ものづくり中毒属性を付与されたシャープちゃんSS 作:スクワイア
上編をお読みくださればと思います。
それではどうぞ。
「どうぞ…粗茶ですが…」
未知のゴム質スーツに覆われた長い足を組み、ソファに座っている天使に紅茶を出す。
これはシャープが手ずから淹れた紅茶だ。
家主としてもてなすというポーズもあるが、現在この家はエヴァの支配下にあると言っていい。
先程乗っ取られたロボットとそれ以外の個体が、どう覗かれているか分からないので安牌を取った。と言ったところだ。
玄関でシャープは
「いただきます」
足を組んだまま、これまたゴム質のグローブに覆われた手でソーサーを取る。
優美な手つきでカップをツマミ、1口含んだ。
エヴァの口元が若干だが綻ぶ。
お気に召していただけた様だ。
シャープは、エヴァから直角の位置のソファに腰掛け、自分で淹れた紅茶を飲む。
ニュースターインダストリーズ系の天使、エヴァ。
天使としては珍しく、脚部、背部の星導器を持たず、リング状、球状の星導器を周辺に漂わせている。
人の多い場所に自ら近づいてくるので目撃情報の一番多い天使だが、その目的は、厳密には不明。
大陸各地、人類の生活圏を飛び渡り、現文明を調査しているようだとBABELの報告書にまとめられている。
シャープは無言のまま、エヴァの紅茶が半分になるまでは、要件、損害の内容を推測しながら待とうとした。
向こうから話し始めるか、こちらから聞くか、空気読みと情報整理の間だった。
半分になった頃合い、そのタイミングを見計らい、シャープからエヴァに尋ねる。
「それで…、すいません。損害というのは…?」
「その前に少し確認がしたい。BABELは当機の任務をどの程度、把握している?」
話題を逸らすエヴァ。
この天使、さっさと帰るつもりは無さそうだ。
シャープは多くの天使と関わりあっているせいで、彼女達の我の強さというか、融通が効く時もあれば、何も譲らず、我を通してくる部分を知っている。
しかも、今はセキュリティを抜かれた状態、もう何を隠しても無駄。ならば事実を伝えるのが吉なのだ。
質問には素直に答える。
「…何かしら調査している。その程度ですね」
「その様。色んな場所でBABELの人間を見かけた。端末を調べたが、確信に迫っている情報はなかった」
ナチュラルに
シャープはその暴露に鼻白む。
シャープの特製セキュリティを抜くぐらいだ。特別製でもない社用端末など紙が伏せてある程度の抵抗力しかないだろう。
BABELには人類外の天使級個体の動向を観測する部門がある。
エヴァが端末を暴いたのはそこの人員だ。
前述の通り、彼女は人の多い場所に自ら近づいてくるので目撃情報が一番多い天使ではあるものの、何を調査しているかは厳密には不明となっている。
そして、天使として珍しい点がある。星導使以外の一般現文明人とのコミュニケーションが多いことだ。
BABELの天使調査部は、目的解明のため、エヴァに話しかけられた人にいくらか謝礼を出してインタビューを試みた。
インタビューの回答。
それらはすべて、評判のいい料理店等、食事についてだった。
調査員は聞いたその足で、いつも行列だという料理店に向かった。
するとどうだ。行列の中に酷く時代の飛んだ服、シルバーパープルのジャンプスーツを着込んだ天使がいたのだ。
BABELは本格的な調査を始める前でもエヴァの食文化に対する姿勢を把握していたが、実際に目の当たりにすると困惑が勝った。
困惑を抱きつつも調査を進めていくしかないBABEL。
様々な場所のインタビュー内容を確認してわかったことといえば、彼女は食に関してのみ聞き込むが、それ以外は全く興味がなさそうだという点。
しかし、当のエヴァは食に無関係そうな施設や地域も法則性なく飛び回っている。
情報と行動が一致しないことにBABELの調査員は混乱した。
食の調査していることだけは明確にわかったが、それ以外の目的がまるで分らない。
しかし行動から、食以外にも何か調べているはずだとは考えられるものの、調べ物の痕跡はなく、結局推察どまりとなっていた。
「当機の任務は、現文明が独自に発展させた文化・技術の収集と編纂。…別に食いしん坊ではない。食も大事な文化」
「あぁまぁはい…」
BABEL所属調査員の端末には、エヴァが何処にいるかの情報とどこでどんなものを食べたかが記されていたはず。
当然、情報の割合は食べ物関連が多い。
傍から見たら、食べ物に並々ならぬ情熱をかけている天使の情報だろう。エヴァは誤解されないように釘を指してきた。
シャープは土下座の際、ここは食堂じゃないですよ。と言うか迷ったのは内緒だ。
食文化云々はさておき、シャープに直接、エヴァが与えられている任務、その目的を教えられたわけだが…。
真相がこうもあっさりと教えられると、長年BABELがかけてきた調査費用、時間がほぼ無駄になったことになる。
エヴァとの会話内容を勤め先に報告するかは、勤務時間外の為に任意ではあるが、今後も動き続ける調査部署のことを考えると、報告してやった方がいい。とシャープは考えている
しかし、あまり気の乗らない様子だ。
報告すれば、特別手当が貰えるだろう。
そして同時に、調査部署からも感謝半分、やっかみ半分を貰う羽目になるのだ。
A.O.D.S.の件など、技術部は何かと美味しいところを持って行きがち。
それ以外も数多く、他部署のメンツを潰してきている。
今日のもメンツレートが上がるだろう。
シャープは本社へしたためる報告書が、休日増えたことにちょっぴり、また、やっかみを食らうことが確定したことに心底うんざりした。
「無形有形問わず大半の文化と技術は見れば収録できる。多少秘匿されていても、現文明の情報技術で当機のアクセスを拒むのは…至難の業。例え電子を排除しても、このドローンがある」
球状ドローンをつついて言うエヴァ。
想像以上に倫理観のぶっとんだ事実を聞かされたシャープは目を剥く。
つまり、エヴァは色んなところに飛び回っては不正アクセスと不法侵入を働き、任務を進行させているのだ。
法というものをご存知では…。あ、天使は現文明人でない?
そして国家など組織に帰属しないから法を守らなくてもいいのかぁ、そうかぁ。
もっとも、それだけやって世間を騒がせていないのは、セキュリティ技術が未熟で不正アクセスに気がついてない上に、エヴァはただただ情報を集めているだけだからだ。
不正な利益を得ようとか、悪意害意の目的がなく、行動も起こさない。
情報を抜かれても、現文明人同士で優劣や損益が発生ないのだ。覗かれた側も安心といえる。
ん?プライバシー?一般人が天使相手に恥ずかしがってどうするよ?
「しかし、食文化はそうはいかない。味を
「な、な、なるほど…。」
「よろしい」
何処か熱いものを滾らせて語るエヴァにシャープは納得を伝えた。
シャープの返事に満足したエヴァは紅茶1口のみ、鼻から息を抜く。
「おかわりを」
「…はい」
エヴァは紅茶のおかわりをご所望。
本当にお気に召した様だ。エデン産高級茶葉の威力もあるが、何かと拘る質のシャープが淹れ方を追求していた点もあるだろう。
シャープはティーカートから新しく紅茶を淹れ、エヴァに差し出す。
「食は興味深い。人によってこうも風味が変わる。任務に終わりが見えない」
ふふ。と今度は然りと微笑みながら紅茶を飲む。
なんとも嬉しそうに美味しそうに。
シャープはその様子に嬉しさを感じつつも、
天使と人間、事情が別か…と自分の紅茶も注いでソファに座る。
ふと、シャープに疑問が浮かんだ。
「技術…となるとBABELも調査対象なんですか?」
「BABELの調査優先度は低い。やっていることは前文明技術のリバースエンジニアリング。既にデータに収録されている事項。当機の任務に対しては価値が低い」
ぬぅん。
シャープはもにょった。
BABELにて、これまで心血注いで解析したり、作ったりしたものが二番煎じと称されたわけだ。
価値が低いと言われ、ムッとするが、納得はできる。
天使は前文明の遺産。当時の技術に詳しいのは納得だ。
エヴァの言った通り、BABELは遺跡からの出土品をどうにかこうにか解析して、現文明の技術力、生産力に落とし込んで販売している。
前文明人からすれば廉価版で焼き直しでしかない。たしかに収集する価値がないことはわかる。
調査報告書では、BABEL関連施設に接近したという記録について、不思議なほど少なかった記憶が確かにあった。
「当たり前といえばそうですね…。前文明技術、教えてくれたりしません?」
「拒否する」
エヴァの物言いでシャープの気を引いたのは既にデータ収録されていると言った部分。
知ってるんだったら教えてくれるかも?と考えたシャープはワンチャンあれ。と聞いてみたが、やはり、即座に断られる。
「現文明へ必要性の無い情報開示は、文明の独自発展を阻害する。当機の任務に支障が出る」
「はぁ…まぁ理由はわかりますが…その理屈だとBABELの存在はいいんですか?」
「BABELも現文明の発展の一つと考える。文明への効果は独自的と解釈している。…が、使用技術に新規性を感じないため、情報収集が一般ニュースで事足りていると言うだけ」
辛辣とも取れる表現をされている中で飲む紅茶はやけに渋く感じる。
しかし、BABELの技術に興味が無いと言うなら…
「じゃあ、なんで私の家をハッキングなんてするんです…?」
シャープはBABELの技術研究員だ。下手な役職持ちより前文明関連の秘密情報を多数抱えている。
エヴァが興味を引くようなものは無いと考えられたための問いだ。
「シャープ。貴女の構築したカウンターセキュリティプログラム、所謂、攻性防壁。それがダークウェブでなんと評価されているか、ご存じ?」
エヴァは理由を述べず、先程シャープの目の前の人物に突破されたセキュリティについて聞いてきた。
ダークウェブなど、防壁構築参考用ウィルスを漁りに行った時くらいなので、正直に答える
「…いえ。知りません…」
「ヤマアラシ。近づいたら棘が身を刺し、返しがついて抜けずに残る・・・。そして手を出したものを蝕みつくす毒付だと評価されている」
うわぁなんかすごい評価だぞ。ドクツキヤマアラシとは、神話の魔物かな?
まぁ。二度と手出しできないように徹底的に始末ように作ったのはシャープだ。
「掲示板を見るに、今ではハッカー達の間で禁域とされている模様。過去ログを調べれば、能力や高価な機材で自慢げにしていた連中が最初に消えて、それを聞いてイキッた2・3流、度胸試しのアホ、次々に沈んで行ったそう。お祭りの様相だったとのこと」
「あーあの時期ですかね…」
何か知らんが不正アクセスが爆発的に増えた時期があったのだ。
物量に押しつぶされかけたが、エネルギーをドカ食いするから普段使いしていなかった前文明出土品のスパコンを起動して対処した思い出がシャープにはある。
ハッカー達の勝ち目はもとよりなかったのだった。
「中にはリベンジに燃えて立ち上がる勢力もあった。まぁそれもあっさり壊滅した。今はヒッソリとしている」
シャープのプログラムは、仕掛ける腕と機材をもつ者共を殆ど狩り尽くしたのである。
エヴァは1口紅茶を飲み、言葉を続ける。
「BABELの技術には興味が無いが、情報技術特化型として、その評価に興味が湧いた。現文明の児戯じみたセキュリティに飽きていたのもある」
「暇つぶしにぶち抜かれたんですか?私の攻性防壁…」
「なかなかに楽しめた。アレは前文明でも通用する。当機が保証しよう」
「ありがとうこざいます?」
シャープは釈然としないが、相手は天使。個体によるものの、彼女らは基本中立だ。
何処ぞの企業に情報を売られて、酷い不利益を被る可能性が無いことをまずは喜び、複雑な気持ちを飲み込んだ。
「最終的に当機が勝ったことはお忘れなく。油断は禁物」
「はい…。…?。その最終的とは?」
「…」
追加の問いに、カップを口元に運んでいたエヴァの手が止まる。
「…軽率に手を出すべきではなかったと思っている」
「え?」
「無事では済まなかったということ。初見では防壁発動トリガーを踏んでしまい、思わず自爆してしまった」
「じ、自爆!?なにがどうなって!?」
「当機端末が攻性防壁に侵され、大部分が
エヴァはその身一つでハッキングを仕掛け回っている。
身体にコンピュータ的機能が備わっていることが察せられる。
それはエヴァの義体制御系と密接に関わっているようで、カウンターハックを喰らい、プログラムコードをズタズタにされて制御不能になったということだった。
流石に自爆機能という最高危険度の部分は操作系統が独立しており、発動できたわけだ。
「当機の義体端末は複数あり、上位に本体がある。本体のクラウドブレインに届く前に止めるには自爆しかなかった」
「…」
何それBABELの資料にない。
シャープは今日知り得た新情報、エヴァの目的やら本体やらをなんと言って部署に投げたもんかと脳内で頭を抱える。
「その甲斐あり、トリガーを把握。そこさえ分かればあとは容易。あのメイドロボに侵入してゲームセット。リベンジ完了。当機の勝ち」
なんで負けたのか明日までに考えてください。
ほな、いただきます。
ゴクリ。
そんな幻聴が聞こえたかと思ったら、わざとらしく喉を鳴らして紅茶を飲むエヴァ。
はぁ。と息を吐いた。
「そして、勝者には褒美が必要。その褒美代わりの損害賠償請求というわけ」
「はぁ…。はい…」
なんとも紆余曲折あった話が、最初に聞いた訪問要件、損害賠償請求に収束した。
自業自得では?とシャープは思うが、現状、セキュリティは破られている。
エヴァがやろうと思えば、家を吹き飛ばしたり、適当な敵対組織に情報を渡せるのだ。
生殺与奪は向こうにある。断れるものではない。
「えーと…分かりましたが…どの程度お包みすれば…」
「…ふむ」
カップをテーブルに置き、顎に手を当て考え込むエヴァ。
いや、考えてなかったんかい。
シャープが脳内でつっこんだのち、数十秒たって、エヴァが口を開いた。
「決めた。シャープ。貴女のことを記録させてもらう」
「はぇ?」
「調べてみれば、随分とユニークなものを作っている。情報と物理技術、両方含めて当機の記録任務対象に値すると判断した。同時にパーソナルデータも記録する。当機が特定の個人を記録するのは稀。光栄に思うといい」
エヴァはシャープのPCの記憶媒体を覗いた。
そこには当然、これまで作り上げてきた作品設計図が収められている。
その作品達は、どうやらエヴァのお眼鏡にかなったようだ。
「あ〜いや〜…わかりました…」
シャープ。天使と人類が滅びるまで自分の記録が残ることが確定した。
シャープが渋々と言った様子で了承したのは、エヴァの長大な任務には分不相応だという思いからだ。
こんな小市民より、もっと記録した方がいい人いるんじゃないかな。
などと考えていると、カタリ、と食卓の方で音がした。
「ああ、それと、昼食も要求に入れる」
音の方に目を向けると、食卓でメイドロボ達が配膳し始めている。
「構いませんが…あれ?」
…既に並べられている皿の数が多いことに気づいたシャープ。
追加を指示した覚えも、客に応じて自動で作らせる機能もつけた覚えがない。
「家庭料理も重要な文化。今日の献立があまりにも魅力的だった。こちらで事前に追加指示をさせてもらった。」
やっぱり食いしん坊じゃないか?この天使。
はい、お読みいただきありがとうございました。
以下、独自解釈、妄想設定の注釈
エヴァの目的について。
原作でも現文明の文化・技術などを集めているとの事なので大体原作どおり。
方法は…ハッキングしか考えられなかった。
だって、悪用しないとはわかってても、機密情報を真正面から
わからせもできるだろうけど、それやると人類は協力してくれなくなるし、天使級がやってきてしまうので…
なのでハッキングがいちばん穏便なんですね〜。
高度に発展してたであろう旧文明情報技術により、不敗。
なお、現セキュリティ環境のぬるま湯に浸かってたせいでシャープの初見殺しにやられた模様。でもリベンジ成功したから(不敗)
食文化収録について。
妄想設定のキャラ崩壊ポインツ。
人類だもの。食文化は最重要。
情報と違って、食べ物って食べないとわからなく無い?といったところから生えた設定。
レストランレビューも主観大きくて信用できたりできなかったりするし…
レシピだけ集めても、味と相関が取れなかったら文化の収集とは言えないやん?
…白状しますと、とあるSSを見てたら思いついてしもた…。
リスペクト!リスペクト!
BABELに興味無いね。設定。
本作中で説明した通り。
これだと団長にも興味なくならね?とは思った。
BABELに属するし、旧文明よりの人間だし…。
まぁ原作での特異点だから収集するべきと判断したとかで…。
旧文明知識、あげません!設定
いや、完凸メッセで団長に情報閲覧権限与えとったやん。それはええんか?
団長は多分旧文明人類だから…問題ないとかで…。
クラウドブレインについて
エヴァの本体とされるところの独自解釈&造語。
原作のメールによると、ここをぶっ壊されかけた?
いつぞやの新シーズン発表動画のキャラ紹介で出ていた設定。
エヴァの義体は端末の1つでしかないとか言うやつから生やしました。
こんなところか…。
ハイ、妄想設定・独自解釈までお読みいただきありがとうございました。
また何か書けましたら宜しくお願いします。
それでは