ホラー映画にもなったと言うことで採用しました。
ナイル・グスタブは治安局に狙撃手として勤めていた男だった。
ホロウ調査員の両親を持ち、幼い頃から他を圧倒するエーテル適性を持っており、二ヶ月ホロウの中に潜んでも問題ないほどのエーテル適性があった。
しかし、彼の上官との意見の食い違いから彼は治安局員の職を辞し、今はボディーガード兼執事の仕事を請け負っていた。
そして彼は上司であるフォン・ライカンに呼び出しを受けていた。
「うわぁ、よく見つけられましたね。こんな旧時代の武器」
目の前に置かれたとても長い銃身を持った銃を見て驚いていると、ライカンは当然のように頷いた。
「私はナイルの腕を高く買っております。故に、満足させる武器を整えるのは至極真っ当な事です」
彼を直接スカウトした身としてはナイルの潜在的な能力の高さに舌を巻いていた。
その後、ホロウの中でナイルは横にいる青灰色のボンプ。自分の狙撃の観測や自身の補助を行うカニングと名付けたボンプと共に居た。
「……」
双眼鏡を除くカニングはそこで近づいてくるある集団を見つけると、横で銃を構えるナイルの肩を軽く突いた。
「ああ、ちゃんと捉えている」
そしてスコープでその集団を確認していたナイルは持っていた
ドォンッ!!
引き金を引いて放たれた14.5mmの弾丸はまっすぐエーテリアスの集団の一番大きな的のコアに命中すると一撃で爆散していた。
「おぉ……これなら」
「まだ次が来ます!!」
カニングが言うと、ナイルはレバーを引いて薬室に次の弾薬を装填すると引き金を再び引き。今度は三体を同時に破砕した。
「予備は要らなかったかもな」
念の為、バックパックにMRADを仕込んでいたのだが。この様子では圧倒的だった。
狙撃を行い、エーテリアスの集団に向かって特製のエーテル封入弾が命中すると榴弾の如く弾け。一度に数体のエーテリアスを撃破していた。
「す、すごいです。ナイルさん!こんな距離からあんなにいっぱいエーテリアスを撃破して……」
そんな彼を見て後ろにいた長柄の丸ノコを持ったくすんだ緑色の髪を持った少女、カリン・ウィクスが話しかける。
「いえいえ、あなた方の前衛がなければ。狙撃手は活躍できませんよ」
「そんな、謙遜を……」
今回の狙撃のバックアップ要員としてナイルの護衛をしていた彼女は少しだけ嬉しそうにしていた。
「とりあえず試射は終わりました。すぐにでも撤収しましょう」
「はい。ナイルさん」
背中に自分の身長よりも圧倒的に大きい狙撃銃を背負いながらカリンを見ていた。
共生ホロウから帰還し、ヴィクトリア家政の拠点に戻ったナイルとカリン。そこでナイルは受け取った対物ライフルを作業台に置くとライカンが顔を覗かせた。
「いかがでしたか?ナイル」
「ええ、十分な威力でしたよ」
「はい!一撃で数匹のエーテリアスを倒していました!」
カリンが軽く驚いたように当時の状況を鮮明に語ると、ライカンはそれに感謝しながらナイルに聞いた。
「他に必要な改修などはございますでしょうか?」
「いや、十分だ。自分でやれる」
「左様でございましたか」
ライカンは満足な様子のナイルに安堵すると共に、次の仕事を言い渡す。
「ナイル、この後に一件。仕事をお任せしても宜しいでしょうか?」
「ええ、構いません」
早朝に出勤させ、銃器の確認を行った後に酷かもしれないがなどと考えながらもナイルの研修も兼ねていた。
濃紺のチェスターコートに、同様の中折れ帽。白いシャツに紺色下地に水色と黄色の右上がりのレジメンタルタイ。俗に言う欧州式のストライプネクタイを付けていた。
ネクタイの柄だけで上流層に於ける自身の過去の所属を示す習慣だ。そしてこの柄は治安局出身を示していた。
「仕事はどの様なものでしょう?」
治安局を辞した情報を知り、ライカン達は彼を引き抜きに来て数ヶ月。執事としての作法や、家事代行サービスと言う本業の訓練も行って漸く仕事をこなせる様になっていた。
「ええ、ご主人様からのご依頼で。とある重要な物資の動向を把握せよとの事です」
「物資…ですか……」
何とも不思議な任務だと思いながらライカンの話を続いて聞いていた。
「ええ、研究所にとって重要なものであると、ご主人様は申し上げておりました」
なるほど、学業もなく時間に自由な自分にはうってつけと言うわけか……あの鮫肌学生メイド達には無理だな。
「奪還では無いのですか?」
「えぇ、あくまでも観察で済ませるようお申し付けなされました」
つまり依頼主から盗まれたものでは無いのかと推測しながらナイルは了承すると次にライカンは付け加えた。
「あとそれから、その物資の所在地は大まかな部分でしか分からなかったとの事です」
「……」
それはつまり、おおまかな場所から特定のブツを自力で探して監視しろと言う事だった。
ナイルに与えられた仕事は実に多忙だった。
依頼主から渡されたそのブツが入っていると言う小型金庫の写真を元にその金庫があると言われている赤牙組のアジトに侵入する必要があった。
場所は十四分街のとある建設中のビル。絶賛共生ホロウが発生したせいで住民の避難が始まっていた。
「全く……」
どうしてギャングのアジトに侵入する必要があるのかと愚痴りたかったが、無駄な戦闘を避ける為に少々問題を起こした。
カチッ…バシューッ!!
「な、何だ!?」
「おい!換気口見てこい!!」
「くそっ、何が起こってんだよ」
部屋に吹き出るように充満する白煙に部屋にいた構成員達は確認の為に慌てて出ていく。
そして空っぽになった部屋に上のダクトからナイルは降りると、机の上に置かれていた小型金庫を見て、発信機を取り付ける。
さっきの発煙装置然り、この発信機然り、経費で落ちるのだからありがたい。
「動向を探れ、ねぇ……」
観察するだけの任務とは不思議だと思いながら金庫の目に付かない底面に発信機を付け、仕事を終えて部屋を後にすると、ちょうどその時部屋に誰かが入ってきた。
「もぅー、何なのよこの煙!」
文句を漏らしながら部屋に入ってきた女性の高らかな声。すると別の声が聞こえた。
「無害なただの白煙……」
「けどよぉ、おかげで人がいないから助かったぜぇ」
最初のとは違う落ち着いた様子の女性の声と、聞くからに調子が良さげな雰囲気の男の声。ん?どっかで聞いたことがある気がするぞ。
「そうね、ちゃっちゃと金庫持っていっておさらばしましょう!」
軽い調子で最初に入ってきた女性が卓上に置かれた小型金庫を両手に抱えると、誰かが大声を上げた。
「あっ!?テメェ!!」
「「ゲッ!!」」
戻ってきたら赤牙組の男が金庫を抱える三人を見て叫ぶと、三人は慌てて逃げ始める。
「てやぁっ!!」
「あうんっ!!」
先頭に居た男が膝蹴りを喰らって吹っ飛ぶと赤牙組の集団を縫ってビルを降り始めた。
「追え追え!!」
「逃すなぁっ!!」
そしてドタドタと武器を持って出ていく赤牙組、外で車のスキール音をけたたましく鳴らしていったところでナイルは軽く唖然となった様子でいまさっき逃げ出した集団の乗る車を見た。
「あらまぁ……」
何てこったい\( ˆoˆ )/目標の金庫を狙ってたやつがいたよ。
「……追いかけるかぁ」
予想外にややこしくなりそうな予感がしたが、ナイルは仕事に従って優雅にビルから出て車を回していた。
その後、金庫の見えない部分に貼り付けた発信機を元に車を回していたナイルは同じ十四分街の高層ビルを見てスコープを構える。
周囲には治安局の攻撃ヘリコプターが多数飛行し、いつでも攻撃可能なフル装備だった。
狙撃では無いのでスコープを使っての観察だったが、暗いビルの一室に追い詰められている三人を見つけた。
「……まーじか」
どこかで聞き覚えがある声だと思っていたが、その姿を見てピンと来た。
「よりにもよって『邪兎屋』かよ……」
先ほど金庫を盗んだ三人組は、治安局の
かの何でも屋は何か仕事があると必ず治安局に通報が来るお騒がせ屋で、何度か出動させられた事もある中々に因縁のある集団だった。
あのビデオ屋で出会して叱りつけたこともあった奴らだ。
逮捕?あんな邪兎屋よりよっぽどヤバい奴らばっかのこの街で?
奴等は偶に賞金目当てに指名手配犯を引っ提げて治安局分署にやってくるので多少の事は目を瞑っている状況だ。
「あ、頭が痛い……!!」
途端に頭痛がしてくる気がしたナイルだが、仕事なので彼等のボスであるニコ・デマラの抱える金庫を見ていると突如部屋に一瞬閃光が走った。
「おぉ…なるほどね」
どうやら邪兎屋の依頼主は治安局側の人間らしい。事実、閃光に気付いた治安局の攻撃ヘリがニコ達のいる部屋をライトで照射していた。
そしてそれは、盗聴した警察無線からも聞こえた。
『長官、こちらフクロウ4。正体不明の発光地点に到着しました。赤牙組を発見ーー
繰り返す、赤牙組を発見。指示をお願いします』
これで万事休すかと思った矢先、
『なに?赤牙組の○○を発見した?』
……あり?様子が変だぞ?
『何○○○○しているんだ長官!最大口径のやつを選べ!正・義・実・行だぁぁぁ!!』
「あ、やっば……」
『フクロウ4、攻撃命令を確認』
その瞬間、攻撃ヘリコプターから発射された一発のミサイルがビルに着弾すると盛大に爆発を起こした。よりにもよって炸薬の多い空対地ミサイル使いやがった。
「あーらら」
爆炎を上げながら落下して行く邪兎屋のビリーとアンビー、そして金庫を見た。
「マジかよ……」
三つの落ちる先にあるのは黒い円形のホロウ。重力に引かれて落下した金庫を見てナイルはライカンに緊急で無線で連絡する。
「ライカンさん、聞こえますか?」
『ええ、何か問題でもありましたでしょうか?』
「対象の金庫がホロウ内に落下しました」
『なるほど……』
金庫がホロウに落下したと聞き、ライカンは暫し考える。
『発信機は今も有効ですので。キャロットを配布します』
「つまり追えと……?」
『ご主人様のご依頼は対象の監視、エーテルに高い適性のあるナイルに不足はないかと』
「…はいはい、了解しましたよ」
諦めのため息を吐きながらナイルはホロウに入る準備を整え始めた。
歴代のイギリス首相を見ると、ほとんどの男性が紺色スーツに水色ネクタイをしていることを知った時の驚き。