本と、一瞬と、美しさと。   作:高山典子

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第12話

「オレ、自然の風景とかばっかりカメラに収めた事がなくて。きちんと人物を撮った事がないんだ。さっき、日傘をもってた姿、なかぬか“(さま)”になってたし。着てる服も、今日の天気とここのテラスに()えると思うんだよね。――ダメかな?」

 唯子はそれをきくと、トクンッと胸がときめいた。

 そして、

「上手く撮れたら、学校で発表をするんですよね?」

と、分かりきった質問をした。

「もちろん、そのつもりだけど。――あっ、ギャラとか出した方が良い?っていうか、人目とか気にする年頃だもんな。やっぱり……」

「えっ、いえ、その……、私、何かの機会(チャンス)にこの美術館に来れたらって思ってたんで、連れて来てもらえただけでも、嬉しくて……。お金とか()らないです。それに――」

 唯子は、冷製パスタを全て食べ終え、土屋の黒ぶちのメガネの奥にある(ひとみ)を見つめて、

「私で良かったら、ぜひ協力(きょうりょく)させて下さい」

と、気付けば自分でも思いも寄らないく(くらい)(いきお)いのある返事をしていた。

「おっ、やってくれるの。――連れて来て良かったよ。それじゃ、早速……、あっ、でも、その前に――」

と、一呼吸置くと、

「唇にクリームが付いてる。化粧室、行っておいでよ。インフォメーションコーナーで待ってるから」

と言った。

 唯子は、着てきた服を汚さずに済むと思って注文したショートパスタを食べた事を、恥ずかしく思った。

 そして、(あわ)てて化粧ポーチとハンカチを持って奥にある女子トイレへと急いだ。

 

     ――――――

 

 美術館のテラスは、ガラス張りになったレストランと隣接(りんせつ)していて、ガラスの向こうでは、カップルや老年の夫婦達が、そこから一望(いちぼう)出来る海を(なが)めながら楽しげに、おしゃべりをしていた。

「よし、じゃあ今度は席に着いて。それで視線は遠くを見て、左手はアゴに当てて――、そうそう、良い感じ」

 空席の、真っ白なテーブル席に座って、唯子は広々とした海を見つめた。

 カシャッ、カシャッ。

 潮風(しおかぜ)も心地良い程度に吹いており、建物の日陰(ひかげ)で過ごすには絶好(ぜっこう)のロケーションだった。

 唯子はこんな間近(まぢか)で海を眺めるのは、中学生時代の修学旅行以来だった。

 海がキレイな所、と評判(ひょうばん)で有名な場所で、テレビの旅番組などでしか見かけられないような、透明感のあるターコイズブルー色を期待していたのだが、あいにくの悪天候で、土石流(どせきりゅう)――とまではいかないが、(にご)った荒波が岸辺(きしべ)に押し寄せていた。

 しかし、今、目の前にしている景色は、どこまでも青く広がっていて、空の色が海に(うつ)ったのか、海の色が空に(うつ)ったのか――、そう思える程、いつまでもそこに()たかった。

                    (つづく)     

 

 

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