本と、一瞬と、美しさと。   作:高山典子

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第9話

 すると、

「良いんじゃない?一緒に行っても」

と、明るい返事が(もど)って来た。

「確かに、許可(きょか)を得ないで勝手に写真を撮った事は、プライバシーにも関わる事だから、決して良い事だとは言えないわ。――でもね、親しい人は別として、知らない人から写真を撮られる時って、つい緊張(きんちょう)しちゃうから、本当の『良い写真』が撮れるとは限らないと思うの。だから、()えて無断でそんな事、彼はしたんじゃないかしら」

 恵はあの時、ただ図書館の職員としての体裁(ていさい)を守る為だけに、土屋をかばったんじゃなかったんだ、と唯子は(さと)った。

「彼――『土屋』君」って言ったっけ?もしかしてだけど、彼のお父さん、プロの写真家じゃない?多分、ここの書庫にも写真集があったと思うの」

 それを聞いて、唯子は、土屋の話を半信半疑(はんしんはんぎ)で聞いていた自分を(かえり)みた。

「――『書庫案内』の検索、自分でしてみる?」

「……はい、そうします」

 唯子はすんなり答えると、書庫案内ができるパソコンの元へと向かった。

      ――――――

 

「プロフィール

 土屋 俊一(つちや しゅんいち)

 1973年、▲▲県生まれ。〇〇大学芸術学部写真学

 科卒業。

 1998年、アシスタントを()独立(どくりつ)

 広告、ファッション、ドキュメンタリーと様々な分

 野で活躍(かつやく)

 作品集に、『アルジェリの昼下がり』、『光と(やみ)と希

 望』など、多数――」

 図書館にあった、2年前に出版された写真集を見終えて、唯子は自宅の部屋の机の上で、大きな溜め息をついた。

 今まで、「文学」という無色の世界にしか(ひた)った事のない彼女は、(いろど)(あふ)れる花々のアップや異国情緒(じょうちょ)(ただよ)う景色など、「色」で満ちた鮮烈(せんれつ)印象(いんしょう)を受ける作品に触れて、自分の中にある()るぎない何かが(はじ)ける感覚を覚えた。――そう、土屋俊介に、彼が撮ったフォトブックを初めて見せてもらった時のように。

 そして、同時に彼に嫉妬(しっと)(おぼ)えた。

 自分と同じように文学を(この)み、それでいて「写真」という自分を表現できる感性を持ち合わせている自由奔放(ほんぽう)さ――。

 唯子は自分と、そう年齢が違わない、しかも異性に対して、こんなもどかしい感情を(いだ)くのは初めてだった。

 これまで、自分の分身(ぶんしん)ともいえる本の世界に自分を包んでいたのは、本当は何も出来ない自分を(かく)そうと(から)に閉じこもっていただけなのだ。

 そう思うと、これまで敬遠(けいえん)していた、好きなモデルの髪型を真似(まね)したり、流行り(はや)りのアイドルの追いかけをしている同級生達が、急に(うらや)ましく感じられた。

 これじゃ、見た目は高校生でも、心はシワ()れたお(ばあ)さんみたいじゃない……。

 唯子は自分の不甲斐無(ふがいな)さが情けなくなって、すっかり落ち込んでしまった。

 そして、図書館で借りたばかりの写真集を机の上に置き、ベッドに入ろうとした時だった。

                    (つづく)         

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