九つの塔。救世の勇者。おまけに悪役面おじさん。 作:嶋野夕陽
「そもそも僕たちがこの街の塔の攻略に乗り出したのには、理由が二つあります」
喋る魔物と呼ばれたこの街の塔に住まうドワーフたちが降りてこない以上、ヴァンツァーたちは塔へもぐらない。まずはしっかりと今後の方針を決めるために、話し合いをしていた。
今日もその場には全員参加である。
ヴァンツァーの言葉を、テルマが正確に復唱することで通訳の役割を担う。
『そういえばこの世界の奴らは、なんで塔に上ってきていたんだ?』
「塔には様々なものが眠っています。この世界には存在しない武器、防具。薬草や宝物。それらを手に入れるために、俺たち探索者は塔を登ります」
『……そんなものがあるのか』
そもそも魔物が住んでいる塔に、積極的に乗り込む理由がドグラには分からない。
聞いた話によれば、先祖は塔が現れた時に調査に乗り出し、危険だからと塔に入ることを禁じたそうだ。いずれ漏れ出すかもしれない塔に暮らす魔物に対抗すべく、武術を磨き武器や防具を整えてきたそうだが、結局のところドワーフたちの世界は侵略された。
だからドワーフは、塔に便利な宝物が眠っていることを知らない。
ヴァンツァーからすればこれだけの収穫がある塔を探索しない方が理解できないが、普通は危険だとわかれば入らないで警戒をするのは当たり前のことだ。
この辺りは人とドワーフの性質の違いが出ているのかもしれない。
『まぁ、分かった。話の腰を折って悪かったな。それで、お前らが塔の攻略に乗り出した理由ってのはなんだ?』
「一つは、喋る魔物、すなわちドワーフとの遭遇率が上がったこと。二つ目は、塔から魔物があふれ出したこと。それが収まるのであれば、僕たちはこの街にとどまり、塔を攻略する必要はありません」
『なるほどな。では儂は一度塔の中へ戻って、仲間たちに塔を下らぬように伝えよう。それで一つ問題は解決するな』
「はい、そういうことになります。ドグラさんは魔物が塔からあふれ出てくる原因を知っていますか?」
ドグラはテルマからの翻訳を聞いて、しばらく首をひねって考えてから『最近のことか?』と問い返す。それに対してヴァンツァーが今から何日前、という形で返答をすると、ドグラは渋い顔をした。
『…………儂らが集団で塔を下ってから、数日後の話じゃな』
「塔の魔物は、塔に住む住人を攻撃しないのでしたっけ?」
『そうじゃ』
「…………ドワーフたちを避けて魔物が階下に降り、それが少しずつ下の階に連動していった。結果魔物があふれ出した、と考えるのが自然かと思いますが、ドグラさんはどう思います?」
『儂もそう思う』
ドグラが頷いたところで、ヴァンツァーはテルマの翻訳を待たずに額を押さえた。
ドグラが同意したことが分かり、これから起こることの予測がついてしまったからだ。
「その当時は何階まで降りましたか?」
『二階だけ降りた』
「今回は九十五階でジークさんと戦闘になったのでしたよね。今回と前回を比較した時、ドワーフの皆さんの動員人数に違いは?」
『前の三倍の数を連れて降りた。強い奴が現れたと聞いて、被害が広がる前にそれを何とかするつもりだった。ジークのことじゃが』
「正確に、前回塔を下りはじめた何日後に魔物が溢れたか分かりますか?」
『すまん、正確には分からんが、おそらく十日以内』
「ジークさんと出会う前に、塔の中で何日滞在しましたか?」
『二日。お主の予測が正しいなら数日中に魔物は溢れる、すまん、儂らのせいじゃ』
「知らなかったのですから責めても仕方がないでしょう。僕はすぐに冒険者ギルドへ向かうから、ジークさんはここでドグラさんと待機。テルマさんと他の皆は塔の出口に向かって、番人に可能性を伝えて。いつ魔物が溢れるかわからない」
ヴァンツァーが立ち上がって部屋の外へ向かいながら指示を出す。
「俺も行く」
それに対して立ち上がって反対の意思を述べたのはジークだ。
自分がここに待機する意味が分からない。
戦う場面こそ自分の役割であることは分かっている。
「……万が一、ドグラさんが敵対した場合、止められるのってジークさんだけでしょ。本人にその意図がなくても、塔を出たことでどんな効果が出るかわからない」
「こいつも連れていけばいい」
「駄目。ドワーフを見たことがある探索者がいる。戦いぶりを見れば間違いなく気づく」
「…………わかった」
「ごめん、お願い。すぐ動いて」
ヴァンツァーがすぐに宿から飛び出していき、続けてテルマたちも支度を整える。
ジークは宿のエントランスでむすっとした顔で待機し、ニコラとクエット、それにドグラが同じく一人がけのソファに腰を下ろし待機する。
出がけに、テルマはジークの前で足を止めると、困った顔をして声をかける。
「あふれ出してくるのは低層階の魔物です。何とかしてくるのであまり心配しないでください」
テルマの言葉に、ヴァンツァーのパーティにいる女性探索者たちが続く。
「そうだよ。あたしたちだって、高層階の探索者なんだから」
「……分かってる」
「分かってなさそーな顔してるから言われてるんだけどね」
「ホント、少しは信じてほしいけど」
口を閉ざしたジークの鋭い目で睨まれて、女性探索者たちは「おー、怖い顔」と言って先に出ていく。以前だったらここまで気安くなかったろうが、この街に来てしばらく一緒に暮らすうちに、彼女たちも随分とジークに慣れたものだった。
「行ってきます」
「気をつけろ」
「はい!」
最後にテルマと言葉を交わし、ジークは椅子に体を預けて息を吐いた。
『すまんな、儂のせいだ』
「謝るな、お前のせいじゃない」
申し訳なさそうに謝罪するドグラに、ジークは言葉が通じていないくせに、正確に返答をするのだった。