狙撃手ギュスターブ   作:Aa_おにぎり

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Eighth shot

世界最長の狙撃距離は3800m、ほぼ四キロの距離をかつての旧文明の人間は撃ち抜いた。

 

今の滅びかけのこの世界で、新エリー都は最後の都市としての機能を果たしている。

 

ただその裏で、多くの思惑や欲望が交差する場所でも有り。企業が幅を利かせていた。

 

ただ表のすぐ横の道を歩くとならず者達が息を潜めて待ち構えており、すぐ横に死が寝ているも同様の世界だった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ある場所で絶えずサイレンが鳴り響く中、深夜の新エリー都のとあるビル。

商業ビルの従業員用エレベーターにシリオンの清掃員が清掃機械を両手で押しながら乗り込む。そして一番上のボタンを押すと、そのまま一気に登り始めた。

 

そしてエレベーターはついに最上階まで登り終えると、そこで清掃道具の蓋を開けて中からボストンバックを取り出すと、ついでに中からボンプも顔を覗かせた。そしてそのままシリオンはボンプと共に非常階段に出た。

 

「……」

 

外を出た瞬間に感じる強いビル風を感じながら階段を登ると、ライトを片手に屋上のヘリポートに立った。

 

「やれやれ、思ったよりも風が強いな……」

「しかし気圧は安定しているので。まもなく風は収まると思います」

 

そこでカニングが言うと、持っていたライトを消して帽子を取ったナイルは軽く息を吐いた。

 

「さて、仕事を始めよう」

「はい!」

 

そしてボストンバックから分解された銃身や銃の機関部を取り出すと組み立てる。

MRADの特徴である、銃身とボルトの容易な変換。ネジ二本を緩めただけで分解が可能であり、特殊な工具も必要としない。

 

そして一番長い特注の銃身を選択し、レシーバーに差し込むとネジを締める。

ストックを展開し、前方の二脚も出して地面に置くと上部のピカティニー・レールにスコープを取り付ける。

 

そしてチークパッドにクッションを敷くとうつ伏せになってスコープを覗いた。

横ではカニングが双眼鏡片手に目標の姿を探しており、軽く測距をしていた。

 

「目標発見、距離約450m。風無し」

「事前の情報通りだな」

 

今日はとある友人からの、私的な依頼で彼はビルを訪れていた。ライカン達にも事情を説明しており、納得してくれていた。

スコープに映る一人の女に照準を合わせながらナイルは倍率を合わせると、弾倉に入る弾頭の赤い7.62×51mm弾を確認した後に軽く叩いて装填するとボルトを引いた。

弾倉から薬室に弾薬が送られ、少し息を整えるとナイルは引き金を引く。

 

ドンッ--!!

 

ここは高層ビルの屋上、余人に銃声を聞かれる事はないのでナイルはスコープ越しに結果を見ていた。

 

 

 

 

 

「こちらが、今回のアガリです」

「ふーん……」

 

化粧用の手鏡と共に書類を見ながらその女性は部下から上がってくる報告書を読む。

読んでいるのは今回の麻薬取引の売り上げや集積した場所を記した書類だった。

 

「随分とバラけているのね」

「ええ、なにせ最近は治安局の取り締まりが厳しく。こうするしか……」

 

複数に分散した麻薬の集積地をまとめた資料を見ていると、その女性は手鏡をしまって立ち上がった時、

 

ピキッ

 

窓に穴が空き、机に穴が穿ち。それに驚いた瞬間、

 

チュンッ!!

 

窓ガラスに二つ目の穴が空き、女性の背中に銃弾が命中した。

 

「っ!?」

 

それを見ていた部下の男は驚くと撃たれた女性はそのまま地面に倒れ、背中から血を流してした。

 

「狙撃っ!?」チュンッチュンッ!「ヒィッ!」

 

そこで近づこうとした所をさらに二発の銃弾が目の前を掠め、部下の男は愚痴った。

 

「くそっ、消された!」

 

狙撃された女性を見ながら慌てて部屋を後にし、足音が消えると狙撃された女性は徐に立ち上がると卓上に置いてあった書類を回収して窓を開けた。そして高層ビルの屋上を見ながら一言、

 

「腕は落ちていない様ね。ナイル」

 

 

 

 

 

そして一連の動きを見ていたナイルは狙撃した女性を見ながら一言、

 

「だからって態々俺を呼ばなくたって良いだろう……ジェーンよぉ」

 

スコープと銃身を外し、バックに銃をしまうとカニングと共にヘリポートを後にする。

 

清掃機械にポンプと鞄を隠し、従業員用エレベーターで下の駐車場まで降りて自分のピックアップトラックに乗り込んだ時。駐車場に数台の車が滑り込む様に入ってきて慌てた様子で集団が降りてきた。

 

「急げ!」

「まだ中にいるはずだ!」

「あの部屋を狙撃できるのはこのビルしか無い!」

 

そして全員が降りて行くのを見送り、清掃員の服を脱ぎ捨てるとエンジンを掛けた。

 

「さて、帰るぞ」

「はーい」

 

そこでシフトを入れてアクセルを踏むと悠々とナイル達は帰還していた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ナイルは治安局時代の同僚達の連絡先を消した訳ではない。

今やっている仕事はホロウレイダーのような適当な物漁りでもなく、顧客は上流階級や政治家の者達。犯罪を犯していると言っても、相手が相手なだけに治安局も強く出れない。

 

ただ一つ心配なのは今やっている事が朱鳶や青衣にバレる事だ。正義感が強い二人は上に容赦なく噛み付いていくからな。おまけに二人は治安局の中でも顔が広いので悪事がバレると色々と面倒なのだ。

 

無論、ライカンがそのような事を知らないはずも無い。故に自分を治安局から引き抜くと言うリスクを鑑みても得たい何かがあったのだろうと勝手に推察していた。

 

「おはようございます」

「ええ、おはようございます」

 

出勤し、今ではすっかり定着した黒に近い濃紺のジャケットとウエストコートに真っ白な無地のシャツにレジメンタルタイ。胸にはホワイトチーフを挿し、足は磨かれた革靴を着用し、伝統的なコーデを採用した彼のタキシードはヴィクトリア家政の中でも市井にも溶け込みやすい服装だった。

 

「すっかり馴染みましたね。その服装も」

「ええ、何ヶ月も同じ服を着ていれば。誰だって慣れる物です」

 

高級テーラーで仕立てた防刃・防弾の機能を兼ね備えたこのスーツをナイルは十着ほど、別柄も含めて所有していた。

これらは高給取りなヴィクトリア家政故に揃えられたと言っても過言ではなかった。

 

ただ一つ恐ろしいのが、これにかかった費用を全て使ってもリナの戦闘服も兼ね備えたメイド服一着に届く程度と言う事。

 

「今日のお客様は?」

「ナイルさんにはボディーガードを行ってもらいます」

 

そこで彼女から社用車である改造SUVでは無く、別の車の鍵が手渡された。

 

「今日の午後、私立高校よりとあるお嬢様を私と共にお出迎えいたします」

「了解しました」

「いつもはライカンのお仕事なのですが、生憎と今日は用事で居りませんので」

 

基本的にヴィクトリア家政で免許を持っているのはリナとライカンとナイルの三人だ。未成年のエレンやカリンはまだ免許を持っていないので必然的に三人の誰かが運転を担当することになる。

 

「そろそろ時間ですし、行きますか?」

「ええ、お嬢様をお待たせする訳にも参りませんので」

 

時計を確認した二人は車に向かうと、そこには一台のSUVタイプのショーファーカーが置かれていた。

 

「さて、うまく運転できるかな?」

「あら、ちゃんと訓練もしたではありませんか」

 

白いドレスグローブをしながらナイルは運転席のドアを開けると、リナはそんな彼に少し微笑ましげに軽く背中を押す。

 

「何事も実践に勝る経験無しってね」

 

そして運転席に座ると、エンジンを始動させてクラッチを動かす。内燃機関特有のエンジン音が響き、補助的にナビが置かれていた。

 

全て古臭いアナログ形式なのは敵からのEMP攻撃があっても問題なく動かせるようにする為。ご依頼主を守るため、社用のSUVに比べて何倍もの…それこそキャデラック・ワン*1と同等の防護性能を有したショーファーカーだった。

 

「さて、行きます」

 

拠点のシャッターを開けて車を回すと今日の依頼の為に目的地へと向かった。

 

 

 

 

 

「ナイルさん」

「何でしょう?」

 

移動途中、信号待ちをしていたナイルはふとリナに話しかけられた。

 

「昨晩は先に早上がりしておりましたが、何かあったのでしょうか?」

「あぁ…治安官時代の古い友人に頼まれごとをされましてね」

 

昨晩はライカンにお願いして仕事先の屋敷から早上がりさせて貰って件の仕事を済ませていた。

 

「なるほど、ご友人でしたか」

「すみません。何せ滅多に特務捜査班でも顔を出さない人でしたので」

 

あの人の場合は仕事柄、同じ治安官でも顔を覚えられる訳にはいかないので滅多に顔を出さない。同じ班の人間でも彼女を知らないと言う人もいるくらいだった。

自分の場合は、朱鳶に言われて彼女に使いまわされていた側の人間なので知らないわけがなく、偶に腹を立てるくらいだった。

 

「あら、特務捜査班にはそのような人がいるのですね」

「まぁ、治安局の中でもグレーなことやってる人間ですからね」

 

そこで軽く苦笑するナイルは、運転席に置いてあったある箱を取り出す。

 

「あら、それは……」

 

細長い紙箱に入れられたその中身を見てリナは軽く首を傾げた。

 

「羊羹ですか?」

 

中に入っていたのは小豆色の細長いお菓子、羊羹だった。

 

「ええ、自分の好物です」

 

任務の際はよく食べていたと語ると、彼は羊羹を箱から出すと一本丸々口に入れた。

 

「あらあら……」

「顎が長いから一々切らなくて良いんです」

 

鰐のシリオンだからことできる芸当にリナは少し笑った。元々非常に燃費の良いナイルだが、甘い物だと別腹になるようだ。

 

「大胆ですわね」

「簡単な糖分補給ですよ。エレンの飴みたいな物です」

 

そして数回羊羹を噛んで飲み込むと、リナには小さくパック詰めされた羊羹を取り出した。

 

「リナさんも一ついかがです?」

「あら、ご丁寧に」

 

流石にドリシラ達に羊羹は食べられないのでリナは有り難く羊羹を頂くと、車は走り出していた。

 

 

 

 

 

そして目的地である学校の前に到着したナイル達は車に黒い傘を立てかけて待っていた。この傘は防弾・防刃仕様の特別性だった。

銃は相手を不必要に威嚇すると言う理由でジャケットの下に隠していた。

周囲には他にも同様の車が停まっており、自分たちと同じく。迎えの車が待っていた。

 

「…おや」

 

車の外で待っていると、入り口から段々と生徒が出てきて車に乗ったり徒歩で帰り始める。

 

「ナイルさん」

「ええ、分かっています」

 

そしてとある一人の女学生が自分たちに近づくと、ナイルを見て一言。

 

「あら、見たことない顔ね」

「お初にお目にかかりますお嬢様、本日のドライバーを務めさせていただきます。ナイルと申します」

 

頭を下げ、丁寧な挨拶を交わしたナイルは横で扉を開けるリナに目線を向けた。

*1
アメリカ大統領専用車




ちなみに現実世界にも防弾・防刃仕様のスーツや傘があるらしいです。
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