「――いやぁ、あのオバサンには助かったよ。ハゲたジィサンなんて、耳元で
「あの」
「何?」
「あの図書館の女性、まだ『オバサン』じゃないんてすけど」
「じゃあ、いくつ?」
「……」
歩道のアスファルトからは、今にも蒸発しそうな湯気が見えそうで、駅へと足早に向かう唯子の後ろから付いてくる「彼」は、雨上がり特有の蒸し暑さも平気そうな声だった。
「あの」
「またまた何?」
「私、あの図書館も、あそこに通う人も皆、好きなんです。だから、変な真似して図書館の嫌な
「オレ、そこそこ通った事があるんだ。まぁ、あそこへ行ったの中学生以来だけど。サガンにヘミング=ウェイ、ドストエフスキーにカフカ……。色々読んだな」
意外な「彼」の答えに、唯子はふいに足を止めた。
自分と近い年頃の男性が、本好きじゃないと分からない作家の名前を出すなんて、と驚きを隠せなかったのである。
赤と黒のチェック柄の
そして話し方こそ
それなりのブランドのスーツを着て、
「君、日本の近代文学、好きでしょ?」
「――えっ?……えぇ、まぁ……」
「そんな顔、してる。あと、ケーキよりも
……一体、何なのだろう、この
「オレ、
「……2年生……です……」
歩道に植えられた
「……あの……、市の職員の方じゃないんですか?それに名字も『田中』なんじゃ……」
「あー、あれ、全部あのオバサン……じゃなくて、あのお姉さんの
「……恵さんとは、知り合いなんですか?」
「『恵さん』?――あぁ、あの職員のお姉さんとは全く何の
そう言って、「彼」――土屋は近くの苗木をパシャッと写真に撮った。
(つづく)
★次回更新予定日︙2025年2月1日(土曜日)