何となくの思い付きで書いたはいいものの、すでに先達の方がいたのでなるべく被らないよう気を付けます。
開始10秒で俺は理解した。
嗚呼、これは夢だと。
どこまで続くか定かではない真っ白な空間に古臭いブラウン管テレビがポツンと置かれている。
取り合えずやることもないし、よっこらせと言いながら胡坐を掻いてテレビの前に座ると突如ザーザーと砂嵐が流れ、暫く待つと画面が映った。
誰かの視点らしいボヤけた景色はすぐに鮮明に映り、同時にテレビから「おはよう」とやけに爽やかな声が聞こえてきた。
そこは薄暗い、どうやら窓のない空間のようで俺には地下牢のように思える。
辺りには沢山の提灯と無数の札が壁には張られていて、地下牢のようだと思った俺の考えは正しかったようだ。
少年らしき薄い褐色の髪の人物が目を覚ました。
どうやら彼がこの物語の主人公らしい。
と、すぐに全身黒づくめの目隠しをしたどう見ても不審者ですありがとうございます。
……俺は一体何を感謝しているんだ。
「…なんだこれ?」
思わずそう呟くもここは夢の中で俺しかいない。
当然返事があるはずもなく、話は進んでいく。
…不審者は取り合えず“五条悟”というらしい。
そう自己紹介していた。
そしてやはり地下牢に捕まっていた予想主人公の名は“虎杖佑二”っと…字幕が出てくれるから便利だなこれ。
だがそんなことより気になるワードがあった。
「“呪術”……?なんぞそれ?」
“呪術”とテレビで
「忍術じゃないのか…?」
木の葉の里という忍の里に生まれ、先祖代々忍の家系に生まれた俺としては忍術は日常に存在するものだが呪術なんて言葉聞いたこともない。
そもそもの話、夢というものは記憶の整理のようなものだと聞いたことがある。
だがこの夢は何だ?
見たこともない黒い素材で出来た地面に学校では男はその殆どが皆同じ格好で映し出されている。
そして映る明らかに人間や口寄せ動物にも見えない化け物……黒髪の何か知っているらしき登場人物は、驚きを見せながらもそれをどこか当然のように受け入れていた。
そもそもこんな連中、木の葉の里で見たこともないぞ。
…これは本当に、
「ならこれは幻術……いや、にしては
一瞬この里の暗部が父ちゃんを脅す為に長男である俺をと考えたがすぐにそれを放棄する。
そもそも俺が生まれた奈良家は木の葉の里でも日向やうちは程ではないにしろそれなりの良家だし、奈良家に手を出せば木の葉結成以前から盟約を交わす山中家や秋道家が黙っているわけがない。
何より今は戦時中…すでに第三次忍界大戦などと言われるほどの大きな戦争の真っただ中だ。内ゲバをしている場合じゃないことなど誰の目でも明らかだし、そもそも俺では脅迫の材料にしてはあまりにも弱すぎる。
口元に手を当てながら、でも目線はテレビから離さないまま考えるが答えは出ない。
気づけばいつの間にか話は進み、夜の建物内を化け物が闊歩していた。
どうやらこれらは呪いが生き物のような形を作ったものらしい。
驚いたのは次の瞬間だ。
“邪魔だ!玉犬――!”
黒髪黒づくめの男がそう叫ぶと共に、俺たち忍のように印を結んだ…いや、違う。犬の影絵を作るように手を組むと、黒づくめの影がドロリと動く。
奈良家の相伝忍法“影縛りの術”かと思った。
でも、そうじゃなかった。
影から白い狼が、次いで対となる黒い狼が現れ一瞬で化け物を退治していく。
「なんだ…
これまでとは違う声音が自分の口から出ていた。
この忍界には様々な術や一族、そして血継限界があるがその中でも影を操る術は俺たち奈良家だけのもの。
その中でもこんな風に影を媒介に何かを生み出す、または呼び出す術なんてないしそもそもその奈良家の俺でさえ
確信した。
これは俺の夢じゃない。
けどこれは…俺の為になる夢だと。
“素晴らしい!!おう殺だ!!アッハッハッハ!!――”
気づくとテレビは虎杖が何なら頬にもう両対、目を生やして何やら物騒なことを騒いでやがる。もしかしてこれ、途中で言っていた宿儺とかいうのが蘇ったのか?
「っち、しまったな…考えている最中もこっちとは関係なしに進むのか」
となると目を離すわけにいかないか……そもそもこの夢で見た内容、起きても覚えているのだろうか?
「まぁいいか、その辺は」
取り合えず面白そうで俺の為にもなりそうな内容だし、何より俺の夢じゃないと仮定した以上どうしようもないんだ。ならせめてこの物語を楽しんだほうが良い。
思考を手放し改めて胡坐を掻きなおしてテレビの前に座る。
少なくともこの一話を見た感想は、また続きが見たいといった内容だった。
さてあれから1か月ほど経ったがやはりというべきか俺の「これは自分の夢じゃない」という予想は当たっていたらしい。
「よぉ、また来たぜ」
誰もいない真っ白な空間にポツンと置かれたテレビにそう声をかければ、ブゥンと鈍い音と共にテレビが点いて映像が流れ出す。
「今日は“渋谷事変”からかぁ…」
結局起きても俺はこの夢を覚えていた。
毎日見る度に一話ずつ物語は進んでいき、おおまかなこの『呪術廻戦』の話の流れも分かった。
簡単に言うと呪いにまつわる呪霊と呼ばれる化け物と呪いを操る呪術師と呼ばれる人間との戦いが描かれており、登場人物たちはそれぞれ呪術…俺たちで言う忍術を使い呪いを払うというもの。
呪術は個人によってその強さや特徴があり、不審者こと五条悟なんかは此方の忍界でもどうやれば勝てんだよと思えるほど強かったのは正直ビビッた(だってしょっちゅう自分で最強とかいうやつが本当に最強とか普通思わんじゃん?)
「てか見てて普通に面白いんだよなこれ、うん」
どこか忍術に共通する部分がある呪術。
それぞれがもつ術式を血継限界に例えれば理解は決して難しくないし、何より自らを不利にすることで術の出力やクオリティを上げる“術式の開示”や“縛り”はかなり面白く感じる。
てかこれやろうと思えば忍術でも応用出来るよな?
簡単に言えば大きなリターンを求める代わりに大きなリスクを背負う事と一緒だ。
なら初めから術にリスクを込めればその分術も強くなるはず…更に言えば写輪眼を代表とする模倣も難しくなるはずだ。
「いや、敢えてそのリスクの内容を話すことも縛りになるのか?やっぱ面白いな、これ」
ポリポリとあれから増えたソファーに座って足を組み、宙に手を出せば勝手に生えるポップコーンを食いながらそうごちる。
本当はここでコーラがあれば最高なんだけど何故か出ない。
多分それもまた徐々にこの『呪術廻戦』を見ていけば出てくるのだろう。
「…あ、終わった」
次回は五条か。
正直俺としては伏黒恵の活躍をもっと見たいんだけど。
その理由は当然、彼が使う“十種影法術”――。
「まぁ、ここまで来て
砂嵐となった画面から目を離し存在しない天井を見つめそう呟く。
当然、返答はない。
分かり切っていたことだ。
「じゃあそろそろ起きるから」
また来るよ――。
……それから数日。
当たってほしくなかった予想が当たってしまった。
「ウッソだろ……おい」
俺は全話を見終え、思わず前のめりになってここ数日砂嵐のみとなった画面を食い入るように見つめた。
そう、
明らかに物語が終わっていない状態でテレビは『呪術廻戦』を映し出さなくなってしまった。
「はぁ?いやいやいや……!」
何で?いやマジでわけ分からん。
「だってお前、
確かに見た、知った。
“十種影法術”における最強の奥の手を。
この術式を俺が使う為に必要な『縛り』もすでに大凡考察し、後は自らに設定するだけまで来た。
でもまだだ、まだ理解が足りない。何より……。
「封印された五条は!?宿儺との決着はどうすんだテメェ!!」
楽しかったんだ、この物語が。
単純に一人のファンとして『呪術廻戦』を楽しんでいた…だから気になる、この続きが。
「見せろ!俺が見たいから見せろ!!誰だか知らねぇがここまで来て放置はねぇだろオイ!!」
ソファーから飛び上がるようの立ち上がり、そのままの勢いでガンガンとテレビを蹴る。
餓鬼かって?たりまえだ。
こちとらまだ今年5歳になる幼児ぞ?駄々を捏ねて一体何が悪いってんだ。
『悪いに決まっておろう』
「あ?」
突然聞こえた皺枯れた老人の声に背後に現れた気配。
初めてのことだった。
けれど今の俺にはこの好奇心を抑えることが出来なくて、何も考えずに振り向くと……呪霊がいた。
『おい、誰が呪霊だ誰が』
「うわ、キッショ。頭ン中当たり前に覗くなよ
『ハァ…最近の子供は礼儀がなっておらんな。目上に敬語も使えんのか』
「アンタ敬語の意味知ってる?敬う相手に使う言葉と書いて敬語だぞ?明らかに不審者丸出しの相手に何でそれを使わねぇといけぇんだ」
そう言い返すと再び
「
『うむ、
夢だ、これは夢だ。
だから一々何がとか言う必要がないのは話が早い。
『そもそもこれがただの夢では無いことくらい、お主なら気づいておるのだろう?』
「まぁそりゃなぁ」
だって明らかにそうじゃん。
誰かないし、何かがそういう意図を持って俺にこれを見せた。
『お主は……いや、もう意味を成さぬか』
「うん」
パタン――と俺たちの間に何かが落ちてきた。
見るとそれはどうやら漫画のようで、表紙の絵を見れば明らかに『呪術廻戦』だ。
俺が求めた続きが、この中にはきっと描かれているのだろう。
『一応聞こうか…理由は?』
「へぇ、それを口にしていいの?下手すりゃもう
パタンと一冊、また一冊と何処からともなく本が落ちて来る。
まるで砂時計の砂のように――。
『言ったろう?もう儂が出た時点で遅いのだと』
この爺さんが誰かなんて、俺には分からない。
そもそもこれは誰かが俺に見せている夢だが、見ているのは俺自身。
俺が続きを望んだからこそ、この夢は毎日『呪術廻戦』を一話ずつ見せてくれた。
多分だけど俺がつまらない、見たくないと思えばそれで終わりだったんだと思う。
だからこの爺さんもきっとそう。
ここが分水嶺だと分かりやすくそれが出てきた。
『そうだ。儂は
へぇ、よう分からん。
ただもう時間がないことだけは分かる。
何せ爺さんの姿が徐々に薄くなってきてるからな。
「……最近さ、弟が産まれたんだ」
『……』
「分かるだろ?ただそれだけさ」
別に忍の家に生まれたからだとか、木の葉の里を守りたいとかそんな大層なものじゃない。
戦争があった。
一年前にそれは終わった。
木の葉は勝った。
でも大勢の敵、そして木の葉の仲間が死んだ。
…その中にもし、父ちゃんや母ちゃんがいたらと思うと……怖かった。
これから先、生まれたばかりの弟ももしかしたら戦場に行くのかと考えると耐えられそうにない。
父ちゃんを、母ちゃんを…弟を守りたい……たったそれだけ。
「もっと分かりやすく言おうか?俺は
言葉にした途端、それまで存在していなかった足元の影が足を伝い、徐々に全身を包んでいく。
すでに爺さんの姿はない。
超えてしまったな…と、何となく思った。
あれほど白かったこの空間も、気づけばこの影のように黒くなっている。
……どこからともなく赤ん坊の泣き声が聴こえたような気がした。
いや、違うな。
時間だ。
「――ァ!オギャア!」
「……あーそっか、そういや今父ちゃんも母ちゃんもいないんだった」
弟の世話を頼まれていたのに何時の間にか寝てしまうとは…これではお兄ちゃん失格だ。
よっこいしょと言いながら起き上がり、まだまだ小さな弟が寝転ぶベビーベッドに近づいていく。
「あ゛―!!」
「おーよしよし、ちょっと待ってな
右手の薬指と中指を広げて左手の手を重ね、そして両親指をクロスさせるように立てる。
呼び出す式はもう、決まっている。
「――来い、玉犬」
第三次忍界大戦終結より約一年後。
奈良家
同日
奈良家
十の縛りと共に“十種影法ノ術”の会得に過去現在、そして未来において唯一成功。
同時に奈良家相伝“影縛りの術”を
後に『奈良家の異端』と周囲から呼称。
更に後、『木の葉の異能』と他国から畏れられる事となる――。