本と、一瞬と、美しさと。   作:高山典子

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第11話

 美術館に着くと、玄関ゲートでは紫陽花(あじさい)(かざ)られたように咲いており、美術館の職員と思わしき男性が水を()いていた。

「あっ、今年もキレイに咲いてるじゃん。――ここの美術館、こうやって月ごとに季節に合った花を玄関ゲートに植え替えしていて、手入れがマメなんだ。――あっ、上田さん」

 ホースを持って水やりをしていたその男性は、一旦(いったん)コックをひねって、振り返ると、

「おっ、俊介。今月も来てくれたんだ。――やけに可愛(かわい)い子を連れて、今日はデートか?」

と、土屋と並んで立っている唯子を見て、上田はニコリと笑った。

「いや、たまたま美術に興味深い子と知り合っただけですよ」

「ハハッ。そうか。まぁ、今日は天気が良いから、テラスからの(なが)めも良いし。ゆっくりしていって」

 上田は唯子と目が合うと、はにかむように微笑(ほほえ)んだ。

 

     ――――――

 

「『上田』さんって男性(ひと)と、知り合って長いんですか?」

 約1時間かけて、特別展を鑑賞(かんしょう)した二人は、美術館内のレストランでランチを取っていた。

「うーん、知り合いっていうか、上田さんはここの館長――オレの親父の知人――の一人(ひとり)息子で、オレ、よくここの来るから、顔馴染(かおなじ)みなんだ」

 私でいうところの、恵さんみたいな存在なのかな、と、唯子はふと思った。

「でさ、オレ、一人っ子で、上田さんより8才も年下だから、何か年の離れた兄貴っつーか。そんな風に思ってるんだ。ここへ来ると、色々相談したりする事があって。まぁ、写真も美術も、同じ芸術分野といえば、そうだし。――この前、一緒に行った喫茶店のマスターも、いつの間にか仕事でほとんど家にいない親父の代わりみたいな感じになっててさ。外に出て、実際に体感する事で、小さかったオレの世界が広がったんだ」

 外に出て、体感する――。

 読書する事でしか得るものが無かった唯子にとっては、とても考えられない、未知(みち)情景(じょうけい)だった。

 そして、その言葉は、彼女の胸の奥に深く(ひび)き、近い将来、自分はどんな職業に()いているのだろう、と想像した。

 文学部がある大学へ入学して、本屋でアルバイトをし、図書館の司書(ししょ)()いて、本三昧(ざんまい)の生活に(ひた)る事しか考えていなかった道に対して、土屋のように、自分も隠れた才能や可能性を、何かのきっかけで見つけ出す事出来るのなら――。

 ぼんやり頭の中で想像し始めると、

「ねぇ、美術館(ここ)に来る前に言ってた頼み事――今日さ、オレの専属(せんぞく)モデルになってくれない?」

と、ペペロンチーノを食べ終えた土屋が、ふいに話を持ちかけた。

                    (つづく)

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