すると、
「良いんじゃない?一緒に行っても」
と、明るい返事が戻って来た。
「確かに、許可を得ないで勝手に写真を撮った事は、プライバシーにも関わる事だから、決して良い事だとは言えないわ。――でもね、親しい人は別として、知らない人から写真を撮られる時って、つい緊張しちゃうから、本当の『良い写真』が撮れるとは限らないと思うの。だから、敢えて無断でそんな事、彼はしたんじゃないかしら」
恵はあの時、ただ図書館の職員としての体裁を守る為だけに、土屋をかばったんじゃなかったんだ、と唯子は悟った。
「彼――『土屋』君」って言ったっけ?もしかしてだけど、彼のお父さん、プロの写真家じゃない?多分、ここの書庫にも写真集があったと思うの」
それを聞いて、唯子は、土屋の話を半信半疑で聞いていた自分を省みた。
「――『書庫案内』の検索、自分でしてみる?」
「……はい、そうします」
唯子はすんなり答えると、書庫案内ができるパソコンの元へと向かった。
――――――
「プロフィール
土屋 俊一(つちや しゅんいち)
1973年、▲▲県生まれ。〇〇大学芸術学部写真学
科卒業。
1998年、アシスタントを経て独立。
広告、ファッション、ドキュメンタリーと様々な分
野で活躍。
作品集に、『アルジェリの昼下がり』、『光と闇と希
望』など、多数――」
図書館にあった、2年前に出版された写真集を見終えて、唯子は自宅の部屋の机の上で、大きな溜め息をついた。
今まで、「文学」という無色の世界にしか浸った事のない彼女は、彩り溢れる花々のアップや異国情緒が漂う景色など、「色」で満ちた鮮烈な印象を受ける作品に触れて、自分の中にある揺るぎない何かが弾ける感覚を覚えた。――そう、土屋俊介に、彼が撮ったフォトブックを初めて見せてもらった時のように。
そして、同時に彼に嫉妬を覚えた。
自分と同じように文学を好み、それでいて「写真」という自分を表現できる感性を持ち合わせている自由奔放さ――。
唯子は自分と、そう年齢が違わない、しかも異性に対して、こんなもどかしい感情を抱くのは初めてだった。
これまで、自分の分身ともいえる本の世界に自分を包んでいたのは、本当は何も出来ない自分を隠そうと殻に閉じこもっていただけなのだ。
そう思うと、これまで敬遠していた、好きなモデルの髪型を真似したり、流行りりのアイドルの追いかけをしている同級生達が、急に羨ましく感じられた。
これじゃ、見た目は高校生でも、心はシワ枯れたお婆さんみたいじゃない……。
唯子は自分の不甲斐無さが情けなくなって、すっかり落ち込んでしまった。
そして、図書館で借りたばかりの写真集を机の上に置き、ベッドに入ろうとした時だった。
(つづく)