九つの塔。救世の勇者。おまけに悪役面おじさん。 作:嶋野夕陽
『聞け! お前らは一度上へ戻って待機! 儂は外の様子を見て来る。このでかい嬢ちゃんは俺たちの言葉が分かるらしい。場合によっちゃあ事態は良い方へ転がるかもしれん! そうさな、儂が一カ月たっても戻らなきゃあ、今まで通り動きゃいい」
『それならば儂が!』
『そいつらのことを信じるのか!?』
『いいや、ここで両方息の根を止めて……』
『喧しい!! ごちゃごちゃ言わんでドワーフらしくしゃきっとずばっとせんか!』
ろくでもない提案の声が聞こえてきたところで、ドグラが怒声を放ち全員を黙らせる。その声一つで全体がびしっと静まり返るのは、流石国王と言ったところか。
『どうせ儂はこいつに負けて死ぬとこだったじゃ。何があっても悪い方向には損はせんじゃろうが』
ドワーフたちはそれでも俯いて、納得のいってなさそうな顔をしたが、反論するものはなかった。中には交渉のうちで、ドグラが自分の命と引き換えにこの場を丸く収めようとしているのではないかと疑っている者もいるようだ。
ジークの強さを目の当たりにしたからこその心配であった。
『ほれ、帰れ。お前らが帰ったら儂は出発する。……行け!!』
渋って動き出さないドワーフたちに、ドグラが大喝。
ようやくこの場所から立ち去り始めた仲間たちを、ドグラは厳めしい顔で見送る。
全員の姿が見えなくなったところで、ドグラはふーっと大きく息を吐いて、にっかりと笑ってジークを見上げた。
『よし、こっちの用はすんだぞ、ジーク。今度はそっちが約束を守る番じゃ』
「……いくぞ、ついてこい」
「……あの、もしかしてジークさんも言葉通じてませんか?」
「わからん。だが、あいつらを帰したんだから連れてけ、と俺に言ったんだろ」
大体あっている。
なぜ普段同じ言語を使っている人とコミュニケーションが取れないくせに、こんなところでは察しが良いのか。
テルマは首をかしげながら共に塔の中を進んでいく。
『わはは、戦士は心で通じ合うのだ!』
ドグラもどこか愉快そうに笑いながらジークの後に続いた。
一難去ったとはいえ、ここは九十五階。
油断するわけにはいかないと、テルマは警戒しながら塔を下っていく。
ドグラを連れていることの一番の問題は、おそらく転移の宝玉が使用できないことだ。勝手に下りて来いと言って、ドグラが他の探索者たちとトラブルを起こしてしまえば、こうして会話ができたことも全て無駄になる。
だから探索者として活動しているテルマたちが、きちんと外まで一緒に降りていくしかないのだ。幸いなことにドワーフはパッと見る限り髭が多く背の小さな人に見える。
誤魔化すことは難しくないだろう。
移動の途中、魔物に出会うことがあったが、基本的には全てをジークとドグラが片付ける。ドグラはジークにこそ負けたが、実力的にはテルマよりも圧倒的に高い。
倒した魔物の数はジークとトントンだ。
しかしその戦闘風景を見ていて、テルマは一つ違和感を覚えた。
九十二階まで下りて一晩休もうと決めたところで、それぞれ保存食をかじり始める。ジークが壁に寄りかかって周囲を警戒している中、テルマはドグラに話しかけた。
「……ドグラさんを攻撃している魔物と、攻撃していない魔物がいたように見えました。魔物よけのような術があるのならば知りたいのですが」
『…………そんなもんはない』
ドグラはしばし沈黙してから渋い顔で答え、ため息とともに目を伏せて続けた。
『儂のことを攻撃してこなかった魔物はな、この塔由来の魔物ではなく、ドワーフから生まれた魔物たちじゃ。つまりは……、儂がぶった切っていたのは同胞の成れの果てというわけじゃな』
「……失礼しました」
『いや、気にする必要はない。一緒に降りていくと決めたのは儂じゃ。……この世界の主となればあやつらも戻るんじゃあないかと考える者もおるが……、まぁ、淡い希望じゃろうな。何年もああして理性ないまま生きたものが、今更ドワーフに戻ってどうなるというんじゃ』
ドグラの言葉は自分に言い聞かすかのようであった。
ドグラ自身は襲われないのだから、本来一緒に戦わなくても良いところを、ジークたちと一緒に行動するためにきちんと戦い、切り伏せたのだ。一緒に行くと言った時点で、殺す覚悟はついていたのだろう。
「そうですか……」
『そんな暗い顔をするな! そうそう、儂の計画を教えてやろう』
あらかじめ説明して戦いを拒否することもできたろうに、あえて秘密にしたのは、余計な同情を買うような事は言うまいと考えたからだろう。
ドグラはわははとから元気で笑って話題を変える。
『儂らはな、今まで戦って勝つしかないと思っておった。だがなよく考えてみりゃあ、話ができるってことは、そっちの世界と交渉して住まわせてもらうこともできるかもしれんってことじゃろう? あとは儂がこのまま外へ出て何も問題が起きなきゃその可能性は上がる』
「それは、まぁ、そうですね……。世界中に土地はたくさんありますし……。とはいえ、新しい国が増えるとなれば、色々と面倒ごとは起こると思いますが」
『そこはほれ、戦力と考えてもらうって言うのはどうじゃ。儂らは土をある程度自在に操る魔法を使えるし、戦士の数もそれなりにいる。何なら話にならん他の塔の奴ら相手に、共に戦うことだってできるぞ。儂はなぁ、これでもドワーフの中じゃあ最高の戦士の一人なんじゃ。その儂を一蹴するようなあんなのと、まともにやり合っていられんわ。あんだけ強い戦士がいりゃあ、この世界は占領されんかもしれん。かけてみる可能性はあるじゃろう?』
乗り越えるべき課題は様々ある。
塔関係の様々な条件が分からないが、確かに可能性は零ではない。
「確かにそうですね……」
テルマは情報をジークに伝えることも忘れて、あり得る可能性についてじっくりと考えを巡らせ始めるのであった。