九つの塔。救世の勇者。おまけに悪役面おじさん。   作:嶋野夕陽

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古いものは叩けばなおるかもしれない

「どうしようかしら……」

 

 一応伸びているカッツの頭の下に枕だけ差し込んでやったニコラは、ぽつりとつぶやいた。

 ジークやクエットはこういったときに妙案を出してくるようなタイプではない。

 そうなると、この場を何とかするのは、ニコラの仕事になってくる。

 まず状況を説明するところなのだが、カッツが話を聞くような精神状況ではないところが問題だ。

 

「話をして、納得できなければやり合うしかない」

「……まず、話を聞いてくれるかしら?」

 

 最終的にはそうだ。

 ジークは復讐自体は仕方のないものと考えているが、カッツの復讐対象が広いことには同意できていない。例えばカッツの腕をきり、仲間を殺したのがドグラだと言うのならば、二人に武器を持たせて正々堂々殺し合いさせても良かった。

 しかし、既に復讐対象が死んでいて、ドワーフ全てを恨んでいるとなると、ジークは今一つぴんとこなくなってしまう。説明すれば説得されてしまうかもしれないが、現段階ではよく分からん、という状態だった。

 

「話は聞かせる」

「できるの?」

「やる」

「そう……。それじゃあ、クエットさんは、ドグラさんと一緒に向こうの部屋に入っててもらえないかしら?」

「はいはい。『ドグラさん、部屋、一緒に行く』」

『おお、そうじゃな。儂がここにいるとこやつを刺激するか』

 

 クエットが言葉をある程度覚えてくれたおかげで、話がスムーズで助かる。

 二人がクエットのラボの方へ消えていくのを確認して、ジークはカッツの近くに移動した。

 そうしてしばらくしてカッツが目を覚ましたところで、しゃがみこんで声をかける。

 

「おい、話を聞け」

「……っ、この!」

 

 起き上がり際にカッツが拳を振るった瞬間、ジークは片手でそれを受け止め、カウンターの一撃を頭部に叩き込む。

 あっさりと再度気絶させたところで、ジークはカッツの頭の下に枕を差し込んでやると、再度その場に立ち尽くした。

 

「ジーク……、それ、繰り返すの?」

「大丈夫だ、死なんようにやる」

 

 あまりに原始的で力尽くのやり方に、ニコラはもっと何かいい方法があるんじゃないかと考えたが、すぐにはそんなアイデアは浮かんでこない。隣ではクエットが「うーん、実に非効率的ですねぇ」とか言っているけれど、特に名案があるわけではないらしい。

 

 代替案もなく、ジークのやり方を否定するのは違う。

 もっと穏便な方法はないかと探りつつも、まぁ仕方がないか、とジークの行動を止めないニコラは、ちゃんと効率的な元探索者である。

 

 名案が思いつかないままその後も三度ジークに叩きのめされ、意識を暗転させることになったカッツは、五度目の目覚めでついに仰向けに寝転がったまま動かなくなった。

 

「殺せよ。何まどろっこしいことやってんだ、殺せよ!」

 

 どうにもならんと分かっただけで、心が折れ切ったわけではないらしい。

 

「話を聞け」

「聞かねぇ!」

「聞け」

「うるせぇ、どこのどいつだてめぇ、ぶち殺すぞ!」

「お前じゃ殺せん」

「ならてめぇの仲間から……! …………糞が、殺せよ、俺みたいなやつ」

 

 ろくでもないことを言いそうになったカッツが止まったのは、ジークの殺気が膨らんだからだけではない。くだらないチンピラまがいなことを口にするところまで落ちたことが、本当に嫌になったからだ。

 ほんの半年ほど前まで、仲間たちと楽しく飲んで、馬鹿みたいなことを言って暮らしていた日々を思い出したのだ。

 そこまで落ちるのかと思ったら、本当に死にたくなった。

 何のためにこんなボコボコにされて生きているのか、生かされているのか、分からなくなった。

 

「話を聞け」

「……うるせぇ、勝手に話せよ」

「ニコラ」

「……はい」

 

 こんな感じで出番が回されると何ともやりづらい。

 それでも、ニコラは一歩前に出て「これを」と言ってポーションを差し出した。

 カッツが苦々しい表情をしてそっぽを向く。

 

「いらねぇよ」

「ちゃんと話がしたいのです」

「うるせぇな、勝手に話せ」

「貸せ」

 

 ジークは二人のやり取りを聞いて、ニコラからポーションを取り上げると、勝手に栓を開けてカッツの体に振りかけた。

 

 怪我が癒えつつも体をびしょびしょに濡らされたカッツは、「てめぇ!」と言いながら立ち上がったが、「なんだ」とジークに尋ねられて、ピタリと足を止めた。

 たった一日で何度も負けた相手に殴りかかっても、同じことが繰り返されるだけだ。あまりにくだらなくなって、カッツは舌打ちを一つして動きを止めた。

 

 カッツは、何度自分をボコボコにしても、何の感情もなく平然としている、得体の知れないジークを気味悪く思っている。ただカッツが『てめぇの仲間から』と、最悪の言葉を吐き出そうとした瞬間に、突然膨れ上がった殺気が、ジークの人格の一部を証明していた。

 ジークは仲間を大事にする奴なのだ。

 こんな悪人面をして、どんな悪事でも平気でこなしそうな胆力をしている癖に、仲間が大切だってことだけは、間違いなく自分と一緒なのだ。

 

「座れ」

「……わかった」

 

 顎でソファを示されて、渋々ながらもカッツはそれに従う。

 流石にこれだけぶちのめされていれば、頭も少しは冷静になってくる。

 ジークの仲間は人だ。

 カッツも知っているヴァンツァーであり、今横にいるヴァンツァーの妹だ。

 カッツと同じく探索者であるはずの彼らが、なぜ喋る魔物に加担しているのか、冥途の土産に聞いてやろうと開き直っていた。

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