ナイル・グスタブは仕事柄、今は富裕層を相手に仕事をしている。
そしてガンスミスの免許も持っている彼はヴィクトリア家政の新たな仕事の枠を増やす担当として、ある仕事についていた。
パーーンッ!!
とある整えられた湖畔、そこで一発の銃声が響くと、空を飛んで居たキジが一匹、ゆっくりと落下してきた。
そしてその様子を見ている複数のツイードジャケットにクックハットを見に纏う数々の人。
「今日はよく当たりますなぁ。星見殿」
「まだ一発しか外していない」
「我々の分も残して貰いたいものですな!」
その中の数人が先ほど小銃を撃った男に話しかけると。当代の星見家当主、星見宗一郎は軽く笑って答える。
「いえいえ、最近腕の良いガンスミスを雇いましてな。おかけで私のような腕でもこの通りですよ」
「ほほう、ガンスミスですか」
「ええ、元々娘の知り合いだったのですがね……」
そう言い、後ろに目線を向けると。そこでは待機していた一人のシリオンが立っていた。
「ナイル君」
「はっ、宗一郎様」
呼ばれたナイルは宗一郎の元に寄ると、彼は周囲に紹介するようにナイルの肩を持った。
「ナイル・グスタブ。嘗ての治安局の名狙撃手で、今日は私のガンスミスだ。宜しく頼むよ」
その名を聞いて、一部の人は知っているようだった。
「おぉ、あの殿堂入りを果たした名狙撃手か」
「噂は聞いていたが、若いな」
「若いと言うのなら、星見殿の御息女もそうだ」
「今時、年齢を気にしていては取り残されますぞ?」
「はははっ!そうだとも!」
そんな事を口々に言う富裕層の者達は今日の遊猟会を楽しんでいた。そんな中、一人の富豪が提案をしてきた。
「そうだ、噂の狙撃手の腕とやらを見せてはくれまいか?」
「おお、それは良い」
「是非とも彼の腕前も見てみたい」
そんな男の提案に宗一郎は少し困り顔になりながらナイルを見た。
「出来るかい?」
「宗一郎様のご要望とあらば」
そんな富裕層の提案と共にナイルは宗一郎の計らいで残りの中折れ式の散弾銃を取り出すと、空を飛ぶキジを照準に合わせる。
「……ふぅ」
そして軽く息を整えると、引き金を弾いた。
パァン!!
そして発射された散弾は一発で三羽のキジを落とした。
「「「おぉ〜!」」」
流石の腕前だと好評なナイルは、銃を片づけるととある別の参加者から提案された。
「君、どうだね?今度私の家に来るのは?」
「素晴らしい腕前だ。今度我が家で狩猟をするのだが、ガンスミスとして付いて来てくれないか?」
最近は富裕層の娯楽として人気となりつつある遊猟。落としたキジや鹿、熊などはその日の夕食に出され、楽しい晩餐会が待っている。
その為、最近はガンスミスの需要が増えつつあったのだ。
「まぁまぁ落ち着きたまえ皆さん」
そんなナイルを勧誘しようとする富裕層の当主達を、宗一郎が宥めると続けてこう言った。
「彼はヴィクトリア家政から私が依頼した人物だ。そう焦らなくとも良いでしょう?」
「あぁ、あのヴィクトリア家政に」
「なるほど、それであればこの腕も納得だ」
星見家のガンスミスとしてではなく、ヴィクトリア家政のガンスミスである事にどこか安堵した様子の皆様。
家事代行のサービス業を営むヴィクトリア家政、と言う事は依頼をすれば彼をガンスミスとして一時的に雇うことができる。
お世辞にも銃の腕前はあまり良くない星見家当主を、ここまで上げた彼のガンスミスとしての腕前を高く買っている証だった。
「申し訳ございません宗一郎様。お手を煩わせてしまい……」
遊猟の帰り際、荷物を車に詰め込んでいる途中でナイルは宗一郎に話しかけると、彼は軽く笑いながら答えた。
「ん?別に構わんよ、娘に良くしてくれたお礼だと思ってくれたまえ」
それの意味する所はそれほど気にする事はないと言う事だった。
「それよりも、私としては。君がブリンガー君と喧嘩したことの方が興味深いよ」
「っ!知っておられましたか……」
「ああ、少なくとも。君が治安局を辞めた直後にヴィクトリア家政にスカウトされた事もね」
つまりは全部知っていると言う事だった。すると彼は軽くナイルに手招きをする。
「まぁ乗ってくれ。私も、近頃の治安局の武力拡大に不安を残しているのでね」
宗一郎はそう話すと、ナイルを車の後ろ座席に招き。他の従者達もその意向に従っていた。
その後、ガンスミスとして次回も宜しく頼むと言われ。ヴィクトリア家政の本拠地に戻ると、そこでカリンがナイルを出迎えた。
「お、お帰りなさい。ナイルさん」
「ええ、ただいま戻りましたよ」
そこで拠点に上がったナイルにカリンが聞いてきた。
「ど、どうでしたか?今日のお仕事は」
「ええ、何故ライカン達が自分を引き抜いたかよく分かりましたよ」
少々疲れた様子で少しタイを緩めるとそこで拠点の射撃場に入るとそこでレバーアクション小銃を手に取ると十発弾倉取って機関部に押し込む。
「……」
ピカティニー・レールや折りたたみ式の銃剣を備え、近代的な様相のナイルのレバーアクション小銃は他に類を見なかった。
カチャ、パァンッ!!
引き金を弾き、発射された7.62×63mm弾ライフル弾は的に命中すると再びレバーを下に引いて排莢・装填し、引き金を弾く。
的に穴が空き、背後の緩衝材に弾頭がめり込んで止まる。
「フゥ…」
そしてレバーを動かし、直ぐに次弾が装填されて発射される。
カチャパンカチャパンカチャパン!!
そして的に密集して弾丸が命中すると、軽くナイルは毒吐いた。
「クソブリンガーめ……」
自分が治安局を辞める理由となった相手に無性に苛立ちを覚えていると、後ろから話しかけられた。
「そんな顔じゃあ、カリンちゃんが泣くよ」
振り向くと、そこにはエレンが飴を咥えながら立っていた。
「なんだ、珍しいな。エレンから話しかけてくるとは」
いつもはサボり場程度にしか考えておらず、激しい銃声が仕出した頃からは拠点の居間で休む事の増えたエレン。
「何かあったか?」
「別に?ただアンタがいつになくムカついた顔をしてたから、ちょっかいかけただけ」
「そうかよ」
そこで下に転がった薬莢を見ると、かなり夢中になって撃っていたというのが分かった。
「こんなに無駄撃ちしちゃって……」
「練習だよ」
「その腕前で?」
軽く鼻で笑う様にエレンは答えると、ナイルは薬莢を回収しながら言った。
「良い銃手やとある特殊部隊では一日に銃を構える練習を千回行うそうだ」
「ふーん、普通の筋トレじゃダメなの?」
その疑問にナイルは首を横に振った。
「通常のトレーニングと、実際に銃を撃つときに使う筋肉は別物だ。エレンだって、あの鋏を使う時の筋肉と、普通のトレーニングに鍛える場所は変わるだろ?」
そう言われてエレンは納得出来てしまい、反論をできなかった。故にちょっとムカついた。
「必要な時に、必要な場所を整えなければ。実戦では有用しない。
まぁ世の中、やるべき事には順序ってのがあるのさ」
そう締め括ると彼は薬莢を箒で掃いて回収していた。
ヴィクトリア家政での仕事に不満は無い。
ホロウに入る手段があると言えどホロウ調査協会や非公式の両方から繊細なキャロットデータを入手してから入るので、むしろ治安局の時よりも動きやすかった。
「今どき民間の方が良いものを売っている時もあるからな……」
利益を追求する為に利便性も兼ね備えた企業の商品は、割と実践でも使える物があったりするのだ。
上流階級と強めの繋がりがある分、よほどのポカや悪さをしない限りは罪をもみ消せるのだ。うわーブラック。
ガンショップでガンオイルと新品のクリーニングロッドを選びながらそんな事を考えていると、ふと思う。
「ライカン達が俺とブリンガーとの喧嘩を誘発させていたりしてな……」
あり得ない話だから軽口程度で終わっているが、いっときは真面目に考えてしまった事もあった。
それほどにタイミングが良すぎたと言うのがあるが……。
その後、購入した物を買い物カゴに入れながら帰宅の途に着く。
駐車場に向かう途中、ナイルは一本裏の道に入るとそこで何も無い空間に話しかけた。
「誰だい?さっきから俺をつけ回してたのは」
すると裏道の前後に数人のゴロツキ達が現れ、その手には拳銃を持っていた。
「おやおや、そんな物騒な物持って……」
知らない顔なので、俺の治安官時代に恩を売った奴らじゃ無い。とすると……
「俺を消しにでも来たか?」
すると徐にゴロツキは持っていた拳銃の引き金を弾いて発砲した。
「おっと」
「ぐあっ!!」
しかし銃声と共に避けた弾丸が反対に居た別の仲間に命中し、悲鳴が上がった。
「なぁっ!?」
「『目標と、その背後にあるものをよく確認する』銃を撃つ時の基本だぞ?」
煽る様にゴロツキに言うと、彼は拳銃を抜いて前に居たゴロツキに向かって引き金を弾いた。
「がっ!?」
「ゔっ!!」
そしていつもの早撃ちで前に居たゴロツキを簡単に片付けるとそのままナイルは走り出した。
「追え!」
「逃すな!!」
そして後ろにいたゴロツキ達は拳銃を発砲しながら追いかけ始める。
「やれやれ、喧嘩を売りすぎたか?」
そこで彼は薬莢を押し出して、ムーンクリップで再装填をしてシリンダーを戻すと後ろに向かって適当に撃つ。
「いだっ!!」
狭い路地、一人なので背後に気にする必要もなく引き金を弾くと愚かにも一人の胸に当たった。
「ふぅ……」
そしてそのまま建物をつなぐパイプに向かって引き金を数回弾くとボルトが吹き飛ばされて路地に落っこちた。
「あっ!!」
「じゃあの」
そしてそこでサヨナラしようとした時、
「居たぞ!あそこだ!!」
「げっ!」
別の路地から自分を指差すまた別の路地にゴロツキ達。
パパンッ!
そこで引き金を弾かれ、弾丸が頬を掠めると拳銃弾はカンッ!と音を立てて弾かれた。
「なあっ!?」
「やべっ」
拳銃弾を素肌で弾いたナイルにゴロツキが驚いていると、彼らの背中から突如血が出た。
「ぎゃぁっ!?」
「なっ、何…」
切れ味のあるそれは簡単にゴロツキの首元を切ると、発煙弾を投げた。
そしてそれに乗じてナイルも路地から撤収した。
「貴方も大概危険を呼ぶわね」
「身に覚えがありすぎて分からんなぁ」
ある建物の屋上、ナイルは先ほど発煙弾を投げてくれたジェーンに感謝をした。
「まぁ、今回の事は感謝するよ」
「あら、珍しいわね。貴方から感謝されるなんて」
「俺をなんだと思ってやがる……」
軽くジト目でジェーンを見ると、彼女は屋上を後にしながら言った。
「これからはせいぜい気をつける事ね。ギュスターブさん」
裏の仕事の時に使う名前を言いながら彼女はビルを後にしていた。