九つの塔。救世の勇者。おまけに悪役面おじさん。   作:嶋野夕陽

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今日の喋る魔物

 宿へ戻ると、先日同様ロビーに仲間たちが集まっていた。

 ソファに座って待っていたようだが、ジークの姿を見ると皆一様に立ち上がる。

 何かあったのだなとすぐに分かったジークは、とりあえずニコラのところへまっすぐ歩いていって「ただいま」と言葉をかける。

 

「おかえりなさい、ジーク。待ってたのよ」

 

 ジークはこくりと頷き、ヴァンツァーの方を向く。

 

「何があった」

「ちょっと時間のかかる話なので座ってよ」

 

 空いている場所、ニコラの隣に腰かけると、ヴァンツァーがすぐに口火を切る。

 

「五十階層で喋る魔物と遭遇した」

 

 ジークは素早く視線を走らせるが、現状誰も大きな怪我が見当たらない。

 無事にやり過ごしたということだろう。

 

「そうか」

 

 これだからできることなら塔にこもり続けたほうがいいのだ。

 外に出ている間に、ジークと遭遇しなかった喋る魔物が下層へ移動する可能性が増えていく。

 

「聞いていた通り、小柄で筋肉質。顔に髭を纏った斧を使う戦士。クエットさんから預かった球を地面に投げてすぐに撤退するつもりだったんだけど、逃げようとした時に、喋る魔物が声を上げたんだよね」

「そうか」

「テルマさんにはそれが、『背を向けて逃げるか、正々堂々戦え』と聞こえたらしい」

「テルマには?」

「うん、テルマさんには。僕たちは何を言っているのかわからなかった。その隙に手斧が一つ飛んできて、マリンの足を傷付けたので、仕方なく一時的に交戦状態に入った」

「すみません、私が振り返ったせいで……」

「私が一瞬気を取られたのが悪いよ。テルマちゃんのせいじゃない」

「ああ、マリンか」

 

 テルマがヴァンツァーの探索者仲間の一人であるマリンに謝罪をし、マリンが首を横に振ってそれを否定する。仲間意識のある二人の温かいやり取りの後に、ジークは聞き覚えのない名前の正体を理解して頷いた。

 

「……あんた、私の名前覚えてなかったでしょ」

「名乗られてない」

「そんなこと……! …………あるかも」

 

 ジークの前で互いの名を呼んだことはあるが、直接自己紹介をしたことはない。それはジークだって同じだが、そう言われると自己紹介していなかった自分たちの方が悪いような気分になる。

 

「昔、慣れ合うつもりはないとも言われた」

「それは言ってない!」

「それはあたしが言ったかも……」

 

 別の女冒険者が気まずそうに目を逸らし、マリンが「あ……」と言って黙り込む。

 

 ジークも一応ヴァンツァーの仲間、として顔は認識している。

 ただ、名前を覚えていないだけで何かあれば優先的に守る対象と考えているのだ。薄情なわけではない。

 

「マリン、ドレッサ、サイヤ、カロンです。今はその話後でね。続けるよ」

「一応テルマさんと僕で前線に立って戦った。逃げる隙を探してた、って感じだけどね。その途中にテルマさんがしゃべる魔物に話しかけたんだ。『あなた、言葉が分かるんですか!?』って」

「その時は皆にも言葉が伝わっているのだと思っていました。あとから私だけに聞こえていたと分かったのですが」

「そうなんだよね。僕も驚いたけど、喋る魔物も驚いたみたいでさ。目を丸くしたところで不意を突いて一撃いれることができた。続けて攻撃に移ろうとしたんだけど、距離を取られちゃってさ。結局地面に潜って逃げられちゃった」

「そうか」

 

 戦闘風景を頭で思い浮かべながら聞いていたジークは、なる程うまく戦ったものだと納得。テルマも連携をとれば喋る魔物と良い勝負ができるならば、なかなかしっかりと成長していると言えるだろう。

 教えたことが無駄になっていないようだと満足していた。

 あと一年も一緒に探索をしていれば、一人で九十階に挑戦しても問題なくなるだろう。

 

「そうかってジーク、それだけ?」

 

 横からニコラに言われて、ジークは少し考える。

 何か足りないものがあったらしい。

 

 ただいまと挨拶したし、真面目に話も聞いていたので、それ以上何を反応したらいいのか即座にはわからなかった。

 そうしてしばし真面目な顔で黙り込んでから、テルマの方を見て口を開く。

 テルマはごくりと唾を飲んで言葉を待った。

 

「少しは強くなったな」

「あ、ありがとうございます……?」

 

 褒められて嬉しい。

 嬉しいのだが想像していない言葉が飛んできたテルマは困った顔になってしまった。

 

「いや、そうじゃないでしょ」

「じゃあなんだ」

 

 ヴァンツァーに突っ込みを入れられて、何も思いつかなかったジークは問い返す。

 本気で言っているのだからたちが悪い。

 

「テルマさんがしゃべる魔物と交流ができるって分かったんだよ?」

「だから何だ。やることは変わらん。あいつら百階より上で普通に暮らしていることは元から知っていた」

「あ、いや、そっか、ジークさんはそっか……」

「そうよね、ジークだものね……」

 

 フロウ兄妹が同じ反応をするのに、ジークは黙って仏頂面をしている。

 別に怒っているわけではなくて、ただ何を言われているかよくわからず黙っているだけだ。

 

「……つまりね、交渉の余地があるかも、ってこと。明日からはジークさんには、またテルマさんと一緒に行動してもらいたいんだ。相手を倒してもできるだけ殺さないで情報を得る。それだけで、塔で何が起こっているか、喋る魔物の目的が何なんか、分かるかもしれないじゃん」

「…………殺した方が早くないか?」

「ジークさん、あのね、ほら、他にも塔がたくさんあるじゃない? だからたくさん情報が欲しいんだ。お願い」

「…………そうか」

 

 できればテルマはまだ八十階付近には連れていきたくないが、これだけ頼まれたら仕方がない。どうしても必要だというのならば、何とか守りながら戦おうと決めたジークである。

 

 女探索者たちは、流石のヴァンツァーもあきれ顔かと思ってヴァンツァーの方を見ると、なぜかちょっと嬉しそうな顔をしていて首を傾げた。

 ついでにニコラも同じような表情になっている。

 

「ジークさんはかわいいなぁ」

 

 ヴァンツァーがぽつりとつぶやいた言葉に、四人そろって納得。

 本当に顔も性格も非の打ち所がないほどに良いのだが、どうしてかこの二人、好きになる男の趣味だけはあまり良くないようであった。

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