンバー2701から2703、近SAM、攻撃始め! てぇッ!」
再度ケストレルの航空艤装の左舷艦尾から噴射炎が湧き上がり、褐色の煙の吹き溜まりの中から三つのSAMが撃ち出された。
「Birds away」
爆弾槽を開口して爆弾投下寸前という段階だった陸爆三機は、自分達に向かって飛んで来る物体に気が付き、即座に二機が爆撃を中止して回避行動に入る。一機は強行し爆弾投下に至ったが、上昇に転じた瞬間、近SAMが手前で近接信管を作動させ、弾頭に装填された無数の散弾を解き放ったことで諸に鉄の欠片を浴びる事となった。蜂の巣にされた陸爆が砕け散り、上昇しようとしていた残骸を逆の方向へと投げ落としていく。爆弾投下を中止して退避に移った残る二機も、少しだけ空にある時間が伸びただけであり、あっという間に鈍重な機体にSAMが突き立てられ、爆散した僚機の後を追った。
一方、投下された爆弾は、海面を跳ね、海上に複数の波紋を作り、飛沫を上げながら艦隊に迫った。しかし、無理な体勢からの投弾は艦隊を捉える事無く、海面を跳ね、やがて運動エネルギーを使い果たした弾頭が力尽きて海没していく。
「低空より爆弾航過。一一時方向、距離二〇〇メートル」
見張り員妖精が通り過ぎた爆弾を確認し、それを青葉に伝える。一方、その青葉の背中の艦橋艤装内のCICでは航海科妖精が封鎖艦隊との距離を報じる。
「封鎖線までの距離、三キロ」
後方からケストレルの艦載機の橘花改の援護もあって、艦攻一四機に狙われていた矢矧、長良、山汐丸を中核とした輪形陣が艦攻の攻撃を退け、増速して青葉やケストレル達の輪形時の後方につく。何人かの艤装から機銃掃射によるものらしい薄らとした黒煙が上がっていたが、諸に魚雷や爆弾の直撃を受けた者はいない様だった。
陸奥たちは尚砲戦を行っていた。発射弾数を数えながら陸奥は端正な顔立ちに渋面を浮かべて呟いた。
「そろそろ、品切れね……」
威勢よく射撃号令を出したはいいが、肝心な弾薬が不十分な状況で尚且つ、相手がネ級改とナ級と言う攻撃だけでなく、回避能力も高いとなれば、最悪の噛み合い方をする事がある。既に発射した砲弾は一発もネ級改とナ級に着弾の花を咲かせる事は出来ず、逆にネ級改の射撃が陸奥の最重要装甲に命中している。射入角が良かったのか、貫通されずに弾かれているが、挟叉も無しに当てて来たネ級改の技量に、陸奥は激しい焦りを覚えていた。
唯一の救いと言えばナ級が無印の艦なので、長距離射程の先制雷撃を行ってこない事だった。これが量産型elite級以上の強個体だったら、今頃自分達は魚雷攻撃から逃れる事にまず専念せねばならなかっただろう。
悪い状況の時、起こって欲しくない時に限って悪い事は起こる。ストーンヘッドから新たな通信が入る。
≪警報、新たな敵艦隊。方位2-8-0より接近。戦艦タ級四隻、重巡リ級elite級四隻からなる水上打撃部隊の接近を検知。封鎖艦隊へ向けて高速で接近中。敵の増援艦隊と思われる≫
「あの艦隊のど真ん中を突っ切るの?」
「何人かやられるのは覚悟しないといけないわね……」
瑞鶴が険しい表情を浮かべ、翔鶴も心の底で何か意思を固める様な顔になる。レーダーを備えていない無印のタ級とリ級とは言え、残弾が少ない臨時艦隊には余りにも荷が重い相手であることに変わりはない。封鎖艦隊はもしかしたら突破出来るかもしれないにせよ、それで弾薬を使い果たせば、臨時艦隊に出来るのは決して潤沢とは言えない燃料の限りに大回りをして、ラバウルからの救援の艦娘母艦との合流を目指さなければならない。
だが深海棲艦は何かの探知機能を持っているのか、艦娘が居る所に迷わず向かって来る習性がある。従って回避は困難と言わざるを得ないだろう。
陸爆を全機撃墜し、艦攻と艦戦も追い払った臨時艦隊が再度陣容を立て直し、前進する。封鎖艦隊は陸奥たちが抑えているので、より規模の大きい臨時艦隊に手を出す事が出来ていなかった。
「あれが深海棲艦……」
分かり合おうとすれば分かり合えたストレンジリアル世界のユークトバニアとも違う、水平線上に浮かぶ異形の艦隊の姿にケストレルはただ、そう呟く以外に言葉が見つからなかった。
本格的に戦闘描写が始まり始めた本編執筆に当たって、書きながらエスコン5の攻略本を見て、出て来る敵ユニットはこうだったな、と見返しながらそれを本編に反映しております。
勿論独自設定なども多数盛り込んでいます。
ではまた次回第九話「初陣Ⅱ」にてお会いしましょう。