九つの塔。救世の勇者。おまけに悪役面おじさん。   作:嶋野夕陽

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 テルマは塔に潜っていない間の殆んどの時間をギルドで過ごしている。

 そしてジークとは逆に、テルマのギルドでの評判はすこぶるいい。

 きりっとした美少女だというのにお高く留まっておらず、話しかければ普通に対応してもらえる。

 ジークと話す時とは違って愛想はよく、丁寧な言葉を使いながらも穏やかな雰囲気を漂わせているテルマが、人から好かれないないわけがなかった。

 逆にやっかむものもそれなりにいる。

 テルマは悪さをしている相手に対しては毅然としている……、というより妙にお堅く冷たくなるため、これもまた当然のことである。 

 ただしそちらの方々に関しては、先日ジークが気絶させた男をテルマがギルドまで引きずってきた件から、恐れをなして遠巻きに見ているだけになっている。

 

 テルマが他の塔で探索者をしていたというのは、すでにギルドにいる多くの人が知っていることだ。そしてその目的も多くの人がすでに知っている。

 テルマはこの街に、人捜しに来たのだ。

 ただ、生憎現状はそれらしい人物を見つけることが出来ていない。

 ずいぶんと前からここを拠点にしており、特徴までわかっているのに見つからないのはどうもおかしな話だった。

 

 テルマが周りを囲んで楽しそうに話している女性集団の会話を、なんとなしに聞き流していると、受付から待ち人が動き出した。ほぼあるのかないのか分からないほどの短い眉と眉間の皺。三白眼に顎髭の大男は、歩いているだけで道をあけられる。

 

「すみません、ちょっと失礼します」

 

 話を遮ってその場を脱したテルマは、ギルドから出ていこうとしているジークの横に並んだ。

 

「話があるのですが」

 

 先ほどまでの柔らかい対応とは違って、言葉がかたくなってしまうのは、最初の時の名残だ。加えて今なお謎多き存在である上、自分より強いと認めてしまっているので、どうしても構えてしまうのだ。

 

「俺はない」

 

 折角ギルドでうまくやっているのに、わざわざ自分に構わなければいいのに、というジークなりの親切心が言葉に出ていた。心でも読まない限り理解することは難しいけれど。

 自分の方がジークを避けるならばともかく、ジークから邪険に扱われたことに少しばかりイラっとしたテルマは、横に並んで不満そうな表情を露わにする。

 

「そういう態度やめたほうがいいですよ」

 

 何が目的なんだと考えながらギルドの外まで出たジークは、結局答えが見つからずに問い返す。

 

「何でだ」

「人から勘違いをされます。あなた、そんなに悪い人ではないでしょう? どうしてそう悪ぶるんですか」

「……意味が分からん」

 

 ジークは自分が嫌われ怖がられているのはわかっているが、それで何か損をしたとは思っていない。面倒なことはあるけれど、何とかできる程度のことだ。

 あと別に悪ぶろうとして悪ぶっているわけではない。

 代わりに、自分がどうしようもなく駄目な奴で、人付き合いなんて、特に探索者としての人付き合いなんて長くするものじゃないという自覚がある。

 良くしてくれた人が自分のために死んでいく光景なんて、もう二度と見たくない。

 そんなものを見るくらいなら、ひとりで野垂れ死んだ方がよっぽどましだと考えていた。 

 本気で意味が分からないと言っているのをなんとなく察したテルマは眉を顰める。

 

「あなただって仲のいい人くらいいるでしょう?」

「いない。多少世話になってる奴ならいるが」

「ニコラさんとかはどうなんですか」

「どれだ」

「……冗談ですよね?」

 

 ありえない疑問を浮かべているジークに、テルマは思わず表情をひきつらせた。

 冗談であって欲しいという願いから問い返すが、ジークは冗談を言うような性格も顔もしていない。

 

「あなたがいつも並んでいる受付のお姉さんの名前ですよ……?」

「ああ」

 

 ジークが納得いったように頷くのを見て、テルマは戦慄した。

 同じ女性から見る限り、ニコラは絶対にジークに何かしらの思いを秘めている。

 特別な対応をしてもらい、いつも雑談までしているというのに、この男は名前すら覚えていないのだ。

 悪人とか善人とか言う話ではなく、圧倒的な野暮っぷりである。

 ジークは確かに腕がたつし、それほど悪人ではないのかもしれない。しかし人としては大きな問題を抱えていることをテルマははっきり理解した。

 頭が痛くなってきたテルマは、雑談を切り上げて本題へ入る。

 

「……この間の探索の分け前の話をしたかったんです」

「分けまえ? 何もしていないからいらない」

「そういうわけにはいきません。大蛙を一体倒してもらいましたし、後方の警戒をすることなく探索ができました。報酬を支払う必要があります」

「気にするな」

「気になります」

 

 めんどくさくなったジークは返事をするのをやめて足を速める。

 しかし、テルマはそんなことで諦めるほどやわな心を持っていなかった。

 小走りで前へ回り込むと、ジークを見上げて睨みつける。

 

「受け取らないと次からついてこさせませんよ」

 

 傍から聞けば脅しにもならないような文句だったが、それは的確にジークの弱点をついていた。ジークはテルマの動向がなぜか気になるし、ウームに頼まれごともしている。ただ、ここで報酬を受け取ってしまうと、まるでテルマとパーティを組んだみたいで嫌なのだ。

 ジークはもう二度と人とパーティを組んで塔には登らないと決めているのだから。

 

「どうするんですか」

 

 いつまでも返事をしないジークをテルマがせかす。

 

「……わかった、受け取る。だがお前と俺はパーティを組んだわけじゃない。たまたま一緒にいただけだ。大蛙の分だけ寄こせ」

「…………まぁ、受け取るならそれでいいですけど」

 

 テルマが小分けにした袋を差し出し、ジークはそれを素直に受け取る。

 当然大蛙一匹で得られるような金ではないが、それに関してはジークも目をつぶることにした。こういうのは気持ちが大事なのである。

 

「……というか、それなら次はもうついてこないんですか?」

「なぜだ?」

「パーティじゃないって言ったじゃないですか」

「パーティじゃないがついて行く」

「……そうですか」

 

 テルマからするとますます訳の分からないおじさんだ。

 自分のことが好きなわけでも、お金が欲しいわけでも、人からの好感度を稼ぎたいわけでもない。

 この間一緒に探索をしたことで、ほんの少しでも理解できたかもしれないと、どうせならパーティを組んでいった方が効率がいいんじゃないかと、そんなことを考えてしまっていた自分が馬鹿みたいであった。

 その辺りのことを思い出してみると、まるで自分がパーティを組みたかったのに断られたみたいである。

 なんだか無性に腹が立ったテルマは、不満をあらわにしたまま口を開く。

 

「明日はいつも通りの時間で、四十階層に挑戦しますので!」

「そうか」

「ついてくるけどパーティは組まないんですよね!?」

「そうだ」

 

 普段は殆んど感情を揺さぶられることがなかったというのに、この変なおじさんと接していると、なぜか子供のように感情豊かになってしまうテルマである。

 これまでものに八つ当たりしたことなどなかったのに、立ち去るテルマの足取りは荒い。

 

「何で怒ってんだ……?」

 

 去っていったテルマを思い出しながらぽつりとつぶやいたこの男は、一度誰かに頬をひっぱたかれた方がいい。生憎怖くてでかくて強いジークを頭ごなしに叱れる様な仲のいい大人は、ほとんどこの世を去ってしまった後なのであるが。

 

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