狙撃手ギュスターブ   作:Aa_おにぎり

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Fifth shot

その日、出勤したナイルはヴィクトリア家政の作業台の上で自身の銃の整備を行なっていた。

 

「しかし、ナイルの銃の知識には感服しますな」

「いやいや、自分の場合はオタクを拗らせただけですよ」

 

銃を分解して手入れしているところをライカンに話しかけられ、そこから話が軽く盛り上がっていた。

 

「元々こう言う銃は趣味だったんですが。治安局で押収した武器を見る機会が多く、そこでね」

「ほほぅ、押収した武器ですか…」

「まぁ、質の低いジャンク品みたいなものばかりでしたがね」

 

そんな治安局の時の話を軽くしていると、後ろでカリン達女性陣が二人を見ていたが、ライカンの異変に気づいていた。

 

「何だかライカンさん、すごく嬉しそうです」

「ええ、おそらく。仕事仲間に男性がいるからでしょう」

 

カリンの問いにリナはそんな予測を立てていた。

 

今までのヴィクトリア家政は男一女三のズレた比率であり、女も三人寄れば姦しい状態だった。そこにナイルと言う男が加わった事で精神的な余裕が生まれたのだろう。

 

「それにナイルさんは話しかけても臆する事なく答えてくれます」

 

仕事仲間として、同業者の同性として、同じシリオンとして、色々と共通点を持つライカンはナイルによく話しかけていた。

 

「ハンマーは大きいのですね」

「その方が手を引っ掛けやすいんです。こんな感じで」

 

そこで彼はハンマーを手を引きながらカチカチと音を立てて回転するリボルバーを見せるとライカンは納得していた

 

「おぉ、流石は早撃ち記録保持者ですね」

「はははっ、お恥ずかしい話だ」

 

そんな男の談義に盛り上がっているとカリンはリナに聞いていた。

 

「リナさん、ナイルさんって治安局ではどの様なお仕事をしていたのでしょうか?」

 

治安局を辞めたと言う話は聞いているが、詳しい話を聞かされていなかったので疑問に思っていると、リナは丁寧に教えてくれた。

 

「そうですね、ナイルさんは治安局でも一番な腕前を持つ狙撃手でした」

「狙撃手……」

「ええ、中でも特務捜査班と呼ばれるホロウに関連した事件を担当する場所に配属されていました」

 

そこでリナはそこで起こったある問題を軽く説明した。

 

「でもある日、彼は上官と意見の食い違いで署内で大喧嘩したそうで。その後、彼は治安局を辞めてしまったそうです」

「大喧嘩……」

「窓からパソコンが飛び出すほど、激しい喧嘩だったそうです」

「えぇっ!?」

 

思っていたよりも派手な喧嘩に驚いていると、リナは軽く頷いた。

 

「それでその大喧嘩の責任を取らされて、職を辞した後。ライカンさんがスカウトした次第ですわ」

 

そんな経緯を知ったカリンは驚きつつも納得した表情で彼がここまでくる経緯を知った。

 

「そんな過去があっただなんて……」

「ナイルさんは新エリー都でも卓越した銃の能力があります。治安局の射撃大会では殿堂入りしたそうですわ」

 

そのあまりにも高い狙撃能力から防衛軍やホロウ六課からも一目を置かれ、治安局の狙撃班の育成にも一躍を買ったと言う。

 

「凄い、殿堂入りだなんて……」

 

カリンはそんな経歴を持つナイルに関心しながら、ライカンと楽しんでいる二人を見ていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ヴィクトリア家政に再就職して一番苦労したのは作法や話し方に関する細々とした取り決めだ。

家事代行の派遣会社をしているが故に顧客の大半はやんごとなきお方ばかり。正直気疲れの方が強くなる。

 

そして、裏方の仕事を行う上で幾つかの仕事に慣れる為に職業訓練を積む必要があった。意外とこれが一番きつかったかもしれない。

 

「お待たせ致しました。ラスト・ワードでございます」

 

そして彼は自ら作ったカクテルの入れたグラスを差し出すと、反対の席に座るお客に出した。

店には普通の客もおり、給仕が床をモップで拭いていた。

 

「いや、それは私は頼んで無…」

「そしてご注文されたマリネです」

 

そして黒皿に乗ったマリネのソースで描かれた文字を見て軽く目を見開くと、こっそりと後ろを見た。そして急停車した車を見た。

 

「っ!?」

 

ソースに書かれた文字は後ろを示しており、店の隅で隠れるように待っていたその男は再びバーテンダーを見返すと彼は酒瓶を取り出しながら言った。

 

「今回はコチラのジンを使わせていただきました」

 

酒瓶のラベルには『Exit』のサインと矢印が記され、男はすぐ横のカウンターに入ると去り際にナイルは一言。

 

「四十秒でご支度下さい。お客様」

 

そこで男は頷くとそのまま店の奥に消えて行き、その直後にバーに大勢の人が駆け込んできた。

 

「急げ!まだ近くにいるはずだ」

「探せ!」

 

ナイフや拳銃片手に突入して来たゴロツキ達。そんな彼等に驚き困惑し、逃げ始める店の客。

 

「っ!居たぞ!!」

 

そして一瞬見えた男を見つけて後を追おうとカウンターを登った時、

 

「待てっ」

 

関係者用出入り口を塞ぐように立つ一人のシリオンのバーテンダーはグラスを拭きながら一言。

 

「お客様、店内ではお静かに願います」

「あぁ?」

 

空気感がズレている口調に彼等は訝しむ。

 

「ちっ、時間の無駄だ。やっちまえ!」

 

数人のゴロツキ達がナイルに近づこうとした時、

 

「やれやれ…」

「うらぁっ!!」

「マナーを守らないお客様は…」

 

そしてナイフを突き出した瞬間、

 

「どうぞ、お帰りください」

 

そして持っていたグラスを投げ付けると、先頭に出たゴロツキの額に命中し、粉々にガラスが砕ける。

そして仰け反りながら気絶し、皆が唖然となる中でナイルは持っていた拳銃を少し体を後ろに逸らしながら抜き、引き金を連射した。

 

「ぐあっ!?」

「ぬおっ!」

 

そして一発の銃声で二人が倒れると、店に襲って来たゴロツキは驚いた。

 

「嘘だろ?!」

 

彼の早撃ちが早すぎて一発の銃声にしか聞こえなかったのだ。そして三人が一瞬でやられた事に注意が行った時、

 

「…まだ耳鳴りがする」

「うわっ!?」

 

彼等の背中からエレンが強襲して来た。給仕に化けていたので、彼等も疎かになっていたのだ。

 

「くそっ!」

 

そこで男は拳銃を引こうとしたが、

 

ドォンッ!!「グハッ…」

 

そしてそのまま白目を剥いて倒れると、その後ろでナイルは片手に改造を施したレバーアクション小銃を構えていた。

 

「ひぃっ!!」

 

カウンターの下に隠していた古めかしい彫刻の施された小銃から放たれるゴム弾はゴロツキを一発で倒すとナイルとエレンに挟撃された店内で一方的に蹂躙されていた。

 

「ふぅ…眠い…」

「これで俺達の用事は終わり、送る間は寝ていればいい」

 

そして一通り倒した二人はゴロツキの状態を確認していると、店のテーブルに座りながら外を眺めていた。

 

時刻は深夜、女子高生の彼女からすれば家に帰らなければならないような時間だ。

 

「店で撃って耳鳴りがしたから何か奢って」

「嘘だろそんな理由で?」

 

ボロボロになったバーを後にしながらエレンは年上の後輩に言う。

 

「先輩命令」

「全く、俺はパシリか何かかよ」

 

エレンと撤収しながら軽く携帯を触る。逃し屋としての仕事は一旦終結したので二人は車に乗り込んだ。

 

「一応俺も正社員なんだけどなぁ」

 

そう言い、車を乗り込むとエレンは助手席でリクライニングを最大、足をダッシュボードに乗せながら言った。

 

「私の真似をしたくせに」

「オマージュだよ。或いはリスペクト」

 

いつもは紳士っぽくしようと心掛けているが、気を許すと直ぐに言葉が崩れていた。特にエレンの前ではいつもこんな感じになってしまう。

そして時たま仕事と私生活がごっちゃになって終いにはリン達から口調が変と言われてしまっていた。

 

「……鰐皮バッグ」

「何だいフカヒレ?」

 

そんな学生の様な罵り合いをしながら車を回そうとした時、二人の骨伝導インカムに連絡が入った。

そしてその通信を聞いて軽く悪態を吐いた。

 

「……ちっ、あの馬鹿ども。まだいるのかよ」

「出して」

「分かっていますとも、()()

 

エンジンをかけてアクセルを踏むと二人の乗っていたSUVは勢いよく走り出した。

 

 

 

 

 

その頃、国道を走る一台の黒いSUVと、それを追いかける白いバンが三台。

 

「意外と敵が多いですわね」

「エレン達が取り逃した訳ではなさそうですが……」

「では別働隊でしょうか?」

 

バックミラーを見ながらライカンとリナはそんなことを話していると、後ろの座席に座る今回の依頼人がビクビクした様子で聞いてくる。

 

「おい、本当に大丈夫なんだろうな……!?」

 

大枚叩いて逃してもらったんだから仕事してくれやと言った具合で怯えている依頼主にリナがニコリと笑みを浮かべた。

 

「ご安心下さい。ご主人様」

 

すると近いたバンのスライドドアが開くと中から銃で武装した襲撃者達が発砲して来た。

 

「う、撃って来ました!!」

 

閃光を見てカリンが驚き、そして数発が後ろの窓ガラスに当たるも、防弾仕様で弾いていた。

 

「エレン達は?」

「一本横の道を走っております。あと数分で到着するかと」

 

リナはそう答えると、カリンが聞いた。

 

「は、反撃しなくて良いんでしょうか?」

「構いません。と言うより、今回は顔を出さない方が安全かも知れません」

「え?」

 

するとその時、最後尾を走っていたバンが横から飛び出して来たライカンと同型のSUVに弾き飛ばされた。

 

「もう来ましたか…」

 

いきなり飛び出して来たSUVに襲撃者達は慌てる。

 

「撃て撃て!」

「近づかせるな!」

 

自動小銃で撃ちながら接近してくるSUVの窓から拳銃を取り出したナイルは引き金を引いてバンのリアガラスに命中するが、コチラも防弾仕様だった。

 

「ちっ、防弾仕様かよ」

 

生意気な、と軽く悪態を吐くとエレンが聞く。

 

「タイヤは?」

「バーストしてボカンってか?出来たら苦労しねぇよ。最近のタイヤは優秀なんだ。やりたいなら対物ライフルか擲弾でも持ってこないとな」

 

映画みたいな展開を予想するエレンに現実を突きつけると、彼はドアから別の銃を取り出した。

 

「え?何それ」

 

それはナイルの持っているMRADだが、銃口には羽のある何かが付いていた。少なくともエレンはそれを初めて目にした。

 

「俺の改造したMRAD。ライフルグレネード型閃光弾付き」

 

それを窓から出すとナイルは忠告する。

 

「結構強めだ。目ぇ、潰すなよ!」

 

そして発射された閃光弾は残ったバンの前に飛んでいくと、そこで目をくらます程の閃光と爆発音が走った。

 

「うわぁっ!?」

 

一瞬視界を奪われたバンの運転手は思わず急ブレーキをかけてしまった。

 

「ふっ!!」

 

そしてその隙に飛んだエレンは大鋏を一台のバンのエンジンに突き刺して破壊すると、残った一台は接近したナイルが横から拳銃弾を叩き込んでいた。そしてエレンは再び横につけていた車に飛び戻る。

 

一瞬の出来事だったが、これで最後の車が片付いたはずだ。

 

 

 

 

 

そして道路に止まるバンを見ながら今日の仕事も無事に終えるのだった。




ゴム弾って本当に至近距離じゃ無いとあまり効果が無いらしいですね。
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