There's nothing without One Sin   作:鼠日十二

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おひさ! ちょっと余裕ができたので短いけど投稿
トンチキすぎてシリアス入れなくてもよかったまである

今回のお気に入りフレーズ:輝く右手は抜山蓋世


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 ロボトミーコーポレーションは,地下に根を張るように連なった部門群からなる構造をもっている。あるいはデータ構造における木構造のように、上下逆転して枝葉を広げる樹木のようでもある。各部門はカバラにいうところの『セフィロトの樹』に対応した名を関する存在が仕切り、特色ある職員育成と作業を行っていた。

 

 先代管理人の意向か、はたまた安全上の措置かはわからないが、このL社では上層であるほどランクの低い幻想体が収容される傾向にある。ホシノが扱う幻想体も、上層部門──コントロール、情報、安全、教育部門に収容される、安全性の比較的高いものにとどまっている。

 

 一方で、中層以降の幻想体は一手間違えると施設が壊滅しうる危険な幻想体を多く収容している。わずかなTETH、HEクラスと大勢のWAWクラス、そして……危険度の頂点を飾るALEPHクラスの幻想体。このL社では、ALEPHクラスは4体が管理されていた。

 

 人々を魅了する青黒い虚無の穴と、そこに身を投げた信者の下半身で構成される『蒼星』。

 外観の冒涜性ただ一点ゆえにあらゆる認識や記述を禁じられた『■■■■■■■(規制済み)』。

 人肉のコラージュと行動模倣によって人間になることを夢見る『何もない』。

 

 そして──最後の一体が、ここ懲戒部門に収容されている。

 エレベータから降りたミクリは、『罪深い儀式』以来の赤黒い空間に視線を奪われた。単なる塗装であり、血塗られた空間というわけではない。が、最も多く血を流すのが懲戒部門の職員であることは事実だ。かつて都市でも最強の名を馳せた『赤い霧』率いる懲戒部門の仕事は、規律違反者の処理、発狂した職員の鎮圧、そして脱走した幻想体の制圧である。

 

「だからこそ、ここでなければならなかった」

 

 コツ、コツとミクリが懲罰部門の廊下を進むにつれ、(おお)きなものがぶつかるような振動が廊下を揺らす。引き合うように、共鳴するように、ミクリが近づくほど振動が爆発的に激しくなる。しかし、最高潮まで達した振動は、ミクリが一つの扉の前に立つと、ぴたりとやんだ。代わりに、極上の餌を前にして『待て』を命令された犬の群れのような荒い息遣いが、いくつも、いくつも扉の向こうから響いてくる。

 

 ミクリは腰に佩いた剣の柄にそっと触れて、それから扉を開いた。

 

 瞬間。巨大な口そのものが、血腥い悪臭を吐き散らしながら飛び出した。咄嗟に脹脛の筋肉を勢い良く痙攣させることで、ばね仕掛けのように足裏で地面を叩き、横に避ける。口はめきゃっと肉片をまき散らしながら向かいの壁に激突し、スクイーズの玩具のようにぐちゃっと潰れた。微かなコミカルさは唐突に突き出た蜘蛛のような脚によって潰えた。にちにちと、粘性のものを引きはがす嫌な音がする。

 

 簡潔に、正確に記述するのなら、『腐った巨大な肉団子の表面にゆがんだ顔のような仮面をいくつも張り付けたような風貌の怪物』である。あるいは神隠しを題材にしたムービーに登場する、無貌の怪物をミキサーにかけたような。とかくそいつは飢えた獣のようで、不格好に突き出した足をぐちゃぐちゃ動かしてミクリのほうに向きなおると、その真っ黒な腐肉団子を横一文字に割く大口を悦びに歪め──そのにやけ面に、砲弾が炸裂した。

 

「『抜け殻』」

 

 ミクリが背負っていた大砲の名称である。ぬらついた褐色の粘膜に覆われた、ノノミのミニガンくらいの大きさのそれを、背中から生やした数本の手によって支えることで、ミクリは己を砲台と成した。さらに空いた手は、黄色と黒の塗装を施されたライフルを構える。

 

「加えて『ホーネット』!」

 

 放たれた弾丸は高速かつ自動追尾、まるで外敵に針を突き刺さんと突進する働きバチのごとく死肉団子に突き刺さる。ミクリの心の底から畏敬にも似た羨望が沸き上がった。

 ただでさえ自我を侵食するEGOの使用を同時に行えば発狂を免れないところだが、ミクリは最初から発狂しているので問題ない。せいぜい、告解の時間が長くなるだけだ。本人の精神的苦痛が軽減されるわけではないが、その痛みは必要な経費で、またミクリが唯一捧げられる哀悼でもあった。

 

 

 

 施設最後のALEPHクラス――T-01-75『笑う死体の山』。かつて連鎖的な脱走が起きた日、数多の職員が鎮圧に駆り出されては命を散らし、山のように積み重なった腐敗死体が溶け合って生まれた幻想体である。そこに元となった職員の意志はなく、ただ死臭を嗅ぎまわって同胞(死体)を食らい続ける本能が宿るのみ。その性質から、この幻想体は一定数以上の死体が施設内に存在すると勝手に脱走する。

 

 

 

 ()()()()()()()()

 『笑う死体の山』は、それがミクリの体内に収められた数百の死体であっても、ほんのわずかな残り香をかぎ取ったのだ。

 微かな予感がやがて確信に育つように。『笑う死体の山』はミクリを探して収容室を飛び出し、鎮圧された後も同じ経緯を経て、一定周期で脱走するようになり……こうして、ミクリが直々に対処しているのである。

 

「殉死した職員の高潔さに敬意を。社会性動物たる人間の本懐を遂げたその精神に敬仰を。ああ、私はそちら側にはなれなかったが故に──せめて、あなたたちの成れの果てがこれ以上誰も殺すことがないよう、こうして立ち塞がるのです」

 

 『裸の巣』がリチャージを終え、再び砲弾を放つ。的が大きい分当てることはたやすい。だが、死体の山はその程度では止まらない。

 口そのものを押し付けるがごとき突進を、壁と天井を蹴飛ばして三角に躱しながら、背後をホーネットで狙い撃つ。だが、死体の山はその程度意にも介さない。極限の空腹にさらされた獣が、ミツバチの巣を見つけて、蜂蜜の甘さに想像をめぐらして笑うとき、毒針の痛みは思考の外にある。

 

 だから、学ぶことはない。

 自分がなぜ飢えていたのか。

 自分がなぜ餌にありつけないのか。

 

「『抜け殻』っ……この程度で十分かしら」

 

 ライフルと背中の大砲を廊下の端に放ると、ミクリは『笑う死体の山』を正面から見据え、姿勢を下げて構える。振り返った死体の山は、やはり本能に突き動かされ、ミクリめがけて走り出す。

 

「ぐぶああ、ああ、ばああああ!!!」

「さあ、さあさあ、行きますわよ。ひと時の安寧を、あなた方に!」

 

 彼我の距離が縮み、詰まり、血のこびりついた歯がミクリを嚙み潰す寸前――黄金の右アッパーカットが、『笑う死体の山』の顎を勝ちあげ、巨体を天井に叩きつけた。

 

「ぎ……ぎぎ……っ」

 

 じたばたと藻掻きながら落下する死体の山に無慈悲に振り下ろされる左の拳、これもまた金色であった。むろん比喩ではない。気づけば彼女の両手は、無骨にして豪奢な黄金のガントレットに包まれている。

 

「ゴールドラッシュの始まりですわ」

 

 そう――禁断の『黄金狂』両手装着!!

 金色の打撃が尾を引く流星群のごとき残像を残して『笑う死体の山』をめった打つ。肉体に先行して()()()()を教えてくれるEGOを、常人とは比べ物にならぬ出力で振るえるとしたら。酒の席で語られるようなバカげた職員の妄想が、今ここに「重量を伴う超硬質な秒間64回の殴打」として実現を見る。

 

「はああああああッ!!」

「ぐぎゃべろごぎっがべぢぶげっ」

 

 表面に張り付いていた仮面が粉々に砕かれ、おぞましげに存在感を放つ大口は歯が吹き飛び、足がひしゃげた。それでもなお前へ進もうとする『笑う死体の山』の夢を終わらせるべく、ミクリは筋肉量の80%を右腕に集約させた。12秒間のゴールデンタイムに終止符を打ち込むために。

 

 そして、

 

「レクィエスキテ・イン・パーチェ!」

 

 輝く右手は抜山蓋世。『笑う死体の山』に風穴を穿ち、(休眠状態)へと鎮圧せしめたのだった。

 聖職者は徒手格闘にて天上。旧約聖書にもそう書いてある。*1

 

 

 

 余談だが、今回の戦闘を経て、ミクリは『笑う死体の山』のEGOギフトを得たことに気づいた。顔面を覆う、不気味で悲し気な白い仮面である。『たった一つの罪と何百もの善』のギフトと同様、精神に結びつけられたものであるためか、意識的に非表示にできたのは僥倖であった。しかし本質的には外せない呪いの装備であり、それがなんとなくマーキングにも思えて、ミクリはげんなりした。

 

「上書きできないこともないですけれど……『蒼星』は精神攻撃、『規制済み』は情報がなさ過ぎて何が起きるかわからないし……ほかに上書きできるギフトをくれる幻想体は、えっと……『オールドレディ』だけ……!?」

 

 『オールドレディ』。安全ではあるが精神的疲労の大きい、ミクリが嫌厭しがちな幻想体である。それに、一度の作業で必ずEGOギフトがもらえるわけでもないのだ。いずれにしてもしばらくはこの仮面をつけている必要があると悟り、ミクリは大きくため息を吐いた。

 

「この会社、なんか変……人間ぶっ殺しゾーン……死体食い荒らしルーム……救いがないですわ……」

 

 

*1
創世記32章24節~





力押しが書けて楽しかった!!!!! 生徒に本気を出すわけにはいかないからね。
内容はだいぶアレですが鎮圧作業についてはまじめに取り組んでいるので、初動つぶしの徹底と抜け殻のR耐性デバフ、隙を埋める長距離高速攻撃手段、肉体をフルに生かせる上にほぼ確発動ゴールデンタイム付きの近距離武装、奥の手の最強剣もきっちり用意しています。『ゴールドラッシュ」』はすんごいジョジョのラッシュの掛け声を入れたくなったんですが、どう頑張っても恰好が悪くなったのであきらめました。逆にどうやったらアリアリ連呼が格好良くなるんだ、手腕が鋭すぎる。

あと別に死体の山が弱いわけじゃないです。単純にミクリとの相性が極めて悪いのと、育つ前の死体の山があんまり強くないだけ。職員の死体を食い散らかして団子3兄弟になった後だとミクリ側もそんなに余裕はないと思います。前の管理人はALEPHラインナップに結構気を使ってたみたいですが、施設壊滅に一役買ったのは間違いなく死体の山でしょう。
ただミクリ以外に死体が出る予定はないので、活躍のシーンはたぶんない……。もし生徒のほうで死人が出たらこの小説は普通に打ち切り案件だし、その場合最終回は生徒の死体をミクリが泣きながら捕食して連載終了です。

ギフトの仮面は正体バレ防止にも使えるんじゃないかと思いましたが、そもそもパラメータ可変だからなこいつ……。あとALEPHのEGOギフト装着部位が目に集中しすぎてる問題があって、ミクリのビジュを変えにくいのが残念。オールドレディのメガネミクリもいいけど、審判鳥の目隠しミクリもいいと思います。というかそもそもミクリという概念が審判鳥にちかいところあるので、要所で出しておきたいところ。ただEGOギフトが作中でどういう扱いなのかわからんくて(非表示は認知フィルターで非表示にしてるのか、実際に非表示にできるのか、ギフトのロックはどうやってるのか)、EGOギフトファッションショーはもうちょい先になりそうですね。
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