本と、一瞬と、美しさと。   作:高山典子

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第6話

「今さ、学校の課題で何枚か撮った写真を皆の前で発表しなきゃいけないんだ。面倒くさいんだよね、そういうの」

 それじゃ、なぜ、迷惑がられるような真似までして、と唯子が思ったところで、

「ねぇ、この後、予定ある?」

と、土屋に唐突(とうとつ)に尋ねられた。

「……いえ、特に……」

「じゃあさ、駅前のカフェでも寄って行かない?(のど)(かわ)いたし、無理やり引っ張ってきたお()びも()ねて。もちろん、オゴるからさ」

 良い人なんだか、悪い人なんだか、さっぱり分からない。

 でも、唯子は土屋と何か“つながり”があるような気がした。

 そして、一瞬ためらったが、

「……じゃあ、30分だけなら……」

と、返事をした。

「よし、決まり。――ついでにさ、今までオレが撮った写真、見てくれない?発表するまで、学校の友達に見せるの、禁止なんだ。そういう決まり事は守る主義(ポリシー)なんだよね」

 その言葉を聞いて、面倒だという課題は、実は何か理由があって、そう言わざるを得ないんだろうと、唯子は感じた。

 

 

「――いらっしゃいませ――」

 土屋に案内されて入ったカフェは、女子高生やOLが入る、明るく開放的な雰囲気――ではなく、いわゆる「純喫茶」の(たぐい)に入る(かく)()のような店だった。

 土屋はこの店の常連客なのか、マスターと親しげに会話を交わすと、カウンター席に座った。

「コーヒー、飲める?」

「……ぬるめのカプチーノなら……」

「分かった。――マスター、いつものヤツと、ぬるめのカ

プチーノ、それから、ドーナツ2個ね」

 (かぶ)っていたハットを下ろした土屋は、

「ここ、ドーナツが裏メニューなんだ。オールドファッションなんだけど、それがまた美味(うま)くてさ。クセになるんだ」

と言い、(かばん)の中からA4サイズのフォトグラフを取り出して、唯子に見せた。

 満開に咲いた桜の木と、その近くで流れる川。

 オレンジ色に()まった浜辺(はまべ)と、水平線上に暮れていく夕日。

 画面いっぱいに映し出された、水滴が乗って瑞々(みずみず)しい赤色のハイビスカス――。

「――お待たせしました――」

 気が付くと、カプチーノの入ったカップと、黄金(こがね)色をしたドーナツがカウンターに、置かれていた。

「――どうだった?オレの写真」

 フォトブックの中の他の数々の写真も、単なる「写真」というより、「作品」として評価出来る(ほど)の仕上がりだった。

「……どれも綺麗(きれい)で……、特に、最後のページのハイビスカスの花が気に入りました」

「へえ、気に入ってくれたんだ。見せた甲斐(かい)、あったな」

 土屋の話によると、彼の父親は写真家で、当時退屈で()まらなかった学生生活にピリオドを打つため、何かのめり込めるものはないかと模索(もさく)して出会ったのが、父親の行きつけだったこの店の当時のマスターが(すす)めた写真家の道だった。

                    (つづく) 

 

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