There's nothing without One Sin   作:鼠日十二

5 / 10
思ったより長くなって想定シーンに至らなかったので、次回予告なんかするべきじゃないなと思いました。
今回の変な文:「L社にもフレッシュなアイドルなら所属している」




 

 

 

 ホシノ様が来たおかげでできるようになったことの一つに、外出がある。

 実は私、施設の管理にかかりきりで一度もL社の外に出たことがないのだ。黒服様から頂いた『キヴォトス市民の平均的月収』は手つかずのままで、それがどの程度のものと取引できるのかいまだ不明。ホシノ様に聞けば教えてくれそうな気もするのだけど、せっかくなら自分の肌で感じてみたい。

 

「というわけで、今日の業務は趣向を変えようと思いますわ」

「おお~」

 

 ホシノ様のやる気のない拍手に迎えられながら、私は一丁の拳銃を懐から取り出す。紫色の銃身に’Well Cheers!’の文字が刻まれた、ひどく軽い銃だ。

 

「これがなんだかお分かりになります?」

「おもちゃっぽいけど……なになに、うぇる・ちあーす? ウェルチアースって、確かZAYINの幻想体の……」

「あら、勤勉ですのね」

 

 数日の業務のうちに、ホシノ様は幻想体の知識をある程度身につけたようだった。というか、そう判断したからこそコレを出したのだ。

 

「我が社では脱走した幻想体の鎮圧や『試練』に対抗するために、幻想体から装備を抽出する技術を有しておりますの」

「……うへ、武器製造会社でもあるってこと? おじさん、まだ驚かされるとは思わなかったよ~」

 

 この拳銃『ソーダ』は、『蓋の空いたウェルチアース』という幻想体から作られた武器だ。このような装備をL社ではE.G.O.と呼称している。その大きな特徴として、()()()使()()()()()()()()()というのがある。これはE.G.O.も精神から抽出されたものだからなのだが、詳しい説明は割愛しよう。とにかく、武器を握った時点で最低限度の使い方が身につくのだと思えばいい。私も試したところ、弾を込める・引き金を引くなど、基本的な動作は自然にできるようになった。

 

 もっとも……ホシノ様は、すでに銃の扱いに慣れているようだけど。

 

「わ、軽いねぇこれ。アルミでできてるみたい。ちょっと試しに弾丸抜いて……と。なんか引き金を引くたびにパキョパキョ鳴るんだけど、これ合ってるの~?」

「プルタブみたいでしょう?」

「言われてみればそうかも。じゃあホントに幻想体から武器が作れるんだ……」

 

 と、ホシノ様がひとしきり銃を確認し終えたあたりで、私は本題に入った。

 

「私が外出する間、画面のチェックだけと言うのも味気ないでしょうから。HE以下の幻想体から作れるE.G.O.の中でお好きなものをリクエストしていただければ、それを業務中に貸し出しいたしますわ」

「ええ、それおじさんなんかに渡して大丈夫なの〜?」

「構いません。万が一があったときに、ホシノ様が身を守れる手段は多いほうが良いのです」

 

 ……かつてのL社では、E.G.O.が使い方を教えてくれるという性質に頼って、新人教育がほとんど行われてこなかった。職員の命は吹けば飛ぶような軽さで、幻想体に無謀な作業をしては命と引き換えに僅かな情報を持ち帰るような、そんな非人道的な人海戦術でマニュアルは書かれている。時には管理人自ら、寄生宿主となったり発狂したりした職員を殺すことがあったという。

 

 管理人室の資料でそれを知った時、私は煮え立つような不快感を覚えた。そして、一抹の使命感も。罪深い地獄でこそ、善行はより一層の輝きを放つだろう。

 

 私は決して二の舞を繰り返さない。一人も死人を、いいや怪我人をも出さずに、幻想体の管理を成し遂げて見せる。そのためには、協力者が必要不可欠だ。

 私から見て黒服様はともかく、ホシノ様は十分に信用に値する人物だと思っている。日頃からやる気が無さそうな割には、どこか勤勉で責任感の強いひとだ。とても、強いヒトだ。羨ましくなるくらい。

 

 だからこそ――彼女を傷つけさせるわけにはいかない。()()()の頭蓋を噛み砕いた時に感じたタバコの香りを、私はまだ忘れていない。努めて笑顔を作りながら、ホシノ様に背を向けた。

 

「日没までには戻りますわ。それまでに、作りたいE.G.O.を決めておいてくださいな」

「なんでもいいの? このおっきなぬいぐるみの手みたいなのでも?」

「……構いませんけど。慣れてる銃のほうが良いと思いますわよ……?」

 

 枕に良さそうだと思ったんだけどなあ、とホシノ様は呟く。でもそのテディベアの拳、枕にするにはちょっと怖くありませんの? 寝てる間に頸椎を圧し折ってくるタイプの枕ですわよ、たぶん。

 

「まあ、考えておくよ~。いってらっしゃ~い」

「ふふ、見送りがあるというのは何だかいい気持ちがしますわね。行ってまいりますわ」

 

 

 

 

 そうしてL社を出たミクリは、あたり一面が砂漠であることや、空に巨大な円環が浮かんでいることに異世界を感じつつ、駅までやってきた。

 アビドス自治区はかつて非常に栄えた地域であり、その中心であるアビドス高校はキヴォトス内でも有数のマンモス高校だったのだとか。それが衰退してしまったのは、アビドスを襲う砂嵐が頻発し、砂漠化がどんどん広まったためである。今では自治区のほとんどを砂に覆われてしまい、アビドス高校もホシノを含めてわずか数人が所属するのみとなってしまった。しかしL社近くの僻地にも駅があるように、アビドスが栄えていたころの名残は随所に見られる。

 

 黒服からもらった『平均的月給』を丸ごと修道服のポケットに詰め込んだミクリは、手間取りながらも切符を買って電車に乗り込む。平日の昼とあってか、車内には人の姿はない。壁に貼られた広告を見て回ろうと思い立ち、ミクリは車内を歩き出した。

 

「……また同じロゴですわね。ええと、カイザーコーポレーション……?」

 

 どうやらその会社は相当手広くやっているらしい。仮にも1企業の代表を自覚しているミクリは、もしかしたら経営のノウハウ本を出しているかもしれませんわねと呟きながら、その企業の名を胸に留め置いた。

 ……ところで、カイザーコーポレーションはキヴォトス内でも有数の悪徳企業であり、利益のためなら悪事も辞さないスタンスでその道では有名である。もちろん、ミクリとの相性は死ぬほど悪い。

 

 そんなこんなで車内を見回っているうちに電車が減速し、駅に停まった。ミクリの降りる駅はもうしばらく先だが、乗り込んでくる人影を見て席に座ることにした。さすがに他人の前で歩き回る気はしなかったし、それにホシノ以外の『生徒』を初めて見たので好奇心が勝ったのだ。ミクリは太ももの上に手を重ねて行儀よく座りながら、重ねた手の影に眼球を作り出してこっそりその生徒の姿を観察した。場合によっては盗撮同然の行為であるが、この時のミクリはそれに気づいていなかった。一度でも発狂した人間の『天秤』は、さながらあの長い鳥のごとく、些事と大事の比重がおかしくなってしまうのである。

 

(やっぱり、光輪が浮いていますのね……。黒服様は神秘とおっしゃいましたが、なるほど確かに天使のようですわ)

 

 ミクリの頭上に浮かぶ茨の円環は、「何もない」に憑依した精神に対して付与されたE.G.O.ギフトであり、生徒と由来を同じくするものではない。顔の目は窓の外に視線を流しつつ、

 

(というか、あのサイズの銃──もはや銃と呼んでいいのかわかりませんが──って、持ち運びできるんですのね。つくづく、常識が通用しませんわね)

 

 と、そんな常識外の生命体がブーメラン的思考を捏ねまわしていると、徐に生徒がこちらへ近づいて声をかけてきた。すわ覗き見がバレたかと焦りつつ、ミクリは外面だけ何食わぬ顔で返事した。

 

「こんにちは」

「あら、こんにちは」

「トリニティから来たんですか~?」

 

 トリニティ? トリニティとは何だったか。ミクリは目の前の生徒を見上げて、困ったような表情を浮かべた。

 

「ええと……私、そっちの方ではありませんの」

「まあ、そうだったんですか? シスター服なので、てっきりトリニティの子かと~」

 

 ああ、トリニティとは学校の名前か、とミクリは合点がいった。シスター服で判断されたということは、ミッションスクールのような宗教系の学校に違いない。もしかしたらこの世界の宗教観や『神秘』についても情報が得られるかも……と、ミクリはその名前も心に留め置いた。

 

「それで、何か用かしら?」

「いえいえ、この路線って()()()以外は誰も使わないから、珍しいなって。見るところ、あんまりなかったでしょう~?」

「……確かに景観として目立つものは少ないように感じましたわね。何か砂を活かした文化が生まれれば、その限りではなくなるのでしょうけど」

 

 ミクリはとりあえず話を合わせた。もっともミクリは周囲が砂漠であることに何ら不便を感じておらず、むしろ万が一脱走事故が起きたときに被害が出るまでの時間を稼げるなとすら思っていた。けれど生徒のほうはそうではなかったようで、目をキラキラ輝かせながらミクリの言葉に食いついた。

 

「そうですよね~? 私、ずっと前から温めてるアイデアがあるんです。きっとアビドスを立て直せる、素敵な方法……」

「素敵な、方法……?」

「そう、スクールアイドルです!」

「???」

 

 アビドスには独自の文化が必要だ。わかる。

 じゃあスクールアイドルをやろう。これが分からない。考えうる障害が大きすぎるし多すぎるのではなかろうか。そもそもアビドスのスクール、つまりアビドス高校は殆ど人が居なかったのではなかったか? 確かに目の前の生徒の容姿は優れていると思うけど……それだけで上手くいくかなあ。と、ミクリは柄にもなく真面な思考を働かせた。

 

 一応、L社にもフレッシュなアイドルなら所属している。T-09-79『肉の偶像(Flesh Idol)』は、祈りをささげた人物に試練を与え、それ以外の人間の体力や精神力を回復させる十字架の幻想体である。なお、祈りすぎると死ぬし施設も壊滅する。この生徒が言っているのは絶対にそんな破滅系アイドルではないと思われる。

 

 余計なことを考えすぎたミクリは、まったく本筋から逸れた質問を返した。

 

「え、えと。パトロンやプロデューサーは居るんですの?」

「お金は少しならアテがあるんです~。プロデューサーは……どこかに大人がいてくれたらいいんですけどね~」

「? 大人ならいるでしょう?」

「……信用できる大人は、あんまりいないんです~」

 

 生徒は困ったように、あるいは疲れたように笑う。その笑みと、「信用できる大人」というフレーズに、どこか既視感がある気がした。が、それをいったん横において、生徒のことを考える。

 

 ミクリにとっては、目の前の生徒を助けることにためらいはない。黒服との取引が固まれば、資金援助だってできないことでは無いのだ。どうしようもなかったとはいえ、無断でアビドスに居を構えてしまった負い目もある。総じて見ればアビドスの復興、これ即ち素晴らしき善行に違いあるまい。

 

「アイドル……はやるか分かりませんが、私も……」

 

 とミクリが言いかけたところで、車内にアナウンスが流れる。降りる予定だった駅の名前が聞こえたミクリは、周囲をきょろきょろ見渡した。

 

「もしかして、降りるんですか? 私も次の駅なんです~」

「アビドスで一番栄えているところに行きたかったのだけど、間違いないかしら?」

「合ってますよ~☆」

 

 それから生徒は少し頬に指をあてて考えるポーズをとり、こう言った。

 

「良ければ案内しましょうか~?」

「それは……とても嬉しいのですけれど、予定は大丈夫ですの?」

「もともと人探しのついでにウィンドウショッピングをする予定だったので、全然大丈夫ですよ~!」

 

 電車がホームに滑り込み、ゆっくりと減速する。生徒はミクリに手を差し伸べて、思い出したように言った。

 

「あ、私、アビドス高校2年の十六夜ノノミです~☆」

 

 それでミクリはようやく合点がいったのだ。

 身長も性格も違うけど……この人、ちょっとホシノ様に似ているんだ、と。

 

 

 








アイドルって聞いて肉の偶像が出てくる方が変だろ




▼ミクリについての補足情報▼

身長:可変
体重:不明
体型:可変

一人称は「わたくし」のつもりで書いてますが、別にどう読もうと内容に影響はないです。シスター服で腐った臓物色の髪だってことだけ固定。あとは可変部分が多すぎて容姿についてはこれ以上掘り下げない気がするので、お好きに設定してください。この言葉の意味がわかりますか? 脳内でノノミより大きくしてもホシノより小さくしてもユウカよりごんぶとにしてもらっても大丈夫だということです。


▼あとがき▼

おかげさまでランキングにも載せていただきまして、恐縮でございます。好きって思ってくれてありがとう!
本アカの更新を多忙を理由にして滞らせてるのに、新しいのに手を出したの見られたら気まずいな……と思って匿名で始めたら思った以上に伸びてしまい、結局余裕がなくなっていくの、ままならなくてほんとすき。

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