急速に進んだ海面上昇の影響により建造された複数コロニー型の海底都市「ヨナ」。
ヨナと地上を往復しながら、曰くつきのものを調査する仕事をしている不知火真名は「人が泡となって消える不審死事件」を調査して欲しいという依頼を受け、幼馴染であり助手の龍道遊乃と共に調査に向かう事に。
調査の最中、真名は怪物に遭遇するが…。

「──跪け!!」

※こちらは読み切り版です、連載版とは多少変動がある事をご了承下さい

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──半年前
赤く、昏い地底にある遺(・)跡(・)に2人の人影があった。
2人とも懐中電灯を手に持ちながら、周囲にその光を当てつつ、先に進んでいる。
「なぁ、本当にこんなとこに依頼人が求めてる物があるのか?」
灰色のロングヘアに赤い目のラフな服を着た女性が、近くで遺跡を調べている女(・)性(・)と(・)見(・)間(・)違(・)う(・)ほ(・)ど(・)の(・)背(・)格(・)好(・)をした少し伸びた赤い髪に水色の目のラフな服を着た男(・)性(・)に尋ねる。
「今どき、好きで地上の探索をやる存在なんて珍しいのよ。だから、依頼はしっかり熟すつもり」
「真名(まな)はそういうとこあるよな」
「遊乃(ゆの)だって、私(・)についてきておいてよく言うわ」
女性と見間違うほどの背格好をした赤い髪に水色の目の男(・)性(・)──真名は灰色のロングヘアに赤い目の女性──遊乃におどけたように笑う。
「真名は危なっかしいし。それでアタシが何回苦労させられたと思ってんだ」
「私について来られるのは、今のところ貴女だけだもの。…ここは目ぼしい何かは無さそうね、先に進みましょうか」
「光栄ですよっと。行きますか」
そのまま2人は遺跡の最深部に歩みを進める。
そこにあったのは、干からびたミイラのようなもの。
その周囲には血のように赤黒い何かが漂っている。
「っ、ぅ…」
「…1回戻るか?」
「いいえ、こんなところで戻ったら調査人の名がすたるもの。…行きましょう」
「…無理すんなよ」
真名が遊乃を守るようにミイラに近づく。
ミイラの胸元には2(・)つ(・)の無色透明な勾玉があったが、音を立てて真名の足元に落ちる。
真名はそれをそっと拾い、ミイラを僅かに見る。
「……今回の依頼は1万年前に起こった、ある争いの伝承を補完しうる何かを見つける事。…もし、勾玉(これ)がそれを保証するなら…」
独り言を言いつつ、もう1つを遊乃に手渡す。
勾玉が僅かに白い光を発して仄かに光る。
─僅かに、ミイラが動いたような気がした。
刹那。
「!…遊乃!!」
「っ、ぇ…?!」
咄嗟に真名が遊乃を押し退ける。
そのまま遊乃を庇うように抱きしめた真名へ、空間内の赤黒いエネルギーが凄まじい勢いで向かっていく。
そして。
「っ、あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……?!?」
「真名?!おい、どうし…──!」
遊乃を守るように庇い、抱きしめた真名の右腕がエネルギー(それ)に侵蝕されていく。
まるで、生命力そのものを奪われるような。
内側から朽ちていくような、壊されていくような。
真名はぐったりした様子で遊乃の胸元近くに倒れ込む。
「っ、はぁ…はぁ…」
「真名!?おい、しっかりしろ!」
遊乃は侵蝕されている真名の右腕を見やる。
エネルギーに侵されているそれは壊死を起こしているように見える。
「…今は戻るぞ、必ずなんとかするから!!」
遊乃は真名を抱き抱え、真名が落としてしまった勾玉を拾うと急ぎ足で遺跡を抜けた。



STAR.0 北極星

 

──10年ほど前

赤い髪に水色の目の少年は背丈に反して少し大きな鞄を持ちながら、水色の髪に青い目をした男性(父親)と赤い髪に紫がかった青い目をした女性(母親)、赤いミディアムカットに青い目の女性(姉)についていく。

地上(上)から海底(下)に行く大移動な為か、人は多い。

「真名、手離さないようにね」

「うん!」

海底都市にもうすぐ着くかと思った頃、いつの間にかはぐれていたのか、姉の姿は見当たらなかった。

「お姉ちゃん…?」

慌てて人混みをかき分けて探すが、中々見つからない。

漸く見つけ、姉に手を伸ばす。

けれど、小さな手は届かずに空を切った。

 

「──お姉ちゃん!!」

 

海底都市へ向かうエレベーター近くに取り残された少年は泣く事しか出来なかった。

 

*

 

少しずつ進んでいた海面上昇により、人間が住める地上の土地は狭くなっていった。

その為、各国政府は中断していた海底都市の計画を急ぎで進め、土地を無くす可能性のある人々を海底都市に移転させる事を決定し、地上と海底都市を往復する特殊エレベーター「天使の梯子」を建設する事で一時の策とした。

その複合型コロニーである海底都市の名前は「ヨナ」と呼ばれるようになった。

そして、政府は土地を無くす可能性のある人々以外に、試験的に研究職の人々やその家族をヨナで生活させる事にした。

 

*

 

──半年後

─海底都市ヨナの一角にて

ある屋敷の一室で共に眠る高校3年か、大学生ほどに見える男女もそういった住民だった。

女性のように見える赤い髪の男性がもぞもぞと動き、ベッドから起き上がる。

左手で軽く髪をかきあげつつ、小さく欠伸をする。

だが、右腕は少し違っていた。

格子模様のような紋様が走る青緑色の義腕。

「…少し早く起きてしまったみたいね」

女性と見間違うほどの背格好、少し伸びた赤い髪に水色の目の男(・)性(・)──不知火真名(しらぬいまな)はそう言うと、ベッドから離れ、灰色のロングヘアの女性の髪を軽く撫でる。

食事の準備をする前に先に着替えておこうと考え、ひとまず服を適当に引っ張って着ていく。

職業柄、あまり動きにくいものは好みではない。

「…こんな感じかしら」

「ん、まな…?」

「おはよう、遊乃。今日は私(・)の方が早かったわ」

「別に毎朝競争してるつもりはねえんだけど…ま、いいか」

真名の言葉にそう返しつつ、着替えていく灰色のロングヘアに赤い目の女性──龍道遊乃(りゅうどうゆの)。

着替え終えた遊乃の右耳だけに真名が青い耳飾りをつけ、遊乃が真名の左耳だけに同じ青い耳飾りをつける。

「でも、半年前に死にかけたっていうのによく復帰出来たよなあ」

「あんなところで死ぬだなんて私が認めたくないもの」

「誰が義腕(それ)見つけるまでの根回ししたと思ってんだ。大変だったんだぞ、ホントに」

「私の為にやってくれてありがとう、とは思ってるのよ?」

「いつも通りだな…」

着替えた2人はダイニングへと向かい、朝食を作る。

朝食を作りつつ、遊乃がふと口を開く。

「…そういえば、昔の真名は随分泣いてたよなあ。今となっちゃ可愛げもないけど」

「い、いい…いつの話?!?」

「アタシやアタシの両親と出会ったばっかりの頃だから…相当前だな。ざっくり10年ぐらい前じゃないか?」

「…やめてちょうだい、しょうがないでしょう?あの頃は…」

「姉とも両親ともはぐれて1人だったから、だろ?よーく覚えてるさ」

真名は朝食を作る手を止め、懐から1枚の写真を取り出す。

幼い真名と、今の真名の姿にそっくりな赤いミディアムカットに青い目の女性。

写真をしまい、真名は再び作る手を動かす。

「本当の親の事なんて、今は殆ど憶えてないわ。それでも、お姉ちゃんの事は…忘れたくないの」

「8歳じゃあ、無理ないし。…ん、出来たやつ持っていくな」

「ええ、お願い」

遊乃が朝食をテーブルまで持っていき、一通り準備を済ませた後、席に着く。

「「いただきます」」

朝食を食べながら、話題は今日の依頼内容へ。

「今日の依頼は地上(あっち)で起きてる不審死事件に関してだったか」

「そうね。許可証は印も貰っているから、問題なく彼方には行けると思うわ」

「泡になって消える人…ねえ」

「人魚姫みたいね」

「そんなメルヘンなもんでもないだろ…碌なもんじゃない」

「あら?百聞は一見にしかず、よ?」

「分かってるよ、んな事は」

「…それと、今日は保険でア(・)レ(・)も持っていくわ」

「アレ?…あぁ…」

遊乃が真名の近くに置かれた、丸いカプセルを入れられるスロットが2つ見える羅針盤のようなものが右手側についた灰色の大きなアイテムと、灰色の丸いカプセルを見る。

「使えるかは分からないけれど、持っていかないよりかはマシでしょう?」

「…真名の親父さんから、はぐれる前に渡されたんだったっけ?」

「そうね。…その時にどう言われたかは憶えてないのだけど」

「…あと、これ。毎日持っていってるから、心配ねえだろうけど、一応な」

遊乃は真名の前へ、半年前の遺跡調査で得た無色透明な勾玉がついたブレスレットを1つ置く。

遊乃の首元には同じ勾玉のついたネックレスが見える。

それを受け取った真名は左手首に勾玉のついたブレスレットを着ける。

「分かってるわ」

「飯食ったら行くか」

「そうしましょう」

朝食を食べ終えた2人は地上へ行く為、準備を進めた。

 

*

 

──地上

川の近くで釣りをしている男性は、ふと感じた違和感に釣竿を置く。

身体中の水が込み上げてくるような感覚と、全身から泡が発生し続けるような気持ち悪さに全身を押さえ込む。

が、やがて目に見えて男性の体から泡が発生し続け、近くにいた人々は逃げ出す。

泡が収まり、そこにいたのは先ほどの男性とは似ても似つかない異形だった。

ラブカのような頭部に大きな口、鱗の少ない滑らかな皮膚、小さな丸い尾鰭のようなものが見え、体のところどころには青いシーグラスが刺さっている。

ラブカに似た異形は地面へと潜り、遊泳しながら人々を襲い始める。

 

*

 

──地上

─特殊エレベーター「天使の梯子」近く

「ここに来るのも、半年ぶり…か」

「そうなるわね」

真名と遊乃は周囲を見渡す。

土地が狭くなったとはいえ、風景は殆ど変わっていない。

「まずは不審死のあった現場に向かいましょう。何件か似たような事例があったと、印を貰った時に日本政府(上)から聞いたわ」

「でも、今までは発生してなかったんだろ?10年前の災害の直後から、それが落ち着くまで。…災害が落ち着いてからの数年間も、そうだったって」

「少なくとも、彼らはそう捉えているって事でしょうね。彼らの言う事は程々に信じておくのがいい方よ」

「…だな、それじゃ行くか」

ひとまず、1つ目の事例が起きた現場へ向かう事に。

だが。

「……案の定、だな」

幾ら時間が経っているとはいえ、死因も犯人も不明な事件だ。

規制線が張られているのも、無理はない。

「…このまま押し通す?」

「幾ら許可証はあっても、そもそも柔軟な対応して貰えるかってんだ」

「私の魅力なら、ある程度なんとかなると思うのだけど」

「その自信は尊敬するよ」

「やるだけやってみましょう」

「ちょ…?!」

規制線近くにいる警察官に向かっていく真名。

慌てて彼を遊乃が追いかける。

「少しいいかしら」

「なんだ、一般人は立ち入り出来ないんだが…?」

「依頼でこの事例を調査している者なのだけど。入らせていただく事って、出来る?」

「幾ら調査って言ったって、一般人がなんとか出来るような代物じゃない。…ヨナの奴か?」

「そうよ?…往復許可証も、ここにある」

警官服を着た赤い髪に青い目の男性が、真名と許可証を交互に見て驚いたような顔をする。

「ちゃんと印もある…──って、男?!?…え、は!?」

「よく言われるわ」

「あ〜…うちの幼馴染がすいません」

驚いたままの警官に遊乃が軽く謝る。

「いや、許可証もあるなら掛け合ってみるが…。…幼馴染?」

「そんな感じです。アタシは龍道遊乃、この子の助手やってる」

「不知火真名、いわくつきの件はお任せなフリーの調査人をやってるわ」

「あー…なるほど。…俺は香澄憐(かすみれん)、見ての通り警察官だ」

「それで?現場には入らせて貰えるのかしら?」

「マジですいません…。昔からこういうとこあるんで……」

「とりあえず現場には入って大丈夫だと思う。他のとこも調査するんだっけか?」

「その予定よ。政府(上)も苦労してるみたいね」

「……分かった、諸々はこっちでなんとかしとくから。気をつけてな」

憐が規制線の一部を開け、2人を現場に入れる。

真名が現場に残る泡を見つつ、遊乃が泡によって溶けている遺体の写真を幾つか撮っていく。

「…匂うわね」

「匂う?」

「ええ。潮の匂い…もっと言うと海の匂いがするのよ」

「?…ここは海やらからは離れたとこだぞ?近くにプールとかもないって地図で確認済みだし」

「だから引っかかるの」

「…此処に来る前に真名が言ってた、人魚姫って喩えも強ち間違いじゃないかもな」

「それに数日以上経っても消えない泡、というのも妙ね。人間業で出来る事ではないでしょう」

「この感じだと、他の事例も似たような感じの可能性が高そうだ」

「そうね、それも可能性として視野に入れておきましょう。…?」

「どうした?」

「…こんな事、今までなかったはず」

「…!」

ふと見ると、真名の右腕の義腕が僅かではあるが青緑に光っていた。

「……そういや、それって地上(こっち)で見つかった遺物なんだっけ。普通の義腕じゃ拒絶反応が酷かったから、苦肉の策でそれにしたけどさ」

「変な感覚だわ」

「?」

「この腕自体が、何か意思を持っているかのように思えるの。不審死に関して私に伝えたい事があるのかも、しれないけれど……」

「臓器移植の都市伝説か何かで、その手の話は聞いた事がある。…でも、義肢でそんな事が起こるなんて聞いた事ない」

「…それもそうね」

一通り特徴をまとめ終えた真名と、確認する為の記録を撮り終えた遊乃は現場から出た後、憐に礼を言ってから次の現場へと向かった。

 

*

 

ラブカのような怪物は変わらず地面を遊泳し、人々に食らいつき、時には飲みこんでいく。

近くにいた警察官が怪物に向けて発砲するものの、怪物はびくともせず、却って興奮した様子で警察官を頭から飲みこむ。

恐怖が、悲鳴が、伝播していく。

「なんだよ、あれ…不審死と関係あるのか?」

偶々近くに居合わせていた憐だったが、ひとまず人々を落ち着けさせてから避難誘導をすべきと判断し、襲われていない人々の元へと向かった。

 

*

 

──一方、真名と遊乃

「さて、幾つか回ったわけだが」

「遊乃の見立て通り、その状況を見た人達からの証言も踏まえて、ある程度の共通項はあったわ」

「亡くなった人物は突然苦しむかのように喉元を掻きしむるようになる」

「第一段階ね」

「数分ほどしてから、全身を両手で抱きしめる」

「第二段階、この時点ではまだ人の形をしていたと言っていた方もいたわね」

「その後に海や水のある場所に向かう。望んでいなくても、体が勝手に」

「第三段階、そういった場所がない場合は高所へと無意識に向かうようになる。最初に見たものはこのパターンだったのかしら」

「そして、気がついた時には全身が泡が覆われるか泡となって亡くなっている…と」

確認し合うかのように言葉を繋げていた真名と遊乃は軽く溜め息をつく。

「自死、と判断していいかは…確かに難しいところね」

「怪死といえば怪死、なんだが。突然泡が発生するっていうのがどうにも現実味ないよなあ」

「そうね…──あら?」

「あ?」

2人の目線の先には先ほど遭遇した憐が人々を避難させているのが見えた。

「憐さん?!」

「っ?!…2人も此処からなるべく離れた方がいい、サメみたいな怪物が急に現れて──」

「…サメ?」

真名は少し思案する。

確かこの近くは閉場しているものの、海水浴場があったはずだと。

だとするなら──

「1人怪物に向けて撃った奴がいたけど、まるで効いてなかった!多分普通の武器は効かない!だから…」

「……遊乃、彼と一緒に誘導をお願い出来る?」

「は?何考えてんだ?!普通の武器効かないんじゃ、何やっても無理だろ…!」

「…打開策になり得る物は、あるわ」

真名はそう言って持ち歩いている少し大きめな鞄から、丸いカプセルを入れられるスロットが2つ見える羅針盤のようなものが右手側についた灰色の大きなアイテムと、灰色の丸いカプセルを取り出す。

「それ、使う気なのか?」

「使えるかはともかくとしてね?…これでもリハビリの時にパルクールも一緒に少し齧ってたの。引きつけるくらいなら出来ると思うけど」

「幾らなんでも危ないんじゃないか。それで君に何かあったら元も子も……」

 

「──私を信じなさいって言ってるのよ!!」

 

「っ!?」

「真名…」

「確かに怪物は私だって怖いわ。でも、この場で打開策になり得る物を持っているのは私だけ。…なのに、それを使わないでただ逃げ回るの?」

真名の水色の目は明確な、覚悟の光があった。

「私はそんなのごめんよ。少しでも状況を変えられる物があるなら、出来る事があるなら、それに賭ける。出来る、出来ないの問題じゃない。…これは誰かがやらなきゃいけない事なんだから」

「…分かった、アタシは真名を信じる」

「遊乃ちゃん?!…本当に?」

「こういう時の真名は頑固なんだよ、そうと決めたら中々曲げないから。…憐さんはどうする?」

「…無茶はしないでくれよ、真名さん」

「決まりね。…2人とも頼んだわ」

その言葉と同時に真名は怪物の前に出ると挑発する。

「サメさん、私について来れる?」

標的を真名に定めた怪物は地面を遊泳し、真名を追いかけ始める。

遊乃と憐は互いに頷き、避難誘導を再開した。

 

*

 

地面を遊泳して追跡してくる怪物を横目に、真名は建物の壁を軽く踏み、柵などを利用して屋上へ。

壁を泳ぐ怪物は屋上で一瞬真名を見失うが、別の建物の上へと真名に気づき、其方へと向かう。

怪物は真名に食らいつこうとするが、それを空中で一回転して回避。

暫くすると怪物も消耗してきたのか、その場に留まる。

「さて、追いかけっこはこれくらいでいいかしら?」

そう言いつつ、真名は先ほど2人に見せた丸いカプセルを入れられるスロットが2つ見える羅針盤のようなものが右手側についた灰色の大きなアイテムと、灰色の丸いカプセルを鞄から取り出す。

「…そろそろ、私(皆)の為に動いてもいいんじゃない?」

だが、アイテムは反応しない。

「何が不満だというの?ここで動かなくて、いつ動くのよ!」

怪物は少しずつ回復しつつあるのか、明確に真名を見つめている。

「確かに私は何も知らないわよ!この怪物がなんで発生したのかも、この義腕の事も!両親の顔だって憶えてない!ずっと彼処(ヨナ)にいて、地上の事なんて全く知らない!けど、それでも…!」

「誰かを守るのは、力があるかもしれない者として、当然の事でしょう?!」

「それが認められなくて、お高くとまっているつもりなら、大間違いだわ!今日から私が貴方を使うの!だから、力を貸しなさい…っ!」

「貸しなさいって、言ってるでしょ…!」

僅かにアイテムが反応する。

それと同時に真名は怪物に向けても、アイテムに向けても言った。

「私が守るって決めたのよ、だから…」

 

「──跪け!!」

 

同時にアイテムに色が戻り、丸いカプセルを入れられるスロットが2つ見える羅針盤のようなものが右手側についた灰色の大きなアイテムの灰色だった部分がスカイブルーになり、羅針盤も内部がはっきりと見えるようになる。

灰色の丸いカプセルも色が戻り、上部が青緑色になり、下部が透明になる。

カプセル内部には点灯していないペンライトのようなものが見える。

それを見た真名は軽く笑い、丸いカプセルを入れられるスロットが2つ見え、羅針盤が右手側についたスカイブルーの大きなアイテムを腰に装着。

自動的に同色の帯がつくと、音声が鳴る。

《コンパスドライバー》

そのまま羅針盤の針を北に合わせる。

《North(ノース)!》

更にスロットにカプセルを装填。

《ZODIAC(ゾディアック) IN(イン)》

《LittleDipper(リトルディッパー):Polaris(ポラリス)》

スロット近くにあるレバーを回し、カプセルが開くと共にカプセル内の星座図(ポラリス)が展開され、連動してペンライトが7つの星として青緑に光る。

それと同時に真名はその為の言葉を告げた。

 

「──変身!」

 

両肩、両膝に2つ、左脚にかけて3つの星が現れると同時に濃い青のアンダースーツを装着。

左脚と両肩、両膝、右腕の義腕を除いた各部に青緑色の装甲が形成され、合着。

義腕がこれまで以上に強く光ると、装甲とは似て非なる形で強化部分が現れる。

胴体には同色の航海士の水兵服を模したかのような装甲が形成され、背中部分には舵輪のようなものが付く。

顔部分にヤギを模した青緑色の仮面がつき、歪曲した2本角が現れ、額近くにもう1つの目のようなものが現れて閉じられると、水平に長いヤギのような複眼がスカイブルーに光る。

最後に最初に現れた7つの星が光り、左脚の一番下の星が一際強く光る。

《BRAVE(ブレイブ)──Polaris(ポラリス)》

真名…否──ポラリスは怪物を見据えつつドライバーに触れた。

「遅いわよ。…それじゃ、やるとしましょうか!」

怪物は再びポラリスへと向かっていくが、それを回避。

「…驚いたわ、さっき以上に動けている気がする」

そう言いつつ、ポラリスは怪物への攻撃を開始した。

 

*

 

ポラリスと怪物がやり合っている頃。

遊乃と憐は避難誘導を終わらせ、多少落ち着いていた。

「…真名さん、本当に大丈夫なのか?」

「心配なのかよ」

「多分君と同い年か、そう変わらないだろうって思ったから…。あの時は押されてそうしたけど…」

「アンタ、真面目っていうか…こう変なとこで融通効かないっぽい?」

「…色々あったんだって」

そんな様子の憐を見た遊乃は思いついたように口を開く。

「じゃあ、アタシが見てくる。一応助手だし」

「流石に無理して行く必要はないんじゃ…?」

「悪いな。こんなとこでジッとしていられたら、そもそも曰くつきのアレコレなんかに首突っ込まねえんだわ」

「…っ!」

「つーわけで、ちょっくら行ってくる。憐さんはここの人達を頼む」

「…分かった」

その答えを聞いた遊乃はその場から離れ、真名のいる場所へと走って向かった。

 

*

 

「もう!噛みつきか、飲み込むか、泳いでるだけなんて芸がなさすぎでしょう!」

一方、ポラリスは中々素直に地上に上がってこない怪物に少し苦戦していた。

地上に完全に連れて来られさえすれば、勝機はあると分かっているのだが。

「…そういえば、憐さんはコレがサメって言ってたわね」

ふと思い出したのはサメ特有の器官(ロレンチーニ器官)の事だった。

敏感な電気センサーであり、これを使って獲物を探知しているとか。

それらしいのを昔見た覚えがある。

「……やってみる価値はあるわ」

ポラリスはわざと左手の指を仮面にある角に引っかけ、微量の血を流す。

それに気づいた怪物は血の匂いのする方へと向かっていく。

ポラリスと怪物の距離がスレスレになった瞬間、怪物の鼻部分を鈍い衝撃が襲った。

そのまま打ち上げられるかのように地面に叩きつけられる怪物。

「ビンゴだったみたい」

ポラリスは一つの仮説を咄嗟に思いつき、怪物に一撃食らわせていた。

彼が思い出したサメ特有の器官──ロレンチーニ器官は人の血の匂いに反応するほど敏感なもの。

サメがB級映画で人食いという要素(そういったイメージ)を持つ事が多いのも、恐らくはこの所以。

ならば、敢えて微量の出血を起こし、それを囮(ブラフ)にしてロレンチーニ器官(弱点)を狙えばいい。

この仮説は怪物にも適応されていたようで、血の匂いに惹きつけられている隙に特殊強化された義腕で鼻部分に攻撃した事により、地面に打ち上げられた。

「そろそろ〆(締め)ましょうか。貴方との追いかけっこ、悪くなかったわよ」

ポラリスはそう言いつつ、再びスロット近くのレバーを回す。

どうにか起き上がった怪物はポラリスに噛みつき攻撃しようとするが、それより早くポラリスが飛び上がる。

同時に背中部分の舵輪が少しずつ早く回り出し、両肩、両膝、左脚の星が光り出す。

「今の世界の中心は──私よ!!」

《Polaris(ポラリス):World's End(ワールズエンド)》

そのまま左足による片足キックの構えを取ると同時に仮面の額近くに存在するもう一つの目(第三の目)が大きく開眼し、舵輪で得た風の勢いで怪物に向かっていき、刺さったキックによって怪物の動きが止まると僅かな爆発が起こる。

そして、怪物は泡となり、それが溶けて消えた。

怪物を撃破したのを確認するとポラリスは変身解除する。

「…ふぅ」

「真名〜!…って、本当になんとかしたのかよ」

「当然でしょう?」

少し遅れて着いた遊乃に向けて真名は少し笑ってみせる。

遊乃はというと、真名の腰近くにあるアイテムを横目に見ていた。

「……本当に使えたんだな」

「跪かせたのよ」

「いやいや、どういう事だそれ」

「そのままの意味だけど?」

当然と言わんばかりの顔をする真名を遊乃はそっと抱きしめる。

「ちょ、遊乃…?!幾ら人がいないからって…」

「…怖かったろ」

「…っ!」

「アタシの前では無理すんな。普段のが真名の思い描くお姉さんの模倣(エミュレート)だとしても、それで本当の感情に封をして欲しくない」

「…ぅ、あ…」

「大丈夫、大丈夫だから」

真名は恐る恐る遊乃の背中に腕を回し、遊乃の胸元近くに顔を埋めて小さく泣いていた。

「こわかった、こわかったの…!あんなに大見得切ったのに、なにも出来なかったらどうしようって…!」

「よくやったよ、本当に。帰ったらゆっくり休もう、な?」

「これでなにもできなくて、被害がもし増えたらっておもったら…。少しだけ、ボク不安になって…」

「…依頼終わったら美味しい物でも買って帰るか?」

その言葉に真名は小さく頷いた。

真名が落ち着いた後、遊乃が真名と共に憐に合流した際、憐が真名の目元に関して言及しようとしたが、遊乃に圧をかけられたのでそれ以上言及するのはやめたようだった。

その後、遊乃はヨナに戻る前に真名の好きな物を買ってから一緒に帰る事となった。

 

*

 

──地上 某所

「うーん…あんなのが出てくるなんて想定外だな。偶々見つけたけど、カースヴァンプの方々に報告すべきか……」

ラフな服装に薄金の髪を一つに結び、赤い四角のフレームの眼鏡をつけた赤い目の男性は幾つか撮った写真を見ながら、そう呟いた。

左右に送りながら見ているそれはポラリスと、ラブカのような青いシーグラスが刺さった怪物。

「しかもあの義腕、どうなってるんだよ…変身する前は何もなかったじゃないか…」

胸元近くには「イフ」と書かれたネームピンが見える。

「リーリエや流風(るふう)、ガルドにも共有しておきたいけど、一体いつになるやら」

ラフな服装に薄金の髪を一つに結び、赤い四角のフレームの眼鏡をつけた赤い目の男性──イフは言いながら情報網を漁る。

幸い、地上や海底都市でもまだ話題にはなっていないらしい。

「……リーリエ達には共有するけど、カースヴァンプの方々にはまだ言わないでおこう。そうしよう」

イフはそう決めると端末を閉じる。

「それにまだ動く時間じゃない。怪物(アレ)には時間稼ぎ出来るくらいの価値ならありそうだし、王(・)が目覚めるまでに言われた事はこなせる筈」

 

──彼の足元の影がイチイの絡みついた合成生物(キマイラ)のような何かに一瞬変化する。

 

「その為にも、まずは王(・)の(・)従(・)者(・)も見つけ出さないとね…」

そう言う彼の目は昼間にも関わらず、歪な赤に光っていた。




Road.0 海底都市ヨナ
地上の海面上昇の煽りを受け、海底深くに建設された複数型コロニー。
コロニー毎にある程度エリア分けされてはいるものの、どのコロニーも共通して多数の住居や学校などがある。
地上へと行く際には許可証を発行された上で特殊エレベーター「天使の梯子」で向かうか、往復が可能。

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