九つの塔。救世の勇者。おまけに悪役面おじさん。   作:嶋野夕陽

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ジークが頼る仲間

「何か他に考えがある人は?」

 

 ヴァンツァーはぐるりと仲間たちを見回してから、異論がないことを確認して深く息を吐いた。本人も受け止めるのに苦難しているところであり、それはクエット以外の宿で待機していた面々も同じだった。

 

「まずは食事をとってしっかり休んでください。その間に俺も頭を整理します。明日までドグラさんの詳細についての話はなしにしましょう」

 

 ヴァンツァーの宣言通り、その日は食事をして、そのまま各々が好きなように過ごすこととなった。宿を貸し切っているので、もう一部屋用意してもらうくらいは容易く、ドグラ個人の部屋も設けている。

 

『ほー、いい部屋だ。こりゃあありがたい』

 

 喜んで部屋へと入っていったドグラを見送って、ヴァンツァーはジークの部屋をノックし、返事を待って中へ入る。

 ジークは丁度上半身裸で体を拭いているところだった。

 体は傷だらけで、全身が実用的な筋肉で包まれている。

 

「………………あ、ジークさん、ドグラさんには向かいの部屋に入ってもらったよ。悪いんだけど、宿から勝手に出たり、不審な行動がないか気にしておいてもらえないかな?」

 

 それなりに長い時間ボーっと身体を見つめた後、ヴァンツァーは用件を思い出して頼みごとをする。

 まだまだドグラがどんな存在か分かっていないし、どこまで信頼できるかもわからない。今夜一晩はヴァンツァーが思考を整理するための時間であるとともに、ドグラが悪さをしないか確認をするための時間でもあった。

 

 一晩自由にして何も問題が起こらないようであれば、ひとまず短絡的な思考の持ち主ではないことが分かる。雰囲気からして豪快な人物であることが推測できるが、ジークたちに頼みこんで塔の外へ出てきた以上、ある程度頭が回る可能性が高い。

 ヴァンツァーとしては、これから手を取り合っていくような相手となるのなら、きちんと話ができる相手の方が都合がいい。

 

「わかった」

 

 お願いにあっさりと頷いたジークを観察しながら、ヴァンツァーは後ろ手に部屋の扉を閉めて、勝手に椅子に座る。

 

「……ジークさんは、ドグラさんの言うことを本当に信じてる?」

「嘘をついているようではなかった」

「僕もそれは思ったけどさ。しかしそれにしては怪しい点もあるよね。ジークさんに叩かれて考えが変わった……、つまり、勝てないと悟ったから様子を探りに来た、ともとれるし」

「そうかもしれん。その判断はお前に任せる。俺にはわからん」

「いいの?」

 

 ジークは振り返りもせずに体を拭きながら続ける。

 

「いい。お前は喋る魔物の情報を欲しがっていた。あいつと直接話をすれば情報が手に入る。一番人の死なない方法を考えて決めろ。俺はそれに従う」

 

 ジークはこれまで一人だけで犠牲が出ないやり方を考えて動き、うまくいかなかったことも多かった。一方でヴァンツァーが出す答えはいつも、説明がしっかりしており、そして何より、ジークの考えに沿ったスマートなものだった。

 

 ジークは昔パーティを組んでいた。

 自分よりも経験が豊富で、強い仲間たちだった。

 彼らの指示に従っていればうまくいくと信じていたが、失敗して仲間を失った。

 

 それから随分と強くなった。

 もしあの時、今の自分が一緒にいたら、仲間を失うことはなかっただろうと考えている。

 ヴァンツァーはニコラの兄であり、共に行動する仲間だ。

 そして出会ってから長いこと探索者を続け、人との付き合いもうまい。

 明らかに自分には持っていないものを持っていると、ジークもよく理解していた。

 

 ジークは今、ヴァンツァーに対して失ってしまった仲間たちと同じくらいの信頼を寄せている。だから判断を任せることに迷いはない。

 ジークは自分の役割が、戦うことと現場の判断であることをよく理解していた。 

 

「……任せてよ。一番いいやり方を考える、うん、任せて」

 

 ヴァンツァーはジークが背中を向けていることに感謝しながら、変な顔をしたまま扉を開けて、静かにぱたりと閉めてから、早足で自室に戻っていった。

 そうして部屋に入ってすぐに足を止めると、天井を見つめながら「はー……」と声を出し、息を吐きながら笑った。

 

「いや、本当、ちゃんと探索者やってきてよかった」

 

 ヴァンツァーは短いジークの言葉から、自分への確かな信頼の気持ちをしっかりと受け取っていた。これまで努力してきたことが報われたような気がして、気持ちを抑えきれないほどに嬉しかった。

 

「……大丈夫、この世界は侵略させたりしない。ジークさんがいるからね」

 

 すべてが本当だったとしても、絶対にうまくやって見せる。

 それが、ジークという最強の存在から信頼を受けた自分の責務だと、ヴァンツァーは改めて気を引き締めた。

 

 

 一晩しっかり休んだところで、状況を整理したヴァンツァーがやったことは、ドグラとの徹底的な話し合いだった。その場には全員が同席して、ドグラの言葉を様々な角度から検討していく。

 

 塔について。

 背後の存在について。

 テルマに力を与えた者について。

 そして侵略と、塔に住む種族の未来について。

 

 時間をかけてじっくりと話しながら、ヴァンツァーは今後の計画を綿密に練り上げていくのであった。

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