九つの塔。救世の勇者。おまけに悪役面おじさん。   作:嶋野夕陽

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国王の得意とするところ

 探索者ギルドはざわついていた。

 信用をしていないマクマンが奥から出てきたかと思うと、続いて屈強な護衛を左右に引き連れた国王が姿を現したのだから当然のことだ。

 

 上位探索者の編成隊が失敗したことや、塔からあふれ出した魔物の件は、基本的に緘口令が敷かれている。それでも編成隊自体が組まれたことは知っているものがいるし、あふれ出した魔物に対処した探索者もいるから、そこから不信感は広がっていた。

 流石によそ者であるヴァンツァーには詳しいことを話さなかったが、多くの探索者はこの街に、そして塔に起こっている事実に気が付いている。

 

「探索者たちよ、耳を傾けてくれ」

 

 注目が集まっているのを確認し、国王は声を張る。

 その声は国王の快活さが伝わる様な、通りの良いはっきりとしたものだった。

 それもまた、為政者の素養なのかもしれない。

 

「この百年、ベッケルの街は塔と探索者たち、そして各地からやってくる商人たちによって支えられ、発展してきた」

 

 マクマンが語るのならばともかく、流石に国王の言葉を遮る者はいない。

 拾得物をもってやってきていたアプロムたちも、汚れた格好のまま足を止めて耳を傾けている。

 

「しかしここ数年、その塔に変事が起きていた。国の宝であるところのお前たちを守るためにも、私たちはすぐに動き出さねばならなかった。しかし、街の混乱を思うと、すぐに皆にことを知らせることができなかった。心苦しい期間であった。不安にさせたことを謝罪しよう、すまなかった」

 

 頭こそ下げやしないが、国王が確かに謝罪した。

 底辺の成り上がりでしかない探索者たちに向けてだ。

 普段捻くれているものほど、国王というものを特別視しているところがあって、この謝罪はそんな者たちの心に見事突き刺さったようだった。明らかに探索者が動揺していることが、ヴァンツァーの目からも明らかであった。

 

「不安が募る中、長らくよく耐えてくれた。今この時、一つはっきりしたことがある。……間もなく、塔から魔物があふれだそうとしている」

 

 静かに、しかしはっきりとした声で告げられた言葉は、探索者たちの動揺を更に高ぶらせた。国王はしばし探索者たちの動揺をそのまま見守り、いよいよそれがピークに達した瞬間「静まれ!」と、一喝した。

 この男は国王なのだ。

 公爵であるメリッサのような超切れ者ではないが、どうやら民衆を導く力には優れている。

 むしろこんな場面は、メリッサよりも頼りになるのかもしれなかった。

 

「安心せよ。今回は、事前にそれが分かっている。探索者たちよ、街を守る英雄たちよ、塔へむやみに探索に入ることは控えよ。手を取り合い、塔の一階と外で包囲網を敷くのだ。ただの一匹も塔の外へ魔物を逃がすわけにはいかぬ」

 

 国王がぐるりとギルド内を睥睨する。

 そうして探索者たちの表情を素早く読み取り、十分に意図が伝わっていることを確認してからさらに言葉を続けた。

 

「今この一時、街の無事が確認されるまでは混乱を避けるべく口を閉ざすのだ。心に火を灯し、志高く、粛々と塔へ向かえ。私も共に行き、お前たちの雄姿を見届けよう!」

 

 そこまで話した国王は護衛を横に付けたまま歩きだす。冒険者たちが割れてできた道を進んだ国王は、アプロムの前にたどり着くとぴたりと足を止めた。

 

「話には聞いておる。街を、仲間たちを守ろうと奮闘する若い力があると。……期待している」

 

 国王はアプロムの肩にポンと手を置いて笑うと、そのまま「私に続け」と言ってまっすぐに塔へ向けて歩き出した。よほど衝撃を受けたのだろう。アプロムはその場でブルリと体を震わせたあと、きっと表情を引き締め、いの一番にその後に続く。

 単純で、直情的な若者なのだ。

 悪い人間というわけではない。

 その後にアプロムの仲間たちが続けば、ギルド内にいた探索者たちが皆、きりっとした顔になり、口を真一文字に噤んだまま、その背中を追いかける。

 

「僕たちも行きましょうか」

 

 最後尾に残されたヴァンツァーは、同じく残されたマクマンに声をかける。

 

「ええ、ええ、そうですね」

「これ、ちゃんと魔物が出てくるのを願うしかなくなりました」

 

 二人は街の人たちから向けられる奇異の視線を受け止めながら、探索者集団の後を並んで歩く。

 

「……陛下は……、思い付きで動かれることが多い方なので……。見ての通り、才には溢れているのですが……」

「この先のことを考えると気が重くなりますが……」

「もっとこっそりと何とかすることもできたのでは?」

「……まぁ、できることは全部やると決めたので」

 

 マクマンは僅かに首をかしげて一瞬チラリとヴァンツァーの方を見た。

 

「短い付き合いではありますが……、ヴァンツァーさんはそういうタイプでしたかな?」

 

 マクマンはヴァンツァーのことをもっとクレバーで、無駄なく動くタイプだと思っていたようだ。そしてその印象は、ほぼ間違っていない。

 

「ま、うちの大将に任せると言われてしまったので、下手なことはできないでしょう?」

「……何やら、嬉しそうですね」

「そりゃあ、世界一の強い男に任せると言われれば気分も上がるってものです」

 

 マクマンは、数度視線を空に彷徨わせてから、悪戯っぽくヴァンツァーの顔を覗き込む。

 

「ヴァンツァーさんにそんなことを言わしめるなんて、もしかするとその人は、陛下よりもよっぽど人タラシかもしれませんね」

「そうですよ、今度紹介してあげます」

 

 ヴァンツァーはお道化て答えながらも、心の奥に一つだけ気になることを抱えていた。今日、この街のベテラン探索者、隻腕のカッツの姿を見なかった。

 片腕だから戦力外として探索を休んでいただけかもしれないが、ヴァンツァーはなぜだかそのことが気になって仕方がなかった。

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