There's nothing without One Sin 作:鼠日十二
今回書き直した文字数:1万字以上
結論:今回もβ版として読んでください
「ミ~ク~リ~?」
「あらホシノ様、どうされましたの?」
「どうもこうも、どうして私がバイトしてるってノノミちゃんにバラしちゃったのさ!」
管理人室に入ってきたホシノは、書類を整理するミクリの隣にどすんと腰を下ろしてミクリに不満をぶつけた。「お前のせいで大変な目に遭った」と、そのむっすりした表情が雄弁に語っている。ミクリは書類に視線を向けたまま、何でもないように言った。
「そっちのほうが善いと思いましたので」
「良くないよ、業務内容を隠すのに大変だったんだから。ミクリも聞かれたでしょ?」
確かにホシノの言う通り、ミクリのもとにも多量のメッセージが届いていた。その内容は主にホシノとミクリの関係についてだったり、あるいはどんな仕事なのかだったり、それから――
「私も働いてみたいとか言われましたわね」
「……ちゃんと断ったよね?」
「当然ですわ。ホシノ様が特例なだけで、我が社から給料をお出しすることは
話しながら、ふと書類を整理するミクリの手が止まる。彼女の頬がにへ、と緩むのをホシノは見た。
「ノ、ノノミさんとは仕事を抜きにしてお付き合いしたいっていうかぁ……」
「えっ、何その反応」
「だって、初めてのお友だちですのよ。あのヒトの前では普通の
恥ずかし気なミクリの様子に、ホシノはぎょっとして言葉を詰まらせた。あんなに善行にしか興味が無さそうなミクリが、施設の運営は課された義務なのですとでも言いたげに働き詰めるミクリが、まともな女の子っぽい反応を示した――。ミクリの『管理人』としての顔しか知らないホシノの目には、その様子はとても新鮮に映った。
――良くも悪くも、L社の中でのミクリは『管理人』であり、同時に『
「そんなことよりホシノ様。お願いされていたEGOが完成しましたの。少々お待ちくださいまし」
「おお~」
と、話を変えたミクリに付き合って、ホシノは気の抜けた相槌を打った。
席を立ち、しばらくして戻ってきたミクリの腕に抱えられていたのは『魔法の弾丸』──ホシノが希望したマスケット銃型のEGOである。それを机の上において、ミクリはうふふと笑った。
「『ソーダ』とは異なる意味で、引き金の軽い銃ですわ。扱いには十分気を付けてくださいな」
「うん……触ってもいい?」
「どうぞ」
ミクリの許可を得て銃に触れたホシノは、ぴたりと、そのままの姿勢で固まった。
一人の男の精神が、ホシノの脳に流れ込んでくる。
――とある射手が、悪魔から絶対に外さない魔法の銃を授かった。
――射手の絶望を愉しみたい悪魔は、最後の銃弾が愛する者に当たるという条件のもとで銃を授けた。
――射手はすぐさま愛する者をすべて撃ち殺し、故に『最後の銃弾』は消え、彼は永遠に魔弾の射手となることができた。
その銃に触れた瞬間に、呼ばれるような感覚があった。これは罪人の銃だ。愛を撃ち殺した愚か者の銃だ。しかしホシノは、魔弾の射手を愚かだと断ずることができなかった。
ヒトがヒトに分け与えられるなかで、もっとも熱のあるもの。受け取るのが当たり前だと思い込んで、それが明日も続くと思って、貰った分を返し損ねた愚かな雛鳥。今更その名をを叫んでも、誰にも届きやしないのに。
――貴様は好い射手に成れる
「ホシノ様」
――愛する者が死に、悲しみに暮れながら、
――代わりに何を背負っても、望んだ重さは戻らない
――奪うことでしか、埋まらない
本来ならば、他人の自我の殻たるE.G.O.の性能を完全に引き出すことはできない。しかしホシノは、かつて職員が記録した『魔法の弾丸』の性能よりもはるかに忠実に能力を引き出せてしまう感覚があった。狙えば確実に当たる、それが何だろうと、誰だろうと……
「ホシノ様~? 銃を構えるのをおやめなさいな」
「はっ」
頬を突かれる感触に、思考が自分へと帰ってきた。見れば、引き金には指がかかっている。
あわててホシノは、構えていた銃を手放した。始終を見ていたミクリがやれやれと首を振る。
「E.G.O.とはこういうものなのです、特にWAWクラスともなれば。『オールドレディ』の『孤独』あたりで慣らしたほうがよいのではないかしら?」
注意されていたにも関わらず意識を飛ばしていたホシノは、恥ずかしさからか少し拗ねたような口調で言い返した。
「……でもミクリだってWAWじゃん」
「願いの近さとギフトのおかげでどうにか扱えているだけですわよ」
ミクリが戴冠するギフト『懺悔』は、装着者の精神力を強め、また『たった一つの罪と何百もの善』との親和性を高める効果がある。また『死んだ蝶の葬儀』はL社における数多の職員の死を悼むために現れた幻想体であり、ミクリはその哀悼に自身との近似性を見出すことで、『崇高な誓い』をそれなりに上手く使うことができていた。
それを聞いたホシノは、『魔法の弾丸』をしばし見つめて、徐に口を開く。
在り方の近似。他人の精神の理解。
ホシノはまだ、『魔弾の射手』を書類でしか知らない。けれど、この銃は──ホシノと同じ罪を背負っている。
「……ごめん、ミクリ。もう少しだけ向き合わせてほしい」
「! ええ、ええ、もちろんですわ。それってとっても素敵なことですわね」
ミクリは胸の前で手を合わせて、綺麗なものを見つけたように笑った。
「あ、でもちゃんと我が主のもとへ通ってくださいね。一日一回の懺悔が心を保つ秘訣ですわよ」
「美容法じゃないんだからさ~」
「ふふ、心だけは美しくありたいものですわね」
▼
「第n回! アビドス廃校対策委員会、定例会議~!」
同時刻、ホシノ不在のアビドス高校生徒会室にて。ホワイトボードを背に、ノノミが会議の開始を宣言した。
「ノノミ先輩、この前も第n回って言ってなかった?」
「そうでしたか~? じゃあ第n+1回で~☆」
「それでは果てが無くなってしまうのでは……」
ノノミにツッコミを入れたのは黒見セリカ、隣で任意の定例会議xについて考えだしたのが奥空アヤネ。どちらもアビドス高校の1年生であり、それぞれ生徒会会計と書記を務めている。
「ノノミ。ホシノ先輩がいないけど、良いの」
「ホシノ先輩は今日もどっか行っちゃいました……うう~」
「ん、また探す?」
ノノミのわざとらしい泣きまねに至極冷静な言葉をかけたのが、ノノミと同じく2年生の砂狼シロコである。アビドス高校の全校生徒は、ここにホシノを加えた僅か5人から成っていた。
シロコの言葉でけろりと元に戻ったノノミは、さっきまで泣いていたのが嘘のような笑顔で、なんてことないように言った。
「あ、ホシノ先輩はもう見つかってます」
「じゃあ最初からそう言いなさいよ! ここ数日みんな気になってたんだから!」
「セリカちゃん、どうどう……」
食ってかかるセリカをなだめながら、アヤネもノノミに問う。
「でも、どこにいらしたんですか?」
「それがですね、バイトしてたみたいで……この前市街地に出かけたときに、たまたま仲良くなった子がそこの社長さん? だったんです」
「すごい偶然」
この子なんですけど、とノノミは自分のスマホを机の中央に差し出した。生徒たちが身を乗り出して画面を囲む。
そこには肩を跳ねさせて後ろを振り向こうとするホシノと、ホシノの背後でピースサインをしている赤黒い髪の少女が映っていた。
「ホシノ先輩のこんな顔初めて見た……」
「ん、驚いた猫みたい」
「この隣でピースしている方が、ホシノ先輩の働き先の社長さんなんですか?」
「そう、ミクリちゃんっていうんです。ちょっと変だけど、とってもいい子なんですよ~」
シロコが顎に手をあて、むむむっと唸った。
「……ホシノ先輩、寝てても誰かが来たらすぐ気付く。ってことは、ホシノ先輩が驚くくらい素早く、この生徒が背後を取ったってこと。多分強い」
「それって、ホシノ先輩よりも?」
「会ったときは不思議な銃を使って不良グループにひとりで勝ってたから、強いのは本当だと思いますよ~」
それから写真に写る周辺機器が高価そうだの、何を売る企業だのとわちゃわちゃ話し、ひと段落付いたあたりでノノミが本題を切り出した。
「実は……ミクリちゃん、学校に行けてないみたいなんです。仕事場を離れられなくて、ホシノ先輩が来たおかげでようやく外出できたって」
「けっこうハードワークなんですね……」
「なのでアビドスに編入してみないか誘ってみました☆」
「アヤネ、止めないでよ」
「セリカちゃん、言っちゃってください」
セリカは息を吸って、吐いて、また吸った。シロコが耳を手で押さえる。
「――そういう大事なことは最初に相談してください!!!!!」
「ごめんなさい、困ってたのでつい~」
ふう、ふうと肩で息をするセリカに代わって、アヤネが言葉を引き継いだ。
「……アビドス高校は人手が足りない状態です。ヘルメット団の襲撃も受けるようになって、ますます戦力が必要になりました。私たちの借金も、直接的な支援はともかく金策を打ち出してくれるかもしれません。
でも、その……信用できるのでしょうか。仕事内容も知らない、会ったこともないような人を迎えて、大丈夫なのでしょうか……?」
アビドス高校の現状は酷いものだ。突然砂嵐が頻発するようになってから校舎は移転を余儀なくされ、徐々に返せるあてもない金を借りることになり、やがてよからぬ金融会社に頼らざるを得なくなった。その結果、いまやアビドス高校が抱える借金は9億にまで膨れ上がっている。毎月の利息分を返すだけでも数百万を稼ぐ必要があり、地味なバイトから指名手配犯の捕獲に至るまで、あらゆる金策に手を出さなければ到底賄えない。
そのうえで、最近はヘルメット団という不良集団の襲撃も相次いでいる。弾薬も無料ではないのだ、アビドスに残された物資ではもってあと数回襲撃をしのげるかといった程度。
最近D.U.の方で発足したという、生徒のための組織とやらに嘆願書も出してみた。とはいえキヴォトスは広大で、アビドスより大きな問題だってあるだろう。救援が来る確率は低いだろうが、それでも送らないよりはマシだと考えるくらい、彼女たちには手段がない。だからこそ、全員が団結してどうにかこうにかやってきた。
そこに、まるで新しい背景の生徒がやってくる。もしかしたら、思いもよらない解決策を手にして。
それは何だか他人の手を借りたようで、でもアビドス高校は続いてほしくて、しかし素性の分からない生徒をこの心地いい空間に招くのは怖くて。藁にもすがる思いで頼った大人に、こんなにも搾取されているのだ。そう簡単に都合のいい救いの手が現れるなんて、あり得ない。そんな後輩たちの内心を見透かすように、ノノミはモモトークの『ミクリ』のメッセージ欄を見せながら言った。
「じゃあ、一度会ってみることにしましょう~☆」
画面の中で、ミクリから『そういうことは先に相談してくださいまし!』とメッセージが届いた。
一番お気に入りの比喩:雛鳥
お気に入り500超え&評価値4マス赤、ありがとう!
前話、作者的にはかなり楽しく書けた回でした。
深夜に投稿して朝にハーメルン見たら、これまでの比じゃないくらいの評価と感想が一斉に来ててびっくり。みんなホシノに魔法の弾丸を装備させることに不安を覚えてて面白いんだァ……
感想はちゃんと全部読んでます。マジでありがとう、貰った情報を完全に生かすことは多分できないんですが、なんか言葉残してくれるだけでも救われる命があるから。今後もEGOとか幻想体についてはオリジナル設定が生えてくると思うけど、どうか許しておくれ。
前回の流れを受けて今回もさらっとかけるかなと思ってたんですが意外と難産でした。本当は黒服が出てくる話だったのですが、彼の知性が作者のそれを上回りすぎており、隙のない論理を完成させることができなかったため断念。先にアビドスの面々との顔合わせを処理することにしました。
一体いつになったらベアおばと対決できるんでしょうか?