嘘をつくにしたって、大したメリットは無い。むしろ、マイナスイメージだ。
そう思うと、唯子は、今度こそ本当の事を確かめようと、写真展に向けて、自分磨きに勤しんだ。
――――――
そして当日。
いつもより早起きをして朝食を済ませると、念入りに髪の毛の手入れをし、昨日塗ったばかりの夏色カラーのマニキュアと合うワンピースを、いくつか試着して、ようやく決めたそれに袖をし、何度も鏡の前で髪型をチェックした。
「行ってきます――」
9時を過ぎた頃に家を出ると、雲一つ無い青空が広がっていた。
唯子は百貨店の最寄りの駅まで着くと、近くの露店の花屋で花束を買い、すでに開店している百貨店を見て回った。
2階のヤングレディースフロアで服や靴を見ていると、自分と同世代の女の子の二人組が歩いているのを見かけた。
「それにしてもスゴイよね――」
「土屋君、一人で写真展を開くなんて――」
「土屋」と「写真展」という言葉を聞いて、唯子はハッとその場で立ち止まった。
土屋が一人で写真展を開いた?
確か、彼自身の話では、専門学校の生徒で展示をするはずだ。
一体、どういう事なのだろう。
「――お客様、何かお探しでしょうか?」
店員の女性から声をかけられて、唯子は我に返った。
「……あっ、いえ、見ているだけです……」
「そうですか。とうぞ、ゆっくりご覧になって下さい」
そう言うと、店員はその場を離れた。
しばらくすると、写真展の開催時間の5分前を知らせる携帯電話のアラームが鳴った。
彼女自身、エレベーターへ向かう足取りが速くなっているのに気付いた。
そして、開催時間の11時ピッタリに辿り着くと、看板が大きく掲げてあった。
『土屋俊介――photographer(写真家)への第一歩――』
タイトルからして、個展である事には間違いなかった。
受付の席に座っている女性に、特別招待券を渡そうとすると、
「こちらの写真展は、無料でご覧になれますよ?」
と、言われた。
戸惑いを隠せないまま、花束の入った紙袋を持って、会場に入った唯子は、途端にその「世界」に圧倒された。
展示されている写真は、どれも白黒で、初めて土屋にフォトブックを見せてもらった時のような、艶やかで彩りのある作品は一枚も無かった。
しかし、時がその場で止まったような、それでいて、どこか懐かしい感じのする撮り方ばかりで、彼女はその世界観に、どんどん引き込まれていった。
動物園の檻の中で、昼寝をするシマウマ。
年代を感じさせる、車のアップ。
空の彼方へと飛んでいく、風船の群れ。
(つづく)