本と、一瞬と、美しさと。   作:高山典子

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第8話

 すると、土屋は「アッハッハ!」と大声でお(なか)(かか)えて笑い出した。

 その声を聞いて、唯子はハッとし、恥ずかしさでいっぱいになった。

「いやいや、結構。冗談(じょうだん)のつもりで尋ねたんだけど、まさか本気で答えてくるとはね」

 土屋はニヤニヤし出すと、

「約束の30分、過ぎちゃったな。――じゃあ、今度の日曜、10時に✕✕駅の改札で待ち合わせって事で。マスター、2人分のお勘定(かんじょう)、ここに置いとくね」

と言って、店を出てしまった。

 一人にされた唯子は、土屋のコーヒーカップに少しだけ残った中身を、じっと見つめていた。

 

     ――――――

 

 唯子の通う市立図書館は、毎月第2土曜日の夕方、「読書の会」という集まりがある。

 市内に住んでいる中学生以上なら誰でも参加でき、図書館の奥にある「多目的ルーム」に、毎回30名(ほど)の色んな世代の人が集まっていた。

「読書の会」の前半は今、自分が読んでいる本の内容と感想を、集まった皆の前で発表し、後半は、次はどんな本が読みたいか意見交換をしたりするものであった。

 唯子は、その会の常連(じょうれん)で、特に年配(ねんぱい)の人と顔馴染(かおなじ)みである。

「唯子ちゃん、今日も辛口(からくち)評価だったねぇ」

 時代小説が好きな、70才を迎えたばかりの男性から、声をかけられた。

「『時代が違っても、変わらないものはある』って、唯子ちゃんの年頃の子じゃ、なかなか言えないよ」

「あぁ、今日も言っちゃいましたか……。皆の前では好評価するつもりでとは思っていたんですけど……」

「いやぁ、本の帯に書かれた『〇〇()』絶賛!今世紀始まって以来の大作(たいさく)!」

の文句に()かれて、つい読む気にさせられた私に問題があったよ。私の専門分野たと思って……。唯子ちゃんみたいな、若くて熱心な子がいると、良い刺激になるよ。――それじゃあ、また」

と、別れを告げられると、唯子は後ろから肩を叩かれた。

 振り向くと、この会の担当者である恵がいた。

「あっ、恵さん……。私、今日も毒舌(どくぜつ)吐いてましたか?」

「ふふっ。聞いていて面白かったわよ。特に、男女の会話のやりとりが、ぎこちない、ってね」

「……そうですか。でも、今時の若い人って、あんな一種(いっしゅ)の恥じらいとか、持っているものなんですか?明治とか大正時代の話なら、分かる気もしますけど……」

「唯子ちゃん、さすが目の付け所が違うわね。私なんて、その辺りはサラッと聞いちゃったのに」

「男女の会話」と聞いて、唯子は少し声を小さくして、

「あの、恵さんにちょっと、相談事があるんですけど……」

「あら、何?本の注文?」

「いえ、あの、それが……」

と、唯子は土屋からの誘いに乗って良いかどうか、迷っていることを説明した。

                    (つづく)    

  

 

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