今回の仕事でバレエツインズに向かうこととなり、その道中でナイルはライカンと話していた。
「場所に着いたら?」
「まずは制御室に向かい、同時に建物の劣化状況の調査も行います」
「了解しました」
車を運転するライカンに頷くと、そこで後ろの席で寝ているエレンを見る。
「ZZZ…」
イビキこそかいていないが、よく寝ていると思うこの頃。
「よく寝る子だ…」
「寝る子は育つとよく言いますけれどね」
そんなナイルにリナが面白がるようにくすくす笑った。事情を知っているが故にあまり強いことを言うつもりはなかったが、彼女は移動中は基本的に寝ている。
「カリンさんも寝ておいていいですよ?」
「ふぇっ?!わ、私は大丈夫です!!」
いきなり話しかけられて若干驚く彼女はそう返すと、ナイルはそこで改めて思ったことを口にする。
「…やっぱり自分だけ別の車にすればよかったですね」
そこでナイルは自分の使う対物ライフルを見る。
「あら、そうでしょうか?」
「だった邪魔でしょう。こんな馬鹿でかい銃」
リナの疑問にナイルは頷く。何せ二メートルもある銃は車のど真ん中を貫くようにあり、正直邪魔であった。
するとライカンが言った。
「問題ありませんよ。数が少ないと、その方が私も楽ですみます」
「…そんなものですかね?」
そんな疑問を覚えながらナイル達は目的地に向かった。
バレエツインズは共生ホロウの中に存在する商業ビルである。かつてここでバレエを行っていた双子の踊り子が不慮の事故に巻き込まれたと言う不穏な噂もある、所謂曰く付きの場所と言うものだ。
「うわぁ…」
「ぶっ、不気味ですね…」
目的地に到着したナイルとカリンはそこでバレエツインズを見上げてそんなことを言う。
「行きましょう」
「そうですね」
「…とっとと終わらせて帰りたい」
ライカンとリナはそう言い、エレンは相変わらずと言った様子で五人はそれぞれ武器を持って建物に入っていく。
ここは共生ホロウの中、エーテリアスも容赦なく出てくる場所だ。
「…」
そんな二本のビルの中に入ると、ナイルはそこで鋭い嗅覚で何かを感じ取った。
「…ライカンさん。何か匂いませんか?」
「匂い…ですか?」
そこで言われてライカンも軽くビルの空気を嗅ぐと、そこで違和感を覚えた。
「…確かに、埃っぽくない人の香りがしますね」
「本当だ」
そこでエレンも同様に匂いを感じ取ると、カリンが聞いていた。
「えっ?じゃあ、私たち以外に誰かいるのでしょうか?」
「ホロウレイダーが入って来ているかもしれませんね」
匂いの濃さ的に結構近い時期に人が入って来ていることは間違いなかった。
「急ぎましょう。ここはご主人様の所有物となられるのですから」
ライカンの言葉に全員が頷くと、五人は階段を登っていく。
こんなほぼ廃墟のような場所に出入りする人間でまともな奴は見たことがない。
ただお化けの噂を聞いてお外れるバカだといいのだが…いや、それでもダメだな。ホロウに入ってんだから。
「見つけたらどうします?」
「捕まえてしばけばいいじゃん」
ナイルの問いにエレンが答えると、そこでナイルは軽くため息を吐く。
「あのなぁ、俺たちは一応ホロウレイダーとやり方は変わらないんだぞ。…ただ上層部とお付き合いしているから、目を瞑ってもらってるだけなんだから」
ナイルが答えると、ライカンは一考した後で聞いた。
「ナイル、治安局にホロウの出入り口付近で通報をするのはどうです?」
「あぁ〜、ホロウに勝手に入ろうとしてたのをとっ捕まえたって言う程でですか?」
「えぇ、それでしたら私としても楽に仕事をできます」
「…全く、まだ俺が治安官と連絡取れるからできる所業だぞ、それ」
「えぇ、ですのでお願いしても?」
ライカンに頼まれて、ナイルは呆れた様子でため息をもう一度。
「はぁ…まぁ分かりましたよ」
やれやれと言った様子でナイルは誰に連絡をしようかと考えた時、
『ーーー!』
微かだが、彼の耳に誰かの方が聞こえた。確実に自分たちの声ではなかった。
そして聞こえる銃声、打撃音。
「…ライカンさん」
「えぇ、どうやら予定外のお客様のご様子です」
その時、一気に警戒体制に全員の意識が切り替わると、そのまま後ろを振り返った。
「お出迎えいたしましょう」
「ここがバレエツインズ…」
「立派なもんだぜ」
その時、バレエツインズのロビーに三つの人影を見た。
「うぅ…なんかここ寒くね?」
寒がる様子で怯えるビリー。
「確かに…中はピカピカなのにみょーに居心地悪いぞ…」
その横で同じように不気味がる猫又。
「ん…警戒して、霧が濃い。何か潜んでいるかも」
そして一歩前を警戒しながら進むアンビー。
いわゆる邪兎屋のメンバーである。猫又はこの前の事件で邪兎屋に入った新メンバーであった。
そして彼らのリーダーであるニコは別の用事でここにはいなかった。
そして薄暗い空間を歩いていると、
ゴドッ「「「!?!?!?」」」
後ろから音が聞こえ、反射的に三人は驚きで振り返ってしまった。
「ふぅ…ビビったぜ…」
しかしビルの入り口にあったモニュメントが倒れたのが確認でき、音の正体を前に安堵した。そしてビリーは乾いた笑いをした。
『ふぅ〜…』
その足元でボンプ、リンは安堵した様子で汗を拭う仕草をした。
『先を急ごっか、ここにいちゃマズいかも』
そう言って四人は歩いてバレエツインズの奥に向かった。
そして倒れたモニュメントに一つの人影が映っていた。
『気をつけて!』
「おうよっ!」
暗闇の中、探索を続ける三人にリンは的確な指示を出していく。
建物のシステムにハッキングを行い、照明を復活させたりと様々な作業を行い、迷路のように入り組んだ場所を進んでいく。
「なんか…普通のホロウよりシンドくねぇか?ここ…」
そんな中、思わずビリーはボヤく。
「迷路ミテェに入り組んでるし、寒くてジメジメしてるしよ」
いつも以上に疲れる探索に彼は言う。
「替えたばっかの膝関節が錆びちまわねぇか、心配になって来たぜ…」
そんな彼に猫又は忠告をした。
「ビリー、得体の知れないB級商品には手を出さない方がいいぞ。やけに安い店でゴハン食べたら、お腹を壊しちゃうのと一緒だ!」
「…ん?」
そんな話をしていると、アンビーは違和感を感じて口にした。
「どうかしたか、アンビー?」
「建物に入ってから、ずっと視線を感じる」
ビリーの問いかけに彼女はその違和感を伝えた。
「あっ、俺も俺も!なんか入った時からゾクッと来たんだよなぁ!足元をしょっちゅう、何かがすり抜けてくる感じするしよぉ」
と言った瞬間、彼は叫んだ。
「って、うおっとぉ!!言ったそばから!」
「それはあたしの尻尾だ!」
「あ、ああ、なんだ…」
その違和感の正体を知り、少々落胆したような安堵したような声を漏らしていた。
「なあなあ店長、前にホロウでさ…周りの状況をいっぺんに探知したこと、あったろ?あれ、もっかいやってくんね…?何かいそうだぜ、この辺」
足元にいたリンに聞くと、彼女は難しい表情で答えた。
『ごめん、今は難しいかも…ここには裂け目がいっぱいあるし、ホロウのデータも結構古いから…進みながらもっとデータを集めないと…』
リンは調査を続けるしかないと断言すると、
「まって、近くに何かいる」
アンビーはすぐに違和感を感じて注意した。その獣のような声を前に彼女はすぐにその正体を突き止めた。
「エーテリアスよ!まずは奴等を殲滅しましょう!」
すると進んだ先のホールで幽霊のようにエーテリアスが現れた。
「コイツら!どっから現れやがった!?」
「うぅ…ここのエーテリアス。どいつもコイツも気色悪いぞ!」
そう言いながら三人は幽霊のような見た目のエーテリアスを排除していく。
「ほぉっ!!」
「ふにゃっ!!」
「っ!」
そして順調にエーテリアスに対処していき、最後のエーテリアスも手早く仕留めた。
「ふん〜っ!」
最後のエーテリアスを倒し、軽く猫又は背伸びをする。
「ふー、やったぞ」
そしてエーテリアスを殲滅した後、ビリーは聞いた。
「アンビー、さっきの視線だが…
エーテリアスだったな!」
彼はそこで自分が倒したエーテリアスを指差すと、そこでアンビーは不審がった。
「ん…本当にそう?」
エーテリアスであれば見境なく襲ってくるだろうにと彼女は考えていた。
「店長、次はどっちに行く?」
しかしビリーは万事解決したと思ってノリノリでリンに聞いた。
『ちょい待ち、どれどれ…』
そこでリンは集めたデータの整理と解析を行なっていた。
小休憩になったと思って猫又は軽く体を伸ばしていると、ホールの奥からほんの一瞬赤い閃光と銃声が轟いた。
「「猫又!!」」
その閃光に気づいた二人はすぐさま猫又の首根っこを掴んで回避した。
「どぅぁぁだだだだっ!?」
言葉にならない驚き方をしながら後ろによろけ、地面にへたり込む彼女。
「よ、よかった…お鼻はまだ付いてる!」
慌てて目の前を掠めたそれに鼻を持って行かれたかと思った猫又は安堵する。
そして飛んできたものを見てリンは首を傾げた。
『これ…ハサミ?』
ホールの地面に突き刺さった巨大なハサミを前に警戒する三人。
すると暗闇のホールに革靴の足音が響く。
「誰!?」
その足音はだんだんと大きくなり、アンビーは警戒して持っていた剣を鞘から抜いた。
そしてあの足音を前にビリー達もアンバーのそばに寄って固まる。
「お見事でした」
男性の声で、重みのある声色で話しかけてくる。
「さぞ容易い道中だっでしょうが…
ここが終点です」
そして階段から白い狼のシリオンが自分の身だしなみを整えておりて来た。
「オオカミ?」
猫又は出てきたシリオンに首を傾げると、彼は言った。
「ここは私有地でして、来客はお断りしております」
そこで彼は持っていた懐中時計の確認を行う。
「30秒でご用件をどうぞ。それ次第では…」
その直後、
「ひゃあっ!?」
軽い悲鳴と合わせて金属が床に落ちる音が響いて、階段を丸鋸の歯がアンビー達の足元に転がっていった。
「…」
何とも言えぬ沈黙が場を支配した。
「んんっ!…して、皆様。ここは立ち入り禁止につき、即刻…」ガシャンッ「…」
改めようとした彼だったが、その矢先に異音が聞こえた。
「…言ったはずです。武器の手入れと床磨きは、日々欠かさず…と」
そこで走ってきた人物に言うと、外れた丸鋸を持って少女が頭を下げた。
「す、すみませんライカンさん…!」
その後ろではもう一人の少女が壁にもたれかかっていた。
「ふわぁ…ねむ…」
「エレン、勤務中ですよ。姿勢良く」
「ちぇっ…はいはい」
そこで壁にもたれかかっていたエレンは姿勢を正すと、
「ん?カリンちゃん…?」
猫又が反応をすると、カリンはその方を見て猫又達は確信した。
「カリンちゃんだ!?」
「あっ!猫又様!それに、調査員様!」
カリンはそこで猫又達を見て少し驚いた声で反応した。
「っ…なんだ、貴様らか…」
その姿を見て更にもう一人階段の上からスコープから目を離して声を漏らした。
「げぇっ!!」
その顔を見たビリーが叫んだ。
「治安局のガミガミ親父!!」
「誰がガミガミ親父だ!テメェらと同年代だろうが!!」
反射的に反応してしまったナイルは直後にハッとなってしまった。
「カリン、ナイル。面識が?」
「はい!」
「えぇ…」
ライカンもこれには少し驚いた様子で聞き、カリンは嬉しそうに、ナイルは苦そうに頷いた。