九つの塔。救世の勇者。おまけに悪役面おじさん。   作:嶋野夕陽

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塔の封鎖

 カッツがようやく説得されたころ、テルマたちは塔に到着。

 塔の中へ入り、転移の宝玉が供えられた部屋で待機する。

 もし魔物が溢れてくるとするならば、必ずここを通って出ていくことになる。

 またここさえ押さえておけば、探索者たちの塔への侵入と、宝玉の使用も防ぐことができる。

 

 本来は番人に協力を頼むところだが、何一つ証拠のない状況では理解してもらえないだろうと判断し、力尽くでここを押さえることに決めたのだ。

 もしトラブルが起きたら、その時に改めて説明をすればいい。

 番人を説得している間に、新たに探索者たちが塔へ入っていってしまっても困る。

 

 しかし当然他の探索者たちはそんな事情は知らない。

 だから妙に真面目な顔をしているテルマたちを見ても、前へ進むことを躊躇っているようにしか見えないのだろう。

 

 入り口をふさいでしばらくは、入ってきた探索者たちも何をしているのかと様子を見ていたが、やって来た新人であろう一人の探索者が文句を言った。

 

「何してんだよ、どいてくれ」

「……すみません。魔物の行動がおかしいので先へ進むのは控えてください」

「お前らがビビってんのは勝手だけどな、俺たちは進まなきゃならねぇんだよ」

 

 新人の探索者とはいえ、探索者を志望するような荒事に慣れたものたちだ。

 若いテルマや、容姿の整った女性であるヴァンツァーの仲間たちを見れば、侮ってこうして強気に出てくることもある。

 ましてテルマたちは番人ではないのだから、従う理由なんてどこにもなかった。

 

 一つのグループがそうして声を出せば、これまでどうしたものかと躊躇っていた他の探索者たちも声を上げ始める。

 テルマが困りながらも同じ言葉を繰り返していると、大剣を装備したヴァンツァーの仲間の一人が、わざとらしく大きなため息を吐いて剣を抜いて地面に突き刺した。

 

「やかましい! アンタらのために言ってるんだから素直に引っ込んでな!」

「んだと……!? 女が相手だからって手が出せねぇと思ってんのか!?」

 

 せめてシーダイの街であれば、皆が顔と強さを知られているのだが、ここベッケルでは知らない顔だ。これまでギルドにあまり顔を出してこなかったのが悪い方に働いていた。

 ジークのように、パッと相手を見て実力が分かる者などほとんどいない。

 まして新人の探索者ならばなおさらだ。

 同じく新人か、あるいはよそ者がいちゃもんをつけてきているとしか思っていないのだろう。

 一触即発の様相から、先に手を出したのは新人探索者の男だった。

 道を塞ぐテルマに向かって殴りかかろうとしたところで、逆にヴァンツァーの仲間の一人に殴り飛ばされる。剣で真っ二つにされなかっただけ慈悲深いのだが、彼らにはそれが分からない。

 

 一斉に声が上がり、今にも殺し合いが発生してもおかしくないような雰囲気になってしまった。

 

「おいおい、何の騒ぎだよ」

 

 そこへ現れたのは、これもまたテルマたちが知らぬ顔の探索者。

 ただ、そのやじ馬は新人探索者の中では知られている顔だったらしく、ざわつきつつも場が一時落ち着く。

 

 その探索者たちは、近寄ってくる過程で新人たちに話を聞いたのか、テルマたちの元へやってくる頃にはすっかり訳知り顔だった。

 

「……へぇ」

 

 そうしてテルマたちを見ると、その武器を観察して声を上げる。

 その実力はともかく、新人にしては使いこまれた良い武器を使っていることに気づいたのだろう。

 確かに、新人よりは目が良いようだ。

 

「俺たちは四十階層の探索者だ。あんたらも多少やるようだが、道を塞ぐなんてどういうつもりだ?」

「魔物が塔から溢れる兆候があります。危険な状態であるため、中へ入ることを推奨していません」

「番人は何も言ってないぜ」

「まだ知りえぬ情報です。ほんの少し、魔物が溢れるまで数日……、いえ、あと数時間だけでもいいので待機していただけませんか?」

 

 話が分かる者が来たと、テルマは真剣な顔で説明をする。

 その探索者は物分かりのよさげな顔で顎をこすりながらしばし思案したが、もう一度テルマたちの顔をじっくりと見て首を傾げた。

 

「あんたら……、よそ者だろ?」

「……はい。しかしだからこそ、塔についてこの街の皆さんが知らないことも知っています」

「信じられないな。それにな、俺たちが塔に入らないでいる間の稼ぎはどうなる? 何もなかったら無駄にした時間の分、どう責任をとってくれるんだ?」

 

 争いたくはないが、損はしたくない。

 そんな計算が働いたのだろう。

 その探索者はもっともらしい言葉でテルマを責めて来る。

 

「その時は、その時間で想定していただけの支払いをしてあげる。それでいいんでしょ」

 

 テルマたちにはそれだけの資金がある。

 ヴァンツァーの仲間の一人が吐き捨てるように言うと、新人探索者たちは顔を見合わせながら、「それなら……」などと言いながら、その場での待機を考え始める。

 しかし、そこでさらに突っかかってきたのは、交渉をしていた探索者の男だった。

 

「待て待て待て、怪しいぞ。そもそも金を持っているか怪しいし、約束を守るかも怪しい」

「金ならあるわ、約束も守る。馬鹿にしないで」

「だから、どうやってそれを信じるんだよ。それにな、危ないから入らなければ金をやる? そんなおかしな話があるもんか。ってことはなんだ……? 塔の中に何か隠しているか……、金を配る以上の利益を見つけた、とかじゃないのか?」

「はぁ!? そんなわけないじゃない!」

 

 ヴァンツァーの仲間は心外で大きな声を上げたが、その時にはもう遅かった。

 再びその場にいる探索者皆が、目の色を変えて、テルマたちを責めるように声を上げ始めたのだ。

 分かってもらえないだろうとは思っていたが、やはりうまくいかない。

 どうしたものか、とテルマが険しい表情をしていると、騒がしい集団の奥から、更に新しく声が聞こえてくる。

 

「おいおいおい、何の騒ぎだようるせぇな」

「邪魔だ邪魔だ、ったく、なんでこんなとこに集まってんだ」

「おりょ? ありゃあジークさんとこの……、おい、どけって」

 

 人ごみをかき分けてやって来たのは、この街ではテルマたち同様のよそ者仲間である、シュンイ、リャン、ソンミの三兄弟であった。

 

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