九つの塔。救世の勇者。おまけに悪役面おじさん。 作:嶋野夕陽
「……相談させてください」
『よかろう』
テルマは、どうしたらジークが即座に斬りかかっていかないかを、真剣に考えながら言葉を選んでいく。
「聞いた話をまとめます。いくつか気になる点はあるのですが、推測は混ぜずそのまま伝えるので、ジークさんも冷静に最後まで話を聞いてください。ドグラさんは間違っていたら修正してください」
「わかった」
『うむ』
どちらからも短い了承を得たところで、テルマは話を始める。
「まず、こちらの方々は元々私たちと同じような世界に住んでいたそうです。その世界に塔が現れて、そこから喋る魔物が世界へ侵攻」
その時点でジークの目が剣呑なものに変わっていったが、ドグラは動ぜずに腕を組んだまま待機していた。
「元々の世界に住んでいたドグラさんたちドワーフという種族をおおかた滅ぼしたところで、ドワーフは新たな塔へと閉じ込められたそうです」
「どうやって」
「どうやって、と聞いてます」
『先祖の話じゃから細かい経緯はわからん』
「先祖のお話なので分からないそうです」
「そうか」
通訳している間もドキドキだ。
ジークが約束を守ると知っていても、いつ暴れ出すのではないかと思ってしまう。
味方にいれば頼もしいはずなのに、今はちょっとだけ不安だった。
「続けます。塔に閉じ込められた種族は、暮らせる人数が限られているそうです。その人数を超えると、生まれた赤ん坊が魔物に変わり、塔へと向かって行ってしまうそうです」
『正確には魔物の形として生まれ、急速に成長し、塔から降りる階段へと向かう』
「……魔物に変わるのではなく、魔物として生まれるそうです」
「…………そうか」
ジークは身の回りで起こったことで全てを想像する。
だからジークは、ハンナが身ごもって生まれたのがテルマではなく、魔物であったらと想像し、盛大に眉をひそめた。
「彼らはそれを何とかするために、塔から下り、外の世界へ出ようとしています」
「なるほど」
「その世界に住む住人を最も多く屠った塔の住人が、その世界の主となれるそうです」
『う……ぉお……』
それはそれ、これはこれ、なのだろう。
ジークの体から凄まじい殺気が漏れ出して、思わずドグラが声を漏らした。
しかしそれでも腕を組んだまま不動であったのが功を奏したのか、それともテルマが最初に冷静に最後まで話を聞くよう言い聞かせたのが良かったのか、ジークはやがて静まって、おもむろに口を開いた。
「誰が決めた」
「……その仕組みをですよね。それは私も気になっていました。ドグラさん、その世界の主になれるというのは誰が決めて知らせたのですか」
『儂もよく知らんが、そういうものだと儂らは知っている。先祖代々伝えられてきたことであるし、世界を奪って閉じ込めるほどの強大な何かが言ってるのだから、間違いないのだろうと疑ったこともなかった』
重要な部分であるにもかかわらず、曖昧な返答だった。
切羽詰まった環境で育ってきたのだから当たり前かもしれないと思う反面、どこか違和感を覚える。
『だがな、さっきも言ったろう。この化け物みたいに強い大男に頭ぶん殴られたらな、妙にすっきりしちまったんじゃ。あるいは、お前さんのように敵にも話ができるやつがいると知っちまって、本当に皆殺しなんぞにできるのかと自分を疑ってしまったからなのかもしれん。……今じゃこの話が妙なことを儂だって理解しておる。なぜ誰とも知れん奴の言うことを、何も疑わずに信じているのか、とな』
「……事情はドグラさんも分からないそうです。ただ、ジークさんの一撃を食らったら頭がすっきりしたそうです」
「そうか」
ジークはどっしりと構えたまま困った顔をするドグラをじっと見つめて、とりあえずその答えに納得することにした。今のドグラから先ほどまでの敵意を感じないことも事実であったからだ。
「それで、この場を穏やかに解散するために、私たちと一緒に塔の外へ出たいそうです。全員ではなく、ドグラさんだけでいいんですよね?」
『いかにもそうじゃ』
「どうでしょうか、ジークさん」
「構わん。ただし途中でも外でも俺の仲間に手を出さないことを誓わせろ。破ればこいつもここにいる奴らも全員殺す」
いかにもジークらしい回答だった。
野生の獣からやや文明に足を踏み入れたくらいの価値観である。
『なんじゃ、何と言っておる?』
「……構わないですが、ジークさんの仲間に手を出したら、ドグラさんもここにいるドグラさんの仲間も全員殺すそうです」
『ま、そりゃそうじゃろうな。儂が負けたんじゃから、それくらいは受け入れよう。それじゃあ決まりじゃ』
テルマは恐る恐る言葉をそのまま伝えたが、ドグラはあっさりとその条件を受け入れて、あろうことかジークに向けて手を差し出した。
『誓おう。儂は大地の守り人ドワーフのドグラじゃ』
「条件を受け入れてくれるそうです。それから、大地の守り人ドワーフのドグラだと名乗っています」
「そうか」
「あの、握手してジークさんも名乗ってもらえますか?」
別に握手をしたいわけではなく、意図を汲みかねていただけのジークは、言われるがままにドグラの手を掴んだ。
「ジークだ」
『よろしく頼む』
「……わかった」
言葉が通じていないはずなのに、ジークが仏頂面のまま返事をし、ドグラがにっかりと笑った。
「あの、分かったんですか?」
「分からん。だが、よろしく、みたいなことを言ったんだろ」
『良い戦士ってのは相手の目を見りゃわかるもんだ』
「そうですか……?」
よく分からない理論を提示されたが、通じ合っていることは確かなようだ。
それならば戦う前から通じ合ってほしかったものだが、とにかくテルマは、話がまとまったことにほっと胸を撫でおろすのであった。