「ホロウで迷子になっていたカリンを助けてくれた方々なんです!」
バレエツインズのホールの中、カリンはそこで出会した猫又達を見てライカンにそう離した。
それを聞いて少し誇らしげに調子良く胸を張るビリー。
「えぇえぇ、あの馬鹿どもは治安局で散々問題ごとを引っ張ってくる問題児ですよ」
心底恨み節を込めて答えたナイルに今度はしおらしくなって肩を落とすビリー。
「なるほど…」
事情を知り、軽く頷いたライカンは言った。
「リナ、もういいでしょう」
「はぁ〜い」
「っ!?」
その瞬間、アンビーの耳元から囁かれ、アンビーは驚いた様子で距離をすぐにとって剣を抜いた。
「いつの間に…」
「ふふ、鋭い子ですわね。いっときはバレてしまうかと…」
「まだまだ甘ェな!」
「甘ェな!甘ェな!」
ドリシラとアステナラがそんなアンビーに言うと、ライカンの表情も少し緩んだ。
「顔見知りなのでしたら手間が省けます」
そこでライカンは自己紹介を行なった。
「申し遅れましたーー
私共は『ヴィクトリア家政』です」
その名を聞き、アンビー達は首を傾げた。
「『ヴィクトリア家政』?…聞いた事のない名前ね」
「だろうな」
そこで階段に座り込んで持っていた対物ライフルを傾けて置いたナイルが答える。
「私たちは新エリー都における少数の富める方々にお仕えしているんですもの。世間一般に知られていないのは道理ですわね」
リナがそこで説明を軽くすると、猫又が言う。
「むっ!私からビンボーだって言いたいのか?」
「実際そうだろ」
「うぐっ」
猫又はそこでて痛い言葉のボディーブローを食らうと、そこでライカンが口を開く。
「皆様、どうか従業員の失言をお許しください。ヴィクトリア家政の執行責任者、フォン・ライカンが代わってお詫び申し上げます」
そこでライカンはアンビー達に説明をする。
「私共は本日、バレエツインズのオーナー様のご指示で、設備のメンテナンスに参りました」
「バレエツインズのオーナー?」
そこで猫又は首を傾げた。
「でも、このビルを建てたバレエ兄弟って、もうとっくに破産しているはずじゃあ…」
「左様でございます」
ライカンはその疑問に頷いた上で彼等に教えた。
「仰る通り、このバレエツインズは長きに渡り抵当に入れられておりましたが…近頃、当局がラマニアンホロウの活性低下に乗じて共生ホロウの鎮圧を図っています。それが実った暁にはビルの価値が向上すると踏み、ご主人様は手付金を振り込まれました」
ライカンの場合、どんな相手でも依頼主はご主人様と言うので話の流れで誰のことを話しているのかを突き止める必要があるのがまま大変なところだと内心思いながらナイルはボルトを引いて給弾を行う。
『こうやって会うのは久しぶりだね』
「あぁ、そうだな」
そしてそこでボンプと軽くハイタッチした。これを動かしているのはリンだとすぐに分かった。
「なあ、マジで治安局をやめたんだな」
「ああ、ニコから聞いたんだろう?」
ビリーは治安局の制服を着ていないナイルを見てやや驚いていた。
「やぁ〜、ビックリしたぜ」
ビリーはそう言って驚いていると、そこでナイルは聞いた。
「所でだが…あの子は邪兎屋なのか?」
そう言って指差したのはライカン達と話している猫又だった。
『うん、この前邪兎屋のメンバーになったんだよ!』
「そうだったのか…」
あの邪兎屋に新メンバーが入るのかとやや驚きながら持っていた羊羹を手に取る。
「んで、今日ここに来たのはなんでだ?」
『あっ、それはね…』
ナイルの疑問にリンが答えようとした時、
「ふぇぇぇっ?!み、皆様は、調査員様じゃなかったんですか…!?」
驚いた声を出すカリンの声で会話が引き裂かれた。
「あぁ…」
『(やっぱり、カリンさん以外は気づいていたんだね)』
どうかその純粋な考えのまま生きてくれと思いながらナイルはボンプに話しかけた。
「安心しな。この人たちはそう言う点を弁えているよ」
『…』
治安官の人が言うんだし…と言うより、元治安官の人がこんな場所にいるのだから説得力があるようなないような…。
「胸の内を明かしてくださったのなら、この場を訪ねてくださった「お客様」として私共も可能な限りご協力いたします」
ライカンもそう言ったのでリンはそこで自分がプロキシであることや、ここに来た理由を離した。
『実は、私が「パエトーン」なんだけど。このビルに友人がいるらしいんだ。それで探しに来たの』
事情を知ったナイルとライカンはそれぞれ軽く頷いた。
「なるほど…」
「なんと…あなた様が、かの伝説のプロキシ…「パエトーン」だったとは。ここへは、失踪されたご友人を探しにいらしたのですね」
パエトーンの名を聞き、ライカンは軽く驚いた様子を浮かべた。
「ナイルさん、ライカンさん。仕事中に見かけなかった?」
「いましたかね?」
「いえ、我々が探索した範囲にそのような人影は見当たりませんでした…」
二人は見ていないと言って首を横に降った後に手に持っていたキャロットを手に取る。
「すまんね。生憎、こっちのキャロットも情報が古くていまいち信用に欠けるんだ」
ナイルはそう言って軽くボンプの頭を叩いた。
するとボンプにアキラの声が割り込んだ。
『リン、急に割り込んですまない。実はニコの方ですこし面倒なことになって…』
するとアキラはざっと今起こった問題を話す。
『実はヘリポートに着いた中から連絡があったのだけれど…裁判の出廷に邪兎屋全員で出廷すると書いてしまっていたらしく、ビリーたちも来るように言われているんだそうだ』
「…アイツ」
呆れて目も当てられないような様子で顔に手をやるナイル。
「ってことは、俺らも飛行船に乗んなきゃならねぇのか!?でもよ、そしたら店長の人探しはどうなっちまうんだ?」
そんなビリーにナイルが提案した。
「それは、俺等の方でやっておこうか?」
「そうですね」
その提案にライカンも頷く。
「我々はキャロットのデータが古くて難儀している。あなた様は人探しをしておられます。ここは互いに力を合わせましょう」
『そっか…じゃあ、お願いしてもいいかな?』
「恐れ入ります。あなた様のご協力があれば、我々ヴィクトリア家政も順調に業務が遂行できるでしょう」
「おまけに伝説のプロキシ「パエトーン」だ。縁があると聞いたら喜びそうだ」
ナイルは軽く笑うと、そこでライカンの提案で一旦ビルを出ることにした。
「急げ急げ!」
「まっ、待って!!」
「急がないと」
そしてホロウを出た瞬間、ビリー達は借金取りから逃げるときのような勢いで飛ぶように走り出していくと、それを見送るリンとナイル達は苦笑していた。
「こんな時にポカをやらかすのか…」
『まぁニコらしく無い?』
「それはそうだが…」
治安局に指名手配犯を連れ込んで逮捕料をもぎ取ったり、ある時は治安局に逃げ込んできたと思えば、バッチリ違法な借金取り達に追われていると言って追っかけたきた奴らと署の目の前で銃撃戦を始めたり、ある時は街のど真ん中で御禁制品の運送中に襲撃を受けてギャング達から逃げ惑ったりと、迷惑ばかりかけてきた印象しかない邪兎屋。
「後でニコの借金徴収してやろうかな…」
『えっ!?ニコってナイルさんからも借りてたの!?』
「ああ、借用書もちゃんとあるぞ」
まさかの相手から借りていた事実にリンも流石に驚いていた。
『ナイルさんに言っておきたいんだけどさ…』
「ん?どうした」
するとリンはナイルの肩に乗せてもらって、そこで彼の耳元で囁いた。
『実は探している子って、レインって言うハッカーなんだよね』
「…」
なるほど、つまり何かしら依頼されたと言う事だろう。
そのように推測したナイルはリンの話を聞く。
『だから、私たちはその子を見つけたらすぐ帰ろうと思っているんだけど…』
「ああ、好きにしてくれ」
詳しい話を聞かずにすぐに頷いてくれたナイルにリンは感謝をすると、今からこっちか来ると言う事を聞いて一旦通信が切れた。
「ライカンさん。今からパエトーンが来るそうです」
「分かりました。ではそれまでは小休止としましょう」
そこでライカンは一時解散と伝えて休憩をさせる。
「ライカンさん、ちょっと一ついいですか?」
「なんでしょうか?」
そこでナイルはライカンと共に対岸に見える共生ホロウを眺める。
「バレエツインズに失踪したと言うパエトーンの友人ですか…」
「えぇ、あそこは迷路のように入り組んだ構造をしており、裂け目も多い。隠れるのにはうってつけでしょう」
「…どう攻略したものですかね」
ワニと狼のシリオンが並んで立っていると言うなかなか珍しい様、二人は反対の共生ホロウをみる。
「…あれか」
共生ホロウの上の方に突き出たように見える角のある建物。バレエツインズだ。
「ご友人が失踪なされたと言うことは…」
「あそこにいる可能性もありますね」
共生ホロウが縮んだ事で現れたバレエツインズの一部。ホロウが綺麗な球体をしているが故の特別な現象だ。
「…だとすると、探索には時間を要す可能性もありますね」
「そこは大丈夫だと思いますよ」
確信した様子で答えたナイルにライカンはそれほどの自信があるのかとやや驚いた。
「パエトーン様のことをご存知で?」
「えぇ、前…緊急で出かけたことがあったでしょう?その時にね」
「…なるほど」
そこでライカンは軽く頷いた様子で相槌を打つと、ナイルは言う。
「あの御仁の能力は素晴らしいですね。ホロウの中で道に迷わずに出られましたよ」
「噂に聞くままの能力というわけですか…」
「あと顔を見たら驚くと思いますよ」
そう言ったナイルの余裕の笑みにライカンも軽く笑う。
「…ほう?それは楽しみです」
一体どんな驚きなのかと思いながらライカンはその時を待った。
「あの…ライカンさん、ですよね?」
そして少し待っていると、自分に話しかけてきた女性を見た。
「ふむ?不躾な質問をお許しください。…もしやあなた様は、プロキシ「パエトーン」様であらせますでしょうか?」
「うん、お会いできて光栄だよ」
そう頷いたリンに、ライカンは内心でなるほどと頷きながら同時に彼の読み通りに驚いてしまった。