キャラ崩壊注意
空けられたカーテンから私の目に優しく朝日が差し込む。気持ちのいい朝だなぁと思いながら身を起こしてグッと体を伸ばして、寝間着を脱いで動きやすい服に着替えて日課のストレッチをしたら、部屋を出て階段を降り、お母さんにおはようの挨拶をする。
「おはよう!」
「あら紅音、おはよう、ご飯出来てるわよ」
そう言われてテーブルの方を見てみたら、さっき盛り付けてくれたのかな、まだあったかそうで美味しそうな朝ごはんが置いてあった。きちんと座っていただきますと言ったら、綺麗な色をした卵焼きを口に入れる。やっぱりお母さんの卵焼きは程よい甘さで美味しいなぁと思い、お米も一緒に頬張る。
「お母さんのご飯っていつも美味しいなぁ…」
「そう?ありがとう紅音、お母さん嬉しいわぁ。そういえば、今日楽羽ちゃんっていつ頃うちに来るの?」
なんで私が知らない事をお母さんは知っているんだろう?そうびっくりして、私はつい飲んでいた味噌汁が気管に入ってむせてしまった。
「ゲホッ、ゲホッ……楽羽ちゃん、今日私の家に来るの?!」
「紅音、大丈夫?あれ、今日楽羽ちゃんうちに遊びに来るって紅音言ってなかったかしら?」
覚えていない。一体、私はいつ頃楽羽ちゃんとそんな話をしたんだろう、終業式の日?いや、その日は誘おうとしたけど勇気が出なくて誘えなかったはずだし…
ピンポーン
「あら?紅音、楽羽ちゃん来たんじゃない?」
チャイムの音が聞こえると、混乱でぐるぐるした頭の中がもっとぐるぐるし始めた。本当に来たのかな、いつ呼んだかわからないのに、ほんとうに、ほんとうに?わからない、でも私の体はそんな心とは別に玄関の方へ向かっていく。
ガラァッ!
「おはよう、紅音!」
玄関を開けたらそこには本当に私の大好きな女の子がいて、私に笑顔を向けてくれていて。頭がショートしちゃいそうなほど驚きながら、でもなんとかギリギリのところで踏みとどまっていた。
「ほんとに来てくれた…うん、おはよう!楽羽ちゃん、外寒くない?早く中入ろう?」
「そうだね、お邪魔します…あっ、おばさん、おはようございます!」
「はーい、楽羽ちゃんおはよう、朝ごはん食べる?」
「いや、大丈夫です、うちで食べてきたので!でもありがとうございます!」
「いいのいいの、でもごめんねぇ特になんにもなくって。ケンタッキーとか買って来ようかしら?」
「いやいやそんな申し訳ないこと……それに、私は紅音と一緒なら満足なので!」
「キュッ」
ついに私の頭はショートした。
「ねぇねぇ紅音、紅音の部屋行きたいんだけどいい?」
「……………」
「紅音?」
「あ、うん!こっちだよ!」
楽羽ちゃんに何度か呼ばれてやっと現実に帰ってきた私は、少し胸をドキドキさせながらも自分の部屋に案内した。
「わぁぁ、紅音の部屋ってこんな感じなんだぁ」
「ちょっとそんなじろじろ見られると恥ずかしいな」
「あっ、ごめんね、紅音」
「いや、大丈夫!でも退屈じゃない?だからこれで遊ぼう!」
そう言って、私は少し前にワゴンで買ってきたレトロゲームを棚から取り出す。まだテレビに映して遊ぶ時代のすごく古いゲームだ。
「へぇ〜、格闘ゲーム…キャラ数多いね」
「昔の色んなゲームのキャラを集めた物なんだって!」
「なるほど…じゃあこの赤い髪の剣士キャラ使ってみようかな、機動力高そうだし」
「じゃあ私はこのおじさん使います!」
「よっしゃー!やるぞーー!」
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「よし、私の勝ち!」
「負けちゃったー!楽羽ちゃん、やっぱり上手くなるの早いね!」
「ありがと!…でもちょっと疲れちゃったし休憩しない?」
「そうだね、ちょっと休もっか!」
そう言うと、楽羽ちゃんは近くにあった私のベッドに腰掛ける。私はずっと座ってて凝った身体を伸ばしていると、ふと、視界に手招きしている楽羽ちゃんが目に入る。
「楽羽ちゃん、どうしたの?」
「いいから、こっち来て」
困惑しながらも楽羽ちゃんの方に近づいて見ると、袖の方を引っ張られて、膝の上を指さされる。座って欲しいのかな?そう思って座ってみると、後ろからギュッと抱きつかれる。
「わっ、何、楽羽ちゃ……うひゃぁ!」
びっくりして楽羽ちゃんに何をしてるのか聞こうとしたら、更にびっくりしちゃって変な声が出て、思わず飛び退いてしまう。
「ら、楽羽ちゃん、なんで急に…?」
「ご、ごめんね、いい匂いだったからつい…嫌じゃなかった?」
「……ううん、別に。むしろ…」
嫌じゃないっていうのは本当だ。でも、なんだか恥ずかしくって、口に出した言葉が続いていかない。ちょっぴりだけ気まずい空気が流れたあと、その嫌な感じを破ったのは楽羽ちゃんだった。
「ねぇ。こっち向いて?」
そう言われて顔を楽羽ちゃんの方へと向けると、両頬を優しく手で押さえられる。お互いに両目でしっかりと相手の顔を見つめて、覚悟を決める。ゆっくりと近づいてくる楽羽ちゃんに、その迫りくる感触に集中するために私は目をギュッと閉じて────
気づけば、私は目を刺す強い光で目を覚ましていた。いつものように着替えて、ストレッチをしてみてもなんだか身が入らない。階段を降りながら、先ほどの感触を確かめるように指先でそっと唇に触れてみる。確かに触れたはずなのに、しっかりと覚えていないその感触が私に夢なんだなぁと、そう強く実感させる。
(夢なら、醒めなければよかったのにな)
そんなことを考えながら階段を降り終えると、お母さんの声が聞こえる。
「おはよう、紅音。今日はお寝坊さんだったわね」
そう言われて時計を見てみると、どうやら私はお昼まで眠ってしまっていたらしい。ラップが張られ、すっかり冷めてしまった朝ごはんを温め直そうとしたところでチャイムが鳴る。チャイム…?
「あら、誰かしら。紅音、見に行ってきてくれる?」
なんだかよくわからないけど、一つの確信めいた感覚で、扉の先にいるのは誰だかわかる気がする。
ガラァッ!
「やっほー紅音!一緒にケンタッキー食べよう!!んでなんかあそぼーー!!!」
「……そうだね、一緒に食べよう!」
あぁ、やっぱり、それはきっと聖夜の甘い夢で───
「うん、美味しい!やっぱり紅音と一緒に食べるのは楽しいね!」
私が掴みたい、紛れもない現実なんだ。