九つの塔。救世の勇者。おまけに悪役面おじさん。   作:嶋野夕陽

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探索者だからこそ

「……話をします。どこから話したらよいか分からないので、疑問があればその都度聞いてください」

 

 そう前置きをしてニコラは、塔やドグラについての話を始める。

 

「私たちが喋る魔物と呼ぶ彼らの種族は、ドワーフ、というそうです。彼らは塔の百階より上に住んでいます」

「……ドワーフ」

 

 眉間にしわを寄せながら、カッツは種族の名前を繰り返す。

 まだまだ分からないことが多すぎて、何かを尋ねる気にもならなかった。

 

「彼らの種族は、先祖をたどれば塔の中に住んでいたわけではないそうです。元は私たちと同じく、住んでいた世界があった。そこに、同じように塔が現れて、その中の住民に侵略されて、塔に閉じ込められたそうです。その環境から抜け出すためには、たどり着いた他の世界を奪うしかない」

「……やっぱり敵じゃねぇか! どうしてそんな奴のことを庇ってやがる!?」

 

 カッツは怒りの表情で膝を叩いたが、ジークが睨んでいるのが分かっているから、それ以上の行動は起こさない。

 

「ここまでの話だけを聞けばそうです。しかし、まだ話は途中です」

「途中も何も……! あいつらが塔の中で暮らしてりゃあいいだけの話だろうが!」

「はい、私たちからすればそうです。ではカッツさん、あなたが全ての塔の喋る魔物を説得して、迷惑だから塔の中で暮らせ、と説得してくださるんですか?」

「んなもん、降りてくる奴全部ぶっ殺して……!」

「カッツさん、兄から聞いています」

 

 ニコラはカッツの言葉を遮って、その目を見つめながら真剣な顔で続けた。

 

「あなた方は一流の、尊敬すべき探索者であったと。たった一人でも、あなた方のような立派な探索者が苦戦し、命を落とすような相手です。それが集団で一斉に降りてきて、誰が止めるのですか? この塔だけではありません。すべての塔で、一斉にそれが起こって、誰がそれを全員殺すのですか?」

「じゃあ……! 黙って殺されるのを待てってのか!?」

 

 ニコラはゆっくりと首を振って続きを話す。

 

「いいえ。だからこそ私たちは、どうすべきか慎重に立ち回るべきだと思うのです。権力を持つ王侯貴族ではなく、富を持つ商人でもなく、塔に人生を捧げてきた探索者こそが、もっとも真剣に考えて、対応しなければならないと思うのです」

 

 ニコラはカッツの説得に必死だ。

 ここで暴れられてはたまらない。

 ドグラを殺すというのならば殺さなければならないし、納得できぬまま帰ろうとすれば口封じをしなければならない。

 だからと言って口から吐き出す言葉がでたらめであってはならない。

 ヴァンツァーがカッツを信用していたのは確かなことであるし、ニコラは今でこそ探索者をやめてしまったが、この事態には探索者こそ真摯に向き合わねばならないと考えているのは本当だった。

 ある種の仲間意識だ。

 説得の言葉には、ベテラン探索者であるカッツに、理解してほしいという願いのようなものも込められていた。そうでなければこの先、国や世界を相手に説得などできようはずもない。

 

「塔に閉じ込められている喋る魔物は、一定数以上増えることができません。一定数を超えた数の仲間が生まれると、生まれたその瞬間に魔物に変わり、塔へ降りて行ってしまうそうです。想像してみてください。子どもがですよ?」

 

 ニコラは問いかけてカッツの反応を待つ。

 カッツ自身には妻も子どももいないが、死んでいった友人にはいる。

 ともに誕生を喜び祝った記憶がある。

 懐かしく大切な記憶だった。

 

 それが魔物だったらどうだ。

 愛し合って生まれたはずの子供が魔物であったらどうだ。

 反吐が出そうで、カッツは盛大に顔をしかめた。

 

「彼らの望みはそんな塔の中から抜け出すことです。言葉が通じなければ殺し合うしかない。しかし、私たちは互いに、言葉が通じることを確認しました。話し合う余地があると知ったんです。この世界にはまだまだ暮らすことのできる土地が山ほどある。もし共にこの世界で暮らすことができるのならば、彼らにとっても、この世界が他の塔の住人に滅ぼされぬように守った方が都合がいいんです。彼はドワーフたちの王です。殺してしまえば共に戦う道は閉ざされます。私たちは今分岐点にいるんです。すべての塔を敵に回すのか。あるいは、ドワーフのように話が通じそうな者を味方とし、この世界で共生していくのか」

 

 ニコラは話を区切ってじっとカッツの反応を待った。

 手ごたえはあった。

 カッツは苦悩するように額に手を置き、やがて乱暴にぐしゃぐしゃと自らの頭をかき回す。

 

「…………俺は、そんな難しい大層な話分からねぇよ。でもな! あいつらは目的のために俺の仲間を殺したんだ! 他にもたくさんの探索者が殺されてる! それは事実だろうが!」

 

 ニコラが咄嗟に返す言葉を見つけられず黙り込む。

 それを見たカッツはさらに続ける。

 

「あんたなら分かるだろう。あんた、仲間がそのドワーフとか言うのに殺されてたらどうした! おい、言ってみろよ!」

「殺す」

「ほらな、そういうことなんだよ! だから俺もあいつを殺す!」

 

 我が意を得たりと立ち上がったカッツだったが、ニコラは首を横に振っただけだった。カッツに同意したかに見えたジークを責めたりはしない。

 

「違う」

 

 なぜならジークが口下手であるのは、ニコラにとっては当然の事実であるからだ。

 盛り上がっているカッツに対して、ジークは淡々と、しかしはっきりと否定の言葉を口にした。

 

「……何がだ?」

「俺は、仲間を殺した奴は殺す。これからも仲間を殺そうとするならば殺す。だが、もう殺さないと言っていて、仲間を殺すつもりもない奴は殺さん」

「……はぁ? なんだって?」

 

 『殺』という言葉が大量に含まれた、妙に長い文章を喋られて、カッツは一瞬頭が混乱する。しかしジークはやっぱりマイペースに喋り続けた。

 

「あいつは殺さない方がいい。だから殺さん」

 

 何の説明にもなっていないようだが、全て合わせればそれは、ジークの信念そのものであった。

 

 仲間を殺すものは殺す。脅かすものも必要ならば殺す。

 だが、探索者ができるだけ命を落とさぬように努力する。

 なぜなら探索者は、広い意味で、ジークの仲間であるのだから。

 

 ジークはいつだってそんな考えの下、ただ、二択を選択し続けているのである。

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